第5話 山越え

 翌日、私は宿の部屋で地図を手に取り、しばし考えた。

「よし、久々に北部に行こう。雪解け時期だから、もしかしたら美味しい山菜料理にありつけるし……」

 私は笑みを浮かべた。

 部屋を出ると、ちょうど女の三人組が、フロントでチェックアウトの手続きを行っていた。

「おはようございます。三人旅ですか?」

 私は階段を下り、三人に声をかけた。

「はい、私はアメリアでこっちがナーガ、続いてリナです。お一人ですか?」

 アメリアと名乗った女の子が、笑顔で聞いてきた。

「うん、一人だよ。どこにいくんですか?」

「はい、まだ特に決めていないです。どこかオススメはありますか?」

 ナーガが聞いてきた。

「私はこれから北部に向かうけど、よかったら一緒にいかない?」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、今年は雪解けが早かったようで、もう登山路は開通していると思いますよ」

 アメリアが笑った。

「よし、決まりだね。まだちょっと寒いから、麓の町でマントでも買おうか」

 私が笑うと、もう二人女の子が階段をおりてきた。

「あっ、おはようございます!!」

「おはようございます」

 利発そうな女の子が、挨拶してきた。

「おはようございます。旅の途中ですか?」

「はい、マッパーをやっていまして、地図作りの旅をしています。漏れ聞こえてしまいましたが、これから北部に向かうのであれば、ご一緒しませんか? あっ、私はパステルでこっちが助手のスコーンです」

 女の子は笑みを浮かべた。

「はい、いいですよ。地図作りとは、大変ですね」

 私が笑みを浮かべると、二人も笑みを浮かべた。

「じゃあ、旅は道連れといきますか」

 私は笑った。

 こうして、私たちは北部地域に向けて出発した。

 

 街道沿いにある途中の町に立ち寄りながら進んで行くと、やがてこぢんまりした小さな森がみえてきた。

「おっ、そういえば元気にやってるかな。みんな、ちょっと寄り道するよ!!」

『はい、分かりました。後方に異常は……あっ、ゴブリンが三体ついてきました。どうしますか?』

 パステルの声が聞こえた。

「みんな止まって!!」

 私は無線に声を叩き込み。全員止まった事を確認してから下馬した。

 三匹のゴブリンの方に歩いていき、声をかけた」

『……村が盗まれた』

『……なんとかして欲しい』

『……報酬はこれ』

 ゴブリンが取り出したのは、なぜかゴブリン専門の剣、ゴブリン・バスターだった・

「へぇ、これが噂には聞いていたけど、初めてゴブリン・バスターをみたよ。軽くていいね」

 私は笑みを浮かべた。

「……刃が薄いけど、僕たちは斬れる」

「……ゴブリン以外は斬っちゃダメ」

「……刃が折れちゃう」

 ゴブリンたちがボソボソ喋った。

「そっか、この薄さだもんね。分かった、報酬をもらったからには動くよ。みんな、いいね?」

 全員が下馬し、笑みを浮かべた。

「……ありがとう」

「……もう村は破片の山。今、生き残った人たちを救出している最中」

「……お姉さんたち魔法使いなのは分かる。ちょっと待って、救助が終わったらまたくる」

 二人のゴブリンが草原を駆けていった」

 私はその姿を見て、息を吐いた。

「これは、リナがいいね。聞いた話だけど、首を狙ってスパッと切り落とさないと、バキって折れちゃうらしいから」

「また極端な剣だね。お宝にしよう」

 リナが笑った。

「北部ですよね。道が三つあります。谷沿いの隘路、遠回りルートはシャレにならないので省くとして、オススメはこの街道を使う事ですね。但し、『!!!』マークがついています。恐らく、山賊多発次第なので、麓の町で護衛を探しましょう。きっと、多いはずです。

 パステルが地図を見ながら、コンパスを取り出して、方角を確認しながらいった。

「分かった。ここがメインストリートだもんね。隘路じゃ馬が通れないし、遠回りしてたら一ヶ月はかかるよ。近道ある?」

「はい、あるにはありますが、なぜか山賊のアジトの位置まで書いてあります。モロに真ん前を通りますが、どうでしょうか?」

 私は頷いて、パステルがマーキングした。地図をみた。

「……こりゃレンジャー呼ばなきゃダメか。それも、航空隊と陸上隊。危ない道だけど、確かにこの方が一日早く着く」

 私は無線のチャンネルを合わせた。

「ああ、私だけどポイントゼブラ21のA地点を掃除しておいて、フィン王国海兵隊も使っていいから。私の名前を出せばユーシーとかいいながら、準備はじめてすっ飛んで行くはずだから」

 私は近くのレンジャー事務所に連絡を入れた。

「さて、私もゴブリンのゴブリン退治なんて初めてだけど、みんないいね?」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、分かりました」

 マルシルが杖を構え片手で手綱を握った。

「急を要しますので、行きましょう」

 アメリアが笑みを浮かべた。

 全員が馬に乗り、先行く三匹のゴブリンを追った。

 やがて、破壊された粗末な村が見えてきた。

 私はビノクラで、村の様子を確認した。

「……相手の数はゼロ。略奪は終わってるかな」

 その村に到着すると、中は酷く荒れていて、剣がぶつかる音が聞こえていた。

「まだ戦闘中だね。そこの家の陰!!」

 私は馬から飛び下りた。

 全員が馬から飛び下り、全員が剣を持って走った。

 ボロい家の陰で。青い帽子を被った三匹のゴブリンと赤い帽子を被った六匹のゴブリンが、文字通り剣で火花を散らしていた。

「えっと、さっききた子たちが青帽子だったから、赤が敵か。念のためいっておくけど、攻撃魔法禁止ね」

 私は拳銃を引き抜いた。

「分かった。それじゃ行ってくる!!」

 リナが飛び出し、マルシルがライフルを構え、ナーガが肩に下げていたライフルを構えた。

 リナがゴブリン・バスターで一体の首を跳ね飛ばし、敵の群れに隙が出来た瞬間、マルシルとナーガが同時に発砲した。

 私は拳銃を構えて威嚇射撃しながら、リナに近づいた。

「伏せて!!」

「分かった!!」

 私とリナが同時に伏せた瞬間、マルシルとナーガの猛射がはじまった。

 それが終わると、私たちは残った三体に向かって攻撃を仕掛けた。

 あっという間に赤帽子のゴブリンを殲滅し、私とリナは思わずハイタッチした。

「さて、依頼にはないけど、サービスで復旧作業を手伝いますか」

 私はマルシルとナーガの元にいってハイタッチを交わし、全員でボロボロになった建物の残骸を片付け、怪我人を救い出した。

 ナーガとアメリア、マルシルが回復魔法を使い、傷ついたゴブリンの治療を始め、私は痛んでボロボロになった家の残骸を片付け、広場のような場所に集めた。

 死者はなく、酷くても骨折程度で、ゴブリンの依頼は達成できた。

「……ありがとう。これ、お礼。もう一本。本当ののゴブリン・バスター。今は平気だけど、僕たち以外のゴブリンが近づくと緑に光るから、有効に使いながら旅してね。この辺りは、結構いるから」

