第23話 ブルードラゴン
『お客様にご連絡致します。悪天候のため、現在運転を見合わせております。運転再開の目処は立っておりません。ご乗車になってお待ちください』
車内にアナウンスが流れ、ワゴンサービスがやってきた。
「非常食です。粗末なものですが」
前席の背面に設置されたテーブルの上に、釜飯とお茶が置かれた。
「へぇ、釜飯か。どこが粗末なんだか」
私は小さく笑った。
「釜飯スラッシャー!!」
早々に食べ終えたマルシルが、手のひらに空き容器を乗せて回して遊び始めて。
「遊んじゃを、『ボム・ディ・ウィン』!!」
ただでさえ強風なのに、一瞬車体が傾き、すぐに元に戻った。
「ダメでしょ!!」
ナーガがリナの頭を叩き倒した。
「うわ、またカエルが……」
ツユクサが声を上げ、スコーンが小さな息を吐いた。
ツユクサのカエル袋から、デススラッシャーとカエルが室内にあふれ出てきた。
「ダメだよ!!」
スコーンとツユクサが同時に片付けはじめ、部屋に入ろうとしたアメリアが滑って転んで検札にきた車掌に体当たりし、車掌が吹っ飛んだ先にいたナーガを弾き飛ばし、車掌は果てた。
「あっ、まずい!!」
アメリアが異常に速い匍匐前進で車掌に近づき、回復魔法をかけ始めた。
「あーあ……」
私は苦笑して、デススラッシャを食べはじめた。
「うっ……これ、痛んでる」
私はトイレに駆け込んだ。
盛大に吐いてトイレから出ると、私は近くにいたビスコッティにカニを渡し、小さく笑みを浮かべた。
ビスコッティは不思議な顔をしたが、デススラッシャを囓った。
「はい、美味しいです。これはどういうつもりですか?」
「……つまんない」
私は少しいじけた。
「ビスコッティ、なに食べてるの。ちょうだい!!」
スコーンがビスコッティからカニを受け取り、ボロボロになった臭い肉を食べて、顔色が変わった。
「す、スケッチブック……」
お腹から凄まじい音を立てながら、スコーンはビスコッティのスケッチをはじめた。
それが終わると、スコーンはトイレに駆け込んだ。
「あーあ……」
私は臭い肉をゴミ箱に捨てて、ついでに一口食べた。
「ぬぉ、クセぇ!?」
私はその場に吐いて、こっそり空間転移で車内から放り出し、小さくため息を吐いた。
「……寝よう」
私は部屋のベッドに座り、そのまま俯いた。
暴風で客車が微かに傾き、窓ガラスがガタガタ鳴り、私は思い切り凹んだ。
列車の編成は六両で、王家専用車として貸し切りだった。
「あっ……」
スコーンが私をみて、部屋から飛びでていった。
しばらくして、スコーンが車掌を連れてきてくれた。
「酔い止めしかありませんが、お飲みください」
車掌が錠剤を私に差し出し、小さく笑みを浮かべた。
「……ん!?」
私は口にしていた口内崩壊タイプの錠剤を気合いで飲み込み、思わず目を見開いた。
車掌がバッと制服を脱ぎ、コンバットスーツ姿のツユクサが現れた。
「話は聞きました。一緒にロイヤルしましょう」
ツユクサは笑い、スコーンがひっくり返った。
「……てっきり、ビスコッティが化けてると思ったのに」
「師匠、なんですか?」
変な笑みを浮かべたビスコッティが、指をバキバキ鳴らしながら、スコーンを引きずっていった。
「では、良い旅を」
ツユクサは笑みを浮かべて、部屋から出ていった。
「……明るい子だね」
私は小さく息を吐いた。
しばらくすると、リナ、アメリア、ナーガ、マルシル、パステル、ラパト、シルフィが集まってきた。
「ほら、面白いでしょ!!」
リナが刃のないエチゼンスラッシャーを取り出すと、いきなり青いブレスを吐いた。
「なに、それ」
私は小さく笑みを浮かべた。
「こんなのもあります。五分だけ体が大きくなる薬!!」
アメリアが飲んで見せると、列車の天井を突き抜け、暴風が吹き込んできた。
「な、なんじゃそりゃ!?」
私は思わず声が出た。
しばらくしてアメリアが縮むと、暴風が吹き込んでいた屋根の穴が塞がり、窓からオレンジ色の繋ぎが見えた。
「へぇ、面白いものを持っているね。これも面白いよ」
私は空間ポケットから、動かないように封印したゾウガメスラッシャーを取り出した。「クソでかくて重いけど、一応回転するよ」
私が封印を解いて床に置くと、眠そうにゆっくり回転しはじめた。
「なんですか、それ。ください!!」
マルシルがゾウガメスラッシャを手に取ろうして、刃で指を切った。
「あっ、切っちゃった」
私は回復魔法で、慌てて治療した。
「ありがとうございます。それにしても、これなにに使うんですか?」
「特に目的はないよ。観賞用かな」
私は苦笑した。
「そうですか。あの島は面白いですね」
マルシルが笑みを浮かべた。
アメリア、マルシル、シルフィが部屋に残り、適当に話しているうちになんとなく気分が楽になった。
「それじゃ、また」
アメリアが笑い、みんなが引き上げた。
「師匠、どこいきましたか?」
ビスコッティが廊下を駆けていき、上段ベッドからにょろっとスコーンが出てきた。
「機嫌直った?」
スコーンが笑った。
「だいぶ直ったよ。そもそも、機嫌じゃないんだけどなぁ」
私は笑った。
「ならいいけど。じゃあね!!」
スコーンが通路を駆けていった。
