第17話 忙しい

 翌日、ちょうど毎年恒例の雨期を迎えた六の月はじめ。

 まだ空が暗いうちに起きてしまった私は、衛星電話を取り出して宿の外に出て、遙か上空を回る通信衛星の電波をキャッチすべく、本体上部のアンテナを操作した。

『Connect』と液晶パネルに表示されると、私は文字情報で父王に向けてシャドウラを王家の仲間入りにして欲しいという旨のメッセージを送った。

「これでよし。チームメイトを置き去りですかって、どっかで聞いたセリフを言われたら困るからね」

 時間にして三時半。父王が起きている時間とは思わなかったかったが、思いの外早く返信が返ってきた。

「えっと、『いい加減、一度城に帰ってこい。王家を示す記章を渡さねばならん』 か。確かに帰ってないな。みんなが嫌じゃなければ、今日出発するか。馬だと最悪一ヶ月くらい掛かっちゃうから、当然空路か。島に行く時に使う一番機と二番機はあるけど、ロイヤル仕様の三号機と四号機も改装工事終わったかな。島仕様は塗装が派手すぎて、目立っちゃうしね」

 私は無線で空港の管理事務所に問い合わせた。

「あの、例の三号機と四号機はもう出来てる?」

『はい、二機とも駐機場に駐めてあります』

「分かった、ありがとう」

 私は無線機を胸ポケットにしまい、小さく笑みを浮かべた。

「YS-11ロイヤル仕様か。スコーンが喜ぶね」

 私は笑った。

「どうかしましたか?」

 どうやら起きたらしく、ビスコッティが笑った。

「今日は王都に行くよ。そろそろ、オヤジがブチ切れるから」

 私は笑った。

「馬で移動ですか。確か中央部ってかなり遠かったような……」

「いや、さすがに遠くて辛いから飛行機だよ。前もって、YS-11で王家専用機を作って貰っていたんたけど、すでに完成しているから使おう」

 私は笑った。

「YS-11でやったんですか。それは、希少ですね」

 私は笑った。

「見違えるほど立派になったはずだよ。ただ、どうしてもスペースが足りないから、ちょっとだけストレッチして、機体が長くなったけどね。テスト飛行済みで問題ないって結果は出ているよ」

 私は笑みを浮かべた。

「自分が王家の仲間入りしたとは、いまだに実感がありません。なにをすれば……」

 ビスコッティが苦笑した。

「なにもしなくていいよ。あくまでも、身分を確定して旅がしやすくるための、名ばかり王家だからね」

 私は笑った。

「名ばかりでも王家は王家ですからね。田舎貴族出身の私としては、エラい事になったと内心落ち着かないです」

 ビスコッティが苦笑した。

「私は王都は苦手なんだよね。城でオヤジの用事が終わったら、速攻で帰るから。ちなみに、王城の地下にある食堂は美味しい定食があるよ」

 私は笑った。

「それは楽しみです」

 ビスコッティが笑った。

「それにしても、ずっとお酒飲んでたの?」

「はい、眠れなくて」

 ビスコッティは苦笑した。

「そっか。なんか変な時間に起きちゃったから、私も付き合うよ。とっておきが、ここに預けてあるんだ」

 私は笑った。


 二時間ほどビスコッティと飲んで、深夜はお休みのオバチャンがグラスとおつまみのお皿を片付ける頃になって、スコーンが眠そうに下りてきた。

「あっ、起きたの?」

「うん、起きた。でも、眠い……」

 スコーンはビスコッティの隣に座り、コーヒーを注文した。

「今日は王都にいくよ。国王がいい加減一時的に帰ってこいってうるさいから」

「そっか、珍しいチョウチョとかいるかな……」

 寝ぼけている様子のスコーンはボンヤリと呟き、ビスコッティの顔に弱々しくパンチをめり込ませた。

「……師匠、怒りますよ」

 その手を退けて、ビスコッティはオレンジ色の表紙がついた本を取り出した。

「師匠が命がけでパクってきた本です。私になんか預けないで、自分で持っていて下さい」

「……分かった」

 スコーンはあくびをしながら本を空間ポケットにしまい、またあくびをした。

「ビスコッティにもいったけど、今日は飛行機で王都だからね。YS-11の王家専用機が出来たんだ」

 私が笑うと、スコーンは首を横に激しく振って目を覚ましたようで、大きな笑顔を浮かべた。

「なに、そんなのいつの間に作ったの。楽しみ!!」

 スコーンは運ばれてきたコーヒーを飲み、楽しそうに笑った。

「まあ、スペースが足らなくてストレッチしたから、オリジナルより大型機になっちゃったけどね。あとは、エンジンが双発から四発に変わった事だね。双発だと出力が足りなくて」

