第16話 町へ帰ろう!!

 翌朝、早めに起きた私は寝袋を畳み、テントを片付けた。

 みんなも起きだし、テントを畳んで丸め、鞍の後ろに積んだ。

「よし、今日はコルポジに帰るよ。出来るだけ急ごう」

 私は全員に声を掛けた。

「ここからコルポジまでは、街道を一直線です。迷うことはないでしょう」

 パステルが笑った。

「分かった。それじゃ、簡単な朝食を済ませてから行こう」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、ラパトが準備を始めました。携帯食なので、味は問わない方で」

 パステルが笑った。

「まあ、慣れてるけどね。さて、パステル。手に入れたお宝はどうするの?」

「はい、まず鑑定をして、町の古物商に買い取ってもらいます。結構な金額になると思うので、山分けしましょう」

 パステルが笑った。

「そりゃいいね。期待しちゃおうかな」

 私は笑みを浮かべた。


 簡単な朝食を終えた私たちは、馬で街道をひた走った。

 途中でなにもなければ、今日中にコルポジにつく見込みで、今のところトラブルは発生していなかった。

 私は時々ビノクラで周囲を警戒しながら、馬が無理です出せる最高速度で前にぶつからないように気を付けて進んだ。

 いくつかの村を通り過ぎ、途中で馬を休ませながら、順調に旅程を消化していった。

 街道の両側はどこまでも続く草原地帯で、見晴らしがいいので、よほどの事がなければ盗賊やたまに出遭う魔物の心配は少なかった。

「パステル、飛ばしすぎ。もう少し抑えないと、馬が持たないよ」

『分かりました』

 無線パステルに連絡して少し速すぎたペースを落とし、私たちはどこか牧歌的な雰囲気が漂う景色の中を、かなりのペースで駆けていた。

 途中で何度か車とすれ違い、旧ファン王国がいかに魔法と機械大国であったということを感じていた。

 なにを運んでいるのか、大型のトラックが対向車線から走ってきて、野太おクラクションで挨拶してきたので、私は手を上げて挨拶を返した。

「そろそろメロー地域に入るね……」

 私は呟きその証拠に、葡萄畑が街道の脇に広がりはじめた。

 ここで栽培される葡萄はちょっと特殊で、生食用ではなく葡萄酒用だった。

 シャトーも多く点在し、私はひっそり美味しい葡萄酒を生産する販売店を知っていた。

「パステル、次の町でいったん休憩しよう」

『分かりました』

 程なく次の町に入った私たちは、今から下りて手綱を引いて歩いた。

「ここは美味しい葡萄酒を売っている店があってね、みんなに紹介しようと思って」

 私は笑みを浮かべ、みんなの先頭に立って歩き始めた。

 しばらく行くと、年季を感じさせる建物と看板を出している販売店の前で止まった。

「ここだよ、馬を留めたら入ろう。お小遣いっていったら失礼だけど、小切手渡しておくから好きなものを買って」

「お酒です。師匠、お酒です!!」

 ビスコッティがスコーンの首を腕で絞めながら、もの凄く喜んだ。

 私は人数分の一万クローネ分の小切手を渡した。

「オススメは、シャトーポリデグレの三年物かな。飲みやすくていいよ」

 私は笑い、店内に入った。

「おや、久しぶりのお客さんだね。今日は、なにを求めてるんだい?」

 店のオジサンが笑みを浮かべた。

「久々だね。私はいつものでいいから、みんなにオススメのものを選んであげて」

 私は笑った。

 店内でお酒の物色をはじめたみんなは、オジサンの見立てでそれぞれの葡萄酒を買い求めていった。

「これがいいです!!」

「うーん、それもいいがな。値段のわりには味はイマイチだな。こっちの方が上品で甘口で値段も安い。これの方がいいな。

 ビスコッティとオジサンが元気よくお酒を選んでいた。

「私は分からないなぁ。聞こう」

 スコーンが苦笑した。

 それぞれの葡萄酒を買い求め、私は空間ポケットにボトルをしまった。

 馬を引いて街道に出ると、パステルを先頭に再び移動を開始した。

 時刻はそろそろお昼というところだったが、しばらくは食事にありつける町や村はなかった。

「パステル、その辺りに止まって昼食にしよう。この先しばらくは町も村もないはずだから」

 私は無線でパステルに指示を出した。

『分かりました』

 パステルが街道の石畳から草原へと入ると、私たちもそれに続いた。

 馬から下りると、私は背筋を伸ばし、一息吐いた。

「パステルが足が早いのでなかなか持ち歩けない、生肉や生魚を使った料理をはじめ、私は焚き火を起こした。

「実は、この辺りはまともな村や町がないので、無線が通じれば弁当を配達してくれる事で有名なのですが、いつ届くか分からないので、この方が確実です」

 ラトパが笑った。

「そんなのもあるって、噂には聞いていたけど、本当にあるんだね」

 私は笑った。

 私やみんなに配った無線機は、届いてもせいぜい五キロくらいなので、いずれにしても配達サービスは期待出来なかった。

 パステルの料理が終わり、みんなで輪になって食べていると、上空を黒い影が過り、私の体が空に浮かんでいた。

 革鎧がなんとか防いでくれているが、頑強な三本の爪が苦しく私を掴み、反対側の手には、同じようにもがいているスコーンの姿も見えた。

「……ウィンドドラゴンか」

 なんとか上を見ると、ドラゴンの顎が見えた。

 ウィンドドラゴンは気性が穏やかな事で知られているが、肉食なので時折街道を行く旅人を狙うことでも知られていた。

「まさか、捕まるとは」

 私を握り締める力で体が潰れるようなものではなかったが、反対側の左手で掴まれているスコーンは攻撃魔法を放っていたが、地面が遠いこの高さで倒してしまうと、そのまま落下して命が危ない事は察しているようで、牽制程度のものだった。

