第24話 鉄路ら空路へ

 どうやら、全線で遅れが生じていたようで、取り残されたような形になった私たちの列車が出発したのは、夕方になってからだった。

 食堂車で早めの夕食を済ませた私たちは、各自それぞれの時間を過ごしていた。

 話していなかったが、私たちが乗っているのは機関車のすぐ後ろに連結された展望車、みんなが乗っている特別仕様車は四両編成で、定員四名の個室が並び後に続く三等車二両は警備の要員、最後尾には私たちの馬を乗せた馬匹運搬車が連結されていた。

 長い時間の停車のあと、私たちを乗せた列車はゆっくり走りはじめた。

「はぁ、やっとか」

 私は苦笑した。

 向かいのベッドに座っていたシルフィに寄りかかるように眠っていたスコーンが、起きて大きなあくびをした。

「あれ、寝ちゃってた……」

「うん、よく寝てたよ」

 私は笑った。

「かなり待たされたからだよ。お腹空いた」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「そうだね、おやつなら食堂車にあると思うよ。いってきたら?」

 私が笑みを浮かべると、シルフィとスコーンが部屋を出ていった。

「さて、私はどうするかな。基本的に運転停車以外にホームには降りられないし」

 私は苦笑した。

 列車は淡々進み、夜闇の中を平地に向かってゆっくり下っていった。

「マリーさん、ここにいたんですね」

 アメリアが笑顔で部屋に入ってきた。

「うん、やる事もないしね。なにか、面白い事でもあった?」

「いえ、暇つぶしにウロウロしているだけです。みんな、それぞれ楽しんでいる様子です」

 アメリアが笑みを浮かべた。

 その傍らで通路を高笑いを上げながら突っ走っていたリナが、出力を抑えた様子の攻撃魔法をバカスカ撃ちながら、食堂車の方に向かっていった。

「おいおい、ぶっ壊すなよ」

 私は笑った。

「パステルとラパトは部屋の中で、マップの整理をしていました。マルシルは、別の部屋で休んでいます」

 アメリアが笑みを浮かべ、部屋から出ていった。

「そっか、みんなそれぞれ楽しんでるか。私は少し寝よう」

 私はベッドに横になり、そっと目を閉じた。


 目を覚ますと時刻は完全に夜になり、食堂車の方から楽しそうなみんなの声が聞こえた。

「厳格には決めてないけど、一応お酒の解禁は夜からだからね」

 私は小さく笑って、ベッドから立ち上がると、通路を通って食堂車に向かった。

 食堂車内では、みんな楽しくお酒を飲んでいて、私はその輪に加わった。

「どうぞ」

 私に葡萄酒を注いだグラスを差し出し、アメリアが笑みを浮かべた。

「ありがとう」

 私は笑顔で受け取り、程よく冷えた葡萄酒を飲んだ。

 宴会という程ではないが、お酒も進み、楽しい時間が過ぎていった。

「ねぇ、本当に帰るだけ?」

 スコーンが私に問いかけてきた。

「うん、他に用事もないしね。どこか行くなら、馬の方がいいでしょ?」

 私は笑みを浮かべた。

「そっか、分かった。じゃあ、飲んでも平気だね。我慢していたんだよ!!」

 スコーンは酒瓶の栓を開け、勢いよく飲みはじめた。

「まあ、長距離列車の楽しみは、飲むか食べるかだからね。酒代は国持ちだし、遠慮なく飲もうか」

 私は笑みを浮かべ、お酒を飲みはじめた。

 適当なところで中座して、私は誰もいないロビー車に移動した。

 自販機でチェイサーのミネラルウォータを買い、ソファに座って夜景を眺めながら飲んでいると、シルフィとスコーンがやってきた。

「ここにいましたか、私たちは少し疲れてしまったので休憩です」

 シルフィが笑みを浮かべ、スコーンがミネラルウォータのペットボトルを二本買って、一本をシルフィに渡し、違うソファに腰掛けて、なにやら医術的な話をはじめた。

 私はミネラルウォータを飲み干し、しばらく座って休んだ後、宴もたけなわの食堂車を抜け、自分が使っている部屋に戻った。

 空間ポケットから黒いアタッシュケースを取りだし、中の資料に目を通しはじめると、様々な書類にサインをはじめた。

 それが終わった頃、アメリアが部屋に様子を見にきた。

「あの、同室でいいですか。眠くて……」

「うん、いいよ。狭いけど向かいの下段ベッドを使って」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、ありがとうございます」

