第4話 電気ショッカー!!

 閉門スレスレにトレントに到着した私は、それなりに混んでいる往来をゆっくり馬を引いて歩き、適当な宿屋を見つけると、馬を留め扉を開けて中に入った。

 フロントで銀貨三枚を払い、馬屋に向かって中に入った。

「別に雨風がしのげればいいし、節約しないとね」

 私は自分の馬の前に寝袋を引き、満足して笑みを浮かべた。

「さて、ご飯でも食べてくるか。あの店、まだあるかな。流行ってなさそうで、なんとなく繁盛しているからね」

 私は、いつもの食堂を目指した。

 人通りをかき分けるように進み、かなり年季の入った看板を出している食堂に入った。

「いらっしゃい」

 店のおじさんが、鍋でなにかを茹でながら声を書けてきた。

 そこそこ混んだテーブル席を避け、カウンターに腰掛けると、私はメニューも見ないで注文した。

「しっかし、この店って相変わらずボロいね!!」

「うるせぇ、これが俺のセンスなんだ」

 オジサンがお玉を片手に、白い歯を見せた。

「まあ、いいけどね。店はボロくても味はよし!!」

 私は笑った。

「美味けりゃいいんだよ。ほれ、いつもの」

 おじさんが、私の前に料理を並べはじめた。

「ありがとう。さて、食べますか」

 私は料理に手をつけ、ゆっくり味を楽しみながら、笑みを浮かべた。

 料理を平らげると、私はカウンターに金貨一枚を置き、そのまま店を出た。

 すっかり夜でろくに明かりのない道を宿に向かって歩いてくと、暗がり茂みの中から、いきなりハーフ・リングの子供が飛び出してきた。

 私は反射的抜いていた拳銃を収めると、そのままどこかに行ってしまった。

「……ハーフリングね」

 私は苦笑してその茂みを掻き分けると、なにか埋めたあとがあった。

「さてと、なにを隠したのやら……」

 私は手で被せた土を退けると、どこから盗んできたのか、やたらと大きなダイヤのネックレスが出てきた。

「はぁ、この町では珍しくないけどね」

 私は苦笑して、退けた土を元に戻しておいた。

「さて、あとは警備隊の仕事だね。詰め所はどこだったかな……」

 私はもう一度苦笑して、目抜き通りのような道を歩き、警備隊の詰め所で目撃情報を伝え、そのまま一杯飲んで帰ろうと、慣れた酒場に寄ろうと思ったが、異常に混んでいたのでやめ、酒屋でお酒を一本買って、宿の馬屋に戻った。