「……ウィンドドラゴンは、高い崖に巣を作る事で有名か。これはマズいな」

 務めて意識を冷静に保って、私はこれからの行く末を考えた。

 私たちを掴んで運ぶウインドドラゴンは、昼食を食べていた場所からかなり遠くの山間の崖に到着すると、そこで私たちを開放して、またどこかにいってしまった。

「マリー、どうしよう……」

 スコーンが小さな息を吐いた。

「大丈夫。まずは状況を確認をしよう」

 私たちがいるのは、崖の中腹にある岩棚のような場所で、登るのも下りるのもなんの道具もなしでは不可能だった。

「こりゃ厄介な事になったね。飛行の魔法を作って置けばよかったな……」

 私が呟いた時、正面からレッドドラゴンが接近してきた。

「うわっ、この上レッドドラゴン!?」

「攻撃魔法じゃ、もう間に合わない!!」

 スコーンが悲鳴のような声を上げた。

 レッドドラゴンは私たちがいる岩棚の前で光り輝き、頭に小ぶりの角を生やした女の子に変わって降り立った。

「初めまして、ドラゴニアのシャドウラと申します。あなた方の救助にまいりました」

 女の子……シャドウラは丁寧に頭を下げた。

「……しゅごい。研究する!!」

 スコーンがスケッチブックを取り出し、シャドウラのスケッチをはじめた。

「ドラゴニアって、確か一時的にドラゴンに姿を変えられる少数民族で、深い岩山に集落を作って生活しているって聞いてるけど……」

「はい、その通りです。この山は私たちの縄張りです。あのウィンドドラゴンが巣くってから迷惑していたのですが、獲物として連れてこられた人たちを逃がす事で、波風が立つ事なく過ごしていました。しかし、そろそろ我慢の限界です。今回はウィンドドラゴンの抹殺も目的の一つです。すぐに済みますので、待っていて下さい。

 シャドウラの姿がレッドドラゴンに変わり、空に舞い上がっていった。

「か、格好いい!!」

 スコーンが目を輝かせた。

「私は驚いたよ。ドラゴニアなんて、人間の間では幻とか嘘なんていわれてるほど、まず見かけないから」

 私は苦笑した。

 しばらくして、山間にこだまするドラゴンの雄叫びが聞こえ、それが収まってからしばらくして、シャドウラがボロボロで帰ってきた。

 人の姿になって岩棚に下りると、ボロボロの体で笑みを浮かべた。

「たかがウィンドドラゴンと侮っていました。倒して谷底に墜としてやりましたが、空を飛ばせたら最速の名は伊達ではなかったです」

「スコーン、回復魔法!!」

「うん、分かってる!!」

 スコーンが呪文を唱え、シャドウラの傷が癒えた。

「ホントは回復はビスコッティの方が上手なんだけど、私だって医師の端くれだからね!!」

 スコーンが笑った。

「ありがとうございます。さて、みなさんをしかる場所まで送ります。指示を下さい」

「待って、基本に忠実なら、むやみに探さないと思うけど。無線届くかな……」

 私はトークボタンを押した。

「マリーだけど、元の場所いる?」

『はい、手がかりがないので全員固まっています。雑音が酷いですが、なんとか声は聞こえます』

 声が割れながらではあるが、パステルの声が返ってきた。

「そこにいて。なんと、ドラゴニアの子と会ってね、これから送ってもらうよ。空飛ぶレッドドラゴンをみても、攻撃しないで!!」

『はい、分かりました。待っています』

 無線が通じるということは、それほどの距離ではないということだった。

 一応、ここに至るまでの景色は覚えているが、とても正確とはいえなかった。

「シャドウラ、正直当てにならないんだよ。街道沿いの草原地帯なのは確かなんだけど……」

「では、草原地帯までいって、上空を飛びます。着地ポイントが分かった時点で、指示を下さい」

 シャドウラがレッドドラゴンの姿になり、太い手でそっと私を掴むと私たちを背中に乗せた。

 翼を一回空打ちしてから、シャドウラは程々の速度で飛び、山間の谷を抜け、広大な草原地帯上空に出た。

 街道沿いを進んで行くと、やがて信号弾が発射され、みんなの姿が見えた。

「シャドウラ、あそこ!!」

 私が声を上げると。シャドウラはみんなの元に降り立ち、私たちを下ろすと人の姿になった。

「みんな、お待たせ!!」

 私は苦笑した。

 恐らく全員が初めてみるであろうドラゴニアの姿に、一同ポカンと口を開けて目を見張った。

「初めまして、皆さんが驚くのも無理はないですね。私はシャドウラと申します」

 シャドウラは深々と頭を下げた。

「ビスコッティ、研究しよう!!」

 スコーンがビスコッティに飛びついた。

「け、研究ってなにをですか?」

「ドラゴニアについてだよ。書物もほとんどないし、話をもっとしたい!!」

 狼狽するビスコッティに、スコーンが笑みを浮かべた。

「ここまでありがとう。もし、シャドウラがいなかたっらって考えたらゾッとしないよ」

 私は右手を差し出し、シャドウラと握手した。

「いえ、大した事は……それにしても、人間は少し知っていましたが、噂に聞くエルフの皆さんが多数いらっしゃるようですね。大変興味が湧きました。実家からは、外の世界を知って報告しろといわれていますし、もし不都合でなければ、私も仲間に混ぜてもらえないでしょうか?」