 私は笑った。

「あんなボッコくて古い飛行機を大改装したんだ。嬉しいな!!」

「改装というより再設計に近いね。知り合いにいい腕をした設計屋がいてさ。もはや、別の機体だと思って。一応、YS-11改って機種名だけど」

 スコーンの言葉に私は笑った。

「みんな早く起きないかな。早くみたい!!」

「まあ、昨日は遅かったからね。ゆっくり休んでいるんでしょ」

 私がノンビリいったとき、眠そうにシャドウラが階段を下りてきた。

 私と目が合うと微かに赤面し、隣の椅子に座った。

 それから待つ事約二時間経った頃、みんなが起きだしてきてテーブルの椅子が一杯になった。

「揃ったね。朝食を作るから待って」

  オバチャンが笑って、美味しそうな香りが漂ってきた。

「簡単なハムエッグ定食だけど、お代はいらないよ。サービスみたいなものだから」

「ありがと!!」

 私はオバチャンに手を上げて礼をいった。

 程なくテーブルには朝食が乗せられ、取り分けて食べる山盛りポテトサラダが追加された。

「それじゃ、いただきます」

 みんなお腹がすいていたのか、テーブルの上はあっという間に綺麗になり、食後のコーヒーやお茶を楽しんでいた。

「今日は王都まで飛ぶよ。国王が首を長くして待ってるから!!」

 私は笑った。

「また操縦か。パトラが抜けちゃったから、コパイが問題なんだよね……よし。ここは勘を信じて、パステルにお願いしよう」

 アイリーンがご指名すると、ちょうどお茶を飲んでいたパステルが吹いた。

「わ、私ですか。免許は持っていますが、農薬散布の小型機の経験がほとんどですよ。最近になって、やっと737の資格を取ったばかりで……」

「そんなの気にしない。私だって、民間機の資格なんてないんだから。YS-11ロイヤル仕様は四発機に改造したのか。腕がなるな」

 アイリーンが指をボキボキ鳴らしながら、小さく笑みを浮かべた。

「分かりました、なんとかやってみます」

 パステルが一息吐いた。

「そうと決まれば早くしよう。準備して空港に行かないと」

 アイリーンが椅子から立ち上がった。

「ああ、空港まではシャトルバスがあるよ。バスって人がたくさん乗れる車ね。ファン王国では当たり前だった乗り物をパクったらしい」

 私は笑った。

「要するに、乗合馬車を大きくしたようなものでしょ?」

 リナが笑った。

「まあ、そんなところ。黄色い車がそうだから」

 町の広場に新設されたバス停で待っていると、黄色い大型バスがやってきて止まった。「……しゅごい」

 スコーンが目を丸くした。

「なるほど、大きいにもほどがあるよ。ナーガの長身でも余裕だね」

 リナが苦笑した。

「ええ、これなら余裕ですが、間違いないですね。

 バスの横に、空港行きを書かれた表示板を指さし、私は笑った。

「ここに止まるバスはコンファラ空港行きだけだから、間違えようがないよ。

 空港までは無料なので、私たちは自動で開いた車体側方の大きな扉から車内に乗り込んだ。

 しばらくして扉が閉まり、バスは空港に向かってゆっくり走り始めた。

 少しだけ街道を走りすぐ枝道に逸れると、滑走路だけやたら長いコンファラ空港が見えていた。

 魔力エンジンの甲高い音と共にターミナルビル前で止まったバスから降り、私たちはゾロゾロとターミナルビルに入っていった。

 ファン王国がフィン王国の一地域になってから観光客が増えているらしいが、国内線のほとんどが近くにあるコルポジ空港との路線を開いていて、一応は官民一体の空港となっているこのコンフェデ空港の実体は、私が好きなように使っていい空港になっていた。