「私は鞘に入ったゴブリン・バスターをリナに差し出し、今までのゴブリン・バスターもどきを回収した。

「あ、ありがとう……。私、こんな剣技強かったかな……」

 リナが頭を掻いた。

「うん、それ魔法が掛かっていて、ゴブリンがイタズラしようとした時だけ、少しだけ身体能力が上がるの。だから、軽いし切れ味もよくなるんだ。怪我しないようにね」

 ゴブリンが笑みを浮かべた。

「あれ、いいの?」

 私が聞くと、ゴブリンが頷いた。

「うん、この里の守り神だけど、僕たちはそれを持つのに不適格って分かっていたの。だから、ちゃんと使える人に使って欲しいって思っていた。だから、よろしくね」

 そのゴブリンは、笑顔でみんなの場所に戻っていった。

「リナ、凄いのもらったね。それ、多分世界で一振りしかないよ」

「そ、そうだね。ゴブリンからゴブリンしか斬れないゴブリンバスターなんて、まず他にないよ。よし、いこうか」

 こうして、私たちは馬に乗って村を出た。

 再び街道に出て、私たちはひたすら北部を目指した。

 途中でいくつも町や村を通り抜け。現金輸送馬車を追い越し、私は地図を見た……。

「パステル、寄り道したいんだけどいい?」

 私は先頭を行く無線で問いかけた。

『はい、どうしました?』

 無線でパステルの声が返ってきて、私たちは馬を止めた。

「この先にエルフの里があるんだ。挨拶しておきたいんだよ」

『分かりました。では行きましょう』

 パステルが馬を出し、私たちも馬を走らせ始めた。

 街道が森に入ると、パステルが馬の速度を落とし、私が先頭に立った。

 程なく素朴な木の柵で囲まれたエルフの里が見えてきた。

「こんにちは」

「なんだ、久々だな。長老が会いたがっていたぜ」

 門番に声をかけると、笑みを浮かべた。

 柵の門を開けてもらうと、私たちは下馬して里の中に入った。

「あっ、マルシル。マリーたちがきたよ!!」

 友人のエルフであるラパトが、私たちを見つけて、駆け寄ってきた。

「久々だね。長はいる?」

「いるよ、挨拶しにいくんでしょ。早くいってきて!!」

 ラパトが笑みを浮かべ、巨木にいくつも並んだツリーハウスの一つに向かって走っていった。

「そんなに広くないし、全員は入れないからここで待っていて。すぐ終わるから」

「分かりました。待っています」

 パステルが笑みを浮かべた。

「それじゃ、行ってくるよ」

 私は馬を引きながら、ラパトのあとを追って、ツリーハウスの一つに向かった。

 ハシゴ上の階段を上り、ツリーハウスに入ると、見た目は三十代前後のスラーダががなにか書き物をしていた。

「あら、お久しぶりですね。元気そうでなによりです」

 スラーダが笑みを浮かべた。

「はい、近くにきたもので、休憩がてらちょっと寄りました」

 私は笑みを浮かべた。

「そうですか。私はあなたの元気な顔を見て安心しました。どうぞ、ごゆっくりして下さい」

 スラーダが笑みを浮かべた


 ツリーハウスから下りると、私は馬を引き。みんなが馬に水や飼い葉を与えている場所に移動した。

「ここはエルフの里だけど、長とは友人だし、挨拶も済ませてあるから、自由に里をみていいよ」

 私は笑みを浮かべた。

「これがエルフの里なんですね。スコーン、さっそくマッピングしますよ」

 パステルがスコーンを連れて、なにやら作業を始めた。

「よしっと、私はラトパと遊んでくるよ」

 私は近くをウロウロしていたラパトを連れて、里の奥に向かった。

 里の奥には、畑や牧草地帯が広がっていて、のどかな景色が広がっていた。

「よっと……」

 村の奥に向かう水路を跨ぐ橋を歩く途中で、私は足を滑らせて落ちてしまった。

「あっ、水浴び? 私もやる」

 ラパトが水路に飛び込んできた。

「なんか食べる?」

 ラパトが鞄からキュウリを取り出し、私に手渡してきた。

「き、キュウリね……」

 私は苦笑した

「あら、そんなところでなにをしているんですか?

