三章 蛇に睨まれた毒蛙

 紫の光はバルトめがけてどんどん伸びてくる。


 しかしバルトは一切動かず、その場に立っていた。


「バ、バルトさん!何してるんですか!」


 ハンナは慌てて風のゆりかごを展開するが、紫の光は風のゆりかごを突き破り進んできた。


「嘘っ!?一度も破られたことありませんのに!」


「くそっ!キャス!バルト君を守っ……」


「全員動くな!」


 バルトはパーティーメンバーに大声で指示する。


 そしてバルトの目の前に光が迫った瞬間、光は破裂するように四方に散らばった。


「何が起こったの?」


 リリィが目を丸くしながら驚いている。


【ほぅ……ただの愚か者かと思いましたが、多少の知能はあるようですね】


「こっちは人間やってんだ、お前ら魔物と一緒にすんな。それで要件はなんだ?」


 バルトは声の男がはじめから自分達を殺す気はないと気付いていた。


 いつでも攻撃できる状況で、馬鹿にされても挑発にのらず、会話を続けようとする。


 何かしらの交渉をしたくなければ、そこまでする必要がないだろう。


 そして激怒した振りをして、実際に殺せることを見せつけ交渉のテーブルにつかせようとしてきた。


 交渉が始まるまで殺せないにも関わらず。


【あなた方が今すぐここから出ていってくれればそれだけで良いです。私が外まで送り届けて差しあげましょう】


「いつでも殺せるのに、丁寧に送迎付で送るだけって話を信じろって言うのか?」


【殺すよりいなくなって頂いた方が都合が良いだけの話です。別にお望みなら殺してしまっても良いのですが……】


 どうする……絶対に勝ち目のない相手であることは間違いないのだから、ここは素直に言うことを聞くべきだが……


 俺達が生きていた方が都合が良い理由が、どうしても気になる。


「それならこっちからも一つ条件がある。それを飲むなら、俺らも条件を飲む」


【私が出来ることであれば】


 声の男はバルトの提案をすんなり受け入れた。


「お前の姿を見せろ。条件はそれだけだ」


【……意外ですね。まぁ、良いでしょう。ただし、バルトさんあなただけです】


「バルト君!それは絶対に駄目だ!」


「クリスの言うとおりです!あまりにリスクがありすぎます!」


 クリス達が慌てて止めてくる。


「大丈夫だ、俺も馬鹿じゃない。この男に条件の中で2つ約束してもらう。

 1つはキャスを残せ。クリス達が無事外に出れたか確認する」


【信用してもらえず残念ですが、いいでしょう】


「お前を信用する間抜けに思われてた方がショックだよ。もう1つはこのダンジョンの達成条件を教えろ。知ってるんだろ?」


【達成条件?あぁ……この建物から自力で出る方法ですか。それも教えて差し上げましょう】


 声の男は軽く返事をする。


随分ずいぶん聞き分けがいいんだな。早速で悪いが、始めてくれ」


「ちょっとバルト君!それだけでどう……」


 クリスが言い終わる前に、クリス達は光に飲み込まれた。







「私もあまり暇ではないので、お話の途中で申し訳ございませんが、退出して頂きました」


 天井から声がして上を向くと、黒い軍服をきた40代位の男がぶら下がっていた。


「頭悪そうな登場の仕方だな。コウモリに憧れでもあるのか?」


 見た目は殆ど人間だが、顔が半分黒く変色している……魔物とみて間違いないだろう。


「口の減らない方ですね。それより早くお仲間の安否確認をしてはどうです?」


 声の男は呆れながら、下に落ちてきた。


「キャス、皆は無事か?」


「はい。クリス達の安全は確認出来ました」


「そうか、キャスこっちにおいで」


 バルトはキャスを来させると、モフりだした。


「バルト様!?いきなりどうされました!?」


 キャスは照れながら、しっぽをピンと立てている。


「おーキャスも嬉しいか!やっぱりモフれる時にモフっとかないとな!」


 バルトは構わずモフり続ける。


「ふぅ……これで当分の充電は出来た。キャスもクリスの所へ戻ってくれ」


「バルト様……信じてますよ」


 そういうとキャスはバルトをまっすぐな目で見つめ、姿を消した。


「これで二人きりだな、コウモリ親父。早くダンジョンの達成条件を教えろ」


「私にはカシウス・ローゼンハイドという名前があります。君は人とまともに会話できないのですか?」


「人ならするけど?コウモリおじさんは人じゃないからなぁー」


 少しでも隙を作ろうとわざとらしくバルトが挑発するが、カシウスは冷静に話を続ける。


「話を進めます。ここの達成条件は入口に書いてあったままです」


「それは前回の条件だろ?俺は……」


「前回と今回が違うなんて誰が言ったんですか?」


 バルトの言葉を遮り、カシウスはニヤリと笑った。


「先入観は捨てた方が良いですよ。あなた方は少し頭を使い、入るべきではなかったのです」






 はじめから入るべきではなかった。







 それを敵から聞かされ、しかも追い詰められ、挙げ句、忠告され遊ばれている。


 バルトは自分の間抜けさに心底腹が立った。


 上級ダンジョンに入るのに、パーティーを過信し、出来たはずの正しい判断が出来なくなっていたのだ。


「……ちなみに管理者ってのはお前か?」


「いいえ?あなた方の予想通りの方ですよ」


「俺達を逃がすのも、そいつの命令か?」


「はい、あなた方は多少他のゴミよりはお強い。だからあなた方でさえ、手も足も出なかったという恐怖を人族へプレゼントしたいそうです」


「そうか……やっぱり聞いといて良かった……」


 バルトは深く深呼吸をした。


「馬鹿は俺だけじゃなかった」


「何の話です?」


「確かに俺達は入らないべきだったし……それは大きなミスだ

 ただ……お前らは馬鹿な自己顕示欲に負けて俺達を逃がすというそれ以上のミスをした。俺も馬鹿だが、お前らは更に馬鹿だから問題ない」


「……随分言ってくれますね。これ以上は付き合いきれないので、さっさと出て行ってもらいますよ」


 カシウスがバルトの方に手を向けた。


「おや……おかしいですね……」


「ワープしませんね……てか?お前魔法下手くそなの?」


「……何をしました?」


 カシウスの眼光が鋭くなる。


「誰が教えるかバーカ!」


 そういうとバルトはカシウスに斬りかかっていった。

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