 国内線は僅か三往復だったが、それでも多少航空料金が安いコンフェデ空港を利用する客は多いらしく、ターミナルビルの中は結構な混雑だった。

「だいぶ空港らしくなったね。いいことだ」

 私は笑った。

「あの、ここは?」

 私にくっつくようにして歩いているシャドウラが、不思議そうな声で聞いた。

「ここは空港だよ。空飛ぶ機会に乗る場所だよ」

「そんなものもあるのですね。メモしないと……」

 シャドウラがメモを取った。

 しばらくターミナルビルの中を歩き『団体用出入り口』に向かうと、黒スーツが二人立っていて、閉ざされていた門扉を開けた。

「ご苦労様です。案内を……」

 私は王族の声に戻し、黒スーツを促した。

 私たち十三名は、出発ロビーに出ると、階下に向かって向かう階段を下りた。

 駐機場にはところどころ黒スーツが立ち、雨期特有の黒い雲が立ちこめた空の中警備に当たっていた。

 まず目に入ったのは、派手な塗装が施された、島仕様のYS-11だった。

 一番機の隣にある二番機の隣に、ロイヤル仕様に改造されたYS-11改が駐まっていた。

「……しゅごい。プロペラが四つもある」

 スコーンが声を上げた。

「もはやYS-11じゃないね。別の飛行機だよ」

 私は苦笑した。

 機内から伸ばされたステップを上ると、まずどこか豪邸のリビングのようにソファとテーブルが置かれた空間がコンパクトに設えられていた。

「……しゅご過ぎて言葉が出ない」

 スコーンが目を丸くした。

「その奥は座席か。革張りにしちゃってもう……」

 応接セットの向こうは、主に離着時に使う椅子が並んでいた。

「よし、座席に座ろう」

 私たちは、革の匂いも新しい座席に腰を下ろした。

 ベルト着用サインが出ていたので、私は座席のベルトを締めて離陸の時を待った。

「まいったよ。コックピットに入ろうとしたら、なんかパイロットもコパイも黒スーツのお兄さんが操縦をやってくれるみたいでさせっかく気合い入れてたのに」

「公務扱いにしたな……。まあ、ゆっくりしてれば」

「そうする。王都まで三時間か。暇だなぁ」

 アイリーンはぼやきながら、適当な席に座ってベルトを締めた。

 しばらくして、飛行機がプッシュバックされ、図太エンジン音が機体を揺さぶった。

 ゆっくり誘導路を走り、飛行機は滑走路に入るとエンジン音を響かせながら、飛行機は離陸した。

「さてと、王都まで三時間。なにしようかな……」

 飛行機が水平飛行に入り、ベルト着用のサインが消えると、私は前方のラウンジに移動した。

 しばらくボンヤリしていると、乗務員のお姉さんがお酒を勧めてきたので、私はテキーラサンライズを注文した。

「畏まりました」

 お姉さんが異様に広いギャレーに消えると、私は小さく息を吐いた。

 しばらく経つと、お姉さんがお酒を持ってやってきた。

「テキーラサンライズです」

「ありがとう」

 私はお酒を飲み、やはりボンヤリ機窓をみ積めた。

「ここでしたか、マスター」

「マスターはやめて。ケツが痒くなる」

 私は笑った。

「いえ、マスターはマスターです。よろしいですか?」

 私は返事の代わりに横に一人分ずれると、シャドウラが隣りに腰を下ろした。

 すぐにお酒のオーダーが来て、よく分からないからと私と同じカクテルを注文した。

「……昨日はマスターにお恥ずかしい所をお見せしてしまいました。どうか。忘れて下さい。 俯きながらポソッといった。

「忘れてあげない。可愛かったもん」

 私は笑った。

「では、内緒で」

「当たり前でしょ。誰かに話すものでもないし」

 私は笑った。

「よかった、本当はマスターが欲しかったんですよ。珍しく、一目惚れしてしまって」

「そうなの。じゃあ、付き合ってみる? 私は恋愛不適で有名なんだけどな」

 私は笑った。

「いえ、私はまだそこまで気心が分かりません。一応、お伝えしておかないとと……」

 シャドウラの顔が赤くなった。

「うん、覚えとく。まあ、テキーラサンライズでも飲んで。こんなところで、マティーニを頼んでも仕方ないからね。王都に知ってる店があるよ」

「お酒だったのですね。まだ飲んでいい年齢ではないのですが、いただきます」

 シャドウラは笑みを浮かべ、、運ばれてきたオレンジ色のカクテルを飲んだ。

「お酒お酒……あっ、先客がいた」

 ビスコッティがやってきて、ソファに座った。

「バーボン、ロックで」

 ビスコッティがお酒を注文し、私の隣に座った。

「空港からは城までのシャトル便が出てるよ。すぐそばだから」

「はい、分かりました」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

 しばらく三人で雑談していると、スコーンがやってきた。

「あっ、お酒飲めるの。私はビールでいいや」

 シャドウラの隣に座り、スコーンが笑った。

「だいぶ元のボロい感じから変わっちゃって、同じYS-11とは思えないけど、コレはコレでいいや」

 スコーンが運ばれてきたビールを口にして笑った。

「そりゃロイヤル仕様だもん。機体が大きかったら、もっと凄いものが出来たんだけどね」

 私は笑った。

「これで十分だよ。いい旅だねぇ」

 スコーンが呟いた時、飛行機が小さく揺れた。

 シャドウラが短い悲鳴と共に私にしがみついた。

「申し訳ありません。自分で飛んでないと、揺れには弱いので」

「そっか、落ち着かないなら、そのまましがみついていたら?」

「いえ、大丈夫です」

 シャドウラが私からそっと離れた。

 こうして、私たちは目的地のフィン国際空港に着陸した。


 空港から王城までは大型馬車によるシャトル便を利用した。

 城の正面玄関は避け、裏手の荷捌き場で無線を取りだし、父王を呼び出した。

 しばらく待つと、側近を連れた父王がやってきた。

「おう、久々だな」

 父王が手を上げて笑った。

「あのね、南部にいたんだぞ。突然帰ってこいっていわれても困る」

 私は笑った。

「いやな、久々に娘の顔を見たくなったのが半分、コレが半分だ」

 側近の二人が、私たちの服に記章を付けてった。

「これでいいじゃろ」

「これのために呼び出したんでしょ」

 私は笑った。

「そうじゃ、王家に属する者という証明だからな。簡単でよい。皆の紹介をして欲しい」

 父王が笑みを浮かべると、私は一人ずつ紹介していった。

「うむ、よかろう。是非、このバカ娘をサポートして欲しい。さて、わしの用件はこれだけじゃ。もっと頻繁に帰ってきて欲しいものだ」

 父王はそれだけの言葉を残し、城に入っていった。

 もう一人の側近が、私に黒いアタッシュケースを手渡し、そのまま王城に戻っていった

「これだけですか?」

 ラパトが拍子が抜けた声を上げた。

「うん、オヤジとの約束はこれだけだよ。せっかくきたし、王都の町でも歩く?」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、知っているようで知らないので」

