四章 答え合わせ
「ミルコさん、お風呂をお借りしました。ありがとうございます」
キースが髭を剃りさっぱりとした姿で現れた。
「構わないよ!バルト君達を助けてくれた恩人なら、私にとっても君は恩人だ」
ミルコが炊き出しの準備をしながら答えた。
ハンナ達も一生懸命フランの手伝いをしている。
「バルトよ、君は本当に良い男なんだな!私の次に良い男だと認めよう」
「そりゃどうも。良く捕まらずにいたな」
椅子に座っているバルトはキャスを撫でながらキースを横目で見る。
バルトも炊き出しを手伝おうとしたが、壊滅的な料理センスのため、フランにやんわり断られた。
「転移魔法は得意だから問題ない!……ところで一体何があった?」
キースの表情が真剣になり、バルトの向かいに座った。
「まずは、あの時は本当に助かった。本当にありがとう」
バルトはキースに頭を下げた。
巻き込まれたとは言え、キースが自分の地位を顧みず味方になってくれたから、バルトは生きて戻って来れたのだ。
バルトは、自分達を信じてくれた事も含めキースに感謝していた。
「いや、私が巻き込んでしまったのだから当然の事をしたまでだ。こちらこそすまなかった」
そう言ってキースがバルトに頭を下げる。
「お前のキャラを理解するのには数年かかりそうだよ。とりあえず依頼のダンジョンであったことから説明するぞ」
バルトは笑いながら、説明を始めた。
「……その男はカシウス・ローゼンハイドと確かに言ったんだな?」
一通り説明が終わると、キースが難しい顔をしてバルトに尋ねた。
「間違いない。多分魔王にかなり近い地位にいると思う。知り合いか?」
「騎士団の副団長だ。少し前に失踪している……」
「副団長!?それならあの強さも納得出来るな……」
「副団長はこの件に最初に疑問を抱いて、調査し始めた人だ。おそらく、独自に調べているうちに巻き込まれたんだろう」
キースは悔しそうな顔で、下を向く。
「今回の魔王はかなり異例で、国も本気で隠しにきてるからな。自分達で召喚した魔王に、自分の国の騎士団員が魔物にされているなんてバレたら一貫の終わりだし」
バルトはフランが話している途中で入れてくれたお茶を飲んだ。
「それで……本当に魔王を倒しに行くのか?」
キースは少し心配そうにバルトに聞く。
「行くよ。あの馬鹿勇者に任せてたら、国が何回滅びるか分からない」
「しかし、君達より強いパーティーはいくらでもいる。もう少し様子を見ては……」
「そいつらは勇者を差し置いて、国に目をつけられてもやると思うか?それに、俺達は指名手配犯だから国の目を気にする必要もない」
バルトの問いにキースは答えられず、首を横に振った。
「私の考えが甘かったな……すまない。何も出来ない私が言える立場ではなかった」
「柄にもなく、心配してくれたんだろ。それにキースにも手伝って欲しいことがあるぞ」
「今の私に?なんだ?」
「魔王のいる所を突き止めて、俺達を転移させてくれ」
「そうしたいのは山々だが……今の私に騎士団の情報が入ってこないのは君も分かるだろ」
「誰も情報を集めろなんて言ってないだろ。転移魔法を駆使して、探してきてくれ」
「ほ、本気で言ってるのか?」
「天下のキース様だろ?まさか出来ないのか?」
バルトがニヤニヤしながらキースの顔を見る。
「……出来ないわけないだろう!俺は騎士団最年少幹部だぞ!3日もあれば見つけてきてやる!では、時間がないから失礼するぞ!」
キースは言い終わるか終わらないかで、転移魔法で消えた。
「バルト様らしいやり方ですね。落ち込んで弱気になったキース様が一瞬で元気になりました」
キャスがクスクス笑っていた。
「あいつが単純なだけだろ。少し散歩してくるわ」
バルトはキャスを撫でるのをやめ、仮面をつける。
外に出ると、日が落ち始め薄暗くなってきていた。
落ち着きを取り戻したとは言え、様々な場所が壊れ、道に疲れきった人々が座り込んでいるのが目立つ。
この様子だと期待は出来ないが、なるべく無事でいてくれよ……
バルトは被害が少ないことを祈りながら、サキュサキュナイトへ向けて走り出した。
サキュサキュナイトの前につくと、建物はほぼ無傷でバルトは胸を撫で下ろす。
「あら、兄ちゃん。生きてたかい?」
声の方を見るとサキュサキュナイトの受付にいた老婆がバルトに手を振っていた。
「ばぁさんこそ!心配で見に来ましたよ!大丈夫でした?」
バルトは走ってかけより、老婆の肩を叩く。
「心配には及ばないよ!サキュバスは元から戦闘力は高い種族だ。そこらの魔物に負けるほど弱くない!」
老婆がどや顔でバルトに答える。
「はは!その調子なら大丈夫そうですね!」
「それで……何を聞きに来たんだい?ただ、見に来たわけじゃないんだろ?」
老婆はバルトの尻を叩いた。
「お見通しですか……あの時、何で俺が魔王を倒すなんて言ったんです?」
「なんだい、いきなり。倒しに行くことにでもしたかい?」
老婆は意地悪そうに笑った。
「それが本当にそうなりそうで……それで何となくばぁさんに会いに行った方がいい気がして、来てみたんです」
バルトは苦笑いをする。
「そうかい……とりあえず少し散歩に付き合ってもらおうかね」
そう言うと老婆は歩きだした。
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