「……はぁ、やっぱりダメ」
私は小さく息を吐いた。
腐ったデススラッシャを全部ゴミ箱に捨て、私は通路の壁に設けられた椅子に座って、列車の発車を待っていた。
ようやく夕焼けの空が見え、暴風も収まってきたようで、発車のアナウンスが聞こえた。「何時間遅れだか……」
私は苦笑した。
列車が静かに走り出し、通路を走ってきたスコーンが私にぶち当たって床に転がった。
「ダメだよ、こんな所に座っちゃ!!」
「師匠!!」
ビスコッティがスコーンをビシバシ引っぱたいた。
「あれ、相変わらず元気いいね」
私は小さく笑みを浮かべた。
「あっ、お酒飲みますか?」
ビスコッティが、テーブルワインのボトルを私にくれた。
その間に、狭い隙間を通って、スコーンが走っていった。
「こら、まだビシバシが足りません!!」
ビスコッティが後を追い、盛大に転けた。
「この!!」
ビスコッティはヒールを脱ぎ捨て、スコーンを追って走っていった。
「元気だねぇ……」
私は苦笑した。
しばらく列車の単調な音に身を委ね、ぼんやり外を眺めていると、高笑いしならがらナーガが通過していった。
「ちょっと、お姉ちゃん。それはやめて!!」
慌ててアメリアが追いかけていった。
「……もっと元気だねぇ」
私は苦笑した。
マルシルが寝ぼけた様子で私の頭を杖でぶん殴り、欠伸混じりに通り過ぎていった。
しばらくすると、いい匂いが漂い、大量のたこ焼きを抱えたマンドラが私の脇を通りすぎようとしたとき、山積みのたこ焼きの一船が落ちて私の頭を直撃したが、気が付かなかったようで、そのまま通り過ぎていった。
「うん、熱い」
私は頭の上に乗っかっているたこ焼きを手で掴み、モソモソ食べはじめた。
「これ見て!!」
スコーンとビスコッティが駆け寄ってきて、二人が手に乗せたトノサマガエルが赤と青のブレスを同時に吐き出し、私の服を燃やした。
「……おい」
私はスコーンと捕まえて頭を撫で撫でしてから蹴飛ばし、さらにビスコッティに蹴りを入れた。
「あれ、火力がつよすぎたかな」
スコーンが、トノサマガエルのケツを回して調整をはじめた。
「イタタ、折れたかも……」
ビスコッティが脂汗全開でなんとか立ち上がろうとしている様子だったが、誰も面倒を見てくれなかった。
「困ったな。骨折までは……」
私は小さく息を吐いた。
「お…、お客様、ど、どうされました?」
どっかで見た事のある制服を着たナーガが、変な笑みを浮かべて声をかけてきた。
「うん、怪我人だよ。折れたっぽい」
スコーンが処置しながら、頭を抱えた。
「こんなの治せないよ。どうしよう……」
私は無線でアメリアを呼んだ。
「どうしましたか?」
お好み焼きを食べながらながら、アメリアがやってきた。
「折れちゃったみたいだから、治療お願い出来るかな?」
[はい、分かりました」
お好み焼きをスコーンに渡し、アメリアがヒールの呪文を唱えた。
「治りました!!」
アメリアはスコーンからお好み焼きを受け取り、手近な部屋に入っていった。
「……はぁ、またやっちゃった」
私は小さく息を吐いた。
「……ダメだ、寝よう」
私は部屋に入り、布団に包まった。
列車の走行音を聞いていると、徐々に眠くなり、私は口の中に入っていたアマガエルを取り出した。
「なんか、口の中が変だと思っていたんだよね。どこから入ったんだか……」
私はアマガエルを窓際の小さなテーブルに乗せ、そのまま眠りについた。
列車の揺れで目を覚ますと、窓の外は夜になっていた。
「あれ、寝過ぎた……」
私は慌てて靴を履き、食堂車に向かって走っていった。
そこにはみんな揃っていて、このスープが温いとスコーンが炎の魔法でそっと温めていた。
私は躓いて転び、スコーンの足下に転がると、スコーンが爆発魔法で吹っ飛んだ。
回転しながら吹っ飛んだスコーンは、厨房のコックをなぎ倒し、シュタッと着地を決めた。
「なにするんだ、この野郎!!」
コックの一人が起き上がり、スコーンの頭に金だらいがめり込んだ。
スコーンが厨房から出てくると、ビスコッティがビシバシスコーンを引っぱたき倒し、私はスコーンの頭にゲンコツをめり込ませた。
「なんで、なんでマリーまでめり込ませるの!?」
「うん、可愛いから」
私は笑った。
「ダメです。師匠が調子にのります!!」
ビスコッティが笑った。
「分かった分かった。えっと、メシは……」
私はカウンターに積み上げられたお結びを三つ取り、部屋に帰った。
部屋でモソモソお結びを食べていると、無性に寂しくなった。
「……いいな」
私は小さく息を吐いた。
私は鞄からポケットボトルを取り出すと、バーボンを取り出してチビチビやりはじめた。
窓から見える夜の闇は、不思議と心に染みた。
「……ウィアゴーゴー走り続ける。誰にも止められはしない」
私は口ずさみながら、時折現れる踏切の音に涙した。
私はお結びを全て食べ、部屋の扉に『起こさないでください』の札を下げ、そのままベッドに寝転び、声を殺して泣いた。
ふと目を覚ますと、窓の外はまだ闇だった。
「あれ、何時間寝たんだろ……」
私は腕時計をみたが、壊れて止まっていた……。
「……ツイてない」
私はため息を吐き、ベッドから立ち上がると、扉を開けてそっと通路の様子を覗った。