 やってきたスラーダが笑った。

「うん、落っこちた!!」

 ラパトが笑った。

「あら、またですか。そこは大事な水路ですよ。早く上がりなさい」

 スラーダが笑った

「うん、分かってる!!」

 ラパトは頷き笑みを浮かべた。

 水路から上がって、牧草地帯の地面に寝転ぶと、隣にラパトが横になって並んだ。

「……長の許可は取ってあるし、もう一人マルシルっていうんだけど、条件にあった二名以上もクリアした。今度こそ、旅に連れていってもらうからね」

 ラパトが笑った。

「はいはい、結構大変だよ」

 私は苦笑した。

「覚悟の上だよ、約束したからね」

 ラパトが笑みを零した。

「分かった。ところで、シャワーを貸してくれる。ずぶ濡れだよ」

 私は笑った。

「いいよ、早く着替えた方がいいね。着替えはこれ。エルフの民族衣装だよ」

 ラパトが着替えを差し出してきた。

「あっ、そうだ。みんなこれに着替えるようにいってくる。揃えないと狙われちゃうから!!」

 ラパトは鞄から服を取り出した。

「なるほどね、野盗避けか」

 私は笑みを浮かべた。

「まあ、気休め程度だけどね。中には、そんなの気にしねぇって輩もいるから、油断はしないでね」

 私は笑った。

 シャワーを浴びてスッキリすると、私はラパトが渡してくれた民族衣装に着替えた方。

 そのうちパラパラとみんなが集まって着替え始め、見た目はエルフの集団となった。


 そこはちょうど街道が交差する地点で、パステルが地図をみつめた。

「……ここは崖沿いの隘路だし。ここはなんか『!!!』マークがついてるし」

 パステルがブツブツ呟きはじめた。

 しばらくして、アメリアが笑みを浮かべた。

「決めました。かなりの急坂ですが、こっちの街道に行きましょう。一日多く掛かってしまうかもしれませんが、命あっての物種。急がば回れです」

 アメリアは笑みを浮かべた。

「分かった、任せるよ」

 私は笑みを浮かべた。

「では、行きましょう。それにしても、ちょっと寒いですね」

 アメリアが笑い、私たちの先頭を切って走り始めた。

 街道を走っていると、ハンドシグナルでアメリアが止まれの指示を出してきた。

 私はビノクラを取りだし、周囲を確認した。

「……こういう平原だもんね。やっぱりいた、アレが」

 私は下馬し、みんなも馬から飛び下りた。

 ビノクラで改めて確認すると、数百匹のゴブリン大集団がこちらに向かっていた。

「みんな、ゴブリンの大軍だよ。それ!!」

 私は極大の火球を生み出し、それをゴブリンの群れのど真ん中に叩き込んだ。

 大爆発が起き、アメリアが呪文を詠唱し、数百本の炎の矢が放たれ、さらにマルシルがど手な爆発魔法を炸裂させ、群れの三分の一位は吹き飛ばした。

 私は覗いていたビノクラを首に下げ、再び呪文を唱えた。

「今度は右!!」

 私たちは迫りつつあるゴブリンの群れを、攻撃魔法で跳ね飛ばした。

「また右です」

 マルシルが氷の矢を無数に放ち、アメリアが派手にデカい穴を掘って、そこにゴブリンを流し込んだ。

「今日は大漁ですね」

 私は無線で街道パトロールを呼び、私は笑った。

 マルシルとナーガ、アメリア、スコーンが攻撃魔法を放ち、平原に爆発の嵐を吹き散らした。

「……まだ多いな」

 私はビノクラ片手に呪文を唱え、大量の可燃物をぶちまけた。

 そこに、タイミングを合わせたかのように、マルシルとナーガ、スコーンが火炎魔法を放った。

 それが私の撒いた可燃物に引火し、一気に草原が燃え上がった。

「よし!! 四人ともお疲れさま」

 私が声をかけると、四人が手を上げて笑みを浮かべた。

 村を出ようとすると、戦闘用の鎌を背負った二人組の女の子がやってきた。

「こんにちは、私はリリムでこっちはリリス。この先にある山道のガイドをやっています。少々うるさかったので、様子を見に来たのですが、みなさん大丈夫そうですね」

 リリスが笑みを浮かべた。

「はい、大丈夫ですよ。あとは、ゴブリンにお任せしましょう」

 私は笑みを浮かべた。

 リリスが笑みを浮かべた。

 こうして、私たちは街道最大の難所に挑む事になった。

 リリムとリリスを先頭に、私たちは登山道をゆっくり登りはじめた。

 何度もつづら折りのカーブを抜け、峠を越えたところで、先導のリリムとリリスが私たちに停止の合図をだし、馬から飛び下りた。

「まずいです。滅多にないのですが、ダース・ドラゴンの成獣が街道を塞いでいます。意地でも気に入った場所から動かない性格なので、倒すしかありません」

 リリスとリリムが道端に避けた。

「うわ、ブラックドラゴンよりマシだけど……みんな、行くよ!!」

 私たちは、すでに国軍と街道パトロールの戦闘が始まっていて、陸軍の戦闘ヘリから放たれる攻撃魔法や機関砲を叩き込み、戦車部隊が派手に発砲音を立てていた。

 厳しいコーナーの前に、国軍の兵士っぽい姿をしているバリケードを置いて、交通規制していた。

「私の顔をお忘れではないでしょうね?」

 私が馬上から二人をみつめ、メグレ警視総監とゼニガタ警部が慌てて、ボンヤリしている兵士を蹴飛ばしながら、バリケードを脇に寄せた。

 やっと我に返った様子の兵士が道端に並んで簡略化された敬礼を放ち、警視総監と警部が脱帽立脚した。

『あの、もしかし高名な貴族だったりします?』

 無線でパステルの声が聞こえてきた。。

「そんなわけないでしょ。ただの旅人だよ!!」

 私は笑った。

「さて、他に冗談いいたい人いる? この先は修羅場だよ」

『あの、ダースドラゴンって、ドラゴンの中でもかなり高位ですよね。倒せますか?』

 上空を戦闘ヘリが飛んでいき、戦場が近い事は容易に察しがついた。

 アメリアが心配そうな声を出した。

「こりゃ大変だ。急ぐか……」

 私は呪文を唱え、探査の魔法を使った。

 虚空に無数のウィンドウが開き、周辺情報を表示した。

 これは全員共通なので、確認はしなかったがみんなが見ているはずだった。

「……えっと、今日もカルガリーが負けて、株価は正常だね……じゃなかった。えっと、ウィンドウが多すぎて、かえって分かりにくくなっちゃったな」

 私は必要なウインドウを以外をみて、急カーブの上の様子を確認した。

「やっぱり、総攻撃の真っ最中だね。巻き込まれるとまずいから、少し様子を見よう」

 私たちはゆっくり急坂のカーブを上り、そこで馬を下りて徒歩で坂を上っていった。

 熱気と爆音で、戦いの場所はすぐ分かった。

 すぐ近くに無数の戦闘ヘリが爆発炎上し、横横隊で並んだ10式戦車が三点バースト射撃で、巨大なドラゴンに砲撃を加えていて。何両も戦車が破壊されて燃え上がっていた。

 ビノクラで確認すると、歩兵部隊は全滅しているようで、正攻法ではとても勝てないと察した。

「……待機ね。そのうち隙が出来るから」

 私はしゃがんでライフルを構えた。

 しばらくすると、馬車の音が聞こえ、レンジャーのみなさんが、なぜかジャージを着て超絶巨大なライフルを手に取って、やたらゴツい銃弾を抱えるように持ち、軽々と銃に装填した。

 戦車隊が砲撃しながら後退し、私たちの横で横一列にシッティングスタイルで並んで、どこからそのパワーがですのか銃を一斉に構えた。

「……撃て」

 一人だけエンジ色のスタイリッシュなジャージをきたオジサンが小さく呟くと、全員が一斉に凄まじい激発音が響き渡り、崖がガラガラと崩れるほどの振動が伝わってきた。

 砲弾だか銃弾だか分からないが、それは天津事なくドラゴンの眼球を破壊して貫き、どこかに飛んでいってしまった。

 これは効いたか、ドラゴンがブレスを一回吐いて倒れた。

「よし、突っ込むよ」

 私は無線でみんなに指示を出した。

「……光りの矢」

 スコーンが攻撃魔法を放ち、飛んでいった光りの矢がドラゴンの竜鱗に弾かれて吹き飛んだ。

「えっ、しゅごい……」

 スコーンは慌ててスケッチブックを取り出し、なにやら書きはじめた。

「ドラグ・スレイブ!!」

 リナが攻撃魔法を放ち、あとを追うように走り始めた。

「よし、いくぞ」

 私、マルシルが共に攻撃魔法を放ちながら、剣を抜いて突っ込んでいった。

 リナの放った紅い光線は、やはり竜鱗で弾かれ、ドラゴンが少し動いた。

「まずい、コイツってそういえば自己再生能力を持っていたんだ。急げ!!」

 私はドラゴン・スレイヤーを鞘ごと、マルシルに放った。

 それを受け取ったマルシルが鞘から剣を抜き、その鞘を杖代わりにドラゴンの腹に大穴を空けたが、すぐに自己再生がはじまったが、その穴にマルシルが突撃し、体内に飛び込んで、ザクザクと斬りはじめた。

 リナがドラゴンの体に器用に上り、私も上にのぼった。

「竜鱗ってどこだっけ?」

 剣を片手にリナが聞いた。

「頭のその黄色い塊なんだけど、剣でも魔法でもたたき壊せるかどうか……」

 私は唸った。

「簡単、いくよ」

 リナは笑みを浮かべ、呪文を唱えた・

 手にしたショート・ソードが青く輝き、リナは竜鱗を一撃で粉砕した。

「ほらね」

 リナが笑った。

「すげ……おっと、凄いね。どこで、剣を習ったの?」

「もちろん、我流だよ。まあ、あまり上手くないけど!!」

 リナは笑顔で剣を収めた。

「これで倒したね。さて、今度は下を手伝おう。人数は多い方がいいでしょ」

 私は笑みを浮かべた。


 私たちがドラゴンの背から下りると、怪我人の治療がはじまっていた。

「ごめん、手が足らない。手伝って!!」

 スコーンが声を駆けてきた。

「分かりました。では……」

 パステルが呪文を唱え、青白い光りが辺りを包んだ。

 怪我人だけでなく、壊れた戦車や戦闘ヘリまで直り、私はとんでもないものをみてしまったと思わず笑みがでた。

「……しゅしゅご」

 スコーンがポカンとした。

「今の魔法は致命的な傷を負った者にしか聞きません。私は神聖魔法しか使えないので、軽中傷の処置はお願いします」

 パステルが頷いた。

「分かった。回復魔法出来る人、やるよ!!」

 スコーンが叫び、私たちは治療に当たった。

「こ、これじゃキリがないね……」

 私が呟いた時、四機のチヌークヘリコプターがバタバタと飛んできて、次々にパラシュートの花が空に咲いた。

「あっ、増援がきたみたいだよ……。でも、みんな白衣着てるけど空飛ぶお医者さん?」

 次々に地面に着地した白衣の集団は、一斉に傷や怪我の様子をみはじめ、トリアージやら点滴やらの処置を始め、私の頭は? マークで一杯になった。

「私たちが無線連絡しておきました。思ったより、ちょっと遅かったですが、ここが街道だから出来た事です」

 リリムとリリスが笑みを浮かべた。

 ……結局、千名越える死者を出し、ドラゴン退治は終わった。


 一戦終えれば腹が減るということで、集まったみんなでドラゴンの肉の処理に掛かった。

 ドラゴンの肉は大変美味しいと評判で、私も食べた事がないので楽しみだった。

「はぁ、疲れたね」

 私は擦り傷にラトパがくれた傷薬を塗りながら、私は笑みを浮かべた。

「まいりましたよ……肉だらけで……」

 モロにドロドロになったマルシルが、自分に回復魔法をかけた。

 ドロドロの体が綺麗になり、マルシルは笑った。

「シャワー浴びたいです」

 マルシルは、私にドラゴンスレイヤーを収めた鞘を返した。

「マルシルは特にそうだろうね。なんとかならないかな……」

「連絡です。フィン王国海兵隊の第二陣が向かっているそうです。先ほどの白衣の集団は第一陣だそうで、第二陣には調理器具や簡易シャワーもあるそうですよ」

 リリムが笑みを浮かべた。

「あっ、それ嬉しいです。回復魔法だと、どうしてもニオイまでは落ちないので」

 マルシルが笑った。

「はい!! 今度は私が肉を取ってきます。何千人前でしょうね。これ……」

 パステルが笑い、包丁を持ってドラゴンの亡骸に向かって走っていった。

「あれ、一人じゃ不可能だよ。私とナーガも手伝ってくる。アメリアもいこう」

 リナが笑みを浮かべ、大量の包丁のような物を持っていった。

「さてと……あっ、本当にきた」

 バタバタと七機のチヌークヘリコプターが、バタバタ飛んできた。

「……ちょっと、多すぎないかな。着陸出来るかな」

 などと心配していると、ヘリコプター八機が到着した。

「うーん……こりゃ大騒ぎって、なんかまたバタバタいってるけど……」

 さらに十二機もチヌークヘリコプターがバタバタ飛んできて、街道を全て埋め尽くす勢いで着陸し、一斉にドラゴンに群がって解体作業を始め、骨やらなにやら色々な不要部分をヘリコプターに積み始めた。