 アメリアは私が座っている向かいの下段ベッドに横になり、しばらく経つと静かな寝息が聞こえてきた。

「さて、私も寝るかな。どうにも疲れた」

 一人呟き、私はベッドに横になった。


 二日の列車旅を終えコルポジ駅に到着すると、駅の警備員が一人きて、手紙を手渡してきた。

「あれ、これまずい。ドラゴニアなんて書いちゃって、ドラゴニアンの間違いだったよ。書類直さなきゃ」

 私は手にしていた黒いアタッシュケースを開き、ホームのベンチに乗せて島の所有権を示す書類を取りだし全文修正を終え、私の画判を押した。

「やれやれ……」

 列車の車両から黒服をきた人が三人降りてきて、私のアタッシュケースを受け取り、そのまま王城方面に向かう空の列車に乗り込んだ。

 あとの護衛の皆さんはホームに残り、列車は王都方面に回送されていった。

 私は衛星電話を取りだし、最高出力に変えて国王に暗号電文を送った。

「これでよし。全く、私もおかしかったな。目の色が違うんだよ。ドラゴニアとドラゴニアンは。これで全軍が動くね。クソ共の処理に」

 私は笑みを浮かべた。

「マリー、どうしたの?」

 スコーンがシルフィと共にやってきた。

「うん、シルフィ。アレお願い」

「はい、なにかやりましたね。分かっています」

 シルフィが呪文を唱え、私の体が一瞬光った。

「はい、御霊切り終わりました。これで大丈夫です」

 シルフィが笑みを浮かべた。

「シルフィ、御霊切りって?」

 スコーンがシルフィに聞いた。

「それはいえません。厄除けとでも思って下さい」

 シルフィが笑みを浮かべた。

「おーい、次どうするの?」

 アメリアが回転だけしてやる気だけはありそうな、なにか光るオーブを手にして叫んだ。

「なにそのオーブ?」

 私は笑った。

「うん、回るだけ。意味深でいいでしょ!!」

「なにそれ、研究しる!!」

 スコーンがアメリアからオーブを奪おうとして、感電したように体を飛び跳ねさせ、そのまま軽く跳んだ。

「……ナイス。痺れた」

 ホーム倒れた黒焦げスコーンがニッと笑みを浮かべ、親指を立てて立ち上がった。

「ダメですよ、私以外が触ると感電しますから。たまに出さないと日焼けしてしまうので、空間ポケットから出しただけなのですが……」

 アメリアがどんどん高回転になっていくオーブを、空間ポケットにしまった。

「はい。大丈夫ですか!!」

「ダメですよ、好奇心は程々に」

 パステルとラパトが笑い、マンドラが大版の時刻表本を開いて、なにかメモしていた。

「だから、その服はやめなさい!!」

「……あら、目立つかしら?」

 リナがやたら露出度が高い服を着ていたナーガに、一発蹴りを入れた。

「アメリア、まだ雨期が終わらないから、また島にでも行こうかと思ってるんだけど、なにかいいアイディアある?」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、まだ小雨ですが雨が降っていますからね。足が滑ってしまうので、馬での旅は無理ですね。島に行くのは大歓迎です」

 アメリアが笑った。

「よし、フリージア島が一個余っちゃったから、勝手に所有権を決めちゃった。じゃないと、国際的に色々まずい。ゴメンね」

 私はシルフィとナーガ、リナに島の所有権を示す書類を手渡した。

「あとは、マルシルと一緒になっちゃうけど、アメリアも勝手に決めちゃった。法的にまずいから許してね」

 私はアメリアに書類を手渡した。

「はぁ、島ですか。マルシルさん、よろしくお願いします」

 アメリアが笑顔になった。

「はい、正直一人では寂しかったので」

 マルシルが笑みを浮かべた。

「それじゃ、いこうか。王家専用機がスタンバイしているはずだよ」

 私は笑みを浮かべた。

 私たちは駅から出て、土砂降りになった雨の中、空港行きのバスに乗り込んだ。

 バスが動きはじめ、約一時間の道のりで、今まで気が付かなかった古い建物を車窓で確認し、ラパトが素早くノートにメモを走らせるのが見えた。

「ん、なんだあれ?」

「ぼ、冒険です!!」

 マルシルが目を輝かせ、パステルの顔に拳をめり込ませた。

「イテテ……セリフ取られた」

 パステルが苦笑した。


 バスが空港のゲートを通り、運転席からグランドコントロールの声が聞こえはじめ、駐機場に居並ぶ747-400の背後を抜けて、薄桜色に白玉ベースに、機首部分がイルカに象られたステッカーが貼られ、後部に椰子の木が二本並んで立っている赤いペイントがあり、垂直尾翼にフィン王家の国章が描かれ、一号機と黒文字で書かれた747-400が威風堂々と大雨の中、その姿を示していた。

「……しゅ……研究しる!!」

 スコーンがデジカメを取りだし撮影を始めたが、雨に濡れてすぐぶっ壊れたようで、思い切り私に向かってぶん投げてきたので、それを受け止めて近くにいたマルシルの首にデジカメのストラップをかけ、私は修理をはじめた。

「これだから、防水加工されてないモデルは……」

 私は方手で別のデジカメをスコーンに投げ、スコーンがそれを受け止めると、時々フラッシュ光が弾けた。

「えっと、これをスラッシャーで切るとどうかな……」

 私は小脇に抱えていたスラッシャーの刃を一つ切り落とし、レンズを外した先にあるレフ板を捏ねくった。

 バリッと割れたミラーを取り除き、奥にあるCMOSセンサを外して、研究を始めた。

「シャッター切ったら、二十五ミリとか発車出来ないかな……。レンズを割らずに」

 私は呪文を唱え、レンズを元通り装着すると、ちょうど着陸態勢に入っていた727-200に向けてシャッターを切った。

 レンズからド派手な光線が発射され、胴体中央を貫いたように見せかけ、そのまま光りはどこかに向かって飛んでいった。

「たまにはマクガイバーしないとね。さて、スコーン。まだ見る?」

「うん、このジェットエンジンのブレードの数を数えてるの。手伝って!!」

 スコーンが地面から見える部分だけのブレードの数を、カウンターでカチカチやりながら数えていた。

「ダメです。皆さん濡れてしまいますよ」

 シルフィーがスコーンを俵のように担ぎ、それでもカチカチやっているスコーンを抱えて、私にお姫様抱っこさせた。

「こら!!」

 私は苦笑して、スコーンを地面に立たせた。

 727が第三エンジンから黒い煙を上げながら駐機場に入ってきて、ここから遠くに止まると、タラップ車が横付けし、ホットパンツにTシャツを着て、サングラスを掛けてハンバーガーとシェイクを飲みながら、犬姉とビスコッティが降りてきた。