「……誰もいないね。よし」
私は通路をトイレ目指して、爆進していった。
「さ、さすがに限界……」
トイレに着くと、誰かが使っていた。
「……ツイてない上に、漏れる」
私は激しく扉をノックした。
「ん?」
トイレから顔を出したのは、クレンジングしていたスコーンだった。
「か、代わって……」
「ダメだよ。まだ途中だよ!!」
スコーンの笑みを共に、私は漏らした。
「ぎゃあ!?」
スコーンが慌てて飛びでていき、一緒に入っていたビスコッティが半ば呆然としていた。「ダメです。着替えないと!!」
クレンジングの泡塗れの顔で、しゃがみ込んだ私を抱え、『起こさないでください』の札が掛けてある部屋に連れていった。
スコーンが代えの服を私の鞄から引き出し、着替えが終わると、二人は扉を開けて飛び出ていった。
「……なんて日だ」
私はバーボンのポケット瓶を一気に飲み干し、床に転がった。
終点までノンストップという扱いではあるが、単線なので途中の駅や信号所などで停車して反対方向の列車とすれ違いを繰り返し、北部地方の玄関口の駅を通過していき、いよいよ本気の複々線に切り替わると、列車は一気に加速して最高速度時速二百五十キロ区間に入った。
ガタガタ揺れる列車のトイレに向かうと、マルシルとナーガが顔を洗っていた。
「あっ、おはようございます」
マルシルが笑みを浮かべた。
「使いますか?」
ナーガが笑みを浮かべた。
「おはよう。そういえば、洗顔セット忘れた。
私は部屋に戻り、その場でクレンジングフォームを使って化粧を落とし、バーボンで顔を洗うと、そのまま洗顔フォームで顔を洗うと、バーボンで洗い流して雑巾で床を拭き、気持ち程度に床にデオドラントスプレーを掛けた。
「これでよし。あとは薄化粧して……」
化粧品を適当に塗ったくり、私は満足して……落ち込んだ。
「……自由におしっこしたいな」
私は小さくため息を吐いた。
私は『起こさないでください』の札を外し、部屋の掃除にきたオバチャンたちに全てを任せ、大きなビニール袋を抱えて出ていくのを確認し、椅子に腰掛けて携帯ラジオを付けた。
「窓枠にルージュの伝言ってか……」
私は笑ってルージュを取り出すと、窓に『探さないでください』と書き、部屋を出て食堂車に向かった。
まだ朝食前の時間だったため、私はテーブルに座って、空間ポケットから泡盛の瓶を取りだし傾けた。
「……お酒。お酒の匂いがする」
どこからかそんな声が聞こえ、ジムニーが壁をぶち破って飛び込んできた。
自動修復機能のお陰か客車の壁は直ったが、ジムニーは食堂中を走り回りそのままどこかにいってしまった。
「……な、なに?」
私はお酒の飲み過ぎだと思い、私は謹んでなにかにお詫びした。
泡盛を空間ポケットにしまい、代わりにマティーニを取り出すと、私は目を擦って、あり得ない事、起き抜け飲みが見せた幻影と結論づけ、チビチビ飲みはじめた。
マルシルとマンドラがやってきて、直ったような気がするテーブルの上に座り、厨房から運ばれてきた玉子焼きセットを手にして、仲良く喋りはじめ、共にお酒の瓶を傾けはじめた。
アメリアとナーガもきて、お互いに酒瓶で殴り合いをはじめ、遅れてやってきたリナが、あくび混じりにナーガをぶん殴ってテーブルに座った。
こうして、全員が揃うと、ビスコッティが私の声真似で呪文を唱え、勝手に私の空間ポケットを開け、泡盛の瓶を取り上げるとそのままスコーンと飲みはじめた。
「……なによ」
私は空間ポケットの中からテキーラサンセットを取りだし、チビチビ飲みはじめた。
「それもダメです!!」
ビスコッティが私のグラスを奪い、スコーンが受け取り拒否をしたので、アメリアに渡し、アメリアがそれをマンドラに渡し、マンドラがリナに渡し、リナがナーガに渡し、結局私に戻ってきたと思ったら、ツユクサがグラスを奪い一気に飲み干して、そのままぶっ倒れた。
「あーあ、まだこんなもんか」
私は苦笑した。
朝食が出来上がり、みんなが真面目に椅子に座ると、スクランブルエッグとハム、サラダにトーストが出てきて。オグラとマーガリンが盛られた小鉢が付いてきて、別皿で大粒の牡蠣フライが三つ乗っていたが……が、ソースはなかった。
「……これは、期待出来るな」
いただきますのあと、私は真っ先に牡蠣フライに手をつけた。
「うん、やっぱり牡蠣はこうじゃないとね」
私は笑みを浮かべた。
「次はオグラトーストだね」
私は半分に切ってあるトーストにマーガリンとオグラを大量に塗り、一口囓った。
「あれ、前と違う。これだ」
私は衛星電話を取りだし、文字情報を送った。
朝食を終えると、私は小さくため息を吐いた。
「……早くハムエッグになりたいな」
私の向かいにビスコッティが座り、ひたすら引っぱたかれた。
「……早くパンチングマシンになりたいな」
私は底抜けに深い、ため息を吐いた。
ビスコッティが頭を抱えて、私にゲンコツを落とした。
「……早くビスコッティになりたいな」
ビスコッティが悲鳴を上げ、スコーンを抱えると、私の目の前に座らせ、やけ酒をあおりはじめた。
「あ、あの、大丈夫?」
スコーンが心配そうに聞いてきた。
「……早くスコーンになりたいな」