「この街道はなにをやってもいいけど、原状復帰はしなきゃならないルールでして、正直倒せても困るなと思っていたのですが、これは助かりました」

 リリムが笑みを浮かべた。

「そりゃ、こんな物のが鎮座していた、倒しても同じだもんね。しっかし、どこで聞きつけたのか、来る事来る事……あっ、戦闘ヘリまで。もう、なんでもありだね」

 私は苦笑した。


 山道には似つかわしくないほど人が集まってしまい、大宴会が始まってしまった。

「これ、大丈夫かな。多分、通行止めにはなっていると思うけど……」

 私はリリムに声をかけた。

「はい、私から連絡を入れて、まだ『交戦中』になっています。アイディアは、リリスですけれど」

 リリムが笑った。

 しばらくドラゴンの肉を堪能したが、これだけ集まってもまだ余るほどの量があった。「あれ?」

 リリスが無線機を弄った。

「救難信号です。この崖下に転落した方がいるようで、人数は八名。命に別状は内装ですが、重症者が数名出ているようです。ちょうどレンジャーのみなさんもいますし、フィン王国海兵隊の方々もいらっしゃいますので、可能なら救助しましょう。救助不能であれば、諦めるしかないですが……」

「うむ、任せろ……おっと、任せてくれ。おい、準備しろ!!」

 軍の制服をきたヒゲのおじさんが一声かけると、肉を食べていた白衣軍団の中から十名ほどヘリコプターに飛び乗り、エンジンをかけ始めた。

 夕空にエンジン音がこだまし、チヌークヘリコプターが二機飛び上がった。

「大丈夫ですか?」

 アメリアが肉が載った皿を持って近寄ってきた。

「うむ、問題ない。祝宴を楽しむがいい。ところで、所属とかい……っと、いかん。まああ、私の事は元帥と呼んでくれ」

 ヒゲのおじさんがニッコリした。

「そうですか、なにか、急に『ETAファイブミニッツ』とか、緊迫した声が聞こえたもので、ただならぬ事がおきたのかと……」

「うん、滑落事故だよ。スコーンに知らせて、怪我人が出ているみたいだから」

 私は頷いた。

「分かりました、人数は?」

「無線では八名っていってたみたいだよ。リリス、どう?」

 私が声を駆けると無線で交信していたリリスが、ため息を吐いた。

「十名に訂正です。茂みでよく見えなかったそうで……」

「うむ、十名だな。さっそく手配しよう。おい、お前らいくぞ」

 ヒゲのおじさんが笑みを浮かべて立ち去っていった。

 一機のヘリコプターが離陸して、もう真っ暗な谷間にゆっくり降りていった。

「大丈夫かな……」

 リナが声を漏らした。

 軍服を着たフィン王国海兵隊のが急いで救護所を建て始め、みんなで反対側で足止めを食っていた通行人の誘導を始めた。

 街道の往来が回復し、街道パトロールの二人組がやってきて、ドラゴンの肉を囓りながら、ドラゴンのガラをヘリコプターに積む作業を手伝い始めた。

 私はビノクラで周囲を監視しなががら、万一に備えて剣を抜いた。

「大体片付いたよ!!」

 スコーンが見知らぬ人を連れてやってきた。

「医師のシルフィと申します。お伺いした話だと、怪我人多数と。お手伝いします」

 シルフィがパスケースに入った身分証と医師免許のカードを提示し、ニッコリ笑みを浮かべた。

「それは助かります。救助作業は、恐らく大変だと思いしますが、お時間は大丈夫ですか」

 私はシルフィに聞いた。

「はい、無医村を回って診察していますが、ちょうど最後の村が終わったので時間はあります。しかし、よくダーク・ドラゴンを倒せましたね」

 シルフィが笑った。

「まあ、ヤケクソみたいな方法だけど、正攻法じゃ不可能でしょ」

 私は苦笑した。

 しばらくして、救助に向かっていたヘリコプターが上がってきて、後部ハッチが開いて担架に乗せられた怪我人たちが、応急の救護所に運び込まれた。

「シルフィ、医師なら手伝って!!」

「はい分かりました」

 白衣姿が二つ救護所に消え、私たちはドラゴンの血のニオイに引きつけられて出てくるであろう、魔獣の退治に向かった。

「……ハインド・ドック発見。やっぱりきたな」

 ビノクラで確認し、私はハンドシグナルで二人に攻撃指示を出し、パステルとマルシルがライフルで撃ち倒した。

 集まっていた百五十両程度の戦車が一斉に超新地旋回して、街道脇の森に向かって同軸機銃を撃ちまくった。

「あの、終わりました。今度はぶっ飛ばしますか?」

 スコーンとシルフィがきて、二人ともライフルを手に取った。

「いや、もう逃げたでしょ。戦車隊が暴れたから、さすがに近寄れないでしょ」

「うん、敵は?」

 スコ-ンが、笑みを浮かべた。

「大丈夫だと思うけど、用心はしておいて」

 私はドラゴンの肉を解体する作業を見守った。

「みんな、今日はご馳走にありつけるかもね。リリスとリリムも当然参加するよね」

「はい、もちろんです」

 リリスが笑みを浮かべた。

「ポン酢を持っています。食べるときに使いましょう」

 リリムが笑った。


 ドラゴンの解体は時間がかなり掛かりそうなので、手空きの人たちから焼き肉パーティーの準備を始めた。

 巨大なコンロのような機械が三台置かれ、フィン王国海兵隊のみなさんがバリバリ焼き始めた。

「あれ最新式の屋外キッチンだよ。一台で千人分とか焼ける凄まじいやつだから、早くしないとなくなるか、焦げちゃうよ。急ごう!!」

 私たちは焦げたようなニオイが漂う、屋外キッチンに向かった。

「あー、焦がしたな。もう、これだから……コマンダー!!」

「うん、お前が遅すぎるのだ。あっちに、まだ大丈夫な肉がある、仲間と食べるといい」

 私はコマンダー軽くお互いの手をタッチして、みんなに向かって「おいで、大丈夫」と声を掛けた。

 みんなが寄ってきて、巨大グリルで焼かれた串焼きの肉を頬張った。

 再びバタバタとヘリコプターの音が聞こえ、着陸する様子が見えた。

 さらにハリヤー三機が飛んできて、何事かと一瞬驚いた。

 ヘリコプターが着陸して、ハリアーが垂直降下してくるのが見えた。

「これ、ヘリコプターの見本市だね」

 私は苦笑した。

 戦車隊の隊員もゾロゾロ降りてきて、コンロ目がけて走ってきた。

 さらに、先ほど降りて来たヘリコプターからと思しき大軍と、Gスーツを着たまま突っ走ってきた」

「なにか、大騒ぎになってしまいましたね」

 マルシルが笑った。

「……しゅごい」

 スコーンが目を丸くした。

「そりゃ、ドラゴンの肉なんて、うっかり広帯域無線で流しちゃったから、当たり前だよね」

 私は苦笑した。

 その時、戦車隊の背後にいたパトリオットミサイルの発射機が動き、一斉に攻撃を始め接近していた二頭目のドラゴンに向けて攻撃を開始した。

 フィン王国海兵隊の大尉も一斉に動き、携帯型対空ミサイルを一斉に放った。

 さらに、先ほど降りたばかりのGスーツを着ていた隊員三名が、駆けて引っ込み、エンジン音を響かせながら、緊急離陸していった。

 しばらくすると、空で爆発が巻き起こり、翼がボロボロになったブラックドラゴンの若竜が落ちてきた。

「やばい、戦いだよ!!」

 私は声を掛けそばにいた海兵隊員のケツを蹴り、処理でヘロヘロのシルフィとスコーンをチラッと見やってから、肉をカジっていたマルシル・ラパト・パステルと同時に駆け出した。

