『機巧探偵』誕生秘話②/世界観は王道で

〈莉緒〉

 次は『機巧探偵』の世界観について触れるわね。少し長くなるよ。


〈五月雨〉

 AI(人工知能)やサイボーグ、アンドロイドが登場する以上、それらが違和感なく存在する下地――舞台が必要になってきます。

 加えて、私はアクションものが好きなため、作品のジャンルは『SFアクション』に分類されますね。


〈莉緒〉

 当然だけど、主人公に銃や剣を振り回せて戦わせる以上、正当かつ納得できる理由や設定も練らないといけない。いくら時代設定が近未来でも、無法地帯な舞台ではないのだから。


〈五月雨〉

 まず、主人公の設定から練り始めました。

 それと以下の条件を設定。


①舞台は近未来の日本。

②ヒロインと行動を共にする立場・役職。

③主人公の強さはリアリティ重視。チート厳禁。



〈莉緒〉

 ①はともかく、②について。

 これは物語の展開をスムーズにするためよ。それと、「主人公とヒロインを別々に描写するのが面倒」という作者の都合もあったわ……って、おいw


〈五月雨〉

「主役二人が一緒に行動して違和感のない立場・役職は?」と考えた際、「バディものにしよう」という結論に至りました。

 最初から二人一組ツーマンセルならば、主人公とヒロインが自然に行動できるし、様々な場面で二人の関係が発展するドラマ性も狙えます。


〈莉緒〉

 では「バディものの定番といえば?」と考えた時に、作者は『探偵』に辿り着いたわ。

 探偵とその助手ならば共に行動するのも自然だし、事件は依頼人が持ってくるから物語の導入もしやすい。即採用されたそうよ。


〈五月雨〉

 他には『刑事』という案もありましたが、すぐに没にしました。理由は、組織のルールや人間関係に縛られては思い切った行動が出来ないからです。


〈莉緒〉

 確かにそれは面倒よね。刑事設定は帯銃に関しては違和感ないけど、発砲に関しては後で始末書や正当性について問われたりするから七面倒くさい事この上ないわ。それならば自由に動ける私立探偵の方が良いし。


〈五月雨〉

 そして③、チート主人公の禁止。


「チートがあるから主人公が強いのではなく、明確な理由があるから主人公は強い」ということを意識しました。

 クロガネというキャラクターを描く上で、最も気を付けた部分です。


〈莉緒〉

「チート能力で無双する主人公が活躍する物語」が多い昨今、あえて作者はその「お約束」には乗らずにリアリティ重視に挑んだそうよ。少しでも『機巧探偵』シリーズが目立つように。


〈五月雨〉

 打算的な理由もありますが、「圧倒的な能力を授かって活躍する素人」よりも、「元々持っていたプロの技術と経験を駆使する訳あり者」の方がカッコいいと思う個人的なこだわりが大きいです。

 海外のアクション映画を参考に、主人公が強いのは『元○○』という設定に目を付けました。

 主人公が「元海兵隊」とか、「元CIA工作員」とか、かつて戦闘職に就いていたという王道設定ですね。

 そんな経緯から『機巧探偵』の主人公であるクロガネは、「元暗殺者」という設定にしました。暗殺者設定自体は、昔からよくあるポピュラーなネタですね。


〈莉緒〉

 ちなみに作者の中では、

 昔も今も使われている典型的なネタは「王道もの」。

 異世界転生もののように今流行りでホットなネタは「ブームもの」。

 ――と捉えているわ。


 王道は誰もが見たことある内容だけに共感しやすく、参考になる前例と情報が沢山あるメリットがあるわね。そのため、『機巧探偵』のストーリーは基本的に王道であること=解りやすく魅せることを意識して作っているわ。


〈五月雨〉

 誤解はして頂きたくありませんが、私は「異世界転生もの」や「チート無双」系の作品や作風を否定しているわけではありません。

 異世界に転生して活躍し、現地のヒロインと仲良くなるストーリーは今ではもう鉄板ロマンですし、ブームも長く続けばそれは間違いなく「王道」になりますから。

 いずれは私も、ファンタジー系の作品を一本作ってみたいと考えています。


〈莉緒〉

 現にざっくりとしたプロットはあるしね、現代日本の田舎町が舞台のやつ。

 ファンタジーものと言っても、異世界じゃないんだ?


〈五月雨〉

 異世界だと、どうしても既出ネタと被ってしまいますから。

 仮に異世界を舞台にする場合『魔法(類似した術も含む)』や『ギルド』、『ランク』、『身分差』あたりの定番ネタはどうしても避けては通れそうにないし。


 ちなみに、本当に異世界ものを書くとなったら、最大のテーマにして人気ネタでもある『転生』や『召喚』は封印して、現地人を主人公にしたい。


〈莉緒〉

 そこはこだわるねー。


〈五月雨〉

 偉大な先駆者に匹敵する作品を書ける気がしません。

 書いたとしても、何番煎じでパクリに近い類似品になりかねませんし。

 今は私のオリジナル作品である『機巧探偵』に自信を持って取り組みたい。


〈莉緒〉

 よく言った。

 さて、作者がやる気になったところで話を戻そう。


 私がクロと呼ぶ主人公、クロガネは元暗殺者。


〈五月雨〉

 かつて暗殺者だったから強い。その強さも訓練や実戦によって培われた技術、経験、装備によって裏打ちされたものであることは何度も描写しています。

 実際に作中では、鋼鉄の義手や義手内部に組み込まれたEMP(電磁パルス)に頼り切った戦い方は終始していません。

 使用する銃も状況に応じて使い分けてますし、『生存の引き金サバイブトリガー』という特殊能力も、誰しもが備え持つ生存本能をいつでも使えるだけ……という特別なものでもない上にデメリットの方が多いくらいです。