私は小さくコホンと咳払いした。
「大丈夫だよ」
私は笑みを浮かべた。
「……大丈夫じゃないよ。お酒」
スコーンがポケットからワンカップ酒を取りだして、蓋を開けた。
「えっ? あ、ありがとう……」
私はカップ酒を一気飲みして、そのまま椅子から転げ落ちた。
「ん、これエタノールだった?」
スコーンはテーブルの上のカップをみた。
「○○マル生絞り。間違ってないな。あとは、縫合するしか……」
「縫合してどうするんですか」
シルフィが苦笑して、回復魔法を使った……が、効かなかった。
「あ、あれ?」
シルフィが困り顔になった。
「大丈夫だよ、目に砂が入っただけだから……」
私はよろけて立ち上がり、小さく息を吐いた。
みんなが私を取り囲んでしまい、どうしようかと思っていたら、思い切り嘔吐してしまった。
「ほら、今がチャンス!!」
スコーンが叫び、ビスコッティが私を椅子から担ぎ上げた。
「マルシル、リナ、ナーガ、マンドラは掃除。アメリア、パステル、ラパトは謝罪!!」
スコーンが叫び、私を担いだビスコッティが私を部屋に向かってダッシュした。
「はい、胃薬!!」
ビスコッティが錠剤を無理やり私の口にねじ込み、スコーンが葡萄酒の口を私の口にねじ込んで傾けた。
結局、ボトル一本を飲み干した私は、そのままベッドに倒れた。
車掌さんが飛んできて、せっせと私の介抱をしてくれ、そのままどこかに走っていってしまった。
「……ごめんね。寝れば治るから」
私は布団を被り、目を閉じた。
「ダメだよ。ビスコッティ、どうしよう?」
スコーンがビスコッティを見た。
「まあ、このままでも大丈夫だと思います。お薬は服用していますし、様子見ですね」
「そっか、それじゃ私たちはいこうか。邪魔したら悪いから」
スコーンが笑みを浮かべ、ビスコッティに蹴りを入れてから、部屋を出ていった。
「……早くベッドになりたいな」
私は小さく息を吐いた。
部屋の隅に誰かがデススラッシャを置いていったので、臭くて堪らなかった。
「……早く臭くなりたいな」
私は小さく息を吐いた。
列車は進み、予定では夕刻にピレスロイド渓谷駅に到着予定だった。
「……早く列車になりたいな」
私は布団を被りながら、私は呟いた。
「どうですか?」
ビスコッティとスコーンが部屋にやってきた。
「……酒瓶」
私が呟くと、ビスコッティがテーブルワインをくれた。
「グラス一杯です。ゆっくり起きて下さい」
私はゆっくりベッドに起き上がり、グラスに注がれたワインを飲んだ。
スコーンが空になったグラスを受け取り、アナザースカイのCDをかけはじめた。
「この機はどこに行くんだっけ?」
「これは列車です。忘れましたか?」
ビスコッティが笑った。
「ビスコッティ、全然大丈夫にみえないよ。どっか縫合しないと!!」
「どこを縫合するんですか。昼食はダメなようですね。お結びをおいておきます」
スコーンが空間ポケットからお櫃を取りだし、せっせと握りはじめた。
「ビスコッティ、具材は焼いたお餅でいいの?」
「はい、いいです。他の具材は食べられてしまったので」
ビスコッティが笑みを浮かべ、超速でスコーンがお結びを大量に作り、空いている迎えのベッドに乗せた大皿に置いた。
「そっか……ありがとう」
私は山盛りのお結びを一つ取り、ゆっくり食べはじめた。
「では、私たちはこれで……」
ビスコッティとスコーンが、部屋から出ていった。
「……美味しいけど、二日酔いまでは治らないか。そんなに飲んだかな」
私は苦笑してお結びを全部食べると、小さく息を吐いた。
「はぁ、なんかスッキリした。でも、昼食は無理だな……」
私はベッドから立ち上がり、一応食堂車に向かった。
食堂車に入ると、CAさんたちがバトルスーツに着替えている最中だった。
私は目を擦り、思わず二度見したが間違いなく、バトルジャケットだった。
「……なんで?」
私は半ば唖然とした。
「あっ、お客様です。お迎えなさい」
全員がボディスーツまで着けて、横に並んで丁寧にお辞儀した。
「……戦地にでもいくのかな。あれ、洞窟だったはず」
私が混乱していると、みんながバトルジャケットを着て集まってきた。
「……あれ?」
「その服ではだめです。着替えは部屋に置いてありますので、急いで着替えてきて下さい」
マンドラが笑った。
「着替えって……まあい、いいか」
私は部屋に戻り、適当に置かれたバトルジャケットに着替え、なぜか置いてあったボディスーツを装着した。
「お、重い……」
とてつもなく重かったが、私は気合いだけで食堂車に向かった。
すると、全員が業務用掃除機を背負い、食堂車の床を掃除していた。
「……なんで?」
私が小首を傾げると、天井から下りてきた芋ジャージオジサンが私に掃除機を装着した。
「『強』でな。ぶっ壊れていて、他のボタンは利かん」
芋ジャージオジサンが天井裏から下がっていたロープを上り、天井裏に戻ると縄を引っ張り上げて、跡形もなく消え去った。
「……なんで?」
わけが分からなかったが、取りあえず掃除機で掃除をはじめ、地面にへばりついたスライムを吸い込んで掃除機が詰まったが、ノズルを床に押しつけて無理やり吸い込んだ。