 ラトパが笑った。

「私も気になります」

 シャドウラがメモ帳をとり出した。

「じゃあいこうか。といっても、今は慌てて町中で工事してるけどね。本来は田舎町だよ」

 私は笑って、先頭を切って歩きはじめた。

 家々が立ち並び、典型的な田舎町ではあったが、スコーンが目ざとく魔法屋さんを見つけた。

「寄っていいかな。なにか、掘り出し物があるかも知れないから」

「うん、いいよ。田舎だから、期待しない方がいいけど」

 店が狭いので、スコーンと私だけで入ると、魔法薬独特のニオイが漂っていた。

「いらっしゃい、ゆっくりみていってね」

 カウンターに立つおばちゃんが笑みを浮かべた。

「……この本、開かれないように結界が張られてる。こういうのほど、危険な事が書いてあるんだよね」

 スコーンが呪文を唱えると、本が青く光ってパラパラとページが捲られはじめた。

「速読の魔法を使ってるからね。これでもちゃんと内容は理解してるよ」

 スコーンが笑みを浮かべ、本を読むのを途中でやめて、レジカウンターに向かった。

「これがあれば、ビスコッティも回復魔法開発が楽になるよ。いや、みんなか。私は攻撃魔法に転化するけどね」

 その他に三冊をカウンターに置くと、スコーンは財布を取り出して、代金を支払った。

「毎度!!」

 おばちゃんが紙製の手提げ袋に魔法書を入れて、スコーンに手渡した。

「ありがとう。これで、研究するだけだよ!!」

 スコーンが笑った。

「いい買い物ができたみたいだね。よかった」

 私は笑みを浮かべ、スコーンと一緒に店をでた。

「ビスコッティ、いい本が手に入ったよ。回復魔法が使えるみんなで回し読みして!!」

 スコーンが元気にいった。

「はい、分かりました」

 ビスコッティが笑みを浮かべ、本を手に取った。

「よし、こっちだよ。美味い定食屋がある。お昼まだだもんね。

 その店は城からすぐ近くにあり、私たちは中に入った。

 いかにも老舗という感じの古びた店内は、ちょっとだけランチタイムより早いため、まだ空いていた。

「おや、久しぶりだね。団体さんだし、そこの座敷を使って」

 店のおばちゃんが声を掛けてくれた。

 座敷を占領した私たちは、すでにランチメニューに切り替わっていて、数少ないメニューの中で、日替わり定食を満場一致で頼んだ。

「あいよ、ちょっと待っておくれ」

 やがて店内は美味しそうな匂いに包まれ、私の好物である豚ロースの生姜焼きとご飯、味噌汁と漬物が載ったトレーが運ばれてきた。

「マスター、これはなんですか?」

「生姜焼き定食だよ。美味しいから食べてみて!!」

 私は笑って自分の分に箸を付けた。

 シャドウラの口の中に発達した犬歯が見えて少し食べにくそうにしていた。

「美味しいです。メモしないと……」

 シャドウラはなにやらメモ帳に記した。

「まあ、メモもいいけど、ゆっくり食べよう」

 私は笑った。


 王都といっても、まだ拡張工事中で、特に面白い場所はなかった。

「そういえば、遷都の方針でここは旧王都なって、元はファン王国の城だった場所に移動するみたいだよ。そうすれば、馬で二日もあれば行けるし、大きな空港もあるから移動が楽になるよ。今は田舎に住みたいって人のために町を拡張してるところ。結構いるみたいだよ」