 自分の馬を眺めながら、お酒を飲み干すと、私は馬のブラッシングなどの手入れを行い、そのまま寝袋に潜り、軽く目を閉じると、そのまま睡魔に任せた。


 翌早朝、私は目を覚まし、いつも通り馬の調子を確認して、昨晩と同じ食堂の朝メニューを求めて、往来を歩いた。

 扉を明けた途端、いきなり頭に金だらいが落ちてきた。

「……またやったな」

 私は金だらいを蹴り飛ばし、おじさんを睨んだ。

「眠気覚ましにいいだろ。そろそろだと思って、苦労して設置したんだぜ」

「あのね……。まあ、いいや。いつもの」

 私は苦笑した。

「トーストは?」

「焦げ少なめで。濃いめなんていったら、火が噴くほど加熱しまくるでしょ」

 私は先に出されたコーヒーを飲み、ちょうどいい塩梅に焼けたトーストが出てきた。

「はい、ありがと。おじさん、トースターぶっ壊れているから直した方がいいよ。焦げパンはもう飽きたから!!」

 私は笑った。

「パンはパンだろ。これから、どっか行くのか?」

「うん、面倒だけど王都に行かないと。とにかく顔出せって国王がうるさいから」

 私は笑みを浮かべた。

「そっか、いつもの事か。よし、行ってこい!!」

「おじさんにいわれなくてもいくよ!!」

 朝食を終えた私は宿の馬屋に戻り、荷物を片付けて、馬を引いて外に出した。

「さてと、王都か。面倒だけどいつもみたいにお駄賃をくれるだろうし、行かなきゃね」

 私は笑い、門扉が開いたばかりの町の出入り口を抜け、街道を王都に向けて走らせた。

 そのまま馬を進め、村をいくつか通過し、やがて王都が見えてきた。

 王都へ入るための行列に並び、私は鞄をゴソゴソやってチケットの束を取り出した。

「さすがに王都だけあって、人が多いね。だからいやなんだけど……」

 私は苦笑した。

 長いこと待たされて、やっと私の番が回ってくると、馬を下りて荷物の検査が終わるのを待った。

 無事に検査が終わり、私は馬を引いて、そのまま王城に向かって歩いていった。

 私はチケット帳を持って城の裏口に回ると、荷物搬入口のおじさんにチケットを一枚渡し、遮断棒を上げて中に入っていった。

「さて、あとはあのジジイがくるのを待つだけだ」

 私は鞄から封筒を取りだし、中の紙を広げた。

 しばらく待っていると、通称『お忍びルック』と呼ばれる、平民と同じ服をきたじいさんが搬入口脇の小さな扉から出てきて、笑みを浮かべた。

「おう、ジジイ。ちゃんと仕事してきたぞ」

 私は先ほどの紙をジジイ……もとい、国王様に手渡した。

「うむ、確かに宝玉はあったか?」

「うん、一個盗まれかけたけど、無事に回収したよ」

 私は笑った。

「ならばよい。一個でもなくなると、竜が騒ぎ出すからな。まあ、よい。約束の『お駄賃』だ」

 私は国王様から金貨一枚をもらい、軽くウィンクして馬を引いて歩いていった。

「さてと、まだお昼か。とりあえず、昼食でも取るか」

 私は裏門を出ると、馬を引いて街中を歩いていくと、行きつけの食堂に入った。


 慣れたA定食を頼み、肉料理と魚料理が混ざった妙な食事を終えると、私は代金を支払って馬を引きながら街中を歩き、南門に向かった。

「えっと、今度は南に向かうか。こっちの掃除もしないとね」

 私は南門を潜ると、馬に跨がって走り始めた。

 しばらく進むと、私はビノクラ……要は双眼鏡で、辺りを確認した。

「……おっ、さっそく食いついた」

 土を跳ねながら接近してくる十人程度の盗賊団を見つけ、私は馬から下りた。

 黙って剣を抜くと、私はそっと構えた。

「よし!!」

 私は草原をダッシュして、接近中の盗賊団目指して突き進んだ。

「いらっしゃいませ!!」

 私は笑って攻撃魔法を放った。

 火炎の矢の群れがドカドカ盗賊団に降り注いで半数ほどを焼き払い、残り半分が馬を止め、馬から飛び下りて私に向かって剣を抜いて突きかかってきた。

 もう一発牽制で攻撃魔法を放つと同時に、私は先陣とぶつかった。

 剣を振って二名ほど倒し、一名を蹴り倒して鎧の隙間となった首に剣を突き刺し、引き抜いた。さらに、背後にいた一人を振り向きざまに叩き切り殲滅した。

「ふぅ……。毎度ありがとうございましたってか」

 私は笑い、ちょうど止まっていた街道パトロールから報奨金を受け取り、自分の馬に乗った。

 馬をゆっくり走らせ始め、馬に乗ったまま、私は呪文を唱えた。

「ついでに!!」

 巨大な氷の柱が草原の奥に飛んでいき、なにかの破砕音が鳴り響いた。

 しばらく進むと、郵便馬車が走ってきてすれ違っていった。

 時々止まってビノクラで周囲を確認すると、十数名の強盗団と街道パトロールの二人組が派手にやり合っているのが見えた。

「よし……」

 私は馬に乗ったまま草原に突っ込み、強盗団の群れに向かって光りの矢を放った。

「さらに、バースト・ロンド!!」

 光りの矢が強盗団の後方に突き刺さって小爆発を起こし、火炎が降り注いだ。

 これには驚いたか、強盗団は散り散りになって逃げ始め、私はそこで馬を止めた。

 私が馬車から降りると、フル装備の街道パトロールの一人が苦笑した。

「またお前か。脅かすんじゃない」

「ちゃんと、無傷でしょ。それなりにコントロールはいい方だよ」

 私は笑った。

「そりゃまあそうだが、いきなり背後から派手なの撃つな」

「だって、警告攻撃魔法を撃ったでしょ。二発も」