床を掃除していたルンバにスライムが詰まり、白煙を吹いていたので、それを蹴飛ばして破壊し……なんだか出たような気がした。
「いました、今です!!」
シルフィが叫び、ビスコッティが掃除機の吸い込み口を向け、赤いスイッチを押すとなにか紅い光線が蛇行しながら飛び、空中で弾けて爆発した。
そのあと、ビスコッティの掃除機がボコボコと音がして、再び平和が戻ってきた。
「……なんかいたのね」
私の顔色が悪くなるのを感じた。
食堂車は様々に光線が飛び交い、私は床にへばりついたスライムやどこから入ったか分からないが、ゴブリンを無理やり吸い込み、妙に気が晴れてきた。
天井の板が外れ、大量のスライムが落ちてきたが、私は落下中に全てのスライムを吸い込んだ。
「なんだこれ、楽しい!!」
私は笑った。
結局、三時間近く掛かって粗方掃除が終わった所に、壁の一部を突き破ってミサイルが飛び込んできて、派手な光線をまき散らした。
壁の自動修復魔法によって、瞬く間に穴が塞がり、私は固まった。
「……なに、今の?」
「機密情報です」
ビスコッティが笑った。
「ビスコッティ、あの眼鏡貸して!!」
「ダメです。人間が使うと、視力が低下してしまいます」
「ちぇっ……」
スコーンがふくれっ面になった。
「もう変なものはいません。安心して下さい」
シルフィが笑みを浮かべた。
「ええ、終わっちゃったの!?」
スコーンが残念そうにいい、CAさんたちがボディアーマーを外しはじめた。
「私たちもはずそう。なんか、すっごい重いんだよね」
私はボディアーマーを脱ぎ、回収にやってきた車掌さんがせっせと運びはじめた。
「なんか、空気が綺麗になったな……。ここ変なの一杯詰まってたの?」
私は笑った。
「はい、古い客車なのでどうしても溜まってしまうのです。定期的に掃除を依頼しているはずなんですけどね」
ビスコッティが笑った。
「では、我々は列車内のゴースト退治に向かう。落ち着くまで、しばらくかかるだろう」
恐らくはリーダーと思しき人が小さく笑みを浮かべ、六人が抜けて通路を走っていった。
「そっか、見えないなにかがいたんだね」
スコーンが笑みを浮かべた。
「……またスライム」
頭の上に丸っこい塊を乗せたマルシルが、小さくため息を吐いた。
スコーンが掃除機を向け、マルシルごと吸い込みそうになって、みんなで慌てて引っこ抜きにかかった。
「はぁ、死ぬかと思いました」
マルシルがボサボサ頭で苦笑した。
「よし、これでいいかな?」
「はい、大丈夫です」
シルフィが笑みを浮かべた。
昼食も終わり、バトルジャケットに身を包んだCAさんたちが紅茶をサーブしてくれる中、私たちは優雅な時間を過ごしていた。
「師匠、スコーンは紅茶につけて食べるんですよ。固いお菓子ですから」
「それ早くいってよ」
スコーンはスコーンを紅茶にドブ漬けして食べはじめた。
「……まあ、いいか」
ビスコッティがティカップを傾けた。
CAさんがやってきて、笑みを浮かべながらスコーンを殴り倒し、ビスコッティの鼻の穴に指をぶち込んでから、何事もなかったように走り去った。
窓の外をアフターバーナーを焚いて列車を追い抜き、ビスコッティはノンビリお茶を楽しんでいた。
「これベタベタだよ。ビスコッティ、これでいいの?」
「ダメです。後は考えて下さい」
スコーンがスコーンをしばらく眺め、スケッチブックを取り出してビスコッティとスコーンを描きはじめた。
「ねぇ、ビスコッティいる?」
スコーンがビスケットをポケットから取りだし、ビスコッティに手渡した。
「ダメです。マナー違反です」
ビスコッティが清ましてお茶を飲んだ。
「あっ、そうか。あのクソオヤジ教え方が甘くて、クソババアがうるさく注意して、終いには殴り合いの喧嘩していたから、甘くてね」
スコーンがポケットの中にビスケットをしまい、代わりに一秒間に一回転くらいするエチゼンスラッシャーをテーブルに置き、甲羅のスイッチを押すと、甲羅がまだら色になり。回転が止まった。
「なんか変でしょ。コイツ」
「はい、どこで拾ったんです……じゃなかった、どっかで変なものを見つけない出ください!!」
ビスコッティが甲羅のボタンを押すと、今度はヒョウ柄に変わった。
「……なんこだれ」
ビスコッティがスイッチを押しまくると、スラッシャーがひっくり返って動かなくなった。
「あっ……」
「ビスコッティ、どうしてくれるの。死んじゃったよ!!」
スコーンが声を上げると、スラッシャーは背面飛行でアナザースカイを流しながら離陸していった。
「な、なんだあれ。研究しる!!」
スコーンが亀を追いかけ、厨房にいた芋ジャージオジサンが銃を構えて……そのまま銃をシンクの片隅においた。
シュゴーッと排気音も高らかに飛んでいった亀は、芋ジャージオジサンに向かっていって、芋ジャージオジサンは金属バットで亀を打ち返した。
「うむ、時速百八十キロには遠く及ばないな」
吹っ飛んだ亀は、マルシルの後頭部を直撃し、ひっくり返った紅茶セットをアメリアが片付けて、リナとナーガが優雅にお茶を飲み続けた。
ピンク色になった亀は、低空飛行したまま、食堂車の入り口から出ていった。
「待て、コラ!!」