「あれ、どこ行ってたのかな」

 スコーンが笑った。

「これで、全員が揃いましたね」

 一生懸命、ホットパンツを履こうとしているマルシルが、杖で私の頭をぶん殴って笑った。

「ビスコッティにはGPS発信器を仕込んでおいたんだけど、犬姉は隙がありそうでなくてね。くるのは分かっていたけど、これで揃ったか」

 727に消防車が殺到し、辺りが大騒ぎになる中、私は笑った。

 727が爆発炎上し、リナがドラグスレイブで一気に破片を消滅さて、清掃車が残骸を処理をはじめた。

 しまいには10式戦車の大軍が現れ、なんとか砲兵隊のマーチを流しながら、瓦礫掃除をしている現場の脇を通り抜け、後部ハッチを開けたC-5Mに向かって進んでいった。

「そっか、出番がない戦車は帰国か。ギリースーツの方が似合う!!」

 私は笑った。

 次いで衛星電話を取りだし、着信していた文字情報をみた。

『これでいいじゃろ。グッドラック』

「あのジジイ」

 私は笑った。

『フィン王国国王』となった私は、勝手に決めるなこの野郎と思いながら、マンドラのケツを蹴飛ばした。

「いて……。なんですか!!」

 マンドラは空間ポケットからマンドラゴラを取りだし、私の口にねじ込んだ。

「……苦い」

 私は口の中のマンドラゴラを咀嚼して、一気に飲み込んだ。

「……うげ、腹が」

 私はその場にうずくまった。

「ダメだよ。生食いしちゃ!!」

 スコーンが慌ててメスを取り出した。

「ああ、間違えた。えっと、アレでもないこれでもない」

「師匠、これ」

 ホットパンツにヒョウ柄のTシャツを着たビスコッティが、サングラスを取って薬瓶をスコーンに手渡した。

「ああ、これこれ。解毒剤!!」

 スコーンが私に薬瓶を手渡し、私は強烈に苦いそれを飲み干した。

「このままバラバラにして、天日干しするといい薬になったのに」

 マルシルが笑った。

「ダメだよ。乾燥機じゃないと」

 スコーンが笑った。

「あー、治った。ありがと」

 私は立ち上がり、思い切り苦笑した。

「さて、揃った事だし、さっそく飛行機に乗ろうか。こんな雨ばかりじゃ、カビちゃうよ」

 私は笑った。


 小さなターミナルビルの更衣室で濡れた服を着替え、私たちはボーディングブリッジを渡って、真新しい匂いがする機内に入った。

 飛行機としてはかなり広い空間にはファーストクラス用のシートが並び、『国王用』と書かれた席にはノートパソコンが据え付けられ、なにかをダウンロードしているプログレスバーが表示されていて、さらに黒いアタッシュケースが三つ置いてあった。

