三章 都合のいい不都合

「ちっ!やっぱり今回も妨害魔法が使われてる!ハンナ、遠距離攻撃の可能性がある。風のゆりかごを展開してくれ!」


「分かりましたわ!けど、風のゆりかごは魔法攻撃のみで物理攻撃には効きませんわよ!?」


 バルトの指示にハンナは風のゆりかごを展開した。


 その間にも剣を持った魔物が迫ってくる。


「これくらいの敵なら、私の攻撃だけで十分処理できるわ。皆は動かないで」


 そう言うとリリィが矢を次々と放った。


 矢は不規則な動きで、味方だけを避け魔物に刺さっていく。


「キャス、先に進んで出来るだけ敵を倒しといて」


「承知しました」


 クリスの命令にキャスは暗闇に消えていった。


 バルトが指示を出す前に魔物が倒されていく。




 しかし、バルトは浮かない顔をしていた。


「前回と同じパターンなのに攻撃が成功している……何故だ?」


 状況から見て、この前の魔物たちと同じ組織であることは間違いない。


 でもそれなら、対策されて俺達の攻撃は通用しなくなるのが普通だ。


 それなのに同じパターンで俺達が優位にたっている。


 前回との違いといえば近接攻撃がいることだが……


 リリィの技を知ってれば近接攻撃は通用しないのが分かっていたはずだ。


 それなのに近接攻撃を追加して、対策もせずに襲ってきた。


 敵の中で連携がとれず、俺達の情報が回ってないのか?


 バルトの頭に強い違和感が残った。






「上級の割には弱かったね。大体倒したんじゃないかな?」


「それはクリス達が強すぎるだけだ。ちゃんと上級の雑魚位の強さはあったよ」


 バルトは光の玉を移動させながら、周囲の安全を確認した。


 大体の魔物を倒したのか、魔物の進行は止まっている。


 キャスも前線から戻ってきて、クリスの横で待機していた。


「皆に少し話がある。恐らく俺達は敵に遊ばれている。今回は、通常の上級ダンジョン危険度の10倍はあると思ってくれ」


「10倍!?バルトさん、それは本当ですの?」


「間違いない。さっきの戦闘は敵の指揮官のお遊びだ。多分、俺達がそれに気付くか試していたんだろう」


「バルト君が言うなら間違いないだろうけど、根拠はあるの?」


 ハンナとクリスがバルトに尋ねる。


「根拠はここが上級ダンジョンってことだ。

 恐らく俺達の前にも数パーティーが調査にきて失敗したのは間違いない。

 そうじゃなかったら、上級ダンジョンまでランクが上がらないからな」


「それはそうだけど、それが何で10倍になるのかしら?」


「上級ダンジョンで指揮してるやつが、対策もせず同じ方法で奇襲をかけてくるとは思えない。

 つまり、俺達を試して遊んでるんだよ。

 しかも、それに気付くかどうかまで試してると俺は考えている」


「だとしたら、確かに厄介ね」


 リリィが軽くため息をついた。


「達成条件が分からない以上、作戦の立てようがない。とりあえず俺達は今やれることをやるしかないから、先に進むぞ。いいか?」


「ここにいても仕方ないし、賛成だよ。キャス、もう当分は敵は出てこないかい?」


「はい、かなり奥にいるやつまで倒しておきました。ただ、一つ気になる事がありまして……」


 キャスが少し歯切れが悪そうに応える。


「どうした?遠慮せず言ってくれ」


「では……恐らくこの生き物達は元は人です。何らかの魔術で違う生き物に変えられたみたいです」


「人!?それは間違いないのか?」


 バルトが思わず大声を上げる。


「はい、今回は完璧に判断するため嗅覚による解析スキルを覚えてきましたから。前回も同じ匂いがしていたのですが、核心がなかったので……」


「そうか……ありがとうキャス、かなり重要な情報だ」


「お褒めに預り光栄です」


 何となくだが、話が繋がってきた。


 バルトは魔物が持っていた剣を拾い上げ確認する。


 そこには騎士団の紋章が刻まれていた。


「やはりそうか……」


 騎士団員は失踪したのではなく、魔王が魔物へ変化させているのだ。


 前回任務で騎士団の紋章付の武器を魔物が持っていたのもこれで筋が通る。




 そしてこの仮説が正しいとすれば……







「皆、このダンジョンに魔王がいる可能性が高い……」


 バルトはだるそうに頭を掻いた。


「魔王?何故そう思うんだい?」


「ここは、多分人を魔物に変える工場だ。街から近い方が人の補充が簡単だろ?だからこんな街の近くに上級ダンジョンを出現させたんだと思う」


「確かにそれなら、今までの疑問が全て納得いくね。その分、状況が最悪になったけど」


 クリスは少し困ったような顔で笑った。


「しかも騎士団員ばかり狙ってるのは、戦闘力が高い人間を選定している証拠だ。けどなんで騎士団員クラスの実力者がこんな簡単に……」






【心の弱さを利用すれば簡単な話です。人は生きてるだけで辛く悲しい生き物ですから】







 ダンジョンに何者かの男の声が響く。


 全く予想していなかった状況に、緊張が一気に張りつめる。


「姿も見せずに盗み聞きとは随分ずいぶん趣味が悪いな。そういうプレイじゃなきゃ興奮出来ないタイプか?」


 バルトは辺りを警戒したが、姿はやはり見えない。


【勝手に人のテリトリーに入ってきたのはあなた方ですよ?それにそんな安い挑発で姿を見せるほど馬鹿じゃありません】


 冷静に今の状況を楽しんでやがる……こいつが魔王か?


 とりあえず会話を続けて時間を作ろうとする。


「魔王、お前の目的はなんだ?人を魔物に変えてお友達でも作りたいのか?」


 バルトはあえて挑発を繰り返し、相手がボロを出すことを祈った。


【魔王?私は魔王様ではありませんよ。それに先程から安い挑発を繰り返していますが……これ以上は不快なので次は全員殺しますよ?】


 バルトの額に冷や汗が滲む。


 簡単な挑発にのってくる馬鹿じゃないか……しかもかなり強い。


 いつでも攻撃出来るにも関わらず、会話をしながら俺達を見定めている。


 しかも魔王じゃないなら、このダンジョンには少なくとも強力な敵が2人はいる計算になる。


 バルトは悪化していく状況に、飲み込まれそうになっていた。




 落ち着け……どうする……考えろ……


 力のない俺が、このパーティーで出来るのは考えることだけだ……


 とりあえず適当に会話をしながら、考える時間を引き延ばして……


 ……ん?会話?


 そう言えば、何故声の男はすぐに俺達を殺せるのにわざわざ俺達に話しかけてきたんだ?


 会話をしなくてはいけない理由がある?


 それとも…………





 バルトは一つのかけにでることにした。


「お前の耳は腐ってんのか?俺はさっきから目的はなんだって聞いてんだよ」


 バルトが話し終えた瞬間、通路の奥から鈍い紫色の光がバルトめがけて飛んできた。

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