 ブラックドラゴンは、最強といわれるファイアドラゴン、すなわちレッド・ドラゴンよりも格上で、知性もあるので会話で出来る個体もいるが、ほぼ破壊衝動だけの凶悪なドラゴンとして有名だった。

 ブレスなどのドラゴン族固有の攻撃方法は変わらないが、竜鱗の厚みが半端ではなく、弱点である竜鱗が三つあり、ほぼ同時に破壊しないとダメだといわれていて、ドラゴンスレイヤーですら効かないバケモノで、私も何度か遭遇しているが一目散に逃げ出す有様だった。

「あれ、これまだ若竜だよ。話せるかな……」

 私は奇跡的にヘリコプターを潰さずに、森の中に突っ込んだブラック・ドラゴンに近づいた。

「喋れる?」

 私は北方竜語で話しかけた。

「ああ、なんとかな。同胞が寝ている場所が、人間などの往来の邪魔だから退けといいにきたのだg、いきなりこれとは少々堪えたぞ。まあ、覚悟はしていたがな」

 ブラック・ドラゴンが苦笑した。

「待って、メディーック!!」

 私が大声で叫ぶと、スコーンとシルフィ、さらに海兵隊の衛生兵の集団が猛然とダッシュしてきた。

 その間、なにを勘違いしたのか、どこから飛んできたのか、トマホーク巡航ミサイルが四機飛んできって、爆発した。

「……あっ、なるほど。チャフをばら撒いたね。高いディスペンサーだこと」

 私は苦笑した。

 医療班の応急処置によりブラック・ドラゴンはなんとか飛べるまでに回復し、そのまま飛び去っていった。

「ふぅ、早とちりは禁物だね。まあ、誰が悪いってわけなじゃないんだけど、戦ったあとだったからね」

 私は苦笑した。


 超人数がほとんど焼き肉パーティの状況になった街道に、山岳レンジャーの小型馬車が近寄ってきて止まった。

「おやおや、これは大物ですな。気付きませんでしたぞ」

 馬車から降りてきたレンジャーの一人が、ヒゲの口でにこやかに笑みを浮かべた。

「はい、今片付け中です。終わったら無線で連絡します」

「うむ、分かった。くれぐれも、包丁で指を切ったりしないでな」

 ヒゲのおじさん……もとい、レンジャー隊員は馬車に戻り、そのまま狭い隙間を抜けて、小型馬車で去っていった。

「ふぅ、これ下手したら往来妨害罪に問われかねないよ。説教程度で済むけど、分かる人でよかった」

 私は苦笑した。

「あっ、スケッチしなきゃ!!」

 いきなりスコーンが叫び、鞄から取りだしたノートに、ブラック・ドラゴンのスケッチを始めた」

「上手いね」

 私が笑みを浮かべると、素早い手つきでスケッチしていたスコーンが笑みを浮かべた。

「趣味兼仕事だよ。こうしないと、気持ち悪くて」

 スコーンは笑った。

「あの、往診料頂いていいですか。なんちゃって!!」

 シルフィが笑い、私は金貨一枚を手渡した。

「あっ、結構な同道者が増えてきたけど、無医村を回ってるなら、一緒に旅しない?」

「えっ、そうなんですか。今は診ている患者さんもいませんし、私でよければ」

 シルフィが笑みを浮かべた。

「さて、とっとと食わないとなくなるよ……ってまあ、あと何百人きても食べきれないけど、それはフィン王国海兵隊に持って帰ってもらって、痛みやすい内臓は取って食べられる部位は食べちゃったから、後はゆっくり食べられるね。どのみち、このままじゃ肉が退けられなくて、食べちゃうしかないけど。これ、もっと増員がいなきゃダメかな。どっかにツテが……」

 私は鞄からこっそり衛星電話を取り出し、世界中のあらゆる場所に『救援要請』を出した。

「肉はちょっと苦手なので、マグロが食べたいです……」

 シルフィがぼやいた。

「えっ、マグロ。いいよ!!」

 私はさっきの電話で、隣国に住む知り合いの漁師さんに連絡を取った」

「あるって。隣国から……おっと、空港だと面倒いから、足が速い輸送機を使ってもらって、ここに空中投下してもらうよ」

 私はそっと無線電話を鞄にしまった。

「さて、これでも足るかな。あまりにも、デカい図体だったから、肉の量が多くて……」

 私は苦笑した。

「さて、リナが手招きして呼んでるから、テール・スープが出来たんじゃない」

「うん、待って。この辺りのエッジが……」

 スコーンが真剣な顔でスケッチを続けていた。

「そんなに凝ると、マグロが逃げちゃうぞ。あと数分じゃない?」

「ん、マグロ!!」

 スコーンが目を輝かせた。

「こっちはあとだ、マグロをスケッチしないと、痛んじゃうか食べられちゃう!!」

 スコーンは慌ててスケッチブックを鞄にしまい、キッチンに向かって走っていった。

「あ、あの、本当に魚を……?」

「うん、魚が欲しいっていったじゃん。出来る事はやるよ」

 私は笑った。

「……な、何者ですか?」

 シルフィが目を丸くした。

「ただの旅人。ちょっと長く出歩いているだけで、大した者じゃないよ」

 私は小さく息を吐いた。


 再びみんなが食べている場所に行くと、街道だかなんだか分からなくなっているパーティが続く中、山岳レンジャーの馬車が通りかかり、手綱を握るトレンチコートのオジサンが小さく笑みを浮かべて止まった。

 ラトパが肉を載せた皿渡し、レンジャーの馬車は走り出し、そのまま通り過ぎていった。

「みんな仲良くだね!!」

 ラトパが笑った。

「ところで……」

 リナがなにかいいかけた時、凄まじい轟音が夜空に響き、フィン海兵隊の皆さんが作った空き地に、綺麗に梱包されたコンテナが降りてきた。

 箱についたパラシュートを海兵隊の皆さんがバリバリ解き、冷蔵機が轟音を立てるコンテナを木枠から通り出す作業を始めた。

「ご注文のマグロが届いたよ。なんだ、あの異常な爆音……」

 私は苦笑した。

「マグロ!! スケッチする!!」

 手慣れた様子で開梱作業を終え、まな板の上にマグロの切り身が柵で置かれた。

「うーん、切り身でこの腕。ただの漁師さんじゃないね。仲買なんて冗談じゃねぇって感じの気合いを感じるよ」

 スコーンが笑みを浮かべ、食べながらスケッチを始めた。

「あの、私もよろしいですか?」

 シルフィが恐る恐る、スコーンに問いかけた。

「いいよ、スケッチは終わったから!!」

 スコーンが笑みを浮かべた。

 二人仲良く食べている所に、飛行機のエンジン音が聞こえ、パラパラとパラシュートで人が降りてきて、手早くパラシュートを切り離し、折りたたんで放り出し、迷わず肉コンロに群がった。