「みんな、好きに使っていいけど、CAさんの指示には従ってね。チーフ、例のあれよろしく」

 私は笑みを浮かべ、自分の席についた。

「ん、島が割れた!? なんじゃそりゃ」

 データのダウンロードが終わり、航空偵察画像を見ると、パンジー島が小さく四分割されていて、私はあんぐり口を開けた。

「……マジかよ」

 私はため息を吐いた。

 島が割れた中心部には巨大な光り輝くものが映っていて、偵察衛星からの情報で組成式がガーネットだと示していた。

「こりゃお宝だね。一個の島みたいに見えるよ」

 私は衛星電話を取りだし、故意にしている『R』に文字情報を送った。

「これ、取り除いてもらわないと、予期しない火種になっちゃうよ。速攻って追伸しておこうか」

 私は国王としての初仕事? を終えアタッシュケースを開いた。

「……あのジジイ。整理くらいしておけよ」

 私は手当たり次第という感じで、変な書類が満載されたアタッシュケースを黙って閉じた。

 機内ではお酒のサーブがはじまり、肉じゃがの香りが漂ってきた。

「うん、肉じゃがも久々だな。これ、好物なんだよね」

 私は笑みを浮かべ、エディタを立ち上げて小説を書きはじめた。

「おーい」

 スコーンがやってきて、瓶ビールとグラスをテーブルに置いて、自分の席に戻っていった。

 ビスコッティがお酒に拘る声が聞こえ、リナとナーガが攻撃魔法について熱く論じる声が聞こえた。

 お酒のワゴンサービスが終わったようで、ベルト着用サインが二度点滅した。

「……さて」

 私はそっとウィンドウを開き、みんなのGPSトレーサーが正常に機能している事を確認し、特にパステルとラパトには三重重ねで作動している事を念入りに確認した。

「冒険は危険を伴うからね。これでも、迷宮とか洞窟に入っちゃうと使えないんだけど、これしかない。あとは犬姉にどうやって仕込むか」

 私はニヤッとした。

 私はノートパソコンの別ウィンドウを開き、『黒い封筒』と書いて、その筋の人に依頼分を書いた。

 えっと、『GPSトレーサー、13型トラクタに装着よろ』っと」

 ノートパソコンに装着した無線機経由で電文を送り、私はそっとノートパソコンの画面を閉じ、空間ポケットに放り込んだ。

 しばらくして、パスッとどこからか音が聞こえ、犬姉の『いてっ!!』 という声が聞こえた。

「……ミッションオーバー。さすがに逃さないね」

 私はニヤッと笑みを浮かべた。


『機長だ。フライトは大荒れの予想。以上』

 機内に機長の声が流れ、飛行機がトーイングされて駐機場を離れた。

 エンジンが始動する心地よい音が聞こえ、巨体がゆっくり動き始めた。

 全方位を映している外部カメラの画像を見ていると、トリトンブルーに塗装された747-400が堂々と水しぶきを上げながら、滑走路に着陸していった。

『ニャー!!!!』

 いきなり機内放送で、なんか聞こえた。

「ん、踏んだ」

 私は苦笑して、背もたれに身を預けた。

 長いタキシングを終え、飛行機は滑走路の手前で止まり、また降りてきたトリトンブルーに塗装された747-400が通り過ぎていった。

 しばらくして、飛行機は滑走路に入り、一度停止してから、気合いの全出力噴射で凄まじい勢いで加速していった。

 なかなか離陸しないな……と思っていたら、機体が浮き上がりそのまま高空目指して上昇を開始した。

 急旋回の後、ガコンと大きな音がして降着脚が格納された事が分かった。

「さて……何時間だった忘れたけど、しばしお酒でも飲むか」

 私は空間ポケットから『料理酒』とラベルを貼り替えた、取っておきのお酒をチビチビ飲みながら、小さく笑みを浮かべた。

「さて、どうしてか分からないけど、パンジー島が四つに分裂しちゃったって事は、事実上、無人島が三島増えたって事だよね。どれもそれなりに大きいからなぁ」

 私は衛星写真を見ながら、小さく息を吐いた。

「まいったね。それぞれの島に所有者が欲しいけど、マルシルが承諾するか……」

 私はノートパソコンを開き、建設部がマルシルの家を建てた一島を除外して、残り三島の割り振りを考えた。

 エディタを立ち上げ、島に仮名をつけてから考えた割り振りを打ち込んでいった。   「島の名前は仮につけておこう。これがないと、話にならないから」

 私は無作為にサルビア・アマリリス・シバザクラと仮名をつけ、もともとの所有者であるパンジー島の残りは、そのままマルシルとした。

「さて、これで納得してくれるかな……」

 私はノートパソコンを操作し、足下の小さなプリンタから書類を印刷しはじめた。

 一島ずつ私なりに丁寧に印刷した書類をクリアファイルに分けて挟み、飛行機が水平飛行に入るのを待った。

 しばらくしてベルト着用サインが消灯し、私は広い機内を歩き回って、新しくできた島の所有権を示す書類を持って説明に歩き回った。

 ジャンボ機の異名を誇るだけあってなかなかの広さだったが、島の件はあっさり話が進み、全員分の書類を整えて席に戻った。

 あとは事務作業で諸手続を済ませ、飛行機に備え付けの衛星電話で、本国で暇をこいてるジジイに連絡し、私は背もたれに身を預けた。

「さて、あとは……」

 私はノートパソコンのキーを叩き、ちょっと気になっていた事を調べた。

「『中央情報局』のデータベースはこれか。今までの王女じゃ入る権限がなかったけど、ちゃんとセキュリティレベル最高のLV6にもアクセス出来るようになっているね……」

 私はキーを叩き、ブルードラゴンの洞窟を出たところで、檻に入れられて連れていかれた『シャドウラ』の足跡を出来る限り追った。

「……厳しい掟があるからね。『里からの無断外出』は、例外なく極刑って聞いてるけど、どうだか」

 中央情報局のエージェントが追った情報によると、案の定里に連れていかれたシャドウラは、即時処刑されていた事が分かった。

 しかも、埋葬も許されない磔刑で、里の中央広場に朽ちて落ちるまで放置するという、私が知る限り最高の刑罰が課せられたようだった。

「……はあ、止めるべきだったかな。まあ、止めても無駄だったろうけど

 私は苦笑した。

「どうしましたか?」

 ビスコッティが笑みを浮かべながら、私の席にやってきた。

「仕事だよ。勝手に自分は退いて、私を国王になんかされたから、片付けなきゃならない案件が多くて。せめて、飛行機に乗っている間に、出来る事だけはやっておかないと」

 私は笑った。

「そうですか。国家機密が多そうなのでお手伝い出来ませんが、これを……」

 ビスコッティがエナジードリンクの缶をテーブルの上において、自分の席に戻っていった。

「こりゃ助かる。さて……」

 私は差し入れのエナジードリンクを飲みながら、急ぎの案件を処理していった。

 一息吐いてノートパソコンを閉じて鞄にしまった時、CAさんがワゴンを押して食事を運んできてくれた。

 一応、通常のファーストクラスの扱いらしく、肉料理か魚料理かを聞かれ、私は魚料理をチョイスした。

 テーブルに置かれた料理を食べていると、機長から到着まであと約二時間というアナウンスが流れた。

「あと二時間か。こりゃ早くていいや」

 私は笑った。


 飛行機が島に近づくと急に揺れはじめ、改めてまだ雨期の最中なんだなと思った。

 ベルト着用サインが点灯したままになり、王家専用機は大雨の中に突入し、時々大きく揺れながら、スコーンの島の滑走路目指して降下している事をモニターで確認しながら、私は小さく息を吐いた。

 飛行機はそのまま滑走路に着陸し、長い距離を走って新造されたばかりの、海上に飛び出た部分まで滑走して止まった。

 平行誘導路を通り、飛行機は大雨の中小さなターミナルビルの駐機場に到着し、ボーディングブリッジが乗降口に繋がった。

「あれ、なんか空港が立派になってる!!」

 スコーンが声を上げた。

「うん、まだ準備中だけど民間会社が目をつけてね。直に空路で王都と結ばれるようになるよ」

 私は笑みを浮かべた。

「そうなんだ。嬉しいような悲しいような……」

 スコーンが複雑な笑みを浮かべた。

「まあ、いいじゃん。大雨だから、どこにも行きたくないでしょ。家にいこう」

 私は笑った。


 ターミナルビルからバスに乗って、私の家はすぐそこだった。

 家の中に入り、それぞれがベッドに荷物を置いて一息吐いていると、家のぐるりに設置してある防犯センサーがアラームを立てた。

「あれ、お客さんか……」

 私がビスコッティと犬姉に視線を送ると、二人は黙って家を出ていった。

 マルシルがビーチボールを無数に膨らましはじめ、キキが風船に窒素ガスをいれて、サッカーボレールを膨らませていた。

「おーい、なにに使うの?」

 私が笑うと、マルシルが笑みを浮かべた。

「はい、『ジャンパンチングビーチボールゲートアウェイディッシュボールズ』の準備です。エルフの間では大流行のスポーツなんですよ」

 マルシルが笑みを浮かべた。

「……なんじゃそりゃ。まあ、楽しそうだね」

 私は笑った。

 外から銃声が聞こえ、私はシルフィとパステルに視線を送った。

「追って!!」

「はい、分かりました!!」

「いってきます」

 シルフィたちが家から出ていくと、私はテーブルの椅子に腰を掛けて、ノートパソコンを開いた。

 島にこっそり作ってある中継所を経由して、私は衛星電話で本国のサーバに接続し、大洋を挟んだ大洋の向こうにある、アデン王国の国防局にハッキングして、衛星を拝借して島の上空に向けて偵察を開始した。

