二章 カオスに望む可能性
次の日、身支度を整えながらバルトは深いため息をついた。
「はぁ……またリーマン人生が始まってしまう……」
いざ初出勤当日になると、気が滅入ってくる。
これから永遠と錯覚する程続く繰り返しの日々。
覚悟は決めていたのだが、それと気持ちは別の話だ。
「行くしかないか……」
バルトは小さく呟き昨日フランから貰った剣に手を掛けた。
……これはさすがに目立つから親父から貰ったお古にしよう。
変に街中で目をつけられても困る。
横においてあったいつも使っている剣を腰に差し、バルトは部屋を出た。
【ギルド 飾り鳥】
ギルドの前につくと、中に次々人が入っていくのが見えた。
3階建てのそれなりの大きさの建物だった。
手続きとかないのかな?
バルトは辺りを見渡すが、それらしいところはなくとりあえずギルドの中に入ることにした。
ギルドに入るにあたり、試験などは特になく、書類での採用のためギルドに入るのは初めてである。
中に入ると受付カウンターらしきところや、休憩スペース、掲示板などがあり、小さいギルドの割には意外にもしっかりしている印象だった。
受付に行ってみるか。
「あのー今日からお世話になるバルト・イングラシアと言うものなのですが……」
受付のお姉さんにバルトは尋ねた。
お姉さん二人ともめちゃくちゃ巨乳なんですが、そういう社風でしょうか?ありがとうございます。
「新入りの方ですね?この先まっすぐ進んで頂くと待合室がありますので、そちらでお待ちください」
お姉さんは手を進行方向にむけてにこやかに答えた。
「ありがとうございます。失礼します」
バルトがお礼を言うと、お姉さん二人がお辞儀をした。
……けしからん谷間だ。毎日挨拶しよう。
言われた通りに進み、待合室とかかれた部屋に入った。
中にはすでに3人程いる。
みんな新入の人たちか……ってなんだこいつら!?
真っ白なロングでシスターの格好をしているが、良く見ると谷間は凄いわ、スリットは深いわで、安物AVで着そうなシスター服を着ている女。
ゴスロリみたいな黒のフリフリのドレスを着ている、黒髪ロングのぱっつん眼帯のメンヘラ感満載女。
しかも目のクマがえぐい。
杖にローブまでは良いのだが、ローブの下は恐らく何も着てないであろう、金髪ショートの春先に夜道にでる変態みたいな格好の女。
こいつらが同期?嘘だろ……
エロいのは心から大歓迎だが、それは今じゃない。
もしかしたらこいつらの誰かとパーティーを組むかもしれないんだぞ?
その時に心から信頼して預けられるか?絶対に無理だろ!
ハーレムどころか、カオスの匂いしかしない……
しかも全員コミュニケーションをとろうとする様子もなく、各々別の方向を向いている。
下位ギルドってこんな奴らの集まりなのか?
いや……少なくともギルドに入って行った人たちはまともな格好をしていたのだか……
まじで、どういうことだよ……
とりあえずどうすることも出来ないので、バルトも適当に椅子に座って指示がでるのを待つことにした。
10分……20分……1時間……
気まずい時間が流れ続ける。
というか、遅すぎだろ!
いい加減しびれを切らして誰か呼びに行こうと席を立とうとすると、入り口のドアが開いた。
「あー……遅れてすまん。これがパーティー表だ。じゃあな」
30代くらい冒険者らしき男が入ってくるなり、入り口の一番近くにいたバルトに紙を一枚渡して出て行こうとした。
バルトは急いで声をかける。
「え?ちょっと待ってください!それだけですか?」
「は?そうだけど?」
男はめんどくさそうに答えた。
「いや、でも……全然ギルドの仕組みとか、仕事内容とか…俺たち分からないですし…」
「はぁ……だからなんだよ?お前何か勘違いしてない?」
男はダルそうにため息をついて、バルトを睨んだ。
「ここは学校じゃねぇんだよ。俺らは全員ライバルだ。
出世したいやつ、名前を売ってさらに上のギルドにスカウトされたいやつ。
つまり自分の利益を追求しに来てるんだよ。
自分の得にならないことを、なんでやるんだ?
俺もギルドからお前らにパーティ表を渡す依頼を受けたから渡しにきただけだ」
「そうは言っても……あまりにこれじゃ……」
「そう思うなら、お前がギルドを変えたらいいさ。
パーティー表の裏にギルドのシステムと決まりは書いてある。
じゃあな」
男はそれだけ言うと出ていってしまった。
………………いや、いや、いや、いや!
ブラックってレベルじゃねぇ!
社会人一日目だぞ?てかギルドの案内とか、研修みたいな事が普通あるだろ!?
え……もしかして俺がおかしいの?もしかして、この世界のレベルだと日本のブラック企業はむしろまともな方になってしまうの?
いきなりの事に頭が混乱してきた。
「あのー、悪いですが紙を見せて頂いてもよろしいですか?」
フリーズしていた俺に、シスター服の女が話しかけてきた。
「すみません。少しビックリしてしまって」
「いえいえ。しかし、いつまでもこうしてここにいるわけにはいきませんし…とりあえず内容を確認しましょう」
そう言うとシスター服の女は紙を覗き込んできた。
バルトも一緒に見ると、名前が書いてあった。
【新人パーティー】
剣士、全魔法担当
バルト・イングラシア
回復魔法、防御魔法担当
ハンナ・プラウダ
召喚士担当
クリス・マリオネット
弓、効果魔法担当
リリィ・フリーデン
上記4名でパーティーを組むことを命ずる。
死亡、ギルドからの脱退以外の解散は認められない。
一番恐れていた事がそこには書いてあった。
俺は今日からこのメンバーでパーティーを組む。
俺は命を彼女達に預けるのだ……ははは……
「ねぇ、何て書いてあるの?」
バルトがフリーズしていると、部屋の一番奥に座っていたローブの女が聞いてきた。
「あぁ…俺達はどうやら今日からパーティーみたいですね」
「あらあら素敵なパーティーですわ!宜しくお願いします」
シスター服の女がわざとらしくお辞儀をした。
「宜しく……とりあえず自己紹介しません?誰が誰だか分からないし…」
ゴスロリの子が自己紹介を提案する。
あれ?何か思ったよりみんなまともじゃないか?
普通にコミュニケーションもとれてるし。
あぁ……俺はバカだ、大バカだ……
最初から人を見た目で判断なんかしちゃいけない。
そんな当たり前のことすら忘れていた。
これから俺はこのパーティーで地道に頑張っていくんだ!
「じゃあまずは俺から…俺の名前は……………………」
バルトは、自己紹介を始めた。
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またお時間のある時に遊びに来て下さい。
皆様の一日に良いことがありますように。
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