「さて、集まってきたね。でもこれ、朝までに食べ終わるかな……」

 私は一人笑った。


 結局、明け方過ぎまで掛かっても肉が残り、切り取ってヘリコプターに積む作業がはじまり、やっと街道が少し通れるようになってきた。

 やがて全てのヘリコプターとハリヤーが捌け、戦車隊も超新地旋回て山道を下っていった。

 残ったのは私たちと、石畳にちょっと残ったタレの跡くらいで、街道は再び静けさを取り戻した。

「さて、ここから山下りだよ」

「うん、気をつけて」

 リリスとリリムが笑みを浮かべ、ゆっくりと山道を下りていった。

 キツいつづら折りの山道を下りていくと、程なく出口に掛けられていた遮断棒が外され、レンジャーたちが略式の敬礼を放った。

「さて、ついたね。予定外ではあったけど、楽しかったでしょ?」

 私は低域無線でみんなに呼びかけた。


 遮断棒のあった場所を抜け、山道の案内人の詰め所に行くと、リリスとリリムが馬から下りた。

「お疲れ様でした。では、これにて失礼します」

「皆さん、お疲れ様でした。

 下馬したリリスとリリムが笑みを浮かべ、私は馬上から金貨三枚入った袋を渡した。

「はい、確かに頂戴しました。またお願いします」

 私たちは、街道をゆっくり進んでいった。

 低山を抜ければそこはもう北部地域で、寒風と雪が降る天候だった。

 私たちはマントを体に巻き付けて防寒対策をして、街道をひた走った。

「この天気だと魔物は出ないと思うけど、馬が疲弊しているだろうから、次の町でも村でも寄るよ!!」

 私は無線で呼びかけ、先頭を行くパステルが信号弾で合図してきた。

 地図は持っていたが普段こないエリアなので、詳細なものは持っていなかった。

『この先に小さな町があります。えっと、エルフが多いって書いてありますが、大丈夫ですか?』

「うん、そこは大丈夫でしょ。森の里じゃなくて、こんな街道沿いの雪原に堂々と門を構えてる町だよ。問題ないでしょ」

『分かりました。えっと、下馬して入るのが礼儀ですね。特に、初めて入るエルフが多い街は』

 インカムに、パステルの声が飛び込んできた。

「そこまで緊張しなくていいとは思うけど、念のためそうしよう」

 程なく積雪に埋もれそうな小さな町が見えてきて、私たちは入り口で下馬して町の中に入った。

 町の中に入ると、ほぼ雪で埋まっているような状態で、町の人たちだけでは、とても間に合っている様子ではなかった。

「これは凄いね……」

 スコーンが呟いた。

「そうですね、手伝いましょう」

 アメリアが、笑みを浮かべた。

 馬を引いて中に入ると、一人のお姉さんが、咥え煙草でかったるそうにスコップで、適当に雪を放り投げていた。

「あ、旅人? 珍しいね。みての通り大雪でさ。誰だ、気象操作したのって感じだよ。とっつまえてきてくれたら、金貨二枚あげるよ」

 その女性は苦笑した。

「手伝いましょうか?」

「えっ、それは助かる。金貨二十九枚しかないけど、これでいい?」

 女性は財布を取り出し、私に放ってきた。

「いいですよ。これは、お返しします」

 財布の中から金貨九枚を抜き取り、財布を放って投げた。

 女性がパシッとそれを受け取り、小さく笑みを浮かべた。

「はい、スコップを買ってきます!!」

 パステルが財布の中を確認にして、笑顔で手を上げた。

「その必要はないよ」

 リナが笑い、特殊チョークでナーガが雪面に魔法陣を描ていった。

「リナ、三つもあれば十分?」

「そんなケチ臭いこといわないで、ドバッと出しちゃえばいいじゃん!!」

 リナが笑って呪文を詠唱しはじめた。

 しばらくして、詠唱が終わると、魔法陣から無数のゴーレムが町の中に現れた。

「あとは任せて!!」

 リナが叫び、無数に現れた。

「……しゅごい。研究する!!」

 スコーンはスケッチブックを取り出し、ゴーレムをスケッチしはじめた。

 町の人たちと一緒にゴーレムたちが雪かきをはじめ、しばらくした頃、山岳レンジャーの馬車が町に入ってきた。

「これは大変ですな。警部殿」

「馬鹿たれ、お前ももう警部だろ。いつまでも、警部補気取るな」

 どこかで見たことがある、山岳レンジャーの馬車が町に入ってきた。

「こんにちは、雪かきですかな?」

 トレンチコートのレンジャーが御者台から声を掛け、手を差し出した。

「そういう事。じゃあ、よろしく」

 私は金貨三枚をその手に渡し、もう一人警部が無線でどこかと交信し始めた。

 しばらく経つと、隊員を満載したレンジャーの荷馬車が三台到着し、一斉に町中にスコップを持って散っていった。

 リナのゴーレムとレンジャーのみなさんが、丁寧に雪かきを行い雪だまりのようになっていた町が、あっという間に綺麗になった。

「じゃあ、無事でな」

 山岳レンジャーが帰っていき、リナのゴーレムが、町の外に固めた雪山で雪合戦を始め、ついでに私たちも混じって、思わず遊んでしまった。

 我に返ると、時間は昼を過ぎてしまい、王立陸軍の観測ヘリが、アクロバット飛行をしながら通りすぎっていった。

「さて、休憩はもういいか。みんな、出発しよう」

「そうですね。この先は、建物といえば空軍基地しかありません。今の時間だと、ギリギリ辿り着けるかもしれません」

 パステルが笑った。

「よし、みんな次にいくよ!!」

 私は笑った。


 山越えと雪かきで、いい加減服と体が汚いので、私たちは町の公衆浴場に出向いた。

 地元の人たちでそこそこ混んでいた脱衣所で服を脱ぎ、浴室に入った。

 浴室は広く湯船に何人か入っていて、私たちはかけ湯で体を流してから、洗い場で体を洗って、湯船に浸かり疲れを落とした。

 仕上げにマッサージチェアで凝り固まった体を解し、コーヒー牛乳を一気飲みした。

「はい、北部は温泉地域が多いので、この浴場もそうです!!」

「どうりでね、お湯の肌触りが違うと思ったよ」

 私は笑った。

「それはやくいってよ。もういっかい入るかな」

 スコーンが笑った。

「うん、いいお湯だったね!!」

 ラパトが笑った。

「はい、温泉はいいですね。ついでに、杖を直します」

 マルシルが、脱衣所の椅子に座り、杖の先端の丸い部分を弄り始めた。

「直りました。大丈夫です」

 マルシルが笑みを浮かべた。

「それじゃ、みんな用意出来たら、朝食を採って出発しましょう」

 私は笑みを浮かべた。


 町から街道に出ると、私たちは街道を走り始めた。

『次の目的地まで二百七十キロ程度あります。まだ四時間以上掛かりますが、野営の道具が不足しているので、途中の町で買いましょう。不足といっても、テントくらいです』

「分かった。任せるよ。みんなもよろしく」

 私は普段テントが不要な地域を旅しているので、邪魔になるテントは持っていなかった。

『スコーンだけど、テントって野宿でしょ。危なくない?』

『はい、この辺りはなにもないですし、害獣や魔物も出ないでしょう。あるのはフィン王国空軍の基地くらいなので、念のためそのフェンスの隣で野営しようと考えています。大丈夫ですか?』

『分かった。ありがとう』

 馬をひたすら走り続け、街道の分岐点を直進しようとすると、交差した街道からシルフィの馬が出てきて、私の後方についた。

 私は苦笑して、トークボタンを押した。

「新しく仲間が増えたみたいだよ。みんな、あとで挨拶だね!!」

 私は笑った。


 街道を進んでしばらくすると、やや大きめの町が見えてきて、私たちはその入り口で馬を止めた。

 全員下馬して集まると、先ほど合流してきたシルフィが笑顔で頭を下げた。

「弟子たちが独り立ちして、私が面倒をみなくても大丈夫になったので、馴染みがある皆さんと旅をしたくなったもので。この先、きっともう一人医師が必要な事もあるでしょう。よろしいですか?」