 シャドウラが軽く頭を下げた。

「そんなに畏まらなくても、大歓迎だよ。私たちは旅をして歩いているから、途中で色々あるかもしれないけど、それでよければいいよ」

 私は笑った。

「ありがとうございます。そうなると、馬の数が困りますね。私がドラゴンに姿を変えられるのは、一時間が限界なんです。それでは不便なので、どなたかの後ろに乗せて頂くしか……」

 シャドウラが困った顔をしていると、街道をいつもの馬屋が走ってきた。

「はいな、馬一頭お持ちしました!!」

 クランペットが笑った。

「いまさらだけど、どこで見てるんだか……。どれ」

 私はアリサが引いてきた馬をみた。

「うん、良さそうな馬だね」

 私は小切手帳を取り出し、それなりの額を書いてクランペットに手渡した。

「毎度!!」

 クランペットは自分の馬に乗り、アリサと共にきた道を引き返していった。

「シャドウラ、乗馬は大丈夫?」

「はい、集落での移動は馬なので、そこは心配無用です」

 シャドウラが買ったばかりの馬に触れ、さっそく慣らしをはじめた。

「これで十三人目だね。大所帯になったもんだ」

 私は笑った。

「昼食の片付けは終わっています。すぐに出発出来ますよ」

 パステルが小さく笑った。

「うん、ありがとう。思わぬ時間を食っちゃったから、少し急ごう」

 私は時計をみた。

「分かりました。シャドウラの慣らしが終わったら行きましょう」

 パステルが笑みを浮かべた。


 新しく仲間となったシャドウラが馬の慣らしを終え、その背に乗せた鞍に跨がる事が出来ると、私たちは街道を進み始めた。

 コルポジまであと少しに迫る頃には、空は夕焼けに染まっていた。

「なんとか夜までには着きそうだね。一安心したよ」

 私は独りごち、笑みを浮かべた。

 十三頭にも及ぶ馬の隊列は、夜闇が迫ってきた頃にコルポジに到着した。

 今回は長旅だったため、馬をゆっくり休めるために、宿に隣接して建てられている厩舎に馬を入れ馬具を外した。

 全員でそうしたあと、私たちは宿に入った。

「おかえり、また一人増えたね」

 オバチャンが笑った

「はい、シャドウラと申します。よろしくお願いします」

 シャドウラが一礼した。

「なにもない田舎宿だけど、ゆっくりしていきな。ちょうどディナータイムだよ。席は確保してあるから、食べていっておくれ」

「オバチャン、ありがとう。みんな、お疲れさま。晩ご飯にしよう」

 私たちは予約席と書かれた立て札がある、無理やり作った感のある大人数用のテーブルの椅子に腰を下ろした。

 時間帯もあって、店の中は満席になるほど混んでいた。

「お、お酒……」

 ビスコッティがヨロヨロと手を伸ばし、なにかを掴みたかったのか、手を握った。

「あーあ、ビスコッティの悪癖がはじまったよ。これでもアル中じゃないのが不思議だよね」

 スコーンが笑い、私はオススメの葡萄酒をボトルで数本頼んだ。

 グラスがテーブルに置かれ、そこに葡萄酒を注ぐと、ビスコッティはようやく笑みを浮かべた。

「移動中は飲めなかったもんね…ゆっくり飲んで」

 私は笑った。

 特にオーダーはしなかったが、そこは常連ということで、私がよく食べるメニューが大皿にのってテーブルに置かれた。

「これが人間の料理ですか。美味しそうです」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

「ここはパスタがイチオシなんだよ。ミートソースがまた……」

 私は大皿に盛ってあるパスタを小皿に取った。

「なにもかもが新しくて新鮮です。私たちはあまり野菜を食べず、ほとんど肉なのですが、この料理は美味しいです」

 シーザーサラダを食べながら、シャドウラが笑った。

「みなさん、食事を終えたら今回手に入れたお宝の鑑定に入ります。中には危険なものも含まれるので、弾かないと……」

 パステルが笑みを浮かべた。

「鑑定なら私も出来ます。一緒にやりましょう」

 ラパトが笑みを浮かべた。

「じゃあ、私は故買屋のオヤジを呼ぶよ」

 私は無線のチャンネルを合わせ、馴染みの故買屋のオヤジに一山当てたからちょっと来いと呼び出した。

「今から支度して、すぐにくるって。まあ、オヤジは待たせておいて、ゆっくり食べよう」

 私は笑った。


 しっかり食べて元気になった私たちは、二階の部屋に向かった。

