第31話 旅の中休み

 旅を再開した私たちは、真夏の熱い日差しを突っ切って、パステルとラパトを先頭に、私が殿を務めて照り返しが強い、アスファルトの街道を進んでいった。

 私は役所が発行したミニマップを参照して、無線で次の村で休憩する事をパステルに告げた。

『はい、分かりました』

 時刻はもう間もなく昼という頃合い。

 少し早かったが、人数も人数なので早めに席を確保しておきた事と、朝ご飯に玉子サンドが食べられなかったリズの怒りを考えての事だった。

 ビスコッティはお酒だが、リズは玉子サンドがないと一日ロクに口を利いてくれないほど、機嫌が悪くなるからだった。

 ミニマップによると、卵が名産の村のようなので、ちょうどよかった。

 間もなく街道右手に見えてきた村に隊列が入り、近くの食堂に入ると微妙にピークを外れているので、店はまだ空いていた。

 みんなで適当なテーブルに付き、私とスコーン、ビスコッティとリズが同じ席になった。「えっと、玉子サンドありったけと、コーヒー!!」

 オーダーを取りにきたオバチャンにリズが声を上げた。

「私は肉であればなんでもいいのですが……リブロースステーキを」

 ビスコッティが注文し、スコーンは超お子様ランチを注文し、私はサーモンのマリネをを注文した。

「それにしても、二人に苦情じゃないんだけど、どうも昨日のオペ以来全身が痒くてね。汗疹かな……」

 瞬間、スコーンとビスコッティの顔色が変わった。

「ちょっと腕見せて!!」

 スコーンが私の腕の服をまくってみた。

「……特異体質だ。ビスコッティ、注射準備。特異体質だよ」

「ああ、コイツは生まれつき肝臓と腎臓が人より弱いんだよ。言おうと思ったら、オペが終わってた」

 リズが運ばれてきた玉子サンドを囓りながらいった。

「そうなんだ、厄介だな……。ビスコッティ、A液二十ミリにB液四十ミリを混合して。これで、様子をみよう」

 ビスコッティが注射の準備をして、スコーンに注射器を渡した。

 私の腕をアルコール消毒して、スコーンが私に注射した。

「これでいいかな。まだ痒かったらいって!!」

「ありがとう。まあ、体は動くし問題ないでしょ」

 私は笑った。

 みんなの食事が運ばれてきて、私たちはそれに舌鼓を打ったのだった。


「さて、次は……」

 食事を終え、卵を買っていくとうるさいリズをぶん殴って黙らせ、私はポケットマップを手にした。

「ダメですよ、買ってきた地図をそのまま使ったら!!」

「はい、誤差も多いですし、行き先だけ伝えて下さい」

 パステルとラパトがダメだししてきた。

「だって、居場所が分からないと、指示の出しようが……」

「食事取れる場所とか、休む場所とか、アバウトな指示で構いません。そのために、私たちが先頭を行くんです!!」

 いつも通り、パステルが笑みを浮かべた。

「じゃあそうする。遅れた分取り戻すよ」

 私は叫んで、馬に飛び乗った。

 馬を止めたついでに衛星電話をチェックすると、ついでにコロン王国の視察もしてこいという、ジジイからのメッセージが入っていた。

「まあ、ついでだからいいけど……パステル、コロン王国の視察が入ったよ。先にそっち寄って!!」

 目標としていたポートランの町の手前に分岐点があるので、コロン王国に寄るのは特に問題なかった。

『分かりました。道は把握しています。行きましょう』

 無線でパステルの声が聞こえ、私たちの隊列は動きはじめた。

 こう暑いと荒くれ者も魔物もお休みなのか。私たちの隊列は順調に旅程をこなしていった。

 街道を進むうちにコロン王国への分岐点が見え、私たちはそちらに馬を向けた。

 まだ工事の手が回らないらしく、久々に石畳の素朴な街道を進むと、コロン王国の国境ゲートを解体している現場に差し掛かった。

『まさか、また帰ってくるとは……』

 無線越しに、リナが笑った。

「なに、帰らないつもりだったの?」

 私は笑った。

『その覚悟じゃないと、城を飛び出したりしないよ。ナーガなんてなにも言わないしね。あたしを止めに掛かった、父王を蹴り飛ばしたから』

 リナが笑った。

『好きでやったわけでは……。足を振ったら国王様がいただけで』

 ナーガが決まり悪そうにいった。

「また、派手だねぇ。私なんか、二十才の誕生日記念に侍女に化けて、比較的穏便に逃げたよ。さて、通れるかな……」

 私たちは工事真っ盛りの中進み、一度止まって私が前に出ると、みんな敬礼して道を空けてくれた。

 そこを通って隊列は旧コロン王国の領地に入った。

『ほちぃの、玉子サンドほちぃの……』

 リズが馬を止めたので、私はリズの口の中に手持ちの玉子サンドをぶち込んだ。

「うん、うまうま!!」

 満足そうなリズを尻目に、私は自分の馬に戻り、再び隊列は進み始めた。

 しばらく進むと、暑さににやられたか、フラフラのゴブリンの集団が道を塞いだ。

『ここは、ゴブリンが多い地域でさ。出てきた以上は、戦うよ!!』

 リナの声が無線から聞こえ、私たちは馬から下りた。

 戦闘隊形を取る間もなく、リナが群れの戦闘にいたゴブリンを殴り倒し、ナーガが蹴り飛ばした。

『へばってるからって、容赦は不要だよ。増え過ぎちゃって困ってるのは、他でも見たでしょ?』

 リナの声が無線から聞こえ、私は空間ポケットからチェーンソーを取り出した。

「な、なにするの!?」

 近くにいたスコーンが声を上げた。

「決まってるじゃん。切りまくる!!」

 私はスターターを引いてエンジンを掛け、ゴブリンの群れに突っ込んでいって、適当に切った後、手榴弾を群れの中心に向かって投げ、派手な爆音と共にゴブリンの山がぶっ飛んだ。

