第15話 赤き竜
誰かくると宴が始まる。
スラーダの里ではそうだった。
里の中央にある集会所に隣接する炊事場では、大騒ぎで準備が勧められていた。
私たちは集会場に入り、いつも通り宴の開始を待っていた。
しばらくブラブラしていると、一人のエルフがやってきた。
「こんにちは、私はラパトと申します。パトラが里の副長に就任したため。代わりに私が加わるようにとスラーダ様からの言づてがありまして、装備類は引き継ぎました。どうか仲間に加えて頂けませんか。特技というほどではありませんが、夜目が利く利点を生かして洞窟や迷宮のマッピングが得意です」
ラパトが深々と頭を下げた。
「マッピング……」
パステルがため息を吐いた。
「確かに私は人より夜目が利かないエルフですが……被ってしまいましたね」
パステルが苦笑した。
「はい、被ってしまいましたね。ここは一つ、二人でマッパーをやるというのはいかがでしょうか。私は罠の発見や解除が苦手なんです。二人で組めば、より安心だと思いますが。いかがでしょうか?」
ラパトは深く頭を下げた。
「これはどうも丁寧に……」
パステルも頭を下げた。
「マリーさんでしたね。リーダーとお聞きしています。何卒よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしく。十二頭の編成だから、パステルの後ろについて。私が殿を務めるから」
「分かりました。大人数で楽しそうです。よろしくお願いしますね」
ラパトは笑みを浮かべた。
「よし、食事が終わったら適当なところで切り上げるよ。マルシルの家も見にいかないと落ち着かないし」
私は笑みを浮かべた。
宴は相変わらず五月雨式に人がぽつぽつ集まりはじめ、適当に料理を摘まんで笑い声を上げたりしていた。
「お酒!!」
ビスコッティはアルコール度99%の、エルフのお酒を丁寧にグラスに注いで持ってきた。
「これ一杯だけです」
「うん、二杯目飲んだらぶん殴るよ」
私はそんな光景を見ながら笑った。
「あら、控えめですね」
スラーダが覗きにきて笑った。
「この料理が美味しいのです。私の好物でして……」
ラパトが小皿に料理を取り分けて、私たちの分まで持ってきた。
「へぇ、美味しいんだ。どれ」
スコーンが料理を一口食べた。
「独特の味だね。美味しい」
「はい、この料理は宴の時しか食べられません。ご馳走なんです。
ラパトとスコーンが笑った。
「お酒が欲しくなる味ですね」
マンドラが笑った。
「これ美味い。アメリアもシルフィも食え!!」
リナが笑っていった。
こうして宴もそこそこに私たちは中座し、マルシルの家に向かった。
マルシルが扉を開け、よく掃除された部屋が広がっていた。
「異状なしだね。感謝仕切りだよ」
私は笑い中に入った。
「凄いです。いつも表からみていましたが、中がこんなに広いなんて……」
ラパトが目を丸くした。
「はい、大変立派な家を立てて頂いて感謝の限りです。無事でよかったです。ここは魔物が多い土地なので……」
マルシルが笑った。
扉がノックされ、スラーダが入ってきた。
「突然ですが、里の模様替えの予定がありまして。この家を移転する事になりました。少し狭くなってしまいますが、この家は出来るだけ移築しますので、ご安心下さい。よろしいですか?」
「はい、贅沢はいいません。どこに移転になるのですか?」
「はい、パトラのキュウリ畑を埋め立ててそこに移転しようと思っています。正直、あれが一番邪魔だったんです。最初は普通のキュウリだったのでよかったのですが、あまりにも変な品種改良して、凄まじい物が育つようになってしまい、どんどん里の土地を浸蝕するようになってしまって……これは、私も悪いのですが、この際処分してしまう事にしました」
スラーダが頷いた。
「……分かりました。お任せします」
マルシルが一礼した。
「なるべく電気器具や内装の色、家具は再利用しますね。ベッドを置くスペースがないので、今まで通りハンモックで。ちょうど、エルフの皆さんが多いようなので」
スラーダは笑みを浮かべた。
「はい、お願いします」
マルシルが笑みを浮かべた。
「あの、横から口を挟みますが、トイレはウォシュレットがいいと思いますビデがついているので、色々と……」
ラパトが笑みを浮かべた。