 私が使っている部屋で鑑定をやるらしく、パステルは特殊チョークで床に魔法陣を描き、空間ポケットにしまってあった山のような財宝を、魔法陣の上に拡げた。

 パステルとラパトが呪文を唱えると、財宝の山が綺麗に整理され、一振りの剣が宙に浮かんだ。

「この剣が最大の獲物です。なんと、伝説のエクスカリバーです。ある大貴族の屋敷から盗まれて以来、行方が分からなかった代物です」

 パステルが目を輝かせた。

「へぇ、これがエクスカリバーね。触っても平気かな……」

「危険な魔法は掛かっていません。触れるくらいなら問題ないでしょう」

 パステルの言葉に、私は頷いてそっと宙に浮かぶエクスカリバーに触れた。

 特に問題はなかったので鞘を握ると、簡単に掴んで取れた。

「ふぅ、魔法剣なのは分かった。ヘタすると体を粉々にされるほどの、激しい拒否反応が起きるかも知れなかったよ」

 魔法剣とは、なんらかの方法で魔法を刀身に込めたものだ。

 エクスカリバーのような伝説級の魔法剣となると、いくら私が好奇心旺盛でも、多少はビビるというか、緊張するものだ。

 その瞬間、宿が少し揺れた。

『汝、その虚らかな心に触れた。我が主として認めよう』

 そんな声が聞こえると同時に、私の手が剣の鞘から離れなくなった。

「ちょ、ちょっと待って。誰かこれ取って、他のみんなだってチャンスはあるよ!!」

 私は慌ててエクスカリバーを放そうとしたが、まるで接着剤でくっつけたように離れる事はなかった。

「私たちの事は気にしないでいいです。エクスカリバーの主に選ばれたのなら、素直に喜んでおきましょう」

 シルフィが笑みを浮かべた。

「な、ならいいけど……」

 私は持っていたショートソードを鞘ごと外し、代わりにエクスカリバーの鞘を装着した。

「ドラゴンスレイヤーにエクスカリバーか。伝説級の剣を二振り持つなんて」

 私は苦笑して、丸腰のシャドウラに今まで使っていたミスリル製のショートソードを差し出した。

「お古で悪いけど、悪い剣じゃないから」

「ありがとうございます。大事に使わせて頂きます」

 シャドウラは笑みを浮かべ、不器用な動きながらも剣の鞘を腰に留めた。

 その他、シャドウラが着ている服に例のフレキシブルな迷彩機能を持たせ、無線を一台い手渡した。

「これは……?」

「遠くの人と話せる道具だよ。使い方は……」

 私はシャドウラに一通り無線の使い方を教えた。

「人間の社会には、こんな便利な機械があるんですね。さっそく、父に手紙で知らせないといけません。私たちにとっては、人間の社会は遠い物なので、なにも知らずに裸で歩いているようなものなんです」

 シャドウラが笑った。

「裸で思い出したけど、鎧もないと危ないよ。これからくる故買屋は販売もやってるから、とりあえず買って装備しよう」

「ありがとうございます。確かに人の状態では必要です」

 そんな事をやっているうちにも、パステルとラトパの鑑定作業は進み、しばらくすると故買屋のオヤジがやってきた。

「一山当てたって。珍しいな!!」

 オヤジは笑った。

「鑑定作業してもらってる途中だよ。オヤジ、革鎧ある。この子にぴったりなやつ」

 私はシャドウラを手で示し、シャドウラが一礼した。

「あるにはあるが、シャレで作ったピンクと白玉の水玉しかないぜ。体格的には問題ねぇが……」

「ビスコッティ、私それが欲しい。取り替えてもらう!!」

 スコーンが笑顔になった。

「なんだおい、みんな恥ずかしくて着ねぇのに、珍しいヤツがいたな。じゃあ、嬢ちゃんもこれにするかい。調子に乗って、二着作っちまったからな」

 私は苦笑してまずはその鎧をスコーン用に買った。

「シャドウラもいいかな?」

「はい、贅沢はいいません」

 シャドウラがニコッと笑みを浮かべた。

 こうして、派手な鎧が二人出来た頃、全ての鑑定作業が終わった。

「ほとんどガラクタ同然ですが、少しだけ掘り出し物がありましたよ」

 パステルが額の汗を拭き、ラトパが息をついだ。

「よし、俺の出番だな。ここまで綺麗に整理されてたら、それほど時間はかからねぇぜ」

 故買屋のオヤジは、再鑑定をしながら空間ポケットに財宝を詰め込んでいった・

「うん、確かにガラクタの山同然だが、金として考えれば相当量だ。いずれ、換金するつもりだったんだろうが、こういうのはその手のルートがないと捌けねぇもんだ。絵画もあったが、これは本物だ。これだけでかなりの価値がある。お前さんたち、絵画の鑑定した事ねぇだろ。もっと腕を磨け」