「こら、爆破は私の専門だ」

 犬姉がいつの間に背後にいて、繋ぎのポッケから大量の手榴弾を取りだし、無差別爆破を敢行した。

「このくらいじゃないとね。甘いな」

 アイリーンがニヤッと笑みを浮かべた。

「なにチンタラやってるの、このくらい……こうだ!!」

 リナが叫び。氷柱の群れがゴブリンたちを射貫いていった。

「魔法ならいいや。たまには、ファイヤ・ボール!!」

 スコーンが火球を放ち、着弾地点で派手に爆発を起こし、爆風で私と犬姉が吹き飛ばされた。

「派手なのきたなぁ。今は全然戦闘モードじゃないからいいけど、マジなときにやったら蹴飛ばす」

 起き上がって、犬姉が笑った。

「こら、真面目にやれ!!」

 ロングソードを構えたリズが、私を蹴飛ばした。

 リズの得意技は魔法だが、剣術にも心得があり、ロングソードを持たせれば城の騎士団の精鋭とも互角以上に戦える実力を持っているのだ。

「ダメだよ。チェーンソーなんか使ったら!!」

 ナイフを抜いたスコーンが、ひっくり返っていた私を起こした。

「だって、私の剣ってドラゴンスレイヤーかエクスカリバーだよ。ナイフは多少使えるけど、犬姉の方が得意だし!!」

「また極端な弟子だね。いいから、ナイフで戦いなさい。魔法なんて冗談じゃないから」

 リズが苦笑した。

「リズ、狩りに行こう!!」

 スコーンはナイフを構え、ヘロヘロゴブリンどもを根こそぎ切り刻んでいった。

「やる気だね。みんなに任せて、女王は避難しますか」

 私は苦笑した。


 ゴブリンたちを片付けると、死体がそのままでは邪魔なので、かき集めて燃やしシルフィが鎮魂の祈りを捧げ、一連の戦闘は終わった。

 怪我といえば、ヘロヘロゴブリンからというより、同士討ちの怪我が多く、これだから戦闘態勢は重要だと思った。

 再び馬で隊形を作った私たちは、コロン領内を旧王城に向けて進んだ。

『本当に田舎でなにもないよ。見ての通り畑だけ!!』

 無線からリナの声が聞こえた。

 確かに、街道沿いには広大な畑がどこまでも広がり、田舎好きの私としては多いに満足だった。

 やがて、隊列は旧王城に到着し、門番が私の顔を見ると敬礼して鉄扉を開けてくれた。

 どうやら、城の解体作業をやっているようで槌音が凄かったが、まだ残っている建物の前でパステルとラトパが隊列を止めた。

 みんな馬から下り私が下りると、ちょうどヒゲを蓄えた元国王と王妃が出てきた。

「これは女王様、このような田舎にご用ですかな?」

 元国王が笑みを浮かべた。

「旅の途中で立ち寄ったのです。お変わりありませんか?」

 私は笑みを浮かべた。

「そうですな。変わった事といえば、ご覧の通り王城を取り壊している事ですな。お陰でなんのもてなしも出来ません。ご容赦を」

「いえ、お心遣いは結構です。今は旅の途中にて。私の方こそ、なんの手土産もなく、申し訳ありません」

 私は鞄から、あらかじめ札束を入れておいた封筒を、元国王に差し出した。

