第25話 女王誕生

 気が付けば七の月。

 私は島の家の中にいると、無線電話が振動する音が聞こえた。

「さて、なんだろ……」

 私はノートパソコンに無線電話を接続し、電源を入れて立ち上げた。

 超が付くほどクソボロく、立ち上げに十五分も掛かったが、暇なので問題なかった。

 衛星電話の電源は入れてあるので、すぐさまデータを受信しはじめた。

「さてと、今度はなにかな……」

 私は送られてきた電文の暗号を平文に直した。

『馬鹿たれ、早く帰ってこい。他の面倒な儀式などなしにしてやるから、戴冠式だけやるぞ。作法は覚えているな?』

 私は苦笑して、仕返しの電文を返した。

「なんクローネくれるの。ビジネスの話よ」

『馬鹿たれ。早くしろ!!』

 通信が向こうからディスコネクトされた。

「ったく、せっかちだねぇ。しょうがない、着いたばかりだし私だけでもいってくるかな」

 あんなの見てても面白くない儀式だし、私は荷物を纏めた。

「あれ、どこにいくの?」

 スコーンが声を掛けてきた。

「ちょっと野暮用で王都だよ。急げっていうから、ちょっと顔出しして戻る」

「私も行く!!」

 スコーンの目が輝いた。

「いいけど、多分には入れないよ。つまらないから、ビスコッティと遊んでる方がいいよ」

 私は笑った。

「そっか、残念だな。でも、行く!!」

 スコーンが私にへばり着いた。

「いってもつまらなけど、その格好だとロイヤルっぽくって浮かないね。招待状あげる」

 私は空間ポケットからペンと紙を取り出し、サラサラと書いて角印を押し、封筒に入れて蝋で封をした。

「これで、中に入れるよ」

「ホント!?」

 スコーンが封筒を持って喜んだ。

「さて、時間がないから行くよ。大名行列になったら困るから、こっそりバスに乗ってね」

 私は笑みを浮かべた。


「……クリア。行くよ」

 私たちはコソコソとバスに乗り、私とスコーンはバスにそっと乗り込み。座席には座らず通路にしゃがんで身を隠し、BB弾を装填したバレットを入り口に向けて構えた。

 バスの扉が閉じ、何事もなく走りはじめた。

 ホッとした瞬間、ホットパンツ姿の犬姉がフロントガラスにへばり着いた。

 それでもバスは淡々と張り続け、空港のゲートを通って、駐機場に入っていった。

 そのままターミナルビルに到着すると、パタパタ動く表示板には欠航の嵐が吹き荒れていた。

「まだ風が強いからね。こっちは関係ないから」

 私は笑って、スコーンと犬姉を連れて、団体専用窓口から飛行機に乗った。

「さて、ジジイの顔でもぶん殴ってやるか」

 私は笑い席に座って、侍女フォンで同行の侍女を呼び出した。

「犬姉と私、よろしくね」

『ロジャコントロール』

 私はその答えに満足して、ベルトを締めた。

 飛行機をプッシュバッカーⅢが押し出し、時折飛行機が風に揺らされる中、飛行機は急ぎ足で滑走路端に向かって走りはじめた。

「こりゃ揺れるな……」

 私はベルトを強く締め直した。

 飛行機は滑走路の半分も使わず離陸し、機体を大きく傾けて空をつき進んだ。

 ガコンと脚が格納された。

「こりゃコックピット内は大騒ぎだな。まあ、あの機長に任せておけば大丈夫か」

 私は苦笑して。犬姉の分の招待状を書いて、封筒に封蝋をした。

 飛行機は強風を物ともせず、むしろおちょくるように楽しげに飛んでいった。


 飛行高度が成層圏に到着すると、ベルト着用と禁煙のサインが消えた。

「……侍女隊、GO」

 私が無線で指示をだすと、同乗していた侍女三十人が一斉にスコーンと犬姉に襲いかかり髪型から服装まで、ロイヤル仕様に仕上げはじめた。

「まあ、これがやりたかったんだけどね。犬姉は鼻が利くから、へばり付くと思ったけど」

 私は近くを通ったチーフパーサーに、アメリアを呼び出すように伝えた。

「はい、ジャージ集団に紛れています。お呼びします」

 チーフは小さく笑みを浮かべると、飛行機の後部に向かっていった。

 しばらくすると、すでに侍女集団の餌食になった様子のアメリアが、スーパーロイヤルの姿になって現れた。