 ここぞという時に切り札を切る瞬間を見極めて戦う歴戦の猛者、そんなイメージでクロガネを作りました。


〈莉緒〉

 義手があろうが特殊能力があろうが、主人公は『等身大の人間』という枠組みを超えないように作者は書いているわ。傷を負えば普通に血を流すし、痛がるしね。


〈五月雨〉

 この流れで舞台設定の解説に移ります。

 アクションものの宿命というべきでしょうか、銃を所持・発砲できる理由として、『探偵や警備員など危険と隣り合わせな職業に限り、オートマタやサイボーグ犯罪の護身用として、市から支給された拳銃のみを所持でき、正当な理由ならば発砲可能』――という制度を作りました。


〈莉緒〉

 余談だけど、『3.5のナディア編』では一部内容が改正されて、多少は強力な銃に持ち替えた描写があったわね。


〈五月雨〉

 それ程までにサイボーグ犯罪が深刻であるという舞台設定です。

『鋼和市』という舞台名も、オートマタやサイボーグが存在する街をイメージしやすいよう『鋼』の一文字を入れました。


 鋼和市は人工島で、AIによって管理されている実験都市です。


 サイバー技術が本土よりも十年先は進んでいて、オートマタやサイボーグの研究と開発が盛んだからという理由で実験都市。

 また、先人のSF作品に倣い、市民はAIによって少なからず管理されているディストピア要素も含んでいます。通信端末兼住民証でもあるPIDを常時持たせているのはそのためです。


 アクションメインで推理シーンが少ないとはいえ、仮にも探偵ものである以上、ミステリーものではお約束の密室空間(クローズド・サークル)は必須であるとし、外部との行き来が限られる一つの島を舞台にするという流れで人工島設定も加えました。


〈莉緒〉

 人工島と実験都市。この二つの要素を組み合わせて『鋼和市』という舞台が誕生したわけね。


 ちなみに、舞台設定を作る上で参考にしたゲームや小説、映像作品がこちら。


・ペルソナ3……主人公が住む街が人工島にある。


・とある魔術の禁書目録……舞台が科学技術が発達した学園都市。


・仮面ライダーW……風都と呼ばれる風とエコの街。ガイアメモリ(ライダーや怪人の変身アイテム)の製造と流通も兼ねた実験都市でもある。


〈五月雨〉

 個人的には特に『仮面ライダーW』の影響を受けました。『W』の主人公も探偵でバディものだったため、『機巧探偵』のイメージもスムーズに出来たと思います(※3)。


 ※3『仮面ライダーW』

 2011年に放送された平成仮面ライダーシリーズ第11作目。

 行動派な桐山漣と、頭脳派な菅田将暉が演じる探偵コンビが、『二人で一人の仮面ライダー』に変身し、街に様々な事件を引き起こす怪人『ドーパント』を追い詰める。

 歴代仮面ライダーシリーズの中でも、脚本、演出、アクション、出演者の演技など全てにおいて完成度の高い人気作。

 2019年にTVシリーズの続編となる漫画『風都探偵』がスピリッツで連載開始。アニメ化も決定されたことから、その人気の高さが窺える。


〈莉緒〉

 そろそろ、この章をまとめてみよう。


・『機巧探偵』のジャンルはSFアクションもの。


・ストーリーと主人公設定は『王道』を意識。


・舞台となる鋼和市は、クローズド・サークルを意識して人工島。サイバー技術が発達した実験都市でもあるため、市民はAIによって管理されているディストピア要素がある。


〈五月雨〉

 主人公と舞台……作品の土台が固まったところで。


・探偵である主人公は、暗殺者時代のスキルを使って事件を強引に解決するため、『トラブルメーカー』のレッテルが貼られている。依頼の内容は荒事や訳ありな厄介事しか舞い込まないため、家計は火の車。


・AIによって管理される社会は危険だと唱え、テロ活動を行う敵勢力が存在している。のちの反サイバーマーメイド団体【パラベラム】。


・AI社会を象徴する街で開発されたガイノイド(女性型アンドロイド)がヒロイン。その出自ゆえに敵勢力から狙われる=主人公がヒロインを守る理由。


・ヒロインの開発者はかつて主人公が守っていた女性で、街を支配している大企業の娘。この企業に主人公はかつて雇われていた。当然、かつての同僚たちも主人公と同等以上の戦闘能力やスキル持ち。


 ……といった感じで、ヒロインや他のキャラクター、組織の設定が次々と生まれていきました。

 地盤と根っこがしっかりしていれば、ストーリーという名の一本茎に様々なキャラクターや設定が枝分かれして伸びていき、最終的にエンディングという大きな花が開くイメージです。


 ちなみにタイトルである『機巧探偵クロガネの事件簿』も、一目で作品の内容が予想できるように考えてあります。


 機巧……からくりや機械仕掛けを意味する。サイボーグやアンドロイド、オートマタなどが登場するSFチックな世界感を象徴。


 探偵……主人公の職業。


 クロガネ……主人公名。クロガネ→黒鉄→黒沢鉄哉。


 事件簿……これまで請け負ってきた事件の記録。


 タイトル作りに関しては、人気探偵漫画の『金田一少年の事件簿』や『名探偵コナン』を参考にしました。

 というより、その二つと主人公名の『クロガネ』を組み合わせただけですねw


〈莉緒〉

 草w

 昨今のライトノベルはやたらタイトルが長いから、逆に短くてコンパクトなものにしたわけね。解りやすくて良いんじゃないの。


〈五月雨〉

 何事も解りやすく、伝わりやすく。

 それが、私なりの「王道」です。

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