妹に何もかも奪われた姉は仕返しを企む。地獄に落ちたくらいで許されるとは思わないでください。
仲仁へび(旧:離久)
第1話
私は水晶に映し出された映像を見る。
そこには、地獄の中で地獄のような目に遭っている妹がいた。
地獄、とは比喩ではない。
正真正銘の地獄だ。
私は、死神と契約して、妹を地獄に落とした悪女。
私がそんな事をするのは、妹の自業自得。
死神からもらった水晶。
その内部に映し出された妹が、「どうして死んでまでこんな目に」と言いながら地獄の業火に焼かれていった。
貴族として生まれ育った私は裕福な環境で過ごしていたけれど、普通の人間だと思っていた。
自分の目の力に気づくまでは。
私の目は特殊だ。
地獄からの使者、死神の姿が見える。
だから、これから死ぬ人が分かるのだ。
「今まで黙っていたけれど、実は私、人の死が分かるんです」
それが分かった私は、悩みながらもその事を両親と妹に話した。
彼等はその事を大いに理解してくれて、私の味方だと言ってくれたのだが。
ほどなくして、その話が噂になってしまった。
だから、「死神の使いだって!」「えーっ、気持ち悪い!」と石を投げられた時は愕然とした。
子供の悪意は、残酷だ。
その無邪気な悪感情が、向けられるたびに、私は怯えなければならなくなった。
結果、疑心暗鬼になって、家族ですら信用できなくなり、部屋に引きこもる日が多くなった。
けれど、いつまでたっても、そのままでいられるわけがない。
「大丈夫、もうあなたを悪くいう人なんていないわ」
「そうだ。安心して外にでればいいんだぞ」
「お姉様、お外には楽しい事がいっぱいよ」
数年後、勇気を出した私は、人付き合いの場に顔をだすようになった。
友達もできたし、婚約も成立した。
死が分かる人間がいる、なんて噂はとっくの昔に消えていたからだ。
おそらく噂をしていた者達は、本気で信じていたわけではなかったのだろう。
だから、皆は飽きて、喋らなくなったのだ。
このまま順調に平穏な日々にいられれば、そう願っていたけれど、幸せは唐突に壊された。
きっかけは、婚約者の屋敷で働いている使用人。老齢の男性の死を見てしまった事だ。
婚約者を支えるのが私の役目だと思ったから、精いっぱいその人を守ろうとした。
何が原因になるのか探り、一生懸命対策を考えた。
近辺で問題になっている野犬に襲われるのか、それとも巷を騒がせている病で亡くなるのか。
危険な動物の目撃情報はないか、屋敷で働く者達の健康状態は大丈夫か、一つ一つ調べながら可能性をつぶしていった。
しかし、救う事は叶わなかった。
突発的に起きた殺人事件が原因だったからだ。
犯人は、捕まらなかった。
それだけなら、まだ悲しい出来事ですんだだろう。
けれど、死の連鎖はまだ続いてしまった。
二人目、三人目と婚約者の屋敷で働いている使用人達が死亡していって、私はとうとう一人で抱えきれなくなった。
だから、両親や妹に相談して知恵を貸してもらおうと思った。
子供の頃の出来事はきっと気のせいで、私が力を打ち明けた時に、使用人が盗み聞きしていたのかもしれない。
いつまでも家族を恨むのは間違っている。家族なんだから信じなければ。
そう思っての行動したのに。
「あの方が死の使い。怖いわ。死の宣告を受けたらどうしましょう」
「死が分かる人間なんて、聞いたことないぞ。自分で殺してるんじゃないか?」
再度、人から遠巻きにされるようになった。
また私の噂が広まっていたのだ。
その影響で、婚約者の屋敷で起きた連続殺人の犯人にされてしまい、婚約者から婚約破棄されてしまった。
牢屋に入れられた私は、やはり家族が裏切ったのだと結論付けた。
そして、それは半分当たっていたのだ。
面会に来た妹が、自らが犯人だと言ったから。
「連続殺人の犯人は私。お姉様ったら、まぬけね。だってお姉様がいけないのよ。私の好きな人を婚約者にするんだもん。子供の時だって、私の好きな男の子と仲良くなってたから。いじわるしちゃった。ごめんなさいなね」
悪びれた様子のない妹の言葉を聞いて、心の中の何かが切れた。
その時、私は何がなんでもこの妹に仕返ししようと思ったのだ。
死が分かる私は、死神を見る事ができる。
だから、もしかしたら死神に呼びかければ協力してくれるのではないかと思った。
そうならない可能性もあったけれど、他の望みはない。
意を決した私は、何人も殺した人間として処刑されようとなった時に、私の目の前に現れた死神にはなしかけた。
私を殺さないでくれたら、もっと多くの死をプレゼントしてあげる、と。
そうしたら、死神は頷いてくれた。
死をつかさどると言っても、やはり神。
私を助け出す事は、赤子の手をひねるくらい簡単な事だった。
自由になった私は、死神が望む良質(純粋)な魂を死後の世界へ送り出した。
どうしてかは分からないが、善人の方が死後の国の住人が喜ぶと言っていたので、そうしたのだ。
関係のない人間を巻き込む事にはさすがに心を痛めたが、非情に徹して彼らを亡き者にしていった。
結果、妹になすりつけられた罪通りの大量殺人犯となってしまったが、後にはひけない。
死神と取引しなければ私は死んでいたのだから。
きっと死後、私の魂は地獄に落ちるだろうから、せめて妹にも同じ目に遭ってほしい。
それも、生きているうちから。
死神への義理立てが終わった後、私は妹に仕返しすることにした。
色々な事を思いついては、妹に様々な内容の嫌がらせをした。
上から物を落として、脅かしたり、橋を渡っている時はそれを支えているロープを切ったりもした。
血に飢えた狼においかけさせたり、殺人鬼に狙わせたりもした。
友達に一人ずつ悪口を吹き込んで、離れさせ、孤独にさせていったり。
妹と仲良くなった元婚約者には、妹より圧倒的に良い女性を近づけさせたり。
最後だけ、少し容赦してしまったが。それでも妹は追い詰められてしまった。
部屋の中に引きこもるようになって、次第に病んでいった。
そして、あることない事を一日中言い続けるようになり、私の幻が見えるようになったらしい。
「ああ、ごめんなさいお姉さま! ごめんなさい。もうしません。だから許して」
いくら謝ったって取り返しがつかない。
だから、私は報復をやめる事はなかった。
やがて、一日中私の亡霊に怯えていた妹は、どこかの建物の屋上から身をなげた。
真っ赤な血の花をさかせて、地面に横たわる妹。
彼女は、虚ろな表情で最後まで亡霊にあやまりながら、無残な死をとげた。
次は私の番だが、妹が地獄に落ちたのか確認したかったので、死神にダメ元でお願いをしたら水晶を渡された。
それで、地獄の業火で焼かれては再生、焼かれては再生する妹の姿を見て、満足した。
地獄とはそういう所だったらしい。
まさか生きているうちに、死後の世界の事が分かるとは。
「待っていて、私もすぐにそっちにいくから」
生きている頃は仲良くできなかったけれど、同じ地獄を味わった仲だもの。
「姉としてたっぷり可愛がってあげるわね」
きっと死後の私達は、以前よりましになるはずよ。
妹に何もかも奪われた姉は仕返しを企む。地獄に落ちたくらいで許されるとは思わないでください。 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます