四章 魂の叫び

 バルトは街に近付くにつれて、建物が所々壊れているのに気付いた。


「バルト様、思ったより被害は深刻そうですね」


「みたいだな。少し急ぐぞ」


「かしこまりました」


 キャスがスピードを上げ、バルトは仮面を着けた。







 市街地に入ると状況は更に悪化していて、至る所で炎が上がり、魔物達が暴れまわっている。


「バルト様どうします?助けますか?」


 キャスが止まりバルトに判断を仰ぐ。


「助ける……が移動しながらだ。騎士団がちらほら応戦しているから、そいつらにとどめは任せる」


 そう言うとバルトは両手に茶色い塊を出した。


「土?ですか?」


 キャスが匂いを軽く嗅いで、バルトを見る。


「正解!正確には水粘土っていうやつだけどな。土魔法で砂を出して、それを風魔法で更に細かくする。そこに水魔法で水を混ぜれば出来上がる代物しろものだ。色々調整してるけど」


「初めて聞きますね……どんな効果があるんですか?」


「説明するより見せた方が早いかな」


 バルトは水粘土を魔物の顔に投げると、ピタリと張り付き魔物はバランスを崩し尻餅をついた。


「すごい!顔について離れないです!」


 キャスは驚きながら興奮している。


「知能指数が低いやつにしか通じないけどね。時間がない、行くぞ!」


「はい!」


 バルトはキャスに乗りながら移動しつつ、次々と魔物に水粘土をぶつけていく。


「効果抜群ですね!どんどん魔物が転んでいきます!」


 キャスが嬉しそうにバルトに話しかける。


 なんだか、話し方がかなり打ち解けてきたような気がする……可愛いやつめ!


 バルトはキャスをモフモフした。


「バルト様!?いきなりどうしました!?」


 いきなりのスキンシップにキャスは驚く。


「モフりたいときにモフる……それは何者にも邪魔できない……」


 バルトは遠い目をしながら答えた。


「後で好きなだけさせてあげますから!今は集中してください!」


「まじで!?約束だよ!?よっしゃ!テンション上がってきたぁぁぁぁ!」


 バルトは大声で叫ぶと、更にすごいスピードで魔物に水粘土をぶつけ始めた。


「ふふ……別に駄目なときなんてないのに……」


 キャスは小さく笑いながら、スピードを上げた……






 ミルコの店の前に着くと、リリィが凄まじい早さで矢を放っていた。


 店のガラスは割れたりしていたがそこまで被害がなく、バルトは少し安心する。


「あら、お帰りなさい。フランちゃんもミルコさんも無事よ」


「ただいま。姿が見えないけど、どこにいるんだ?」


 バルトを横目で確認しながら、リリィは矢を放ち続けている。


「近所の人を助けているわ。フランちゃんなら……あそこにいる」


 リリィが顎でさした方を見るとフランが魔物を振り回していた。


「ですよね……」


 バルトは悟った顔で微笑んだ。


「近接の魔物はいつも通りだけど、やっぱり遠距離の魔物は統率がとれているわ。今回も的確に攻撃を当てにきてる」


 リリィがバルトに状況説明をする。


「遠距離?そんな様子はないけど……」


「街の外から飛んできていたのだけど、さっき教会の方から大規模な防御結界が張られたみたいね。後は中の魔物を倒すだけってとこかしら」


「その話だと、教会の方も大丈夫そうだな。とりあえず俺らもやれることをやるぞ」


 バルトは近くにいる目についた魔物を倒しに向かった。






 ほとんどの魔物が討伐され、街が少しずつ落ち着いてくるとハンナやクリスも戻ってきた。


 ミルコとフランは店の中に入り、近所に配る炊き出し作りを始めている。


「とりあえず何とかなったね。バルト君達も問題なかった?あと、この剣ありがとう」


 クリスがキャスを撫でながら、剣をバルトに返した。


「どういたしまして、俺達は大丈夫だったよ。街の被害は……酷いけどな……」


 バルトは煙が色々な所から上がっているのを見て、地面に拳を叩きつけた。


「バルトさん……」


 ハンナは心配そうにバルトを見つめる。


 しかし、ハンナが心配しているような内容でバルトは怒っているわけではない。


 以下バルトの魂の叫びである。




 くそったれ!こんな状況でサキュバス店は絶対に心から楽しめない。


 さすがの俺も家をなくした子供達を尻目しりめに遊べるほどクズじゃないんだよ!


 俺の長年の夢は、何故かどんどん俺の手から遠くなっていく。


 サキュバス店で遊びたいだけというささやかな夢。


 しかもそれは、たった1人の馬鹿のせいで遠くなっていく……


 もう我慢できねぇ……このバカを倒さない限り、俺の夢は遠くなり続ける。


 だったら俺がさっさとぶっ殺してやる……






「決めた。魔王をぶっ殺す」


 バルトは力強くハンナ達へ宣言する。


「バルト君……辛い気持ちは分かるけど……」


 クリスが心配そうに、バルトの肩に手を置こうとする。


「バルトよ!良く言った!それでこそ我が認めた男だ!」


 いきなり大声が聞こえ、声の方を見ると髭が伸びきったキースがボロボロの軍服で立っていた。


「キ、キース?その格好どうした?」


 バルトはあまりのキースの薄汚れた姿に呆気にとられる。


「君達を逃がしたのがバレて、絶賛私も指名手配中だ!助けれくれてもいいんだぞ!」

 

 キースが胸を張りながらどや顔をする。


 相変わらずヤバいやつだな……けど一応助けて貰ったし……


「とりあえず、こっちに来い……まずは臭そうだから風呂入れ」


 バルトはキースをミルコの店へ案内した。

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