「これ、髪の毛盛りすぎだよ。まあ、いいや。バレていた?」

「もちろん。ジャージ軍団の数が合わなかったんだよ。他にいなさそうだしって思ったら、アメリアだなって当たりをつけてた」

 私はアメリアに招待状を渡した。

「ありがと。私はあっちで座っているから」

 アメリアが笑って行くと、私は着ていた繋ぎを脱いで下着姿になり、侍女軍団を待った。

「失礼します。国王様、お召し替えに伺いました」

 私は頷き、席を立った。

 退屈なおめかしの時間を終わらせ、『犬姉』と書いてある繋ぎを畳んで膝の上にのせ、クリーニングの魔法で洗濯をして、さらにリンスの魔法で綺麗にツヤツヤにした。

 侍女の一人がお茶を持ってきてくれて、私は椅子に座ってゆっくり香りを楽しみ、一口飲んだ」

「大変美味しゅうございますわ。皆さん、ありがとうございます。もう下がってよろしいですよ」

 私がニッコリ微笑むと、侍女が一礼して去っていた。

「はぁ、ダメージが……」

 私は苦笑した。

「全く、たまに王女……じゃなかった、王族に戻るとこれだ。ジジイにパンツ被せてやるか。ムカついた」

 私は笑った。

 かくて、飛行機は王都目指して飛んでいった。


 しばらくすると、CAがワゴンで機内食を運んできた。

 見た事のない料理だったが、かなり気合いが入っている感じに惚れた。

「こ、これは、うまそう……美味しそうですね」

 ついでのようにブル○ーニュ産のワインをサーブして、CAは次の席に向かっていった。

「マジで美味い。気合い入ってるなぁ」

 私は体が自動的に動き、私は丁寧な動きで食事を楽しんだ。

「ワインも気合い味がする。ブルゴ○ニュのアンダラスシャトーか。いいね」

 私は笑みを浮かべた。

「あっ、いけね。大変おいしゅうございまうわ……うげ」

 ……だから、城は嫌いだった。

 私は苦笑した。

  飛行機は二時間半の飛行を終え、無事にファン国際空港に着陸した。

「さてと……」

 私は飛行機から降り、カーゴルームから下ろされたコンテナを開けると、中で寂しそうにアメリアが煎餅を囓っていた。

「あれ、そんなところにいたの?」

 私は笑った

「王都にいってみたかったんだよ。飛行機が出るみたいだから、ピンときて紛れ込んだんだ」

 アメリアは笑った。

 先に下りていたガタイのいい侍女の一人が開けてくれた地下へと続くエスカレータが作動している事を確認した。

「また無茶を。ここから先は、しばらく私は王族に切り替わるからね」

 念を押してから、私は小さく息を吐いた。

「はい、みなさま。こちらです……おげ」

 飛行機から降りてきた三人を呼び、私たちはエスカレータに乗った。

 エスカレータは地下に進んでいき、そのまま動く歩道になり、十五分で城の地下からエントランスに到着した。

 すでに向かい入れ体勢を整えていたようで。抜剣して掲げた騎士たちの間を通って、私たちは階上の謁見の間を……目指すフリをして、手前の通路を曲がってさらに城の奥に向かっていった。

細く入り組んだ通路を三人で歩き、年季の入った扉を蹴破った。

「おい、ジジイ。来てやったぞ!!」

 私は笑った。

 中には立派な服をきたジジイこと父王が、正装をして立っていた。

「よく帰った。しかし、その足癖の悪さは、なんとかならんもんかの」

 父王は笑って、私に手招きした。

 それから、場違いに立派な椅子に座り、私はその前に傅いた。

「ワシは多くは語らん。汝を国王と認め、その務め、重責に堪える事をここに誓うか?」

「はい、誓います」

「うむ、ならばいい。これを汝に託す。国王の務めを果たせ」

 控えていた侍女が王冠を父王に渡し、それを私の頭に乗せた。

「戴冠の義は以上だ。もし、マリーに何かあったら、次はアメリアだぞ」

 父王が笑った。

「ぎゃあああ!?」

 アメリアがひっくり返った。

「冗談じゃ。さて、戴冠式はこれで終わりじゃ。本当はもっと派手にやりたがな。次は謁見の間じゃ。アメリアとスコーン、アイリーンといったな。堅苦しい挨拶は抜きじゃ。大臣たちや民が待っている」