 オヤジは笑った。

 結局になっていた財宝は、予想よりも高値が買い取り査定額がでて、文句などいわずにオヤジが差し出した紙にサインした。

「よし、思ったよりいい買い物が出来た。またな!!」

 故買屋のオヤジは、結構な額のクローネ札をおいて、部屋から去っていった。

「あのオヤジは、足下を見ないので有名なんだよ。適正価格でそれだけ稼げれば、もう満足でしょ?」

 私は笑った。

「はい、十分満足です!!」

 パステルが笑った。

「冒険者の流儀で、このお金はみんなで山分けです!!」

 パステルがお金を数えはじめ、十三等分にして渡しはじめた。

「まあ、現金は必要だよね」

 私は温かくなった財布を閉じて、鞄に入れた。

「あの、私まで頂いてしましましたが、皆さんとお会いする前になにもしていません。分け前を頂きましたが。よろしいのでしょうか」

「はい、もう仲間です。遠慮はいりません」

 パステルが笑うと、シャドウラは笑みを浮かべ、鞄の中から財布を取り出してしまった。「人間社会で初めて手にしたお金です。これも報告しなくては……」

 シャドウラが手帳を取り出して、メモを取りはじめた。

「さて、やる事やったし夕飯にしようか」

 私はみんなを誘って、私は階下の食堂に下りた。

 例によって、テーブルを数台くっつけて配置されていた予約席の椅子に座り、しばらくすると相変わらずオーダもしていないのに、肉料理が運ばれてきて、さらに魚料理も運ばれてきた。