スコーンが追いかけていき、しばらくして白まだら色になったエチゼンスラッシャーを抱えて戻ってきた。
ビスコッティの前に座ると、スコーンは変な色のスラッシャーをテーブルに置いた。
「……死んじゃった」
「師匠、ダメです。命は無限ではありません」
ビスコッティが苦笑した。
「……起き上がらないかな」
スコーンは心臓マッサージをはじめた。
すると、エチゼンスラッシャー変種は、相変わらず背面飛行をはじめ、食堂車の中を高速で飛び回りはじめた。
私はゴースト退治で使った掃除機を背負い、強に設定して亀を吸い込んだ。
掃除機の中でドカドカ音が聞こえ、排出口から飛びでてくると、ビスコッティ目がけて亀がすっとんでいき、いきなり角度を変えてスコーンの頭を直撃し、ビスコッティの頭上を飛び越えてすっ飛んでいき、いきなり急速反転してビスコッティの頭をゴリゴリ削り、そのままアメリアの元にすっ飛んでいき顔面に衝突して倒れた。
優雅にお茶を飲み、世間話をしているリナとナーガの頭上を飛び越え、マルシルの頭で弾かれて軌道を変え、食堂車の上のブンブン飛び始めた。
「はい、任せて下さい!!」
パステルがスティンガーを構え、ラパトが頭を引っぱたいた。
「だめでしょ、ここでそんなの出したら」
ラパトが金魚すくいのポイを取りだし、エチゼンスラッシャーに向けて投げた。
すると、亀がそれを捕まえ、自ら乗っかって下りてきた。
「はい、捕まえました」
ラパトが私に亀を渡し、あっけにとられていたスコーンに返す途中、誤って尻尾を抉ってしまった。
甲羅から派手な爆煙を吹き出し、スコーンの顔面にヒットすると、スコーンはそれを受け止めた。
色が真っ赤にになり、尻尾が三つに分かれたスラッシャは、そのまま死んだようにいびきをかいて眠ってしまった。
「はぁ、これで落ち着いたね。変な亀もいたもんだ」
私は笑った。
朝食のあと、私は部屋に帰ると、白い封筒がベッドの上に乗せられているのを見つけた「ん、ビスコッティ?」
一人呟いた時、運転停車で列車が駅に止まった。
「……そりゃ、患者の容態が悪化したら気になるよね。これも旅か」
私は苦笑した。
「あの、お呼びですか?」
シルフィが笑みを浮かべた。
「うん、ビスコッティが巡回医に戻るって、姿が見えないけどどこにいったのやら」
私は小さく息を吐いた。
「そうですか。私の方は、弟子がちゃんと巡回しているので、平気ですよ」
シルフィが笑みを浮かべた。
シュゴーと音がして、部屋の出入り口から、背面飛行するエチゼンスラッシャーが現れた。
「またきた……」
私が指で弾くと、亀は再びどこかに飛んでいった。
「では、私は食堂車にいってきます」
シルフィは空間ポケットから、『亀用』と書かれた業務用掃除機を背負い、部屋から出ていった。
しばらくして、掃除機を背負ったシルフィが部屋の前を通過していって、ギャーっと男共の声が聞こえた。
「三等車に放ってきました。みんな大喜びでしたよ」
アメリアがドクペの缶を傾けながら、隣の部屋に入る音が聞こえた。
次いで、マルシルがドクペの缶を持ち、ケチャップが溢れたハンバーガーを食べながら、隣の部屋に入る音が聞こえた。
『お客様にご連絡申し上げます。あと二時間程でピレスロイド渓谷駅に到着します。本日の天候は晴れ、摂氏十五度。皆様のご協力のお陰で、五分早着の見込みです。なお、お迎えのバスが待機しております。では、また後ほど』
車内にアナザースカイが流れ、車掌の声がアナウンスされた。
「よし、到着か」
私はキン○ョールを片手に、ピレスロイド渓谷駅に向かいく車窓を眺めた。
「……あっ、ハエ」
私は鞄から出したコンバットの容器をぶん投げて、ハエを滅殺した。
ついでにぶん投げたコンバットを部屋の隅に両面テープで設置し、一息吐くとラパトが様子をみにきた。
「どうですか?」
「うん、大丈夫だよ。もうすぐ着くと思うよ」
私は笑みを浮かべた。
列車は山間の急坂に掛かり、いくつかトンネルを抜け、ゆっくり走っていった。
空がまだ暗い頃、列車はピレスロイド駅に到着。
「待避線に入ったから、まだ寝ていようか。四時じゃ早すぎる」
私は笑みを浮かべた。
「……眠いよ。シルフィ」
スコーンは新たな弟子入りを認め、弟子となったシルフィの顔面に、立った拍子に転んでシルフィの顔面にその頭がめり込んだ。
「イテテ……。大丈夫ですか?」
シルフィが苦笑した。
「……ゴメン。お詫びに研究してたらぶっ壊れちゃった、変なエチゼンスラッシャーをあげる」
寝ぼけたスコーンが凄まじく遅い速度で回転し、刃も全部なくなったどう考えても不自然な亀を手渡した。
「はい、ありがとうございます」
シルフィはそっと隣に座っていたマルシルに、スラッシャーを手渡し、シルフィがなぜか画判を押しはじめた。
「これで、師匠のものです。戻しますね」
スコーンの二番弟子になったマルシルがスコーンに渡し、スコーンは亀を蹴飛ばして布団に潜った。
壁に跳ね返ったエチゼンスラッシャーが跳ね返って車掌に当たり、車掌は亀を抱えて走りだし、どこかでタッチダウン!! という声が聞こえた。
車掌が走ってきて、シルフィに亀をパスすると、ついでに検札してどこかにいってしまった。
「やりますね。スコーンさん、大丈夫ですか」