 父王が笑みを浮かべると、慣れた動きでアメリアと犬姉が最敬礼をし、スコーンが困っていた。

「スコーン、跪けばいいから。タイミングはアメリアとアイリーンに合わせて」

「こ、こう?」

 スコーンが慣れない調子で跪いた。

「うん、形は大丈夫。心配しないで」

 私は笑みを浮かべ、父王の後に付いていった。

 いくつかの隠し扉を通り、私たちは謁見の間の最上段に出た。

 私が玉座に座ると、左右に分かれてアメリアとアイリーンが傅き、困っていた様子のスコーンをアメリアが自分の横に並んだ。

 父親が長話をはじめたが、私は右から左に抜けていた。

 こういうのは定型文なので、聞く必要はなかった。

「ここに、マリー・トレントを国王と認めるか?」

 私は一つ息を吐いた。

 玉座から立ち上がると、割れんばかりの拍手が起こり、国王を示す金の錫杖を父親から受け取り、息を大きく吸った。

「この地に永遠の幸あれ!!」

 会場から再び大きな拍手が起こり、まともにやったら三日掛かる戴冠式は終わった。


 全員が会場から退席し、私たちだけになると、私は立ち上がって大きく伸びをした。

「みんな、もういいよ」

 私が声をかけると、三人が息を吐いて立ち上がった。

「慣れてはいますが、緊張しますね」

 アメリアが笑った。

「久々だよ。これでも、王族だからね」

 犬姉が笑った。

「慣れない事やった……ビスコッティに報告しなきゃ」

 スコーンは苦笑した。

「さて、用事はこれだけだから。島に戻ろうか。遅くなると、みんなに心配かけちゃうから」

 私は笑みを浮かべた。

「そっか。城下町の様子を見たかったけど、確かに遅くなったら困るか」

 アメリアが笑った。

「はぁ、王族どころか女王だもんね。これからどう接したものか……」

 犬姉が苦笑した。

「いつも通りだと嬉しいね。別に偉いわけじゃないから」

 私は笑った。

「私は関係なく接するよ。旅仲間だもんね!!」

 スコーンが笑った。

「うん、そうしてくれると嬉しいよ。半ば、覚悟を決めて同行してもらったから」

 私は笑みを浮かべた。

「さて、帰ろう。ビスコッティにぶち殺されるから」

 私は笑った。


 帰りの機内。水平飛行に入った飛行機でノートパソコンを開いていると、飛行機に設置してある強力な無線電話からメッセージが届いた。

 例によって、暗号化された文面を復号すると、私はため息を吐いた。

 それは、濡れ仕事。つまり、暗殺の指示だった。

 国王の権限で、私の宰相に収まった私の父に差し戻して、再考を促す事も出来たが、いうことを聞かない上に、すぐに本拠地を変えてしまう暗殺組織は、国家の敵ともいえた。

「……やるしかないか」

 私は便せんを取りだし、サラサラと命令書を書いてサインをして画判を押した。

 この命令。すなわち、今書いたものは、犬姉の家を攻撃するものだった。

 それを黒い封筒に入れ息を吐いた時、滅多に見ない犬姉のお洒落姿を見て、私は苦笑した。

「なにそれ、黒い封筒って事は、ヤバいヤツ?」

 犬姉が笑った。

「まあ、ヤバいんだけど、これはビスコッティ宛だよ。犬姉にはちょっと渡せないな」

 私は苦笑した。

「こら、そんな事いわれたら余計に気になるでしょ。ちょっと貸して!!」

 犬姉が閉じたばかりの封筒を開けると、黙って読み始めた。

「……仕事か。なら遠慮はいらないよ。ビスコッティ一人じゃ、絶対と断言するけど不可能だから」

 犬姉は笑って黒い封筒を持って、自分の席に戻っていった。

「時には非情にか……。気が重いけど、公務に個人的な感情は不要。時にはね」

 私は苦笑して、もう一枚便せんを取り、ビスコッティ宛に命令書を書いて封をした。

「はぁ、いきなりこの仕事はキツいね」

 私は苦笑した。

 飛行機は私の憂いを乗せ、スコーンの島に向かって飛んでいった。


 私たちを乗せた飛行機が島に到着しタラップを下りると、ビスコッティが苦笑して迎えにきていた。

「なんですか、その服装は。師匠も女の子っぽくなりましたね」

「う、うるさいな」

 スコーンがタラップを下り、私たちも下りていった。

 すれ違いざまに、ビスコッティに黒い封筒を渡し、ビスコッティは手早くそれを鞄にしまった。

「師匠までどうしたんですか?」

「マリーの戴冠式やってきた!!」

 スコーンが笑った。

「そうですか。そういう時は。私も誘って下さい」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「なにかと忙しくてね。なにかあったら、その時は呼ぶよ」