「フィン王国からの気持ちとお受け取り下さい。作業で忙しいとお見受けしたので、私たちはこれにて失礼します」

「そうですか。この跡地には、ささやかな屋敷を建てて老後を過ごそうと考えております。いうことを聞かない馬鹿娘をよろしくお願いします」

 私が差し出した封筒を受け取り、元国王は頷いて笑みを浮かべた。

「では、急ぎの旅ではないのですが、お邪魔になるといけませんので」

 私たちは馬に乗り、隊列を組んで元王城を離れた。

 田舎道を戻り、もう間もなく街道というところで、私は無線で隊列を止めた。

「……なんか、嫌な予感がする」

 私は下馬すると、全員に戦闘体勢を取るように指示を出した。

 すると、目の前の道が割れ、巨大なワームが姿を現した。

 前も話したかも知れないが、ワームとは地下に潜んでいる魔物で、獲物を見つけるとこうして地上に姿を見せる魔物だった。

『ジャイアント・ワームなんて珍しい。消化液に気をつけて!!』

 無線でリナの声が飛んだ。

 こんなもの斬ってたら危ないだけなので、いち早くスコーンが攻撃魔法を放った。

 巨大な火炎が飛び、ジャイアント・ワームが燃え上がった。

 そこにビスコッティの氷の魔法が炸裂し、ジャイアント・ワームは粉々になって消滅した。

『もう大丈夫だよ!!』

 スコーンの声が無線から聞こえた。

「よし、他に気配はないな……。みんな、先に進もう!!」

 みんなは馬に乗り、そのまま街道まで出ると、時刻は夕方になっていた。

「よし、みんな。今夜泊まる場所を決めよう。これ以上進むのは危険だよ」

 私は無線経由でみんなに声を飛ばし。パステルとラパトチョイスで街道脇の草原地帯にテントを張った。

 明るいうちにコンロなどの準備を終え、この時間だともう獲物は狙えないと、狩猟は諦めた。

 私は衛星電話をノートパソコンに繋ぎ、ジジイにコロン王国の様子を送った。

 ついでにメッセージを検索して、私は思わず苦笑してしまった。

「リズ、勝手に島に魔法研究所なんて作るな!!」

「あれ、もう出来たんだ。監督に優先度低めで頼んでおいたのに。これから、あんたをビシバシ鍛えようと思って!!」

 リズが笑った。

「なに、島に魔法研究所が出来たの!?」

 近くにいたスコーンが反応した。

「うん、メッセージがきた。小さいらしいけどね」

 私は苦笑した。

「ビスコッティ、研究所が出来たよ!!」

「師匠の夢でしたからね。でも、私たちのではありませんよ」

 ビスコッティが笑った。

「ケチ臭い事いわないで、共用にしようとは思ってるけどね。やっと魔法が使えるようになったマリーを、しごかないとダメだから。よりによって、オメガブラスト・アルティメット・デストラクションなんて使いやがって……」

 リズが私の頭を小突いた。

「あっ、それで思い出したんだけど、アレが使えるほど魔力が高いとは思ってなくて、マリーの体に無理がきてるかもしれないんだよ。もう一回、あの結界張ってくれるかな。全身診ないと」