「……眠いよ。シルフィ、どうしよう」
「睡眠の魔法ならありますよ」
マルシルが笑みを浮かべた。
「ダメ、そういうのに頼りはじめたら、いざという時に効かなくなっちゃうから」
スコーンがベッドに潜って、羊が一匹とか数えはじめた。
しばらくボンヤリしていると、開けっぱなしの扉にラパトが立った。
「マッピング中でして、ここは四人のりの個室ですね」
ラパトはなにやらクリップボードを手にして、書き込みをはじめた。
「失礼しました。おやすみなさい」
ラパトが笑みを浮かべて去っていった。
「この二十四系二十五型の編成は、あまりにもボロくなっちゃったから、これがラストランだよ。帰ったら、新車っぽいのが待ってるはずなんだけど、あのジジイがやる事だからなぁ。比較的新しい二十四系二十五型に更新予定なんだけど、マカボニーを張り付けるとか、変な事いってたな」
私は苦笑した。
「ダメ……ボロい方がいい。でも、眠い」
スコーンが寝言のようにいった。
「分かった。間に合うか分からないけど、ボロくするようにいっておくよ」
私は衛星電話を取り出すと、文字情報を送った。
しばらく待つと、返信が返ってきた。
『今さら遅い。客車は部屋なんか取っ払ってマカボニー仕様にして、ロビーカーも作ったぞ。食堂車だけ、予算の都合で無理じゃったが、これで十分だろ!!』
文字情報が帰ってきて、私は苦笑した。
「スコーン、手遅れだった。ボロいのがなくなっちゃった」
「えっ、ないの。悲しいよ、私はこの頑張ってる客車が好きなんだよ。ダメかな?」
スコーンが飛び上がって、涙を流しはじめた。
「もう客車は間に合わないね。まだ、ロビーカーと食堂車はそのままらしいけど」
「それでいいよ。このクソボロポンコツ野郎がいいんだよ!!」
スコーンが笑った。
「そういうと思って、もう連絡してある。ちなみに、自販機のビールは三百五十クローネだから、乗る前に買っておいた方が安いよ」
私は笑った。
「そんなに高いの!? 生搾り一本仕込みは?」
「ないよ、そんなの。ちなみに、あのクソボロ自販機、ビールしか詰まってないから」
私は笑った。
「ビールしかないの。つまみは?」
食堂車に行かないとダメだけど、なんかカラスミとかフォアグラとかサメのひれ煮込みとか、妙に豪華なんだよね」
スコーンが笑った。
「ま、また極端だね」
私は笑った。
「まあ、国費から出るから、財布は傷まないけど、あんまり食っちゃうと、ジジイがブチ切れて、魚肉ソーセージだけになっちゃうから」
私は笑った。
「それは大変だね。到着までどのくらい?」
私はスコーンに笑みを浮かべた。
「もう着いてるよ。よく寝ていたから、あえて起こさないでおいたんだけど」
私は苦笑した。
「起こしてよ、せっかく到着のアナウンス聞きたかったのに」
「そっか……。今日はアメリア担当だったんだけど、なかなか面白かったよ」
私は笑みを浮かべた。
「な、なにが面白かったの。研究しる……」
スコーンがボイスレコーダーを取りだし、アメリアのオドオドした到着のアナウンスが聞こえた。
「明日は……。ああ、無事に帰れたらだけど、スコーンがやる……ようにはみえないから、亀をタッチダウンばかりしてる車掌……じゃダメだ。マンドラは、ああ見えて声優やってるから、やってくれるんじゃない。頼んでみよう」
私は無線でマンドラを呼び出した。
『はい、なんでしょう?』
「明日、車内アナウンスお願い。七オクターブの声を全開に響かせて」
私は笑みを浮かべた。
「さて、到着したらなら降りようか。青竜洞まで、馬で三十分くらいなんだけど、道が分かりにくくてね。こんな時こそ、マッパーのパステルとラパトが頼りになるね」
私は笑みを浮かべた。
「うん、それじゃいこう!!」
私たちは列車を降りて、最後尾に連結されていた馬匹運搬車に向かった。
馬屋が馬の手入れを終え、私たちはパステルとラパトを先頭にして、ゆっくり走りはじめた。
まるで獣道のような森の中の道を進んでいくと、大きな羽ばたき音が聞こえ、レッドドラゴンが二体立ち塞がった。
パステルとラパトが後退し、私たちは馬を下りた。
「ドラグ・ス・レイブ!!」
リナが攻撃魔法を放ったが、真っ直ぐ伸びた光線を方手で弾きじ飛ばし、マンドラが穴ぼこの呪文を唱えたが、レッドドラゴンは羽ばたいて派手なブレスを吐いた。
私が張った十枚重ねの防御結界をガリガリ削った。
「まだ幼体だよ。これなら勝てる!!」
私は叫んだ。
「この!!」
スコーンが放った光の矢がレッドドラゴンの一体を粉々に粉砕し、シルフィが神聖魔法で一体を光りの檻で封じた。
「逆転ヒール!!」
アメリアが魔法を使うと、残ったレッドドラゴンの一体の姿が崩れはじめ、最後は粉になって飛び散った。
「……なんだ、このしょっぼこいの?」
スコーンが小さな息を吐いた。
「いいじゃん楽だったし。先を急ごう」
私は笑って、再び先頭にパステルとラパトがゆっくり道を歩きはじめた。
いい音を立っててバキバキと折れた枝を踏みながら、パジェロ幌仕様とジムニー幌仕様とすれ違い。陸軍の特殊部隊がダッシュで駆け抜けていった。
「あれ、珍しい。滅多に人が来ないはずなんだけどな」
私は苦笑した。