 赤外線センサと合成開口レーダーの情報により島の全土を確認し、海軍司令部に向かって命令を下し、周辺海域の海賊狩りを開始した。

「この大嵐にご苦労なこった。あとは……」

 私は回線を切って、フィン王国海兵隊のコマンダーに海賊狩りのサポートを命令した。

「よし、これで問題ないね。さらに……」

 私は空軍と陸軍に命じて、海兵隊が演習しているカロウジカ島への全軍集結を命令し、コマンダーに統合演習を命令した。

「さて、文字通り嵐の演習だぞ。役立たずどもを鍛えないと……」

 私はニヤッと笑みを浮かべた。

「はぁ、終わった。誰か、お酒欲しい」

 つぶやきながら、私は椅子から立ち上がって、自分で保冷庫を開けた。

「……うーん、気分は九八年だな。カラスミもあるし」

 私はボトルを取りだして、保冷庫の扉に鍵をかけ、二十桁の数字を素因数分解し、さらに積分して溜まりまくった数字を叩き込んでロックした。

「私だけのお宝といえば、これくらいだからね」

 私はシンクの上に逆さまにぶら下がっているワイングラスをとり、冷蔵庫を覗いた

「……あれ、鯖の味噌煮しかないや。カラスミの空瓶しかないな。捨ててよ。もう」

 私は鯖の味噌煮の缶詰を取りだし、空瓶を片手でゴミ箱に放り込んだ。

「……ん、『カラスミは俺様が頂いたぜ~』って、いない間に誰か侵入したな。でも、鍵は掛けない主義!!」

 私は笑ってテーブルに戻り、九十八年物の瓶の栓を開けると、スコーンがすっ飛んできた。

 キッチンでグラスを取って持ってきたスコーンに、私は笑ってそのグラスに注いだ。

「飲み過ぎないでよ!!」

「うん、スケッチする!!」

 スコーンがスケッチブックを取りだし、近くの椅子に座ってお酒が注がれたグラスを写実的に描きはじめた。

「そんなのスケッチしてどうするの?」

「うん、マルシルに上げる。ビスコッティには内緒!!」

 スコーンが笑って、スケッチを終えたお酒を飲みはじめた。

『おーい、逃げたよ』

 無線に犬姉の声が聞こえた。

「ありがと。早く帰ってきて。お酒がなくなっちゃうよ」

『お酒!?』

 ビスコッティの声が聞こえ、GPSトレーサーの反応が異常に早くなった。

 途中で担がれたか、ドットが一つになり、もの凄い速度で家まで帰ってくると、玄関の声が蹴破られて、俵のように犬姉を抱えてきたビスコッティが、肩で息をしながら犬姉をドカン!! と椅子に座らせてエナジードリンクを渡し、グラスを二つ持って私の元にやってきた。

「お疲れさん!!」

 私は小さく笑みを浮かべ、グラスにお酒を注いだ。

 ビスコッティはグラスを持って、椅子でぼけぇっとしていた犬姉にグラスを手渡した。

「……美味い」

 犬姉は背筋を伸ばし、エナジードリンクの缶のプルトップを開けて一気飲みし、私の場所に駆け寄ってくると隣に座った。

「なに、おかわり?」

 私は犬姉のグラスにお酒を注ぎ、ブルーレイディスクに焼いた情報を黒封筒に収め、テーブル下でそっと犬姉に手渡した。

「うん、ありがと」

 犬姉は黒封筒をさりげなくポケットに入れ、ビスコッティの脇に座った。

「さて、まだあるな。この邪魔っ気なやつ……」

 私は中央情報センタにログインし、スコーンに付いていた『主任研究員』の肩書きを外し『王宮魔法使い主席』と書き換え、正式な辞令として魔法省に発布した。

 ビスコッティと犬姉がそれとなく拳銃を抜き、私が姿勢を正すと二人とも発砲して、私の両耳の耳飾りが吹き飛んだ。

「これ邪魔だったんだよね。これで、命令一はクリア。あとは気が向いた時でいいから」

 私は小さく笑みを浮かべた。

「……な、なんか。しゅごい」

 髪の毛を一生懸命弄り、おでこを出そうと頑張っていたスコーンが目を丸くした。

『救援要請。パステル被弾、回収を』

 無線に飛び込んできたシルフィの声に、私はナーガを連れて外に飛びでた。

 森の小道を進み……いきなり森の中で迷った。

「……無念」

 私はその場に座り込んだ。

「はい、私じゃなくて、ラパトさんの出番だったかと」

 ナーガが困った顔をした。

 しばらくして、どうもこっそりついてきていた様子のラパトが姿を表し、防水シートに包んだマップを手にした。

「場所はどこですか?」

「……あっ、聞いてなかった」

 私は頭を掻き、無線機を手に取った。

「おーい、パステルどこ?」

 私は無線で呼びかけたが、応答はなかった。

「あれ、どうしたのかな。シルフィ、パステルの場所は!!」

『分かりません。私も被弾して動けません。マップはありますが、見方が分かりません』

 シルフィの苦しそうな声が聞こえた。

「まいったな。この天候じゃヘリは飛べないし、これ以上は危険だから捜索は海兵隊に頼るとして、アメリアに連絡しなきゃ!!」

 私は無線のチャンネルを弄ると、アメリアとマルシルの無線に同時に救難者の治療を指示し、リナの無線にオペの支度を進めるように要請した。

『あー、犬姉だけど、どこに行ったの?』

「それが分からないから困ってるんだよ。ヘタに動かないで!!」

『もう森の中だよ。変な遺跡みたいなの見つけたけど、参考になる?』

「あっ、遺跡ですか」

 ラパトがマップを指でなぞって確認し、広帯域無線で私たちの居場所を伝えると、まだ要請していないのに、ありがたい事に海兵隊の一員がやってきて、ラパトのマップを見た。

「家に帰りたいんだけど、大丈夫?」

 一人が頷き、私たちは無事に家に帰り着いた。

 家の中ではマルシルがアメリアと一緒にベッドの準備をして、色々な道具を揃え始めていた。

「よし、任せよう。私は……」

 私はノートパソコンの画面を開き、スリープモードからパスワードを入力して、通常モードの画面に戻した。

「さて……」

 私はあるアプリケーションを立ち上げ、文字情報で送られてきていた情報を読んだ。


『09899004578686628997781999901001093040402020303883930339393930320-1029922828291199292929299288338889(以下略)』