 スコーンが少し真面目な声でいった。

「あんなもんでよければいいよ。今やる?」

「今がいい。お願い」

 リズが呪文を唱え、結界で出来た大きな部屋が出来た。

「じゃあ、マリー。また繰り返しになるけど……」

「うん、お願い。まだ、死ねないから」

 私は笑った。

 結界内に入ると、私は服を脱いでベッド代わりの出っ張りにうつ伏せで横になり、スコーンとビスコッティの診察が始まった。

「やっぱり、血管が異常に膨張しちゃってるよ。もう一回やらないとダメだね」

 スコーンが小さく息を吐いた。

「師匠、麻酔かけますか?」

 ビスコッティが小さく囁いた。

「待って、もっとよく診ないと……」

 スコーンが私の体をひっくり返したり色々しながら、細部まで確認しているようだった。

「うん、大丈夫だね。ビスコッティ、麻酔かけて」

「はい、師匠」

 ビスコッティが呪文を唱え、私の意識は暗転した。


 ふと目を覚ますと、前と同じようにマルシルが小袋を私の顔の前で振り、小さく笑みを浮かべた。

「エルフ伝来の気付け薬です。毒性はないので、安心して下さい」

「ありがとう……」

 私が起きようとすると、脇で見ていたビスコッティが、そっと背中を押して留めた。

「師匠、起きましたよ」

 どれほど時間が掛かったのか分からないが、また寝ていたスコーンが目を覚ました。

「うん、ちゃんと魔力均整が取れてるね。問題ないよ。しばらく、全身が痺れた感じがすると思うけど、すぐに抜けるから!!」

 スコーンが元気にいった。

「そっか、ありがとう。これで、リズのシゴキにも絶えられるか」

 私は笑った。

「誰のシゴキだって?」

 結界内にいたらしいリズが、私に服を放ってきた。

「だって、きっついじゃん」

「当たり前でしょ。魔法使いは体が資本だもん。まずは、筋トレだな。フィン王国海兵隊員ですら、泣いて逃げ出すメニューを考えてある!!」

 リズが笑った。

 私が服を着ると、犬姉が入ってきた。

「スコーンに相談なんだけど、私って魔法は使えないの?」

「そうだね、診てみなきゃわからないよ。さほど魔力を感じないし、使えたとしてもショボいかも知れないけど」

 スコーンが笑った。

「ショボいの嫌だな。もっと派手なの。破壊力が欲しい」

 犬姉が笑った。

「じゃあ、診てみようかな。服を脱いで、そこのベッドにうつ伏せで横になって!!」

 スコーンの言葉に、犬姉がいわれた通りにすると、スコーンが丹念に調べはじめた。

「エルフだし、使えないってのがおかしいんだよね。どっか、詰まってるのかな?」

 スコーンは悩んだ様子で、腕を組んだ。

「あの、犬姉さんはエルフです。人間の医療免許は持っていませんが、エルフであれば持っています。私に任せて下さい」

 マルシルが空間ポケットを開き、中から大きな黒い鞄を取りだした。

「では、はじめますね」

 マルシルが犬姉の体のあちこちを調べ、一つ頷いた。

「通称『無魔力症』と呼ばれている、特定部族によく見られる病気です。魔力はあるのですが、体内で滞留してしまって、外に出す……つまり、魔法を撃てないのです。治療は楽なので、安心して下さい」