まあ、取りあえず忘れて、私たちは先を急いだ。
朝靄の中を進んでいくと、洞窟の入り口にブルードラゴンが立ち塞がった。
「……光陣の檻!!」
ブルードラゴンの一体をシルフィの魔法で捕らえた。
「研究しる!!」
スコーンが馬から飛び下り、空間ポケットからスケッチブックを取りだし、黙々と描きはじめた。
私は馬から下りて、フリーのブルードラゴンの一体に近寄った。
青くブルブル震えるドラゴンスレイヤーを引っぱたいて黙らせ、私はポケットから白旗を揚げて笑みを浮かべた。
『音が聞こえたが汝らか。害意はなさそうだな』
ブルードラゴンの一体が声を掛けてきた。
「うん、ないよ。暇だからきただけ」
私は笑った。
『うむ、分かった。洞窟内に案内したいが、今は繁殖期でな。みな気が立っているので、入らない方がいいだろう』
「そっか、そんな時期か。じゃあ、迷惑を掛けたらダメだね。みんないこうか」
私が馬に跨がった時、スコーンがスケッチブックを方手に洞窟に入っていってしまった。「ああ、待って!!」
私は慌てて馬から飛び下り、スコーンの後を追った。
スコーンは洞内を突っ走っていき、最奥部の卵がたくさん置かれた場所で足を止め、スケッチをはじめた。
「こら、迷惑でしょ!!」
私は苦笑して、軽くスコーンの頭にゲンコツを落とした。
「だって、珍しいんだもん。研究する!!」
スコーンが笑った。
「普段は大人しいブルードラゴンだけど、怒らせるとシャレにならないよ。スケッチが終わったら、すぐに表にでるよ」
私は苦笑した。
「一個持って帰れないかな……」
「ダメ、それこそ怒られるよ」
スコーンの言葉に、私は笑った。
「そっか、ならスケッチだけにしておく。もう終わったよ!!」
スコーンが笑い、スケッチブックを抱えた。
「よし、戻ろう」
私はスコーンを先頭にやや後ろを歩いて、無事に洞窟を出た。
明るい外に出ると、ちょっとした事件が発生していた。
筋骨隆々の二人の男性が、ツユクサを檻のようなものに押し込み、扉に鍵を掛けた。
「迷惑をかけたな。島の開拓が大分進んだので、迎えにきたのだ。帰れといっても帰らない性格なので、我々が責任を持って連れ帰る。では、時間がないので、これで失礼する。
二人の男性は、ツユクサを入れた檻をぶら下げ、そのまま空に飛び立っていった。
「……結局、仲間に連れて行かれたか。そんな気はしていたけどね」
私は小さく息を吐いた。
ドラゴニアの仲間意識は強く、こういう時が訪れる事は覚悟していた。
「よし、気を取り直そう。この洞窟の先は崖しかないかないけど、パステルとラパト。どうする?」
私が聞くと二人が同時に首を横に振った。
「少し様子を見ましたが、この先は崖までも辿り着けません。引き返す事をお勧めします」
パステルが笑みを浮かべた。
「うん、マッパーがいうなら間違いないね。駅に戻ろうか」
私は笑みを浮かべ、馬の隊列が整うのを待って、そのまま下山を開始した。
特に問題なくピレスロイド駅に到着して最後尾の馬匹運搬車に馬を乗せ、みんなで車内に入った。
同行の警備部隊ですし詰めの三等車が並ぶ脇を通り越え、みんなで寝台車両に乗ると、それぞれ好みの部屋に入って、一息吐いた。
「マリー、ビスコッティの姿がないんだけど、知らない?」
スコーンがやってきて聞いてきた。
「うん、巡回医に戻るって書き置きがあったよ。これがそうなんだけど」
私は降りる前に残されていた白封筒を、スコーンに手渡した。
「そうなんだ。まあ、それが自然かな。まともに弟子も取っていないから、手が足りなくなったかな」
スコーンは苦笑して、部屋から出ていった。
「はぁ、旅には離合集散は付きものか。まあ、それぞれ事情があるからね」
私は苦笑した。
この鉄道は、本来は物資輸送のために敷かれたもので、駅に止まっている私たちの隣にある通過線を時々貨物列車が通過していった。
「あのオヤジから依頼されたのは、ブルードラゴンの様子見だったし、列車も帰るようにダイヤが組まれているはずだから。あとは寝て過ごすだけか」
私は笑った。
開けっぱなしの個室の扉を叩き、シルフィとスコーンが中に入ってきた。
「失礼します。今後の予定はどうなっていますか?」
シルフィが笑みを浮かべた。
「うん、あとは帰るだけだよ。ブルードラゴンの様子を見にいくって依頼は果たしたから」
私は笑った。
胸ポケットの衛星電話で任務完了の連絡を送り、私は小さく息を吐いた。
「さてと、これは臨時列車扱いだからね。何時間停車しなきゃ分からないから、帰りの出発は予定通りなら三時間後ダメだよ」
私がいうとスコーンがスケッチブックを取りだし、なにやら描きはじめた。
「ん、なにをはじめたの?」
「うん、マリーを描いてるんだよ。デッサンの練習は常にしておかないと」
スコーンが笑った。
「そっか、ならいいや。ヌードになろうか?」
私は笑った。
「い、いいよ、そのままでいて!!」
スコーンが大慌てで、手にしていたクレパスを持った手をパタパタ振った。
「冗談だよ。さてと、出発までゆっくりしようか」
私は大きく伸びをしたのだった。
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