 私は暗号化された文面を読んで、小さく笑みを浮かべた。

「もう関係ないし、偶然だけど駆除対象だった、どっかの危険種族が潰れただけだしね。最初から、お見通し』

 私は椅子から立ち上がり、肩をコキコキ鳴らし、なにか私に張りついてノートパソコンの画面を見ていたスコーンの頭を撫で、スコーンの右手を掴みその人差し指でノートパソコンのエンターキーを押した。

 瞬間、ウィンドウに無数の数字が流れはじめ、最後にコンプリートのメッセージが表示された。

「これで、B-52がどっかぶっ壊すかもね!!」

 私は笑みを浮かべ、スコーンを抱きかかえて頭を撫でた。

「今なら大臣ポスト空いてるけど、なんかやる?」

 私は笑った。

「い、いいよ。ほちぃし……」

 スコーンが小さく息を吐いた。

「そりゃそうだ、大臣なんてやりたくないだろうね。私だって嫌じゃ!!」

 私は笑った。

 しばらくるとシルフィとパステルが、海兵隊の隊員に担架に乗せらて家に運ばれてきた。

「……こりゃ重症だ」

 スコーンとアメリアが懸命に治療をはじめ、ビスコッティがサポートに回った。

「私は見ているしかないか……」

 小さく息を吐き、ノートパソコンを開いた。

「日報に書いておかないとね。そういや、二号機の塗装は終わったかな……」

 呟きながらキーを叩いていると、二号機の画像が送られてきた。

「おや、さすがに早い。落ち着いたらスコーンに見せよう」

 期待の後部に激しく回転して水しぶきを上げている可愛く描いたデフォルメされたエチゼンスラッシャーと機体前部に描かれた可愛くデフォルメされたデススラッシャをみて、私は笑みを浮かべた。


 治療の甲斐があって、シルフィとパステルは一命を取り留め、静かに寝ていた。

 私はアフターケアをしているスコーンとビスコッティをみながら、ノートパソコンのエディタでひたすら命令文を打ち込んでいた。

「ったく、気持ち悪くてしょうがない。実は、シャドウラの集落があった場所は、衛星でとっくに把握していたんだよね……」

 エルフほどではないが、ドラゴニアは死すとその魂が関わりがあった人に、無作為に取り憑くという。

 それが、どうやら私だったようで、どうにも気分が悪かった。

 これは、シルフィに頼めば神聖魔法でどうにかなったはずだったが、今は療養中で動けないので、王宮魔法使いの神官を動員して始末するよう命令を下した。

 前王の意向で先に爆撃で徹底的に集落を破壊したが、それでは意味がない事が分かった以上、『危険な集団』と私も認識し、同時に王都に残った陸軍と海軍の特殊部隊を全て出撃させよという命令文を書き上げ、暗号化した後に電文を王都に送った。

「……あんまりナメるなよ。半ドラゴン野郎」

 私は笑みを浮かべた。

 私は呪文を唱え、自分の状態をチェックした。

 明確な異常箇所はなかったが総合結果は『異常』で、経験則からこれはゴーストなどに取り憑かれたという事を示していた。

「シルフィが起きたら、祓ってもらわないと」

 私は小さく笑みを浮かべ、ベッドで寝ているシルフィとパステルをみた。

「さて、これでいいかな。誰だ、勝手に女王にしたヤツ!!」

 私は苦笑した。


 リナとマルシル、ナーガとマンドラが作ってくれた昼食のハヤシライスを食べ終え、私は外で降り続く大雨をみてノートパソコンを開き、空港からの気象情報を傍受して今後の予想を立てた。

「みんな、多分嵐は三時間くらいで抜けるけど、風が強いから出かけるなら気を付けて。各島を巡るアイランダーは終日欠航が決まってるからこの島から出られないし、水族館か動物園、あとは銃の練習所しかないね」

 私は苦笑した。

「あの、私は銃の練習をしたいのですが……」

 マルシルが恐る恐るという感じで、そっと私にいった。

「分かった。じゃあ、射撃場だね。他にいる?」

 私が声を上げると、予想通り犬姉が手を挙げた。

「うん、先生役ならやるよ」

 犬姉が笑みを浮かべた。

 他に手が挙がらなかったので、私はマルシルと犬姉を連れて嵐の中に踏みだし、家の脇の駐車場に駐めてあった、屋根も扉もない軍用四輪駆動車に乗り込み、犬姉が後部座席の銃座に備え付けのM-2重機関銃のグリップを握った。

 私は運転席に座り、助手席にマルシルが座った。

「行くよ!!」

 私はエンジンをかけ、アクセルを思い切り踏み込んだ。

 勢いよく飛び出した車は、ちょうどやってきたバスの前を横切り、アスファルト舗装された道をしばらく走り、森の作業用に造られた砂利敷の小道に飛び込んだ。

 しばらくすると、砂利もなくなり泥濘地に飛び込んだ。

 派手に泥しぶきを上げながら、私は車のアクセルを床まで踏み込み、副変速機のレバーを『4H』に叩き込んだ。

 狭い道のコーナーを車のケツを流しながら曲がると、腰丈程度の動く植物が種のような物を飛ばして攻撃してきた。

 犬姉が車の揺れにも負けず、重機関銃の銃弾をばら撒き、変な植物があっという間に粉々に砕け、その後を踏んで私はアクセル全開のまま林道を爆走した。

 途中、前面ガラスが枠ごと吹き飛び、犬姉が器用に避け、なにもなくなった車をひたすら飛ばし、段差で泥水を跳ね上げ被りながら、ひたすら林道を駆け抜けた。

 音に反応したか、森の中から大量のゴブリンが現れたが、私はブレーキなんかクソ食らえと、車でバリバリ弾き飛ばし、犬姉がバリバリ重機関銃を撃ちまくってなぎ倒していった。