 マルシルは鞄の中から長い針を取りだし、犬姉の体に刺していった。

「ツボを突けば簡単なのですが、これを放置すると寿命にも影響します。今のうちに治しておきましょう」

 マルシルが器用に針を刺していき、最後に杖を片手に呪文を唱えた。

 瞬間、犬姉の体が青白い光りに包まれ、私でも分かるくらい強烈な魔力を放ちはじめた。

「まだ目覚めたてなので、三日は魔法を使わないで下さい。体が慣れていないので、気絶してしまいます。あとは、エルフの魔法でも人間の魔法でも使えますよ」

 針を抜きながら、マルシルが笑みを浮かべた。

「へぇ、私も魔法使いか。便利そうだな。ってか、怠い……」

 犬姉が転がり、ベッドから落ちた。

「しばらく怠いです。明日の移動までは、間に合うと思いますが、怠いうちは乗馬は控えた方がいいでしょう。落ちて、大怪我してしまうので」

 マルシルが笑みを浮かべ、今夜も平和に時間が過ぎていった。


 晩ご飯を食べそびれたので、翌日の朝食は美味しかった。

 気になる犬姉の隊長だが、怠いわ寒気はするわで、とても移動出来る状態ではなかった。

 必然的に、今日は一日お休みになり、私はリズにしごかれていた。

「おら、そんなもんか!!」

「なめんなこの、クソ野郎!!」

 ただのプッシュアップだったが、すでに二百回を超え、私は渾身の力で奮える大胸筋にひたすらパワーを送っていた。

「あと500!!」

「出来るか馬鹿野郎!!」

 私はひっくり返り、ノンストッププッシュアップ三百二十一回のレコードを叩き出した。

「まあ、あたしも出来ないけどね。よくやった!!」

「うるせぇ、変な課題出しやがって!!」

 ……口が悪い私。

「だって、食いついてくるから、無茶したくなるじゃん!!」

「うるせぇ、お前がやれ!!」

 ……どうにも口調が戻らない私。

 まあ、リズ師匠の教えはこうだった。

 魔法を習っていたより、剣技とかなんかそっちの方ばかり教え込まれた気がしていた。

「よし、十五分休憩したら、次は腹筋だぞ!!」

「おし、掛かってこい!!」

 プロテインを飲みながら、私は気合いを入れた。

 ちなみに、まず無理なので真似しない方が身のためである。

「おし、次は腹筋五百。休むなよ!!」

「この野郎、任せろ!!」

 ……こうして、ひたすら筋トレに明け暮れた私だった。


 リズにひたすら鍛えられて夕方を迎えると、今日はなにもなく夕食の準備が始まった。

 野外料理はパステルとラパトが得意とするところで、ビスコッティが撃ち落とした鶏肉を炊き込んだご飯や、サラダやスープが並ぶ、なかなか豪勢な物だった。

 最後に熱々のパンが配られると全員揃って頂きますとなり、体調が優れない様子の犬姉はいつもの快活さがなく、どこか疲れた様子だった。

 食事が終わると、私はいつものごとくノートパソコンを開き、気象局のサーバに接続して雲の様子を見ていた。

「こりゃ、明日は雨かな。無理な移動は避けよう。馬が故障したらシャレにならないし、犬姉もまだダメみたいだしね。雨対策だけは伝えておかないと」

 私はパステルに明日の天候見込みを説明し、テントの補強やタープという折りたたみ式の屋根の設置などを行い、可能な限り雨に備えた。

「マルシル、犬姉の様子はどう?」

「はい、問題ないのですが、よほど高魔力が停滞していたようで、まだ移動は困難です。時間の問題なので、しばらく待ちましょう」

 マルシルが笑みを浮かべた。

 実際、全然急ぐ旅ではないので、万全を期してから出発しても問題はなかった。

「魔物や野盗避けに罠を張ってきます。すぐ終わりますよ」

 ビスコッティが、なにか色々持って、夕闇迫る野営地の周りに罠を設置しはじめた。

「さて、これで大丈夫かな。あとで、リズのケツでも蹴飛ばしておくか」

 私は笑って、大型ランタンの脇に座った。

 寝るにはまだ早いので、私は雨に備えてノートパソコンをテントに避難させ、完全防水の衛星電話だけ持って、ジジイに連絡を取った。

「特に問題なしか。まあ、視察中だしね。ジジイが上手くやるでしょ」

 私は笑った。

 隣に座ったリズの顔面にパンチを入れ、私はトドメのプロテインを飲んだ。

「それ寝る前用じゃん。まだ早いよ」

 リズが笑った。

「いいの、アミノ酸が欲しいから。それより、リズってナイフ使えるの?」

「使えないよ。なんで、あんな間近で格闘戦みたいな事しないといけないの。ロングソードで斬った方が早いじゃん!!」

「うん、覚えていた方がいいと思って、誰か師匠を探しているんだけど、ビスコッティも犬姉も、レベルがハード過ぎてダメなんだよね。スコーンにお願いしようかな」

 私は笑った。

「いいじゃん、そのままぶん投げれば!!」

「それは剣士としての意見。どうも、憶えたいんだよね。どっかにいないかな……」

 私は笑ったのだった。

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