 私は笑った。


 空港からバスに乗り家に入ると、みんながそれぞれの時間を過ごしていた。

 私が物陰で私が渡した封筒の中の便せんを読んで、ビスコッティが硬直した。

「あの、これって……」

「気が進まないけど、議会の承認を得た正規の命令だからね。嫌なら外れてくれていいよ。犬姉はもう受けてる」

 私は苦笑した。

「そうですか……。分かりました。犬姉と相談して日時を決めます」

「複雑なのはよく分かるつもりだよ。怪我しないように」

 小さく息を吐いたビスコッティの肩を叩き、私はインスタントコーヒーをカップに解いて手渡した。

「はい、表に出ない仕事には慣れています。ただ、今回はターゲットが意外だったので、ビックリしただけです」

 ビスコッティは笑みを浮かべた。

「ならいいけど。ちゃんと報酬もでるよ。三十万クローネ。取り分は、私からはなにもいわないよ」

「分かりました。極秘と書かれているので、師匠には話せませんね」

 ビスコッティが苦笑した。

「機密じゃなくても、話した方がいいと思うけどね」

 私は笑った。

「みんな、手紙書いたから読んで!!」

 私は束にした白に金縁の封筒をみんなに手渡した・


『前略。私はこの国の国王となりました。ですが、とは呼ばないですださい。あくまでも、旅人そのでお願いします。実際に国を動かしているのは父王なので、私は名ばかり国王です。しかし、皆様には恐縮ですが、お力を添えて頂く事があるやもしれません。では、マリーより』


 そんな感じの文面で、私は全員に手紙を配った。

「私は知ってるど、大丈夫だと思うよ」

 アメリアが笑った・

「まあ、今さらですね」

 マルシルが笑みを浮かべた。

「というわけでよろしく!!」

 私は笑った。

 部屋の中にアナザースカイという曲が流れ、なぜかCAさんたちがお茶の支度をして、お手伝いに回っていた。

「……暇なのかな」

 私は苦笑して、近くのソファに座った。

「あの、出がらしのお茶と食べかけのお菓子しかないのですが……」

 CAさんの一人が申し訳なさそうにいった。

「それでいいよ。手は掛けさせないから」

 私は笑った。

 薄い色の紅茶と誰かが食い散らかした器を見て、私は黙って紅茶を一口飲み、砂糖とミルクを少量足した。

「これはこれでいいね。誰が食い散らかしたんだか……」

 私は半分に囓られたマカロンに手をつけ、順番が逆なのを承知でお菓子を食べた。

 チーフパーサがすぐにすっ飛んできて、深く頭を下げた・

「私どもが至らぬもので、大変申し訳ありません」

「いいって、サービスに文句はつけないよ」

 私は笑った。

「あの代替えといってはなんですが、梅昆布茶と煎餅をよろしければ……」

「それじゃ、梅昆布茶だけでいいよ。あんまり食欲ないし」

 私は笑みを浮かべた。

「畏まりました。すぐにお持ちします」

 チーフパーサーがすっ飛んでき息、キッチン立つとなぜか料理をはじめた。

「あれ、お茶が飯に変わっちゃった」

 私は笑った。

 時計をみると、なんだかんだで夕食の時間が迫っていた。

「こりゃちょうどよかったね」

 私はノートパソコンを開き、衛星電話を接続して帰着の連絡を入れた。

 すると、すぐに返信がきて、私は小さく息を吐いた。

「……こりゃ、スコーンとマルシルで大丈夫だね」

 私は赤い封筒に命令書を二人分用意して、スコーンとマルシルに手渡した。

「なに、大した依頼じゃないよ」

 私は笑みを浮かべた。

「……ぎゃあ!?」

「わ、私がですか!?」

 スコーンとマルシルが声を上げた。

「うん、魔法研究所をぶっ壊すには十分でしょ。下ごしらえはしてあるから、遠くから攻撃魔法でボコボコにすればいいよ。時間だけは間違わないでね。もうすぐ飛行機がくるから」

 私は二人分の航空料金を渡した。

「成功報酬で十万クローネね。よろしく」

 私は笑みを浮かべた。

「うん、分かった。やってみる」

 スコーンが笑った。

「あ、あの、私はなにをすれば……」

 マルシルが戸惑い気味に聞いてきた。

「スコーンの手助けかな。まあ、現地で話し合って決めて。状況が分からないから」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、分かりました。やってみます」

 マルシルが笑みを浮かべた。

「さて、ゆっくりしているところ悪いけど、私は夕食を取ったらすぐに休むよ。疲れちゃってね」

 私は苦笑したのだった。

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