「みんな、飲みたければさっき買った葡萄酒を飲んでいいよ。ここは持ち込み大歓迎だから。オバチャン、グラス十三個!!」

 オバチャンが空のグラスを運んでくると、私は率先して空間ポケットからボトルを取り出した。

「あの店オヤジがチョイスしたお酒に間違いはないよ。私はいつものだけど、気に入ったら手紙でオーダーするといいよ」

 私はお酒を飲み、さっそく料理を小皿に取り分けて食べはじめた。

「あの、私はまだお酒を飲んではいけない年齢なのです。それで、お食事だけさせていただきますね」

 シャドウラが笑みを浮かべ、料理を取り分けて食べはじめた。

「……ん?」

 スコーンがグラスに口を当て、不思議そうな顔をした。

「これ葡萄ジュースだよ。でも美味しい。シャドウラもこれなら飲めるし、一緒に飲もう」

「はい、そういう事でしたら喜んで」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

 こうして、私たちは食事を終え、部屋に戻った。


 部屋に戻って。ひょんな事から手に入れたエクスカリバーを鞘から抜いて点検をした。

 やや細身の剣には鋭い刃入れが行われていて、よくある剣の叩き切るという感じではなく、文字通り斬る剣だと分かった。

「硬い物を斬るのはやめた方がいいかな。でも、刃に状態保存の魔法が掛けてあるし、大丈夫といえば大丈夫か」

 私は剣を鞘に収め、鞘のベルトを腰から外してベッドサイドの床に立てかけた。

 さらに腰からホルスターを外し、革鎧を脱いだ私はベッドに横になった。

 隣室にいるらしく、スコーンとビスコッティ、シャドウラとナーガ話す声が聞こえた。

「さて、十三人か。そろそろ、届け出ないと怒られちゃうな」

 私は苦笑した。

 主に治安維持のため、十人以上で旅する場合は、役所に届け出ないとならないという決まりがあった。

 まあ、届けなければそれでいいのだが、仮にも王族の私が王令を守らないのは、ちょっと問題があった。

「まだ寝るまで暇だし、この街の役所は二十四時間年中無休だから、ちょっと行ってくるか」

 私は身軽なまま部屋から出て階段を下りていった。

「あれ、どっかお出かけ?」

 階下の食堂でお酒を飲んでいたアイリーンが声をかけてきた。

「ちょっと役所までね。すぐそこだし、無線を持ってるし問題ないでしょ。

「ダメダメ、そんな丸腰で夜の町なんて歩いたら。平和なところだけど、なにがいるか分からないでしょ。私も行くよ」

 テーブルの上に小銭を置き、アイリーンが椅子から立ち上がった。

「大袈裟だなねぇ。まあ、いくならいっしょに行こう」

 私はアイリーンを連れ、宿の外に出た。

 役所までの道すがら、私たちは深夜営業中の屋台に寄りうどんを食べていた。

「おーい、待って!!」

 元気のいい声にそちらを見ると、シャドウラを連れたスコーンがやってきた。

「なに、どうしたの?」

「マリーがどっか行くのがみえたから、シャドウラを連れてきたよ。このうどん屋台も珍しいって!!」

 スコーンが元気よくいった。

「はい、食べ物屋さんなんですね」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

「なんなら食べてく? オッチャン二人前追加!!」

 私は小銭をカウンターに置き、笑みを浮かべた。

「よろしいのですか。では……」

 私とアイリーンはベンチ状の椅子の隅っこにより、二人のスペースを作った。

「私はきつねうどんだけど、シャドウラはなにがいい?」

「分からないので、同じ物をお願いします」

 スコーンがうどん二人前を追加し、すぐに出てきたきつねうどんを仲良く食べはじめた。

「私たちは先に役所に行って、片付ける事を片付けてくるよ。パーティのメンバー名を書いてサインするだけだから、すぐに終わるよ」

「分かった!!」

 スコーンが返事して、私とアイリーンは夜間はほとんど人がいない役所の建物に入っていった。

「えっと、確か市民課でやってたな……」

 私は記帳台におかれた申請書の中から、パーティ結成届けの紙を探しだし、それに十三人分の名前と種族をそれぞれの欄に書いていった。

「ねぇ、代表者の名前誰にする?」

 私は笑った。

「あんたしかいないでしょ」

 アイリーンが笑った。

「そうだよね。こりゃ、責任重大だ」

 私はメンバー名を書いてサインした用紙を、暇そうにしている窓口のお姉さんに提出した。

 役所の仕事はこれだけだったので、私たちは外に出た。

 先ほどのうどん屋台に戻ると、屋台のあちこちが破壊され、傷ついて地面倒れているシャドウラの姿があった。

「ど、どうしたの?」

 慌ててシャドウラに駆けより、私は倒れているシャドウラに回復魔法を掛けた。

「は、はい……いきなり十人ほどの暴漢が現れまして、私を庇ってくれたスコーンさんがさらわれてしまって。急いで助けないと」

  シャドウラはそこまでいうと、気絶してしまった。

「十人か。見つけたら血祭りに上げてやるんだけどな」

 犬姉がナイフを抜き、ニヤッと笑みを浮かべた。

「その前に探さないと。魔力を使うから普段は使わないけど……詳細探査!!」

 私は探査魔法の上級版を使った。

 そこに誰かいる程度ではなく、男性と女性の区別や種族まで分かるこの魔法で探査した結果、男性十名女性一の明らかに不自然な動きをした一団を発見した。

「西口だよ!!」

 街道に面していて、多くはここから人が出入りしてる東門とは正反対の、畑と草原しかない西門に向かって、明らかに不自然な動向を示す連中を確認して、私は声を張った。

「もう、なんであんた丸腰なの。とにかく、スコーンを奪還しないと!!」

 犬姉とは私は西門に向かって、全速力でダッシュした。

 魔力の限界でクラクラきたが、今はそんな事をいっていられないので、私とアイリーンはとにかく走った。

 さほど広い町ではない事が幸いして、あっという間に西門に迫ったが、それでも連中の動きが早く、詳細探査は場違いに駐められた馬車を捕らえた。

「マズい、馬車で逃げられたら追いつけられないよ!!」

「だったら急ぐ!!」

 アイリーンがやや早く走り、一団の動きが馬車と重なったが、すぐに走り出す兆候は見られなかった。

 私たちは西門を飛びでて、駐められた馬車に迫った。

 もう詳細探査は不要なので解除して、私は馬車の前方を狙って魔法を唱えた。

「……穴ぼこ」

 私はスコーンからパクった地面掘削魔法で、馬車の周りを囲み、動きを完全に封じた。

 それで察したか、馬車から十人のクソガキが出てきたが、それなりに深い穴を掘ったので、こちらに接近出来ずに困ってるようだった。

 犬姉がいきなり地面に伏せて、へカートⅡを空間ポケットから取り出して、素早く伏せ撃ちの構えを取った。

 一発ずつ丁寧に銃弾を放ちながら、アイリーンはたちまち十人を狙撃で倒してしまった。「鈍臭いヤツら。面白くもない。ところで、この穴どうするの、畑まで被害が出てるよ」 アイリーンが打ち上げた明かりの魔法により、一台の幌馬車の姿が見えた。

「……逆穴ぼこ」

 私が魔法を放つと、穴だらけだった地面が元の平坦地に戻った。

「野菜の被害はリカバリーできないけど、何もしないよりマシでしょ。それより、馬車の中!!」

 私たちは急いで幌馬車に飛び乗った。

 そこには、裸にされて顔をボコボコにされ、力なく馬車の床に倒れているスコーンを発見した。

「まさかとは思うけど……」

 私が無線を弄り始めると、アイリーンが動かないスコーンの容態を確認し始めた。

「緊急、ナーガ、アメリア、シルフィ。ちょっと西門までできるだけ急いできて。あと、他は宿の近くに破壊されたうどん屋台があるから、そこにいるシャドウラの保護をお願い」