 私は笑った。

「王家とはいえ、田舎育ちの私には分かるよ」

 コロン王国出身のリナが笑った。

「私も田舎ばかり旅してるから、よく分かるよ。都会は苦手だな」

 私は苦笑した。

 こうして、一通り城下町を巡り、最後にどこの町や村にもある共同浴場に立ち寄った。「ここは温泉を引いているんだよ。それだが自慢なんだ」

 脱衣所で裸になると、私は笑った。

「そうなんだ。温泉好きだから嬉しいな」

 スコーンが笑った。

「温泉ですか。初めて聞きます。マスター、どういう感じなのですか」

 いつものメモ帳を取り出し、シャドウラが聞いてきた。

「うん、簡単にいっちゃうと地下から湧き出てくるお湯で、色んな種類があるよ」

 私は笑みを浮かべた。

「それは気になります。私たちの集落は山に囲まれていて、お風呂もないので時々人間の町に出かけて、公衆浴場に入っていたのです」

 シャドウラが笑った。

「そっか、苦労してるんだね。そのちっちゃな角以外は人間にしか見えないから、安心していいよ」

 私は笑った。

「ここは脱衣所で服を脱いで、裸で入るんだよ。行こうか」

 みんなで裸になって体を洗い、湯船でしばらく雑談をしてから、私はまた網を持ってなにか探しているスコーンをみた。

「スコーン、なに探してるの?」

「クジラ!!」

 スコーンが笑った。

「さすがにそれはいないと思うよ」

「もちろん冗談だけど、ちっこいエビみたいなのがいるから、研究しようと思って集めてるんだよ!!」

 しばらくその様子を見ていたが、やがて飽きたかスコーンは小さな水槽を持ってビスコッティの横に浸かった。

「師匠、満足ですか?」

「うん、このエビ面白い!!」

 スコーンが笑った。

「さて、あとは帰るだけなんだけど、シャドウラの武器も調達したいからマーケットに寄っていくよ。市場から滑走路の使用許可は取り付けてあるから安心して」

 私は笑った。

「私も鎖帷子を……。ジャラジャラうるさいですが、革鎧だけというのも不安で」

 ビスコッティが苦笑した。

「あそこは武器の専門店みたいなものだから、防具を扱う店は限られているんだけど……。まあ、いい店を一軒知ってるから案内するよ。みんなも装備する?」

 私は笑った。

「そうですね、あまり重くなければ……」

 シルフィが笑みを浮かべた。

「ミスリル製で軽くて頑丈なのを作ってくれるよ。いっそ、全員装備しちゃうか。鎖で出来た鎧だから、動くとジャラジャラいうけど、それが邪魔なら装備しなければいいだけだし」

 私は笑みを浮かべた。

「そうしましょう。私だけ装備しても、全く意味がないので」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「分かった。そうと決まれば少し急ごう」

 私は笑みを浮かべた。


 入浴もそこそこに、私たちは着替えて浴場を出ると。バス停で空港行きのシャトルバスを待った。

 しばらく待って、空港からきたバスが、意外と多い乗客を吐き出し、空荷になったバスに乗り込んだ。

 しばらく待って、他に乗客がいないことを確認したか、バスの扉が閉まってゆっくりと空港に向かって走りはじめた。

 しばらく街道を走り、これでも立派になった田舎の空港ターミナルビルに到着すると、私たち一行は黒服の姿が守っている団体専用ゲートを通った。

 階段で階下まで降りると、再びバスが駐まっていたので、私たちはそれに乗り込んだ。

 バスはターミナルから発車したバスは、王家専用YS-11改の前で止まると、みんなで乗り込んだ。

 きたときと同様、応接セットの奥にある座敷に座り、ベルトを締めた。

 隣には誰も座らず、私は先ほど渡されたアタッシュケースから書類を取り出し、目を通していった。

「特にこれといったものはないね……」

 私は折りたたみ式のテーブルを開き、書類にサインをしていった。

「ん、これは……」

 その書類は、スコーンの島の近くにある無人島の購入申請書だった。

「スコーンの島ダメだったから、今度はあっちに目をつけたか。実効支配される前に、抑えておかないとね」

 私は誰に声を掛けようか考えた。

「スコーンの島はもうあるし、ビスコッティかな……」

 などと呟いている間に、飛行機のプッシュバックが終わり、私は書類を片付けて一度テーブルを閉じた。

 予定通り順調に飛べば、あの物騒なマーケットには一時間半程度の飛行時間だった。

 プッシュバックが終わった飛行機は、四発エンジンの強烈な騒音と共に、誘導路を走りはじめた。

 誘導路入ると、飛行機は爆音共に離陸滑走して空に舞い上がった。

「さて、島だね……。どうしようかな、今回は徹底していて、群島の中で、人が住める島全部だから、残り四島あるんだよね。あとは、岩礁みたいなものだから」

 飛行機が水平飛行に入り、私はさらに悩んだ。

「いっそ、全部私にしようかと思ったけど………ダメだ。お酒がいる」

 私はベルトを外し、前方にあるラウンジに移動して、ソファに座り片手にアタッシュケースを片手に、マティーニを飲みなが深く静かに悩んでうなり声を上げた。

 ずっと考え込んでいると、アイリーンがラウンジにやってきた。

「なに、ハエでも食べちゃった目をして!!」

 アイリーンが笑った。

「うん、島の割り振りなんだよ。四つあるなかで、一つはフィン王国海兵隊の演習用の申し出があったからいいし、一つはシャドウラが集落ごと引っ越すって行ってるからいいんだけど、迷宮があるっていう小島は完全に無整備だから、滑走路もなくてね海からも空からも接近困難なんだよ。だから、どうなってるか分からないし、ここはパステルとラパトの遊び場にしたいんだけど、どうしたもんだか。最後の島は海軍と空軍を駐屯させる事にした」

