一章 正義の意義
自宅の前に着き、バルトは一つ疑問を思い出した。
そういえばあの時バカ勇者、ミルコさんに何か言われてぶちギレてたよな……何を言ったんだろ?
あの様子だと何か図星をつかれたんだろうけど……
考えても分からないし、次に何か買いに行った時に、直接ミルコさんに聞けばいいか!とりあえず今日は疲れたしゆっくり休もう。
色々あって結構ハードな1日だった。
「随分短剣探しは時間がかかりましたね?それは素晴らしいものが見つかったのですよね?」
玄関を開けるとセシリアが笑顔でバルトを待ち構えていた。
顔は笑っているが、目は全く笑っていない。
昼間に短剣を買いに行くと行って出ていたのに、今はもう夜だった。
完全に何か他の事をしてこないと時間の計算が合わない。
本来の目的は果たせず、やましいことはないが勇者の件を正直に話すわけにはいかない。
「いやーなかなか大変でした。気に入る短剣がなくて探してると一つの短剣に一目惚れしまして!
交渉に時間がかかってしまったんです」
「そうなの?母さんその短剣是非とも見せてほしいです」
ふっ……ふはははっ!……母さん、この勝負残念だが息子の勝ちだ……
俺は本当に本来もっと高いであろう短剣を、銅貨3枚で手に入れている。
いきさつはどうでもいい……大事なのは結果だ。
答えさえ合っていれば過程はどうにでもなるのだ!
「もちろん!こちらです」
バルトは堂々と短剣をセシリアに渡した。
「あら……随分良い品ですね。幾らで買ったのかしら?」
セシリアは短剣を見ると軽く驚いている。
あの感じだと本来はかなり高いのか……?
実際の金額は分からないが、普通の短剣で銀貨5枚程度だから……ここは、思いきって10倍位の価格設定にしておくか。
「金貨5枚です!なかなか痛い出費でしたが、気に入ってしまっては仕方ないですからね」
「へぇー……恐らく金貨50枚以上はするものを随分と安く買いましたね」
「そうなんです!金貨50枚はす……え?」
「母さんにもバルトの交渉術を是非とも教えてくれないかしら?」
………ミルコさん!やり過ぎだ!!
金貨50枚!?いくらなんでもこれは予想出来ない。
というか金貨50枚って短剣でありえる値段なのか!?ただの短剣だぞ!?
恐る恐るセシリアの顔を見ると、変わらず笑っているが目の奥が光っている。
バルトは深呼吸した。
「ごめんなさい、嘘をつきました」
セシリアの風魔法で20mほど吹っ飛ばされ、バルトは玄関で正座をさせられている。
「嘘をついたら、次は50m飛ばします。正直に話しなさい」
バルトは諦めて今日の出来事を正直に話した(サキュバス店の件は除く)
「バルト……あなたは正しい事をしました。
けれど正しい選択をしたとは言えません。あなたは自分のことを軽くみすぎています。
今回は無事だったから良いですが、もし一歩間違えばあなたは死んでいたかもしれないのですよ?」
セシリアは怒ってはないが、力強い口調でバルトに言った。
「それにあなたは結果を大事にするあまり、自分が傷つくのを平気に思う
小さい頃から正義感が強く、そこは私も誇らしいですが…問題の解決に自己犠牲の選択をしがちなところがありますからね……
誰かを救うためなら、自分は傷ついても良い。
その理屈は傲慢で身勝手です。
誰かを自己犠牲の上に助けても、あなたが傷つけば、あなたを想い悲しむ人がいる事を理解してなくてはいけません。
バルト……あなたは言わないけど、今日もそんな事があったのではないですか?」
……確かにあった。
あの場所で俺は野次馬から見れば最低のクズで、きっと母さんがそれを聞いたらひどく悲しむだろう。
学生時代から問題解決をしようとすると、自分に非難の目をわざと向けさせるところがあり。
そのせいで母さんに迷惑をかなりかけたものだ。
「あり……ました。すみません……」
「バルト……誰も傷付かずに問題解決をするのが、難しいことは良く分かります。
けれど最初から何かを捨ててする解決は、また次の問題に繋がるだけで、本当の解決にはならないわ。
苦しくても、辛くても誰も傷つかない道を探せる人になりなさい。
あなたならきっと出来ます」
自分の中に前世の記憶があるせいなのか、俺は自分を客観的に見ているところがある。
本当の自分は日本で生きていて、今はまるでリアルなゲームをしているような感覚だ。
そのせいか、人に非難されたり、憎まれたとしてもあまり気にならない。
でもそれは悪癖で、そのせいで悲しむ人がいることを改めて分からせられた気がする。
「母さん、ありがとうございます」
「バルトなら大丈夫。冷めないうちに夕飯にしましょう。今日はバルトの好物しかないですからね!」
セシリアはにっこりと笑い、正座しているバルトの頭を撫でた。
「あと、母さんは鑑定スキルないから詳しくは分からないですけど、多分その短剣と剣はマジックアイテムだと思うわ。
何のスキルがあるか分からないけど、魔力量的に最上位アイテムだから大切にしなさい」
エルフ種は生まれながらに魔力を目視出来るのだ。
残念ながら純粋なエルフ種のみのスキルで、バルトは使えないから貰った時は気付かなかった。
「そうなんですか?最上位と言うのはどれくらいのレベルでしょうか?」
「スキルにもよるのだけど…短剣の方は勇者クラスで剣の方は伝説クラスかしら?私が昔一度みた聖剣と同じ魔力量を秘めてますよ」
フランちゃん!?あんな可愛い見た目でえげつないもの渡してくれましたね!?
あまりの事に軽く目眩がする。
これもしかして勇者が欲しがった剣じゃないのか?
そうだとして何でそんなものを俺に?
考えても分からない事が多過ぎて混乱してくる。
「それより、早くテーブルについてください。冷めてしまいますよ」
セシリアに言われテーブルを見ると、バルトの好物たちが山盛りにされていた。
先の事は明日考えよう……
余計なことを考えて食べては、一生懸命俺のために作ってくれた母さんに失礼だ。
今は母さんの作ってくれた料理を楽しむことにしよう。
バルトは笑顔でテーブルに向かった。
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