 私は無線をポケットにしまうと、ぐったり意識のないスコーンに回復魔法を掛けようとしたが、魔力切れの兆候が激しく途中で断念した。

「悪い、探査で魔力を使い過ぎた。一時間くらいしないと、元に戻らないよ。私も倒れたい」

 私は苦笑した。

「そこで座ってなよ。大丈夫、ややこしい事をされた形跡はない」

 アイリーンが笑った。

 しばらくして、呼び出した三名がやってきて幌馬車に飛び乗ると、一瞬だけ息を呑んでから、慌てた様子で回復魔法をかけ始めた。

 ボコボコだったスコーンの顔が元に戻り、小さく声を漏らした。

「これで大丈夫です。服が破られていますが安心して下さい。サイズ違いですが、とりあえず私の寝間着を来てもらいます」

 シルフィが優しい笑みを浮かべた。

「分かった、ありがとう。私はちょっとダメだけど、宿までなら気合いで帰るよ」

「そんなことをしないでも、このままな馬車で戻りましょう」

 アメリアが笑みを浮かべ、御者台に飛び乗って馬車を動かしはじめた。

「それにしても、この町も油断なりませんね」

 ナーガが苦笑した。

「ここは警備隊が目を光らせているし、安全ではあるんだけどね。完全に隙を突かれたよ」

 私は苦笑した。

 馬車は西門を潜り宿まで辿り着くと、私は携帯している異常なほど値段が高い魔力回復薬を飲み、なんとか立ち上がった。

「……あれ」

 ここにきて、どうにか意識を取り戻したスコーンが小さな声をあげた。

「酷い目に遭ったね。もう大丈夫だよ」

 私は笑みを浮かべ、シルフィの寝間着に着替えたスコーンをアイリーンが背負い、私たちは馬車を降りた。

「この馬車を処分してきます。町の中では燃やせないので」

 アメリアが馬車に乗って、東門へと向かった。

「では、さっそくスコーンさんを宿で休ませましょう。マリーさんもつらいでしょうし」

 ナーガが笑みを浮かべた。


 宿に入って部屋に戻ると、私は強烈な魔力切れの反動を味わい、そのままベッドに横になった。

 魔力は生命力から生み出され、それが潜在的な魔力になるが、一般的に魔力とよばれるものは、一度に放てる容量を指す。

 こうしないと生命が危ないという警告も兼ねているので、私は許容される中で相当量の魔力を消費した事になる。

 これを治すには、ゆっくり眠るしかない。

「一瓶五万クローネもする薬を飲んだから、少しはマシなんだけど、こりゃ動けん」

 私はベッドの上で苦笑した。

 四人部屋なのに誰も入ってこないなと思っていたら、スコーンが入ってきた。

「もういいの?」

「うん、大丈夫。だけど……なんかモヤモヤしちゃって。半端に弄られたせいかな」

 スコーンが苦笑した。

「それは、弟子のビスコッティの仕事じゃない? あるいはひたすら我慢!!」

「それが、ビスコッティがやってくれないんだよ。ダメです!! って」

 スコーンが隣のベッドに座った。

「どうしでも我慢できなかったら、自分でやりなよ。私は魔力切れで動けないし、動けてもやらないよ」

「そんな事いわないでやってよ。お願い」

 スコーンがベッドに座って小さく息を吐いた。

「お願いされてもねぇ。ビスコッティの方がいいでしょ。無線で呼ぶよ」

「ダメ、お酒飲んでるから絶対にこない。マリー、頼むよ」

 スコーンが泣きそうになった。

「……うん、泣くほどか」

 私はバキバキいいそうな体を動かし、鞄の中からオモチャを取り出した。

「これ貸すから、自分でやってね。今は動けん……」

「……一緒に寝ていい。だったらそれいらない」

 スコーンが私の返事も聞かず一緒のベッドに横になると、私に抱きついた。

「よく分からんけど、これでよければ……」

 私は苦笑した。

 しばらくすると、シャドウラがやってきた。

「今回の件で怪我した人は、ここで休めといわれました。お二人とも仲がよろしいのですか?」

 シャドウラが笑みを浮かべ、私の向かいのベッドに座った。

「そりゃ仲はいいと思うけど、これはイレギュラーだよ。スコーンがちょっと故障して、おかしくなってるだけ」

「そうですか。私は魔法を使えませんが、お薬なら手持ちがあります。なにか、ご入り用があれば……」

「じゃあ、魔力切れの薬ある?」

「いえ、残念ながら……。恐らく、ただ眠って休むしかないと思います。風邪と同じで特効薬はないのです」

 シャドウラは申し訳なさなそうにいった。

「それもそうか……」

 私はスコーンを抱きかかえ、苦笑した。

「……ん。お姉ちゃん」

 スコーンが私にすりついてきた。

「誰がお姉ちゃんだ!!」

 とりあえず、叫び返してみたが、妙に可愛いのでそのままにしておいた。

「あれ、姉妹だったのですか?」

「違う違う、今日のスコーンがおかしいだけ!!」

 私は慌てて否定した。

「そうですか。でも、そうして並んでいると、お二人ともよくお似合いですよ」

 シャドウラがクスッと笑った。

「……分かってるんだ。スコーンが本当に心を開いているのは、ビスコッティだけだってね。だから、こういう機会も重要なんだ。」

 私は苦笑した。

「そうですか。羨ましいです」

 シャドウラが笑った。

「まあ、妹感覚だよ……のわ!?」

 スコーンの手が私のややこしい場所に触れ、そっと動かしはじめた。

「お姉ちゃん、なんか濡れてきたよ」

「ば、バカ者!!」

 私はスコーンにゲンコツを落とした。

「ビスコッティに比べたら、こんなの痛くも痒くもないよ。散々恥ずかしい目に遭ったから、今度はお姉ちゃんの番ね。

 スコーンが私のない胸に顔を押し込み、ややこしい場所を触り続けた。

「バカッタレ、いいからベッドから下りろ!!」

 なんとかスコーンを引っぺがそうとしたが、私にしっかりへばりついて離れなかった。

「あれ、そういう趣味が。私もそうですよ。男性は手荒なので嫌いです」

 シャドウラは部屋の扉を閉め、鍵を掛けた。

「ああ、魔力切れじゃなきゃ簡単に離せるのに!!」

 ベッドの上でジタバタしていると、シャドウラが床に膝を立てて座り、そっと口づけしてきた。

「こ、こら、シャドウラまで!!」

「私は大人の女性が好きなのです。これもなにかの機会ですし、遊びましょう」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