「マルシル、生きてる?」

「は、はい、なんとか!!」

 私は笑い、限界一杯の速度で走っていった。

 ここぞとばかりに、森の中から飛びでてきたどっかのエージェントの固まりを犬姉が重機関銃で根こそぎなぎ倒し、その上を車で走り抜け、三段ジャンプをかまし……道に迷った。

「ええい、こっちだ!!」

 私は適当に分岐点を曲がりまくり、途中で遭遇したオーガの群れに攻撃魔法を叩き込み、犬姉が重機関銃でぶち殺しながら、どこだか分からない森の中をつき進み、ふと背後を振り返ると、どこの国だかのFW-190戦闘機が低空で迫っていた。

「なんじゃあれ。古すぎるぞ!!」

 私がなにかいう前に、犬姉が戦闘機に向けて重機関銃をぶっ放した。

 戦闘機が機銃掃射してきて、私は車を左右に振って敵弾を避けまくった。

 犬姉の銃弾が戦闘機のエンジンにバカスカ命中して火花を散らし、爆発して戦闘機は慌てた様子で離脱したが、犬姉は攻撃をやめず、戦闘機の主翼から炎が吹き上がり、機体がバラバラになって吹き飛んだ。

「ナイスショット!!」

 私は笑みを浮かべさらに林道迷路を走り抜け、気がついたらアスファルト舗装の道路に出て、射撃場の真ん前に飛び出し、ブレーキを踏んだが全く反応がなかった。

「……死ぬかも」

 私は覚悟を決め、サイドブレーキを引いて車を回転させて一気に速度を落とし、射撃場の空き駐車スペースにピタッと止まって、無事に停車した。

「……グッドラック」

 私は苦笑して笑った。


 全員泥まみれで射撃場に入ると、スーツを着た芋ジャージオジサンと仲間たちが射撃練習をしていた。

「あっ、ちょうどいい講師がいた。芋ジャー、マルシルに射撃を教えてあげて」

 私は珍しく雨でびしょびしょのスーツを着た、芋ジャージオジサンに声をかけた。

「うむ、いいだろう……。むっ、なんという筋肉の付き方だ。これは期待出来るぞ」

 芋ジャージオジサンが笑みを浮かべた。

「それじゃ頼むね」

「分かった、やってみよう……」

 芋ジャージオジサンはマルシルと空きブースに入り、なにやら説明をはじめた。

「さて、私は……」

 空きブースに入り、私はテーブルの上に五十口径弾の箱と九ミリパラベラムの箱を積み上げた。

 隣のブースに犬姉が入り、なにやらカチャカチャ音を立てて準備を始めた。

「犬姉、銃が痛んでるよ。暴発の危険があるから、買い換えた方がいいよ」

 私は苦笑した。

「ああ!?」

 隣のブースから犬姉の悲鳴染みた声が聞こえた。

 私はデザートイーグルに弾薬をフル装弾したマガジンをセットして、六十メートル先のターゲット目がけて、準備体操代わりの一発を叩き込んだ。

「額のど真ん中。よし、鈍ってないね」

 私はテーブルにあるボタンを押し、ターゲットを取り替えて二百メートルに設定し、デザートイーグルを構えた。

 引き金を引き双眼鏡を覗くと、心臓の位置にドデカい穴が開いていた。

「よし、これでいいね。思っていたよりは、まだマシだね」

 私はターゲットを変え、ベレッタを手にした。

 距離を二十メートルに設定し、フル装弾したマガジンをセットした。

「さて……」

 私は引き金を引き続け、十七発全弾をターゲットに叩き込んだ。

「……イマイチだな。落ちたもんだ」

 私は苦笑して、ターゲットを変えた。

 隣のブースから犬姉が撃ちまくってる音で、私と同じデザートイーグルの五十口径モデルだと分かった。

「……あれ、今気が付いた。マルシルがスコーンに代わってる」

 私は苦笑した。

 休憩中らしく、ブースから離れて芋ジャージオジサンにターゲットを譲ったスコーンが、ドクペを飲みながらにベンチに座っていた。

「シルフィとパステルは平気なの?

「うん、大丈夫。寝て休めば治るよ。我慢出来なくて、マルシルに代わってってお願いしたんだ。新発見が色々あったよ!!」

 スコーンが笑った。

「そっか。一人できたわけじゃないよね。泥だらけって、どこを走ってきたの?」

「うん、ビスコッティが燃えちゃって。なんか知らないけど、森の中を爆走してきたよ」

 スコーンが笑った。

「こら、ズルいです!!」

 もう、どうにもならないくらい全身泥汚れに塗れたビスコッティ、シルフィ、パステル、ラパト、マルシル、マンドラがニヤッと笑みを浮かべた。

「あれ、ここ射撃練習場だよ。お揃いできちゃってどうするの?」

「はい、練習です!!」

 パステルが笑った。

「そりゃそうか。芋ジャージオジサンたちもいるから、アドバイスしてもらいなよ。とりあえずで配った拳銃だから。色々使いにくいとかあると思うしね」

 私はベンチに座って、鞄からノートパソコンを取りだし、銃のオーダーに答えるべくエディタを立ち上げた。

 こうして、思いの外盛り上がった銃の練習は、夕方まで続いた。

 大雨も止み、私たちは車で家に帰った。

「はぁ、疲れたね……」

 私はテーブルの上にノートパソコンを開き、みんなの銃オーダーをそのまま市場のガンスミスに送った。

「これでよし。あとは、お風呂でも入ろうか。泥だらけで素敵だけど、なんか痒いから」

 私が声をかけると、みんなその場で裸になって、汚れた服を私に押しつけて、お風呂に駆け込んでいった。

「……こうなるよね。それが私」

 私は苦笑して、新しく設置したドラム式のスーパーウォッシャブルマシンとかいう、変な名前がついた洗濯機に服を放り込み、洗剤をたっぷり入れから私も脱ぎ、纏めて詰め込んだ洗濯機を運転させてから、酒瓶を持ってお風呂に向かった。


