『機巧探偵』誕生秘話①/SFはいずれ現実になる

〈莉緒〉

 最初に『機巧探偵』が誕生した経緯を語りましょうか。


〈五月雨〉

 すでに過去作を読破している方には言うまでもないでしょうけど、『機巧探偵』はSF小説です。

 年号などの明確な時代設定はあえてぼかしていますが、西暦2022年現在から数十年先の近未来をイメージして書いています。

 最近は『20XX年』とか、年号(特に西暦)を明記していない近未来SF作品をよく見かけますよね?

 ……ん、そうでもない?

 まぁいいか、あれと同じような物です。



〈莉緒〉

 作者が『機巧探偵』の年号をぼかしているのは、現実世界の時代や技術力が、近未来を舞台にした架空世界のそれを追い付き追い越してしまうことを危惧したからよ。


〈五月雨〉

 身近な物で例えると、カメラやGPS付きの携帯電話やガラケーが最先端の個人用情報端末だと思っていたら、いつの間にか「超小型パソコン」と呼ぶに等しいスマホやタブレット端末が現れたようなものです。


 ちなみに、近年の創作物の設定をいくつか現実に当てはめると。


・1998年には歩行式作業機械レイバーの悪用を取り締まるパトレイバーが活躍している。

・2003年には鉄腕アトムが完成。ロボットと人間は共存する時代が到来。

・2015年にはサイバーフォーミュラがサーキットを爆走し、そのスピードと迫力で人々を魅了。

・2019年には『ロボティクス・ノーツ』のように、ただの学生が巨大ロボットを開発。


 などなど。


〈莉緒〉

 しかしながら、現実はまだ自律思考できるAIは日常に普及していないし、人が乗れる人型ロボットなんてまだまだ実用化されていないわ。

 紹介した作品の年号はすでに過去のものよ(2022年現在)。

 現実世界の時代や時間が作品に追い付き追い抜いた時に生じる両者の技術力(特に顕著なのが通信端末)のギャップは、SF作品作りの宿命とも言えるわね。


〈五月雨〉

「SFは現実になれば、SFではなくなる」


『機巧探偵』のジャンルがSFであると決定付けた時に芽生えた、今でも私が抱えている悩みですね。


〈莉緒〉

 というか、『機巧探偵』一作目の本編を書く前に、何やら壮大な問題にぶち当たっていたみたいね。めんどくさい作者ね、まったく。


〈五月雨〉

 ……すみません。


〈莉緒〉

 ただ作者の考えも一理ある。

 2022年現在、人間そっくりな外観をした受付ロボットが実用段階になっているし、実際に試験採用している企業もある。

 アメリカでは機械義肢……サイボーグの研究が進んでいるし、中国では複数のドローンによる編隊飛行を成功させる程までにAIの研究と開発が進んでいる。


〈五月雨〉

 西暦2010年頃(いや、もっと以前)からテクノロジーが急速に発達していることに気付いて、「ぼやぼやしていたら、AIやサイボーグを題材にした作品がSFとして書けなくなってしまうのでは?」と大いに焦りました。

 2020年以降には、AIが日常生活に普及する見解も当時はありましたから。

 それで、それまでファンタジー系のオリジナル小説(未完で非公開)を気が向いた時に書いていた私は、2018年冬に一念発起してAIやサイボーグ、アンドロイドが登場するSF小説を書くことにしました。


『2019年中にオリジナルのSF作品をWEB小説として公開する』


 締め切りを設定して、それまで以上に本気で書いて。


 2019年11月29日。


 カクヨムに、記念すべきデビュー作である『(旧)機巧探偵クロガネの事件簿 ~機械の人形と電子の人魚~』の初投稿を果たしました。


 その時のキャッチコピーが、


『いずれSFが現実となる世界に生きる君へ、一つのSF作品を捧ぐ』


 です。


〈莉緒〉

 当時の作者が抱えていた不安と焦りを、そのまま載せているわね。

 お堅いし些か痛くて大袈裟な表現だとは思うけど、デビュー作を手掛けた初心を忘れないために、今でもあえて変更していないそうよ。


 まぁ、ここまで長々と語ったけど、要点をまとめると。


『機巧探偵』は「SFがSFでなくなってしまうことを危惧した作者の焦り」から生まれたのよ。

 時事ネタというか、時代の流れに作者は(勝手に)追い詰められていたみたいね。だけど、いつ・どこで・どういった状況で作品のネタが湧くのかなんて解るわけないのだから、馬鹿には出来ないし、侮れないけど。


〈五月雨〉

 恐縮です。

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