「分かりました。ア○ゾンで手配しましょう。他にありますか?」
「私はこれで……」
マルシルが頷いた。
「分かりました。さっそく工事を始めますが、邪魔なキュウリの伐採作業があるので、一、二ヶ月待ってください」
スラーダが笑って、外に出ていった。
「さて、どうする?」
私はノートを取り出して、十枚掛けの結界の開発に入った。
「もちろんリベンジです。このままでは、帰れません!!」
パステルが笑った。
「また行くんだ。いいよ」
スコーンが笑った。
「話は聞いています。赤竜洞のレッドドラゴン退治ですね。私はこれを使います」
ラパトが笑みを浮かべ、へカートⅡのマガジンに薬莢が青く塗られた弾丸を装填した。「うむ、やってみよう……」
いつの間にか家にいた芋ジャージオジサンたちが、へカートⅡに青薬莢を込めていた。「ところで、この銃弾は特殊弾と聞いていますが、どんな……」
「うん、特別に作って貰ったDS弾。すなわち、ドラゴンスレイヤー弾だよ」
私は笑みを浮かべた。
「分かりました。かなりの強壮薬なので、気になったのです」
ラトパが笑った。
「それじゃ、みんな行こうか。今度は逃げないからね!!」
私は笑った。
パステルを先頭に、新たに加わったラトパを二番目に据え。私たちは街道を馬で突っ走っていった。
途中事故で街道が塞がれていたが、草原に回避し事故現場を横目に再び街道に戻って、ノンストップで馬を飛ばした。
小さな村の前を通り過ぎ、町の前を駆け抜け、私たち十二頭は落伍者の一人も出さずに、石畳の街道を端続けた。
『次の村。ピットインです』
インカムからラパトの声が聞こえた。
「了解」
私はビノクラで行く先を見つめた。
村には白地に大きく『PIT』と書かれた村が見えてきた。
「……間違いない。ピットだ」
私は苦笑した。
村に入ると、一本のレーンがあり、私たち十二頭は誘導のままそこに止まった。
そこで飼い葉を食べさて水を与え、足回りのチェックを行うと、先頭のパステルが素早く走り出した。
続いて三番目のシルフィが走り出しラパトがほぼ同時に走り始めた。
次ぎに出発した私が、ほぼ同時に出発したマンドラの馬のケツに激しく体当たりした。
「この野郎、早く行け!!」
私は笑った。
こうして、慌ただしい馬の休憩は終わり、私たちは隊列を組み直して、赤竜洞に向かっていった。
街道を走っていると、空が怪しく曇り、雨がぽつぽつ降り始めた。
私はマントで体を包み、蹄鉄が温まるのを待った。
「いくらウ蹄鉄がィンターミディエイトでも、この気温だと暖めないと」
私はインカムのトークボタンを押した。
「激しく蛇行走行して速度を気持ち抑えて。
私が指示を出すと、隊列がウネウネと反対側まで使って、みんなが蛇行をはじめた。
正面から街道パトロールのパトカーがやってきて、慌てた様子でJターンを決め。青いランプを点して先頭を走り始めた。
雨脚が強くなり、私たちはさらに加速して、休める場所がないかパステルに無線で問いかけた。
『だめです。この先百キロはなにもありません』
『割り込みます。もう少し先に林道があります。少し狭いですが、どうですか?』
「よし、そこを使おう。ラパト、よろしく」
私たちはラトパを先頭に、しばらく進んだ先にある小道に飛び込んだ。
道は砂利で舗装されていたが、馬で通るには十分だった。
私たちは馬の速度を落とし、砂利の上をゆっくりすすんだ。
やや上り坂に差し掛かり、私たちは馬を下りて手綱を引いて歩いた。
登りを終えると、そこは街道だった。
「近道できたね。よし、行こう」
私は馬に乗って無線のトークボタンを押した。
「今の故障に気をつけて行こう。蹄鉄が特殊だから、気をつけて」
『はい、分かりました』
「パステルの声が返ってきた。街道をそこそこ飛ばしながら走っていくと、最初に行くとには気が付かなかった小さな団子屋があった。
私はトークボタンを押した。
「あそこのお茶屋さんで雨宿りしよう」
『分かりました』
パステルの声が返ってきた。
お茶屋さんに到着すると、私たちは馬を下りた。
「あら、こんな雨の日に大変だったでしょ。マントはそこに掛けておくといいよ」
気のよさそうなおばちゃんの声に甘えて、私たちは壁のフックにマントを掛けた。
「ありがとうございます。ついでに、雨宿りをしたいので、団子とお茶を十二人前
私が笑みを浮かべると、おばちゃんも笑みを浮かべた。
「そこの座敷を使ってちょうだい。久々にお客さんで一杯だよ」
私たちは小上がりになっている座敷に靴を脱いで上がり、それぞれが適当なテーブルに」ついた。
「酷い雨にならなきゃいいけど……」
「はい。聞いた話ですが、雨が降るとレッドドラゴンは動きが鈍くなるそうです。これはチャンスですね」
ラトパが笑みを浮かべた。
「あの、それでどう攻略しますかね……」
私たちにではなく、自分に向かってという感じで、パステルが唸った。
「ブレスの兆候が見えたら、私が十枚掛けの結界を展開する。あとは私のドラゴンスレイヤーで攻撃だね。みんなの銃に込めた特種弾が、どれほど効果があるかテストも出来なかったけど、とにかく目を狙って」
私は笑みを浮かべた。
「分かりました。雨がやんだら休憩しましょう」
ラトパが笑みを浮かべた。
「あの、正直私は怖いです。ですが、頑張ります」
マルシルが真顔で頷いた。
「怖いのはみんな一緒だと思うよ。あんまり方に力をいれないで」
私は笑みを浮かべた。
「はい、頑張ります」
マルシルが笑った。
「よしよし、その調子」
本来は四人れるテーブルだったが、これほど多人数は珍しいようで、おばちゃんが団子をサービスで何回もくれた。
「さて、今度は倒せるかな……」
私は笑みを浮かべた。
夕方まで降り注いだ雨が上がり、私たちはオバチャンの声に手をふって返し、再び赤竜洞を目指した。
「このままじゃ夜になるな。これもチャンスかも」
ドラゴンとて、生物である以上眠る。
それが何日周期かは知らなかったが。運がよければ、こちらが先制攻撃できるな」
私はトークボタンを押した。
「夜を狙おう。ラトパと相談して距離を合わせて!!」
『分かりました。少し急ぎます』
先頭を行くパステルが馬の速度を上げ、程な赤竜洞に辿り着いた。
空も闇が迫る頃、私たちは馬から下り、空間にポケットを開けて。暗視装置付きのヘルメットを取り出し、全員に配った。
「あれ、いい物を持っていますね」
ビスコッティが笑った。
「それでは、偵察に言ってきます」
パステルとラトパが笑みを浮かべ、赤竜洞の入り口に向かっていった。
「リナ、攻撃魔法の準備して。威嚇用にファイアボールを撃ち込んで欲しいんだ」
「分かった。タイミングが来たら教えて!!」
リナは笑った。
『ラトパです。入り口付近の一頭は眠っています』
「分かった、みんな行くよ!!」
私は青光りするドラゴンスレイヤーを片手につき進み、アイリーン率いるみんなはそれぞれへカートⅡを構えて狙撃体勢に入った。
「リナ、ファイアボール!!」
「分かった!!」
眠っていたドラゴンに火球が飛び爆発したが、竜鱗に弾かれてそのまま消えた。
しかし、これで起きたようで、ドラゴンが首を上げた途端、構えていた狙撃隊が一斉にへカートⅡを放ち、首元の竜鱗が弾け飛んで緑色の血液が流れはじめた。
「「DS弾はきくか……」
私はトークボタンを押した。
「ガンガン狙撃して!!」
その間隙を突いてリナが攻撃魔法を放った。
ドラゴンの体に大穴が空き、狙撃の間隙み私は走り、ドラゴンスレイヤーを思い切り心臓目がけて突き刺した。
派手な声と共にドラゴンは倒れ、私は笑みを浮かべた。
「よし、どんどんいくよ。光の魔法は使えないから。ヘルメットの暗視装置を下ろして!! 私たちはは暗闇でもよく見える視界の中、パステルを先頭に走って奥に進んだ。
二体目のドラゴンは起きていて、私たちをを見た途端カチカチとクラッキング音を立て始めた。
「みんな、固まって!!」
私は呪文を唱え、十枚結界を張った。
すぐにブレス攻撃を受け、熱さで肌がピリピリした。
「ここは攻撃魔法。リナスペ・一!!」
リナが派手な魔法を放ち、赤い火線がドラゴンを切り裂いた。
赤い火線はドラゴンに当たると、竜鱗を派手にまき散らしたが、大したダメージを与えられた様子はなかった。
「あと二枚、急いで!!」
五重に展開した私の結界壁は、猛火に晒されて三枚破壊されてしまった。
「分かった、まだ研究中だけど……」
スコーンがドラゴンの頭部目がけて火線を放ったが。竜鱗に弾かれて消えてしまった。 続いてビスコッティが攻撃魔法を放った。
極太の光りがドラゴンの胴体に突き刺さった。
これには堪らなかったようで、ドラゴンは激しく暴れ床に崩れた。
そこに待ち構えていた様子の狙撃銃を構えたみんなが、一斉に銃撃をはじめた。
「DS弾には限りがあるから、無駄撃ちはしないでね。私が突っ込むからリナとスコーンは援護して!!」
元々、レッドドラゴンはブレスの効果が高いだけに体力の消耗が激しく、一回使うと三十分ぐらいはまともに動けず、ブレスも吐けなくなる。
そこにきて、ビスコッティの攻撃魔法でかなりのダメージを受けたようなので、私はホルスターから拳銃を抜いた。
役立つかどうか分からなかったが、この拳銃にも対ドラゴン用DS弾を装填してある。 倒れたドラゴンの体を駈け上り、私は拳銃の銃口を目に向けて構えた。
「二人とも行くよ!!」
私とスコーン、リナは同時に発砲を開始した。
ドラゴンは瞼を閉じたが、弾丸の方が優っていたようで、私が二個目のマガジンに交換した時には、スコーンとリナの射撃で瞼はボロボロに砕け、目の色が白く濁っていた。
「みんな、倒したよ。少し休憩にしよう!!」
私はドラゴンの死体から飛び下り、スコーンとリナも飛び下りた。
地面に座ったみんなは銃の整備や軽食を食べはじめ、私も携帯食で軽くお腹を膨らませた。
「探査魔法で調べました。この洞窟にはあと二体ドラゴンがいます」
パラトが笑みを浮かべた。
「一応警戒はしていたのですが、罠はないようです」
パステルが笑みを浮かべた。
「これで罠があったら気が滅入るよ。あと二体だね」
「出来た!!」
スコーンが叫んだ。
「ん、どうしたの?」
「やっと、ドラゴン用の魔法が出来たんだよ。どんなドラゴンでも倒せるはずだよ!!」
スコーンが笑顔になった。
「そっか、お疲れさま。まずは、次ぎよろしくね。今は水でも飲んでやすんで」
私は笑みを浮かべた。
小休止を終え、私たちは残り二体のドラゴンを目指して奥へと進んだ。
青光りする腰のドラゴンスレイヤーが、カタカタ振動しはじめた。
先頭を行くパステルが足を止めて身を低くし。それよりやや後方にいたラパトが伏せの体勢を取り、銃を構えた。
暗視装置により、私の目には一体のドラゴンがスヤスヤ寝ている姿がハッキリ見えた。
「スコーン、チャンスだよ。みんな伏せて」
小声で指示を出しながら私も伏せ、念のため結界魔法の準備をはじめた。
一人立ったスコーンは、呪文を唱え始めた。
「……仮百二十番」
スコーンが両手を突き出し、洞窟を埋め尽くすほどの大量の光りの矢が放たれた。
危機を察したようで、ドラゴンは目を開けたがそれとほぼ同時にスコーンの光りの群れがドラゴンに突き刺さり、お腹に響くような爆音が洞窟を微かに揺さぶった。
スコーンの攻撃魔法に寄って、レッドドラゴンは力なく地面に伸び、念のために拳銃で一発撃ったが、ドラゴンは全く反応しなかった。
「またド派手な……面白い魔法を開発したね」
私は笑った。
「うん、体内で爆発するからイチコロでしょ。竜鱗をどう抜くかで悩んでいたんだけど」
スコーンは笑った。
「よし、これであと一匹……」
「あっ、最後のドラゴンが動きはじめました。気をつけて下さい」
ラトパが警戒色を滲ませていった。
「こっちにくるかもね。隊列を作ろう。
銃を持ったパステルも加わり、最前列を狙撃チームで固め、後ろに立った私とスコーンは、呪文を唱え始めた。
洞窟の壁を荒々しく削りながら、一体のレッドドラゴンが迫ってきていた。
「射撃開始!!」
私が叫ぶと、構えていたみんなが射撃を始めた。
「スコーン、いける?」
「ダメ、呪文を間違えた。二十秒待って!!」
私は呪文を唱え、五枚重ねの結界を展開した。
カチカチとクラッキング音が聞こえ、レッドドラゴンがブレスを履いた。
「スコーン、ブレスは結界で防ぐから落ち着いて!!」
「うん、今度こそ……」
ブレス攻撃が収まると同時に、射撃チームか攻撃を始めた。
「……ぶっ飛べ!!」
スコーンが凄まじい威力を秘めた無数の光りの矢を放ち、前方のドラゴンを徹底的に叩きのめした。
どんなドラゴンでも倒せる。本人がいうとおり、頑丈な竜鱗が穴だらけになっているのが見えた。
「凄まじい威力だね……」
「うん、でもドラゴン以外には効かないよ。呪文を抉ってこう……」
スコーンが笑った。
「攻撃魔法はよくわからないけど、凄い魔法だね」
私は笑った。
「さて、どうしますか。一応、全てのレッドドラゴンは倒しましたが……」
ラトパが問いかけてきた。
「うん、このまま撤収も考えたんだけど、せっかくだから一番奥まで行ってみようか」
「はい、なにか感じます。これは、マッパーのカンですが」
パステルが笑った。
「じゃあ、いこうか」
「はい、探査魔法で調べてみましたが、そんなに深い洞窟ではありません。すぐに最奥部です」
ラパトが笑みを浮かべた。
「分かった。なにもないとは思うけど……」
私は苦笑した。
パステルを先頭に洞窟の最奥部まで来たが、特になにもなかった。
「……感じます。なにかがあると」
パステルが壁を触りながら、じっくりと調べはじめた。
「私はこういう事が苦手なんです。マッピングだけは自信があるのですが……」
ラパトが苦笑した。
「まあ、いいじゃん。二人で分担すれば楽でしょ」
私は笑みを浮かべた。
「……あっ、あった」
パステルが呟き、私の目にはただの土壁にしか見えない場所にチョークで○を描き、鞄から何やら道具を取り出した。
「昔はならず者のアジトだったようですね。なにが出てくるか……」
パステルが呟いた時、カチッと音が聞こえ、土地壁が少し動いてボロボロに崩れ去った。「これは大当たりです。滅多にないですよ!!」
パステルが声を上げた。
土壁の向こうには、様々な宝物が山積みになって放置されていて、私は思わず目を丸くした。
「これが冒険です!!」
パステルが笑った。
「こりゃたまげたね。今まで経験した事ないよ」
私は苦笑した。
「はい、これが冒険の楽しみです。財宝だけが目当てではないですが、ご褒美みたいなものです」
パステルが笑った。
「ご褒美ね。これ持ち帰るの?」
「それをこれから吟味します。危険なものはこのまま処分しないといけないので。皆さんは食事でもとってゆっくりしていてください」
パステルが笑みを浮かべた。
「あっ、数が多いので私も手伝います」
パラトがパステルと財宝の選別をはじめた。
「よし、休もうか。仕事は終わったし、ゆっくりしよう」
私は笑った。
しばらく休憩していると、パステルの財宝鑑定が終わった。
「どうだった?」
「はい、特に問題ありません。お宝は全て回収して私の空間ポケットにしまってあります。町に戻ってお金に換えましょう」
パステルは笑みを浮かべた。
「よし、これで用事は終わったね。早く町に帰ろう」
私は笑みを浮かべた。
ほぼ一直線の赤竜洞を出ると、馬屋のクランペットとアリサが馬の手入れをしていた。「蹄鉄をノーマルに戻しました。雨は上がりましたが、石畳はまだ滑るので気をつけて下さい」
「分かった、ありがとう」
私は小切手を切ってクランペットに渡した。
「毎度!!」
クランペットとアリサのコンビは去っていった。
「よし、みんな町まで急ぐよ!!」
私は馬に乗った。
パステルを先頭としたいつもの隊列を組み、私たちは街道を走った。
行きに寄ったお団子屋さんの前を通り過ぎ、ラパトが知っていた砂利の林道を駆け抜け、再び街道に出ると、もう空は夕闇に染まりつつあった。
「パステル、今日はここでテントを張ろう」
私は無線で先頭のパステルに呼びかけた。
『はい、分かりました』
馬の速度を落とし、しばらく歩かせながら草原に入ると、馬に積んでいたテントを各々張りはじめた。
私もテントを張り、積んであった薪を取り出してなるべく乾いた地面を選び、点火薬とマッチで火を付けて焚き火を起こした。
全員の準備が終わる頃には辺りは暗くなり、パステルとラパトが作ったご飯で焚き火の周りを囲んで夕食となった。
「しっかし、今回の仕事は命を覚悟したよ。赤竜洞なんて……」
私は苦笑した。
「仕事だったんですか。誰からの依頼だったんですか?」
パステルが聞いてきた。
「それはいえないんだけど、面倒ごとを押しつけてくるヤツだと思って」
私は笑った。
食事も終わり、片付けも終わると、やる事もないので、私たちは早々に眠る事にした。 自分のテントに入ると、魔力灯の明かりを点けて、衛星電話を取り出した。
文字情報を送ると、私は衛星電話の電源を切り、寝袋に収まった。
「これでよし。今度は、なにを押しつけてくるやら……」
私は苦笑し、そっと目を閉じたのだった。
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