 シルフィが笑みを浮かべた。

「よろしいもなにも、ついてくるんでしょ。怪我しないようにね」

 私は笑った。

「みんなもいいよね?」

 私が問いかけると、みんな笑った。

「よし、買い物だ。さっそくだけど、パステルと組んで買い物してきてもらっていい?」

「はい、いいですよ。パステルさん、行きましょう」

「パステルでいですよ。では、行きましょう!!」

 パステルとシルフィが町に入っていき、私たちは馬の手入れを始めた。


 全ての馬の手入れが終わった頃、パステルとシルフィが買い物から帰ってきた。

「これがテントです。あとは……」

 テントは一人一ずつ馬の背に積み、背中に余裕がある私がやや多めに食料を積み、再び街道を走り始めた。

 両脇は高い雪壁に覆われ、話に聞いていた以上の豪雪だった事を物語っていた。

「これは大変だな。まあ、面白いけど」

 私は笑みを浮かべた。

 対向からきた馬車の御者が手を上げてすれ違い、背後からきた四頭立ての乗合馬車が私たちを追い抜いていった。

『あともう二時間くらいですね。なんとか、暗くなる前には着きそうです』

 パステルの声がインカム飛び込んできた。

『ねぇ、これテント張れるの?』

 スコーンの声が聞こえた。

『雪壁の上にテントを張るので大丈夫です。風も穏やかですし、今のところは大丈夫でしょう。但し、階段掘りが大変ですよ』

 パステルの弾んだ声が聞こえてきた。

『階段!!』

 スコーンのなんだか喜んでいそうな声が聞こえた。

『これは大変ですよ。一晩かかるかもしれません』

 アメリアが笑った。

『そうですね。落ちたら死んじゃう命がけの作業です。甘くみない方がいいですね』

 ナーガが小さく笑った。

『……しゅる』

 スコーンの声が聞こえた。

「まあ、旅には危険は付きものだよ。気をつけよう」

 私は笑った。


 特にトラブルもなく街道を走り続けていると、いきなり頭上をフィン王国海兵隊の-17輸送機が飛んでいった。

『あれ、この先って空軍基地だったはずじゃ……』

 インカムからパステルが聞こえた。

「さて、なんだろうねぇ」

 私は笑った。

 まるで先導するかのように飛んでいったチヌークが、程なく見えてきた空軍基地に向かって飛んでいく姿が見えた。

『あれ、仲が悪いってきいたような。気のせいかな……』

 パステルが呟いた時、空軍基地の上空で『いらっしゃいませ!!』と信号弾で描かれ、上空でスモークを曳きながら、六機の戦闘機がアクロバット飛行した。

「あれ、やり過ぎだよ……。まあ、暇だっていうからたのんだけど」

 私は小さく笑みを浮かべた。

『……なんです、これ?』

 パステルの呟く声が聞こえた。

「行けば分かるよ。これじゃ寝泊まりもこまるから、コネってみたよ」

 私は笑った。

 私たちは、固く閉ざされていた門が開けられのを待って、縦一列の隊形で中に進んだ。

 誘導に従って進んで行くと、後部ハッチを開けて着陸していたC-17輸送機に近づいていった。

『あの、これ。乗れって事ですか?』

「誘導に従って、馬ごと乗っていいよ」

 私たちの隊列は、輸送機に馬ごとゆっくり乗り込み、あとは中にいた隊員さんに任せて馬を下りた。

「さて、ここが今日の寝床だよ。さすがに基地内の建物はダメだったけど、これなら変な怖さを味わず、安全にテントも張れるよ」

 私は笑った。

「……しゅごい」

 スコーンがその辺りの床に座って、ポカンとしていた。

「あ、あのこれって有料ですか?」

 パステルが半ば呆けたような顔をした。

「国費持ち。さて、テント張りしようか。床がボコボコしてるけど、いつ崩れるか分からない、雪の上よりマシだよ」

 私は笑みを浮かべ、機内前部に集められた自分の馬からテントとシュラフを取り出し、適当な場所にテントを張って、中にシュラフを放り込んだ。

「ほら、テントが出来た。そこのゴミ捨て場ならたき火していいよ。ちゃんと掃除して、消毒もしてもらったから」

 扉が全て開けられた輸送機の中で、私は笑った。

「な、何者ですか?」

 アメリアが顔を引きつらせていた。

「ただの旅人、ほら」

 私は身分証明証を提示して笑った。

「……あっ、本当だ。いったい、どんなコネを持っているんすか?」

 アメリアが苦笑した。

「さて、寝床も飛んできたし、ゆっくりやろう。たき火の順は誰がする?」

 私は笑った。


 輸送機テントから下りて、パステルが意地になって空っぽのゴミ捨て場でたき火を起こし、夜闇の中を赤い炎が照らした。

「はい、もうヤケです。ここでたき火を囲みましょう」

 パステルが笑った。

 パステルはさらに、調理用のたき火も起こし、勝手に食材を集めて、大鍋料理を始めた。

「あっ、手伝う。ビスコッティ、メス……じゃなかった、包丁持ってる?」

「はい、一応もっていますよ」

 ビスコッティがカバンから、巨大な刺身包丁を取り出した。

「あっ、これでいいや。薄く薄く……」

 スコーンは素早い手つきで魚の柵を薄く切り始めた。

「なに作ってるの?」

 私はパステルとスコーンに声を掛けた。

「はい、ごった煮です!!」

 パステルが具材をいい加減に切ってポンポン鍋に放り込みながら、面白くなさそうに鍋をグルグルかき混ぜた。

「私はカルパッチョだよ。セイコの!!」

 スコーンが笑った。

「それいいね。なんか、隊長が荒れちゃってるから、任せておこうか」

 私は笑った。

「……あっ、食材全部使っちゃった!?」

 パステルが声を上げた。

「どうしよう、次の町まで七百キロ近くあるのに……」

「まあ、よくある事だよ。村はあるでしょ?」

「はい、ありますが……。なんたる失態……」

 パステルは小さく息を吐き、気を取り直した様子で料理を続けた。

「出来たよ!!」

 スコーンが長細い白いお皿に盛られたカルパッチョを、マルシルたちがしいたマットの上に置いた。

「こっちも出来ました。肉メインの煮込み料理です!!」

 パステルが笑みを浮かべた。

「あの、私も作りました。あまり材料がなかったのでちょっとアレンジしましたが、エルフ料理風ポテトサラダなのですが……」

 マルシルがそっと、お皿をマットの上においた。

「なんだかご馳走だね」

 お礼をいってビスコッティに包丁を返し、スコーンが笑った。

「では、頂きましょう。これはこれで、雰囲気がありますね」

 アメリアが笑い、ナーガが微笑んだ。

「デザートいる?」

 ラパトが焼きプリンを置いて、食事の輪に加わった。

 こうして、かなり遅めの昼食は終了した。


「あの、困った事が……。私がうっかりブチ切れて食材を使いすぎて、次の村まで食材がありません。約一日掛かります。どうしたらいいか……」

 パステルが、お皿に残った大皿料理をフォークでタマネギをツンツンしながら、小さくため息を吐いた。

「大丈夫、ここは空軍基地だよ。定期的に補給の輸送機が飛んでくるから、そこから分けてもらえばいいよ」

 私は笑った。

「そうですか。、申し訳ありません」

 パステルが小さく笑みを浮かべた。

「ところで、今年で第一王女疾走から二十年経って、王都で祝賀会が開かれていると聞きました。なんでお祝いするのか、私にはちっとも分からないのですが、なにか情報ありますか?」

 アメリアがニヤッと笑みを浮かべて聞いた。

「そっか二十年……おっと、さぁ、知らないよ。アメリア、アルーセン王国第三王女……に似た人!!」

 私は笑った。

「なに?」

 ラパトがやってきて笑顔を浮かべた。

「聞いちゃった。賞金首みっけ!! エヘヘ……」

 ラパトはそのまま輸送機の中に戻っていった。

「あーあ、バレちゃった。なんてね」

 私は笑った。


 夕刻が近くなると、基地の隊員たちが輸送機に乗り込み、機内に適当に設置されていたテントを奥の方に丁寧に張り直し、大きなコンテナを四つ積んで、サイドの乗降口だけ残して、全ハッチを閉じた。