 空っぽの脱衣カゴの中に、とりあえず入院服を人数分入れ、私は浴室の扉を開けて中に入った。

 みんなが仲良く湯船に浸かっている中、私は体の汚れを落とし、湯船に浸かった。

「みんな、いきなり泥だらけだったね」

 私は笑った。

「あのですね、今度からマッパーを連れていって下さい。あんなメチャクチャ走って、迷わず着いたのは奇跡ですから」

 ラパトが苦笑した。

「分かった、そうする。犬姉、満足そうな笑みを浮かべてどうしたの」

「M-2撃っちゃった。重機関銃撃っちゃった!!」

 犬姉が笑った。

「そりゃまた。あれ、シャレで乗せていて、弾は入っていなかったんだけど、なんかしたでしょ?」

 私は苦笑した。

「さぁ……まあ、攻撃魔法?」

 犬姉が笑った。

「こら、変な使い方すんな。頑丈だけど、ぶっ壊したら弁償だからね」

 私は苦笑した。

 スコーンが空間ポケットを開き、大量のアヒルのオモチャを浮かべ、ビスコッティが自分の頭を金だらいで叩いて遊んでいた。

「うん、平和だね」

 私は笑った。


 お風呂から出ると、部屋にオレンジ色の繋ぎを着た監督が立っていて、書類を何枚か差し出した。

「はいはい、滑走路の延伸に家の補強にオモチャに……」

 私は決裁書にサインして、監督に返した。

「うむ、問題ないな」

「うん、お疲れさま」

 監督が外に出ていき、私はノートパソコンを拡げた。

 飛んできた刃がないエチゼンスラッシャーを片手で取って投げ返し、私は秘匿情報を次々に開いていった。

「よし、やっと空軍と陸軍が動いた、気象条件はまずまずか」

 私は海兵隊との演習に呼び出した軍と、それに隷属する特殊部隊が王都を出発した事が分かった。

「ん……。ドラゴニアは殲滅したけど、今度はドラゴニールが里の跡地を整地して、集落を作りはじめたか。元々ドラゴニアは危険生物扱いだったんだけど、ドラゴニールは大丈夫だね。人間ともエルフとも仲良くやれるし、田舎町でもよく見かけるしね」

 私は小さく笑みを浮かべてから情報をゆっくり読んで、手元に公文書の紙を開いて、無線で馬屋のクランペットを呼んだ。

「はいな!!」

 クランペットは笑みを浮かべて、私の所にやってきた。

 私が赤色の封筒を手渡し、クランペットはそれを持って家から出ていった。

「さてと、これでアイツともお別れだね。せいぜい、楽しむといいや」

 私は笑った。

「これで、国内の不穏分子は消えたか。あのクソッタレもすぐいなくなる。なにがカエル料理だ。種族ごと末梢出来るのは、王宮魔法使いでも一部だからね」

 私は笑みを浮かべ、ノートパソコンを閉じた。


 食材輸送の飛行機が大幅に遅れているため、私は竹とんぼを作って飛ばしてるスコーンに声をかけた。

「ちょときて」

「なに?」

 スコーンが寄ってくると、私は鞄の中からメイクセットを取り出した。

「ただの暇つぶしなんだけどね」

 私はメイクセットをテーブルの上に広げ、スコーンをいかにも王族のように仕上げた。

 次いで、髪の毛をきっちり編み込み、私は笑った。

「どうだ!!」

 私がもう一度笑うと、リナが姿見を持ってきた。

「ぎゃあ、なんじゃこりゃ!?」

 ビスコッティが笑い転げ、私はさらにアクセサリを追加した。

「それ一式上げるよ。ケツが痒くなるから」

 私は笑った。

「い、いいよ。高いでしょ?」

「知らん。侍女が勝手に買ってきたから」

 私は笑みを浮かべた。

「じゃあ、もらうけどホントにいいの?」

「うん、いいよ。持ってても着ないから。サイズ違いなんだよ」

 私は笑みを浮かべた。


 夕方になって、食材を積んだ輸送機が到着した。

 食材の搬入が終わり、家のキッチンでスコーンとナーガが並んで料理をはじめた。

 アメリアが出来た料理をせっせと運び、私はノートパソコンをカタカタやっていた。

「……戴冠式か。面倒だからパス。ジジイに返信しておこう」

 私は予定されていた戴冠式の日程を空白にした。

「これでも国王。すなわち女王か。暇そうだから、旅を続けよう。どうせ、ジジイが仕事を代行するんだし」

 私は笑って、スケジューラを全部『島』で埋め尽くして保存した。

 すぐさま返信がきて、『このバカ者。せめて帰る日を教えろ』とジジイがブチ切れているようだった。

「じゃあ、私がジジイに王冠をつけてやるって、返信しておこうかな」

 私は小さく笑って、『明日には帰る』と返信した。

「さてと、ゆっくりするかな。みんな、明日はちょっと忙しいから。好きにしてて。私は王都まで行かないといけないからね」

 私は小さくため息を吐いた。

「わかった。みんなで遊んでるよ。アメリア、攻撃魔法使える?」

 スコーンが笑い、アメリアが苦笑した。

 こうして、まだ強風が吹き荒れる家の中で笑ったのだった。

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