三章 正しい不正解

 バルトはカシウスへ最短距離で詰めて斬りかかった。


「あなたが、何をしたいのか分かりかねますね。勝てないのが分からないわけではないと思っていたのですが」


「そのままそっくり返してやるよ!」


 カシウスに剣を受け止められたバルトは、体を回転させカシウスの頭に蹴りを入れる。


「はぁ……残念ですが大人しく退場して頂けないなら、自分から望むまで痛めつけさせてもらいますよ」


 カシウスはバルトの頭上に魔方陣を出現させた。


「死ぬほど痛いですから覚悟してください」


 次の瞬間には、無数の紫色の針がバルトに振り注ぐ。


「これで少しは……」


 カシウスがバルトを見ると同時に、カシウスの顔にバルトの拳がめり込んだ。


「これでもノーダメージか。本当にめんどくさいやつだな」


 互いに無傷だったことに、バルトはため息をついた。


「初めて見る魔法ですね……何をしたんです?」


 カシウスがバルトを蹴りあげようとするが、カシウスの足はバルトをすり抜けてしまう。


「誰が教えるか。残念ながら今の俺は天下無敵だ」


 バルトはカシウスを挑発するように笑った。









 が、全くの嘘だった。


 確かに魔法、物理攻撃を含む全ての攻撃はバルトをすり抜けてしまう。


 しかもバルトの攻撃だけ敵に当たり、一見すれば無双状態に見える。


 だが実際は違った。


 敵の攻撃が当たらなかったとしても、自分の攻撃力は上がってないのだ。


 バルトがいくら攻撃したところで、カシウスにキズ1つつけられない事実は変わらない。


 結局カシウスには絶対勝てないし、この体の状態も長くは続かない。


 何回か試して継続時間を計ったが5分程度だった。


 本当は天下無敵どころか、絶対絶命である。






「驚きはしましたが、隠玉かくしだまというには少しもの足りませんね。それに攻撃も雑になってきましたよ」


 カシウスが、バルトの攻撃を軽く避けながら笑った。


 バルトの攻撃は全然当たらず、避けられ壁に激突したり、外して地面を叩き割ったりと散々なものになっている。


「それに……あなた魔法が使えませんね?恐らくその魔法の副作用でしょう」


「半分だけ正解だ。新種の魔物は脳ミソが少し入ってるって報告しといてやる」


 バルトは攻撃を外して、壁に突き刺した剣をゆっくり引き抜いた。





 確かに副作用で魔法が使えないが、正解には魔法による副作用ではない。


 何故なら魔法と呼べるような、代物ではなくただの失敗エラーなのだから。


 バルトが今こんな体になっているのは、偶然に過ぎない。


 何故そうなるかは分からないが全属性の魔法を一度に使おうとすると、この状態になってしまう。


 幼い頃に「もしかして全属性魔法混ぜたら最強じゃね?」と誰しもが考えることを実行し、たまたま発見したものだ。


 だから術式の構築もいらないし、準備もいらない。


 ただ全属性の魔法を一度に発動しようとすればいいので、誰にも気付かれずこの体になれる。


 剣聖と呼ばれるような人間なら、まさに最強とも言える状態だが、戦闘力も人並みのバルトにとってはあまり使い所がないスキルだった。


 しかも一回発動すると全ての魔法が使えなくなり、1日ごとに1つの属性が使えるようになる割に合わない仕様だ。





「そろそろ術式も解け始める頃合いじゃないですか?素直にワープされたらどうです?」


 バルトの大降りな攻撃を避けながら、カシウスがバルトに提案する。


「確かにそろそろ頃合いだな……」


 バルトは攻撃をやめ、カシウスの前で座り込んだ。


「あー疲れた!もう戦うのは止め!」


「では大人しく……はぁ……また何かしましたね?」


 カシウスがめんどくさそうに、頭を抱えた。


 ダンジョン全体がガタガタと震えだしている


「俺の目的はダンジョンの攻略だ。別にお前達を倒さなくても、ダンジョンクリア出来ればそれでいいんだよ」


「何をいってるんです?私達を倒さなければクリアにはならないはずですが?」


「本来ならな。ただ、倒すもいなくなるも一緒の事だろ?」


「いなくなる?……まさか!?」


「さすがに気付いたか。そう、ダンジョンごと潰しちまえばいい!」


「あなた正気ですか!?そんなことをすればあなたまで飲み込まれるんですよ!?」


「言ってなかったけど、俺は今建物とかも貫通するから問題ない。逃げ遅れたら、死ぬのはお前らだけだ。

 どうせ逃げきるだろうけどな」


「わざと攻撃を外し、何度も壁を切って衝撃音を出したのは、味方が外からダンジョンを壊しているのを悟られないようにするためですか……」


「正解!分かったらさっさと逃げるなり、死ぬなり選んでください!」


「その必要以上の挑発的な態度も、私に隙を作らせるためですね。最初から踊られていたのは、私達かもしれません」


「半分以上は本音だ。もう二度と会わないことを願ってるよ」


 バルトは座ったまま手をヒラヒラさせる。





「……最後に1つだけ教えて下さい。何故そんなにクエストに執着するんです?」


 カシウスが崩れ始めるダンジョンの岩を打ち砕きながら聞いてきた。


「報酬」


 バルトが笑顔で一言だけ答えた瞬間、ダンジョンは一気に崩れた。





 ダンジョンが崩れ落ち瓦礫がれきの山になった真ん中から、バルトは脱出した。


「この感じだと、逃げたみたいだな……」


 バルトが辺りを確認する。


 ようやく一安心だか、あまりの情報量の多さにバルトは一気にめんどくなった。


 知能どころか、人間並みに賢い魔物の登場。


 騎士団員の魔物化。


 魔物の量産計画。


 報告したら、国中大騒ぎになる内容ばかりだ。


「どうせめんどくさいことになるんだから、情報小出しにして、騎士団から金とるか……」


 バルトは情報1つ金貨何枚にするか考えながら、必死にバルトを探してるハンナ達のもとへ向かった。

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