「あれ、乗らないとまずい?」

 ラパトが聞いてきた。

「いや、ただ荷物積んだだけだよ。パステル、ちょっとだけ中の様子を見てきてくれるかな。丁寧にやったはずだけど、テントが破損してたら困るから」

「はい、分かりました」

 パステルが乗降口のステップを上って、機内に入っていった。

 しばらくして、イテッ!!と声が機外まで聞こえてきて、素早くスコーンとビスコッティが黒い医療鞄を持って機内に飛び込んでいった。

「骨折!!」

 乗降口からスコーンが叫んだ。

「あれ、馬の骨折ですか。急がないと!!」

 アメリアが他のみんなが慌てた様子で掛けていき、私は無線で馬の骨折に備えて配備してある、足に巻く人工呼吸器のようなものを手配した。

「違う、ビスコッティが両腕骨折!!」

 またスコーンが乗降口から身を乗り出し叫んだ。

「あれ、取り消し!!」

 私は無線でもう一度指示を出した。

「大丈夫?」

 私が叫ぶと、ラパトが『薬箱』と書かれた箱を抱えて乗降口に飛び込んでいった。

「こりゃ、大変かもね。でも、軍医呼ぶわけにもいかないし、困ったな……」

 しばらく考えていると、またスコーンが顔を出した。

「ラパトの魔法薬で治った!!」

「あれ、治ったの。そりゃすごいな。腕って確か……まあいいや。治ったならよし」

 私は手を上げて応え、着陸してきた輸送機の姿を認めた。


「ご迷惑お掛けしました。まさか、踏まれるとは……」

 みんなで外に出てくると、ビスコッティが苦笑した。

「気をつけてね。魔法じゃ骨折は治しにくいし、病気には魔法薬を飲むしかないから」

 私は苦笑した。

「はい、気をつけます。ところで、機内に荷物が積まれていましたが、もう撤収ですか?」

「これ夜行便だからまだ時間はあるし、次の町の近くまで連れていってもらうように手配してあるよ。この天候であの谷を越えるのは、難しいでしょ」

 私が笑みを浮かべると、パステルが頷いた。

「正直、全滅を覚悟するか、引き返すかで悩んでいたところだったのですが、これなら大丈夫です」

 パステルが笑みを浮かべた。

「そうえいえば、さっき無線であの谷の橋がちょっと壊れたって聞いたよ。あんなのどうやって直すんだかって感じだけど、また大勢でくるんじゃない?」

 私は笑った。

 しばらくすると、駐機場の隣にC-17輸送機が滑り込んできて急停車した。

「あれ、なんかきましたよ?」

 パステルが声を上げ、マルシルがキョトンとし表情た表情を浮かべた時、ドバババン!! と凄まじい爆音が響き、なんやかや怒号と機械のエンジン音が響いた。

「……じゅ、しゅごい。みていい?」

「窓からならね。うっかり出ると命の保証はしないよ」

 私がスコーンにいうと、スコーンは大人しく座った。

 しばらくして、外の騒ぎが収まり、私は乗降口の窓から外を確認した。

「よし、終わったね。もう出て大丈夫だよ」

 私は扉を開け、もう一機C-17輸送機が爆音野郎の反対隣に進んでくるのを見て、コックピットに向かって手を振った。

 サングラスを掛けた機長が、帽子を脱いで笑顔で帽子を振った。

「はい、食糧補給の時間だよ!!」

 私は笑って、タラップを下りた。

 みんなが下りてきて、半ばボンヤリした表情を浮かべていると、後部ハッチが開いて何でも屋さんたちがワサワサ下りてきて、なぜかフィン王国海兵隊の皆さんが、エプロン姿と笑顔で販売を始めた。

「パステル、必要そうなものの選択をお願いするよ。馬旅ということを忘れないようにね。でも、晩ご飯は豪華でいいよ。機内で食っちゃうから!!」

 私は笑った。

「マグロ!!」

 スコーンが魚を販売しているコーナーに突撃していった。

「あ、あの、また海兵隊さんが?」

「うん、コネは使わないとね」

 なにか遠慮気味のパステルに、私は笑った。

「あの、この値段じゃ安すぎます。正価で売って下さい!!」

 お玉を片手に、海兵隊員とビスコッティが言い合いを始めた。

「これ全部無料かと思ったらどうしようかと思いましたが、ちゃんとお金払うんですね。よかった」

 マルシルが笑みを浮かべ、野菜売り場に向かっていった。

「一体どんなコネ使ったの」

 アメリアが笑った。

「知ってるくせに。そろそろKH-1がこの上通るでしょ。雪だから映らないけど、もしみたらそっちの情報分析官がぶっ倒れるんじゃない?」

 私は笑った。

「大丈夫だよ。あれポンコツだから!!」

 アメリアが笑った。

「さて、私たちも買い物しよう。なぜか、うどん屋台もあるし」

 私はアメリアと一緒に、マグロの試食をしまくっているスコーンの脇を抜け、うどんを食べた。


「はい、買い物終わりました!!」

 パステルが笑った。

「分かった。それじゃ、いい加減雪塗れだし、機内に戻ろうか」

 私たちは買った物資を担ぎ、機内に戻った。

 貨物室はエアコンが効いていて、やや寒いくらいに調整されていた。

「よし、快適だね。みんな、次の町からは陸路だからね。今のうちに体を休めておいて」

 私は自分のこぢんまりしたテントに移動し、七輪に火をおこした。

「やっぱり、干物はこれだよね……」

 七輪に乗せた網にアジの干物を乗せ、買ったばかりの卵を取り出し、干物が焼けるのを待った。

 程なく焼けると、それをお皿に取って、次にフライパンを網の上に乗せ、卵をそのままフライパンに落とし、ジワジワ焼けていくのを待った。

「はい!! ご飯出来ました!!」

 海兵隊の隊員さん数人と合わせ、パステルが湯気の立つ飯ごうを持ってきた。

「あっ、お疲れ様」

 私は声を掛けた。

 その時、コンテナの扉がいきなり開いて、肩に他国の記章を付けた迷彩服を着た方々が出てきて、七輪で干物を焼き始めた。

「……しゅごい」

 スコーンが目を丸くした。

「みんなお友達だよ。食べたら仲良く語らおうか。せっかく、滅多に合わない他国の海兵隊員の皆さんもメシ食ってるし!!」

 私は笑った。

 こうして、輸送機内という特異な会場での食宴がはじまった。


 食宴が終わると、コンテナが運び出され。代わりに空軍隊員によって座席がセットされ始めた。

 ロードマスターが指示する通りに、一般的な民間航空会社のファーストクラスシートよりちょっと狭いものがおかれ。輸送機の武骨な貨物室が、少しだけ豪華になった。

「この機はどこまで飛ぶんですか?」

 パステルが聞いてきた。

「えっと、地図だとここ」

 私は『クリントンニアーズ空軍基地』と書かれた部分を指さした。

「分かりました。約千二百キロ先ですね。街道はありますが、一本道ですね」

 パステルは頷くと、自分の席に戻っていった。

「さて、これから約六時間のフライトか……」

 呟きなら扉の窓から外をみた。

「……吹雪だね。飛べるかな。まあ、あの機長と副操縦士なら問題ないか」

 私は一人小さく微笑み、自分の席に戻った。

 しばらくしてエンジンが起動する音が聞こえ、輸送機がバックしはじめた。

「バックしたか。やるね」

 私は自分の席で呟いた。

 ちょうど、中央付近の席なので窓の外は見えなかったが、吹雪の影響かガタガタが揺れる輸送機のバックが終了した。

 進行方向が変わり、ガタンガタンと誘導灯を踏む振動が響き、機内に金属音のようなものを響かせながら離陸した。

 ほぼ同時に急旋回して、輸送機は闇の空に舞い上がったのだった。

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