「このバカ共が。クランペットとアリサ、天井裏にいるのは分かっているど、お金を払うから助けろ!!」

 私が叫ぶと、天井の板が開いてクランペットとアリサのコンビが飛び下りてきた。

「いいじゃないですか、たまには。お金はいらないので、ここで見学させて下さい」

 クランペットが笑った。

「はい、滅多に見ないので、とても新鮮です」

 アリサが興味津々といった様子で、私たちをみた。

「馬鹿野郎、見るな!!」

 最後の魔力を振り絞って、私は強風の攻撃魔法を放った。

 クランペットとアリサが部屋の壁に叩き付けられ、そのまま動かなくなった。

 なにせ、本当に最後の魔力を振り絞ったので、全く動けなくなったのは私も同様で、体の力がするっと抜け、もうあとは二人がなすままになってしまった。

 しばらく二人に遊ばれていると、扉を蹴破ってビスコッティが飛び込んできた。

「師匠、なにやってるんですか!!」

 ビスコッティは、ゲンコツをガンガン落としながら、私からスコーンを剥ぎ取ろうと頑張っている様子だったが、全く無視して私の顔を見て笑みを浮かべた。

「うん、可愛い。ずっとやりたかったんだ。ダメ?」

「ダメダメ、ビスコッティ、せめてスコーンだけでもなんとかして!!」

「それが、離れないようにしっかり抱きついているんです。こうなったら……」

 呪文を唱えたビスコッティの右拳が、文字通り鋼の一撃となって、スコーンの頭にめり込んだ。

「……ビスコッティ、邪魔」

 しかし、スコーンは健在で、ビスコッティを魔力の生ガス放射で吹っ飛ばした。

「が、頑丈だね……」

「うん、それが売りだから。ねぇ、パンツ脱がすよ」

 スコーンが私のズボンを器用に膝まで脱がして、下着をずらして指を差しこんできた。

「ぎゃあ、やめなさい!!」

「いや、やめない。オモチャは黙ってて」

 スコーンはニッコリ微笑んだ。

 まあ、よほど怖かったかストレスが原因だろうが、今宵のスコーンは切れ味が違った。

「こら、ビスコッティ。気合いをいれろ。私はもうダメだ」

「いわれなくてもそうします。秘技ママのフライパン!!」

 ビスコッティは魔法で巨大なフライパンを取り出すと、スコーンの後頭部目がけて振り下ろした。

 凄まじい音がして、さすがのスコーンも気絶して、クタッと私の体の上に倒れ込んだ。

 ビスコッティが持ってる巨大フライパンの上には、美味しそうな湯気を立てるオムライスが載っていた。

「成功するとオムライスが出来上がります、どうやら成功したようで、師匠を回収します。ここは怪我人専用にした部屋ですから、師匠はこのベッドに……」

 ビスコッティが空きベッドにスコーンを寝かせ、小さく笑みを浮かべた。

「では、私は飲み直してきます。アメリアとシルフィが時々様子を見にきますので……」

 ビスコッティが笑みを浮かべ、部屋から出ていった。

「スコーン、あれ大丈夫かな。もの凄い音がしたけど……」

 私はスコーンにずらされたパンツとズボンを元に戻し、でっかいコブを作ってベッドで横になっているスコーンをみた。

「あの、ベッドの横に寝てよろしいでしょうか。人間の社会に出る時に覚悟はしていたのですが、やはり怖いんです。リーダーのそばなら、きっと安心だと思って……」

 シャドウラが苦笑した。

「そりゃ構わないけど、今の私は魔力切れの極地だよ。なにも出来ないけど……」

「それでもいいのです。失礼します」

 シャドウラは空きベッドから毛布を取り出し、それに包まった。

「そんな事しなくても、ベッドの横開いてるよ」

「いえ、そもそも私たちは床に直接眠るので、この方が自然なんです」

 シャドウラが笑みを浮かべ、私のベッドの横に転がってすぐに寝息を立てはじめた。

「さて、私も寝るかな。おやすみ」

 こうして大騒ぎの夜は過ぎていった。


 魔力切れによくある体の痛みで起きてしまい、時間はまだ深夜だった。

 負傷者専用というだけで、まだ気絶しているスコーンの様子を見てから、私は部屋を出ようとして、微かなモーター音が聞こえた。

「なんだろ?」

 部屋の中に戻り、そっとシャドウラのベッドを見ると、布団に包まってオモチャを隠しながら、荒い息で艶っぽい顔をして寝ている彼女がいた。

「おっと、ゴメンね」

 私は即ベッドから離れようとしたが、素早くシャドウラが私の腕を掴み、小さく首を横に振った。

「なに、お邪魔じゃないの?」

 私は苦笑した。

「はい、一人だと虚しいので、せめて側にいて下さい」

 私は笑みを浮かべ、小さな椅子を持ってきて、シャドウラのベッドの脇に座った。

「これでいい?」

「はい、十分です。この一回でやめます。バカになってしまうので……」

 くぐもった声を上げるシャドウラの世界を邪魔しない程度に、私はその髪の毛を指で梳いた。

 程なく終わったようで、シャドウラが荒い息を吐きながら、布団の中からオモチャを取りだし、ゴミ箱に捨てた。

「使い切り型なんです。気持ちはいいのですが、これでも虚しくなりますね」

「まあ、私だってたまにこっそり待ち時間を使って、チョッ速イキをやるけど、面白くはないね」

 私は笑った。

「あの毎日こうしてる訳ではありませんよ。今日はちょうどそんな気分だったので……」

 シャドウラが苦笑した。

「よし、シャワーいってきな。ここは二十四時間お湯が出るから」

「はい、行ってきます」

 シャドウラが部屋から出ていき、私は苦笑したのだった。

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