 私は苦笑した。

「それでいいんじゃない。でも、難攻不落の小島はどうするの?」

「海兵隊のチヌークヘリコプターでできる限り運んでもらうよ。開拓しないと、家も建たないから。ついでに手伝ってもらえるといいな」

 私は笑みを浮かべた。

「手伝うに決まってるよ。ホットドックばっかり食って、全然訓練しないって、コマンダーが頭を抱えていたから」

 犬姉が笑った。

「そりゃ困ったね。まあ、これを機に頑張るんじゃない」

 私は笑みを浮かべた。

「しっかしまあ、よく考えたね。島を丸ごと海兵隊に寄付とは」

「まあ、なにかと世話になってるからね」

 私は笑った。

「それにしても、ドラゴニアの集落が移転なんて聞いた事がないよ。存在しないって学者もいるくらいあったし。亜熱帯でも平気なのかな」

 アイリーンが笑った。

「まあ、これで完璧な防御だね。いくらなんでも、岩礁には乗れないから。

 犬姉が笑った。

「まぁね。今はまず、シャドウラの装備を考えないと」

「私の見立てだと、剣も使えるし拳銃なら射撃もものになるかな。プレートアーマーも着られるだろうけど。だったら私たちみたいに革鎧の方が身動きが取りやすいでしょ。本当は軍用のバトル・ジャケットが欲しいけど、あれ売ってないからなぁ」

 アイリーンが呟くようにいった。

「まあ、結局本人が気に入るかなんだけどね。ドラゴニアは人間状態でも私たちより頑丈らしいから、防具はそこそこかもね」

 アイリーンと話していると、スコーンがお酒を飲みにビスコッティとやってきた。

「あっ、邪魔だった?」

「うんにゃ、世間話してただけ。ビスコッティ、暇だから格闘でも教えようか?」

 アイリーンが笑った。

「いいんですか、知りませんよ」

「だろうね、やめておくよ」

 変な笑みを浮かべたビスコッティに手をパタパタ振って、アイリーンは席に戻っていった。

「マリー、そんな大事そうな鞄を持って、アイリーンとなにを話していたの」

「うん、国の都合でスコーンの島がある辺りの四島を有人にしたいんだって。割り当てに困っていたんだけど、大体決まったよ」

 私は笑った。

「どんなの?」

 私はテーブルに出しっ放しの海図と地図を見せた。

 スコーンの島が最南端なんだけど、一つは要望されていた海兵隊が占有する島で、こっちが空軍と海軍が使う予定の島、それでこの島が面白いんだけど、断崖絶壁に囲まれていて会場からの上陸は期待できないし、着陸出来ないから航空機を使いたいんだけど、どう使うか海兵隊と相談しないといけない。なんか、迷宮があるって噂の島だよ、それで、ここがシャドウラが集落ごと引っ越してくるっていってた島。これでいいかな」

「いいかなもなにも、もう決まってるんでしょ。カシスオレンジ!!」

 スコーンはお酒を注文して、小さく笑みを浮かべた。

「まあ、それで悩んでいた所に、アイリーンがきたんだよ。この難攻不落の小島をパステルとラトパがどう攻略かって感じだったんだけど、どうするかな?」

「私なら、攻撃魔法で一部を削って、ヘリコプターで送ってもらうけどな。パステルとラトパがそんな荒業を使うとは思えないんだよね。私も気になるな」

 運ばれてきたカシスオレンジを一口飲むと、隣のビスコッティがグラスを取り上げて自分で飲み干してしまった。

「飛行中は平地より、アルコールの回りが早いんです。このくらいにしておいて下さい」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「じゃあ、モスコミュール!!」

 運ばれてきたお酒を一気に飲み干してしまった。

「あー、飲んじゃった!!」

 ビスコッティが叫んだ」

「あのね、私だってちょっとは飲めるようになったんだよ。ねぇ、市場に寄ったら島にいかない? 雨期だし家が心配だから」

「ああ、スコーンの島ね。この機から乗り換えないとダメだね。国王直属のパイロットたちが乗ってるから、王都に返してあげないと」

 私は笑みを浮かべた。

「そっか、忘れていたよ」

 私は苦笑した。

 しばらく雑談していると、ポーンというベルト着用サインの音が聞こえた。

「あっ、戻らないと。スコーンもビスコッティも、そのグラスは席まで持っていっていいから」

 私は笑い、自分の席に戻ってベルトを締めた。

 こうして、飛行機は無事にマーケットに隣接している滑走路に降り立った。

「防具のオススメはこっちだから、ついてきて!!」

 アイリーンが先頭に立ち、私たちはマーケットの中に入った。

 一人で行ったら迷いそうな場所に、その小さな防具を扱う店があった。

「オヤジ、久しぶり!!」

「なんだ、アイリーンか。大人数を連れてどうするんだ?」

 明らかにドワーフと分かるおじさんが、小さく笑みを浮かべた。

「ドワーフの方なんですね。ならば、安心です」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

 ドワーフは多くが人間の社会に溶け込んでいて、武器や防具を作らせたら右に出る者はないという種族だった。

「この子なんだけど、見繕ってくれる?」

 アイリーンはシャドウラをカウンターの前に立たせた。

「うむ、ちょっとだけ痩せ型だな。採寸しようか」

「あっ、鎖帷子も買うから、そのつもりで!!」

 アイリーンが笑った。

「そうか、鎖帷子ならミスリル製のいいやつがある。全員か?」

「うん、全員だよ」

 ドワーフのおじさんは立ち上がって、鎖帷子をカウンターに乗せた。

「ミスリル製だ。軽くていいぞ。頑丈だしな。これを人数分と革鎧が一つか。色は?」

「はい、青がいいのですが、在庫はありますか?」

 シャドウラが聞くと、おじさんは青に塗られた革鎧を出した。

「順番がある。まずは全員分の鎖帷子を作る。そのあとこの鎧だな」

「あっ、私も代えたいんだけど、このピンクの白水玉を薄ピンクにしたいんだけど、在庫はある?」

 スコーンが元気よくいった。

「あるぞ。なんだその水玉模様は。ちょっとパクりたくなったぞ」

 おじさんが笑った。

「つい勢いで……あるなら欲しい」

「うむ、あるにはあるが、薄ピンクだぞ。それでいいか」

 おじさんは、上品な薄ピンクに塗られた革鎧をカウンターに乗せた。

「うん、それがいい!!」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「ならこれも調整しよう。なに、魔法を使うからすぐ終わる」

 おじさんが笑った。


 新しく装備した鎖帷子を、みんなでチャリチャリいわせながらマーケットの中を歩いていると、拳銃コーナーに着いた。

「私の見立てでは、拳銃が使えそうなんだよ。全身筋肉みたいに締まって整ってるし」

 アイリーンが笑った。

「あの、拳銃は撃ったことがないです。撃ち方は知識として知っているのですが……」

 シャドウラが自信なさそうに言った。

「それでいいよ、変な癖がついちゃったら直すのが大変だから」

 アイリーンは居並ぶ拳銃の中で、巨大なセミオート拳銃を手に取った。

「五十口径仕様のデザートイーグル。恐らく、これくらいじゃないと物足りないんじゃないかな。撃ち方は教えるよ。初めて会ったよ、コレが似合う女の子は!!」

 アイリーンが笑った。

「こんな大きいとは。でも、重さは大丈夫です。どうやって構えるのですか?」

 戸惑うシャドウラに、アイリーンが構え方を教えた。

「まだ弾が入っていないから軽い方なんだけど、どう?」

「はい、問題ないです。このくらいの重さの方が、扱い安いかもしれません」

 シャドウラが笑みを浮かべた。

「ここは撃てる場所がないけど、どっかで撃ってみよう」

 アイリーンが笑みを浮かべた。

「ビスコッティ、私も買う!!」

 スコーンがやる気満々で、棚に置いてあったデザートイーグルの箱を取った。

「……重い」

「師匠には難しいと思います。私は実用性の問題で実戦投入はしませんが、コレクション用に一丁買っていきましょう」

 ビスコッティが軽々と箱を持ち、スコーンの分もカートに入れた。

「ビスコッティでもギリギリだよ。スコーンは筋トレからはじめないと。まあ、ハッタリかます時にはいいかもね」

 アイリーンが笑った。

「さて、私もお買い物。ナイフがダメになりそうだから、クリスナイフでも買おうかな。 アイリーンは呟きながら、ナイフを扱っているコーナーに向かった。

 ナイフコーナーにくると、アイリーンが刀身が波を打った大型ナイフを手に取った。

「これで斬ると、縫合出来ない傷を負わせられるんだよ。悩んでいたんだけど、この際買っちゃえってね」

 アイリーンは笑い、近くにいた店員に声を掛け、みんなに見合ったナイフを集め始めた。

「ある意味、ナイフは消耗品だからね。持っていても損はないよ」

「あの、ナイフは苦手かもしれません。こんな立派なものを……」

 戸惑うシャドウラに、アイリーンが笑みを浮かべ、黙って買い物カートにナイフを入れた。

 あとは弾薬の箱をカートに入れ、レジへと向かった。

 レジの金額を見て小切手に額面を書くと、それをカウンターのおばちゃんに渡し、レジ向こうの椅子とテーブルが並んだ場所に向かった。

「ここは美味しいコーヒーと紅茶が飲める穴場なんだ。飲んでから行こう」

 私が右手を挙げると、飲み物のオーダーに店員が出てきた。

「私はコーヒーだけど、好きなものを頼んで!!」

 みんながそれぞれ注文し、しばしコーヒータイムとなった。

 コーヒーを飲み終わると、みんなが自分のコーナー代をテーブルにおいて、私たちは席を立った。

「しゅごい。しゅごい。ウィンナーコーヒーなんて、初めて飲んだよ」

 なにやら興奮気味のスコーンを背中を抱き、ビスコッティが苦笑した。

「さて、一度帰るよ。急がないと、遅くなっちゃうから」

 私たちはマーケットを出て、滑走路に向かった。

 みんなが飛行機に乗り込み、私は近くにいた係員を呼んだ。

「もう帰るから、使用料の精算を」

「はい、四発機で二時間半だったので、ちょうど百万クローネにまけておきます」

 私は小切手を切って、係員に渡した。

「毎度ありがとうございました」

 私が笑みを浮かべて飛行機に乗ると、ステップが上がって格納され、最前列の通路側に座った。

 飛行機がプッシュバックされ、誘導路を走り、飛行機はエンジン音を響かせながら飛び立った。

 私は窓際の席にアタッシュケースから取りだした資料を読んだ。

「えっと、本気でつまらない……おや、パーティ各位の詳細パーソナル・データがある。さすがに、シャドウラはないか。なんだ、スコーンの苦手な食べ物なんて、知ってどうするんだか。そっか、茄子が嫌いか。今度食わせてみよう。吐くほどじゃダメだけど、食わず嫌いもあるから、調理方法さえ工夫すればイケるかな」

 私はパラパラと資料を捲り、アイリーンのページで手が止まった。

「……魔法使えたんだ。しかも、イチゴ好きでパイナップルが苦手なのまで一緒。奇遇だね。王女繋がりで知っていたけど、本当にそうなんだね」

 私は資料を読み込み、それをアタッシュケースにしまって鍵をかけた。

「あれ、機密情報のニオイがしますね」

 ビスコッティが、スコーンの耳たぶを引っ張りながらやってきた。

「イタタ、もうしないから!!」

 痛そうなスコーンがジタバタしないように、どこにもっていたのかきっちり縛り上げていた。

「またスコーンがオイタしたの?」

「はい、私のスモークサーモンを食べてしまって。そのお仕置きです」

 ビスコッティが小さく笑みを浮かべた。

「ビスコッティ、そろそろ限界じゃない。縛りは十五分が限界だよ。肌の色が変わってるし、今すぐ開放して」

「あっ、私とした事が……」

 ビスコッティは、スコーンの縄をを大きなハサミで切って、スコーンの様子を診た。

「大丈夫です。しっかり見ていたのですが……」

「まだ甘いねぇ」

 私は笑みを浮かべた。

「ビスコッティのバカ。パッケージから出したままにしたビスコッティが悪いんだよ。スモークタンも!!」

「……スモークタンもですか。まあ、また作ればいいのですが、頭にきたので師匠とトイレで『対話』してきます。

 ビスコッティは、スコーンを引きずって、機体後部に向かった。

「あーあ……。まあ、食っちゃったものはどうしょうもないね」

 私は席を立ち上がり、コックピットと連絡を取った。

「よし、予定通り。ついでにスモークサーモンとチーズ、スモークタンも追加で。どうせ、コンテナの中は食材を積んでも余裕があるし」

 私は笑った。

 飛行機は二時間半の飛行を終え、無事にコンファラ国際空港に着陸した。


 帰ってきらた即出発ということで、こちらは座席を取り替えただけの島用一号機に移動した。

 すでに出発の手配がはじまっていて、飛行機にコンテナを積み込んでいるところだった。「食材は適当なものを用意しておいた。勝手にやっちゃったけど、食に困る事はないと思うよ。日持ちの関係で肉が中心で、あとは野菜だよ」

 私は適当に機内に散ったみんなに声を掛けた。

「あの、柑橘類のジュースが欲しいです」

 マルシルが遠慮がちにいった。

「今は忙しいから、水平飛行に入ってからね。アイリーンとパステルはコックピットか。 しばらく駐機していると、空が曇り始めて雨が落ち始めた。

「お昼の時間になっちゃったね。機内食はあるけど、いつ出発かわからないからあとで」

 しばらくすると、コックピットからの白い受話器が音を立て。私はそれを取った。

「アイリーンだよ。遅くなってゴメンね。もう出発できるから」

「雨だよ。頼むよ!!」

 私が席に戻ると、飛行機がプッシュバックされ、片方のエンジンが作動した。

 間もなく両エンジンが作動すると、飛行機は誘導路を走りはじめた。

 必要に迫られて敷設途中の第二滑走路が見え、いずれここがハブ空港になる事が簡単に予想できた。

 窓から見ると滑走路手前で停止し、国営航空の中型ジェット機が着陸して通過していった。

 しばらくすると飛行機が動き出し、滑走路に入るとエンジンが全開になった時に発する甲高い金属音が機内に響き、ギアアップする機械音が聞こえた。

「さて六時間。無事に到着するかな」

 さっそく気流の乱れに捕まり、派手に揺れた飛行機だったが、なんだこの野郎といわんばかりに上昇を続け、やがて雲の中に入った。

 機体は水平飛行に入ったが、アイリーンかパステルがなにか感じているのか、ベルト着用のサインがは消えなかった。

 しばらくして、ポーンという音と共にベルト着用のサインが消え、私は背もたれをリクライニングさせて、大きく伸びをした。

 ほぼ同時にはじまったリナとナーガのワゴンサービスで、私はお酒でではなくオレンジジュースを頼んだ。

 実はこれ、王家専用機のバーで出しているもので、これだけなくなってしまうのは嫌なので、みんなに秘密にしている事だった。

「さて、少し寝るかな」

 私は背もたれに身を預け、目を閉じたのだった

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