 私は笑った。

「まあ、いいだろう。これで、あの輩もしばらく出ないだろう。報奨金だ」

「毎度!!」

 私は銀貨一枚を受け取り、私は手を上げて馬を街道に戻った。

「やっぱり、定期的にここはこないとだめか。なにせ、現金輸送馬車が往来する道路だから、湧いて出てくる出てくる。さて、次!!」

 私は笑みを浮かべた。


 街道途中にあるミシュラという街により、例によって入街審査を受けたあと、私は適当な宿を見つけ、扉を開けて中に入った。

 中には小さなロビーのようなものがあり、先客が美味しそうに紅茶を飲んでいた。

「こんにちは、部屋空いてる?」

「狭いが空いてるよ。銀貨三枚と銅貨十枚だが、いいかい?」

 フロントのおじさんが笑みを浮かべた。

 私は料金を払い鍵を受け取って、私は二階の部屋に向かっていった。

 鍵にぶら下がっている番号の部屋の鍵を開けて中に入り、鞄をベッドの上に置いた。

「まあ、標準的な部屋だね。確かに狭いけど、これくらいでちょうどいいか」

 私は伸びをすると部屋から出て鍵を閉め、私はギシギシいう階段を下りて小さなロビーに移動して、テーブルの上を掃除していたおばちゃんにコーヒーを注文した。

「あれ、一人旅かい。珍しいといえば珍しいね。さっきもきたけど、代金が払えないって去っていったよ。結構、こういう苦労多くないかい?」

「それはまあ、その時はその時で……」

 私は苦笑した。

 おばちゃんは笑い、カウンターの奥に消えると、コーヒーを淹れるいい香りが漂ってきた。

「さてと、明日はどこに行こうかな……」

 私は地図を広げ、じっくり考えた。

「うーん、このまま南方街道を進むとして、特に面白い場所はないんだよね……」

 私はしばし考え、地図をテーブルに置いた。

「よし、面倒だからこのまま進もう。漁港のあるフェブラートにいけるし、運がいいかどうか分からないけど、小銭を稼げるかも知れないしね」

 私は笑みを浮かべ、運ばれてきたコーヒーを飲んだ。


 翌朝、こざっぱりした私は、宿の馬屋から馬を引き出し、南門に向かって歩いていった。 街の出入り口で『通行料』を支払い、私は馬を南に向けて走らせた。

 商隊の列を手を上げて通り越し、私は街道を森の中に入った。

「この森は、コロモリ族の自治領域か。安全なエルフの里だから平気か」

 私は馬の速度を落とし、エルフの里の簡素な門に向かった。

 門番に手を上げると、相手は笑顔で手を上げ、門の前で馬を止めた。

「お久しぶりです。入っていいですか?」

「はい、構いませんよ。族長が退屈していますので、話し相手になって下さい」

 門番は門を開け、私は馬を下りて里に入っていった。

 里の中は平和そのもので、皆さんが様々な作業を行っていた。

「長老か……。確か、あの素朴なツリーハウスだったかな」

 私は馬を引きながら、大木の幹にあるツリーハウスに向かって歩いていった。

「あっ、やっとお友達がきた。長老、マーちゃんがきたよ!!」

 顔見知りのラパトが窓から顔を出し、笑顔で手を振ってきた。

 私は笑って、ツリーハウスから下がっているハシゴを上っていった。

 ツリーハウスの中に入ると、人間の目には三十代くらいの長老とラパトが紅茶を飲んでいた。

「お久しぶりです。スラーダさん」

 私は族長に声をかけた。

「あら、近くにいらしたのですか。どうぞ、ごゆっくり」

 スラーダが笑みを浮かべ、ラパトが私の手を掴んで引っ張り上げてくれた。

「ちょうど暇していたんだ。お茶しよう!!」

 ラパトが笑った。

「スラーダさんと話していて、暇はないでしょ。まあ、ここも平和そうだし、そんなもんか」

「はい、お茶でも飲んでいないと退屈です。最近は平穏で助かっています」

 スラーダが笑みを浮かべた。

「それはなによりです。ここは盗賊が多かった地域ですからね。

「はい、街道パトロールの皆さんが魔物の巣を総攻撃した結果、せいぜいゴブリンが悪さする程度です」

 ゴブリンとは、通称「小鬼」とも呼ばれる魔物で、一体当たり辺りは大した事がないが、大体群れで行動するため、纏めた数でかかってくるとなかなか手強い相手だった。

「それならよかったですね。前回訪れさせて頂いた時は、大荒れでしたからね」

「はい、ゴブリンばかりで集団で……。なんで、徒党を組むんでしょうね。我々エルフもですが」

 スラーダが笑った。

「ねぇ、遊ぼうよ!!」

 ラパトが笑った。

「いいけど、また水路に落ちないでね。風邪引いちゃうから」

 私は笑った。


 私とラパトはハシゴを下りて、集落を歩き始めた。

 集落の奥には畑が広が広がり、牧草地帯もあり、牛舎の中から牛の鳴き声が聞こえていた。

 私とラパトは牧草地帯に通じる細橋を渡っている途中で、私は足を滑らせて頭から水路に落っこちた。

「なに、そういう遊び?」

 ラパトが笑みを浮かべ、自分で飛び込んできた。

「遊びじゃないよ、これがなんで遊びなんだか……」

 私はため息をついた。

「うん、冷たくて気持ちいいじゃん。夏だしキュウリ食べる?」

 ラパトがポシェットからキュウリを二本取り出し、一本を私に寄越した。

「うん、食べるけど……ここで?」

「うん、気持ちいいから!!」

 ラパトが笑った。

「まあ、暑いしね……」

 私は苦笑して、ラパトがくれたキュウリを囓った。

「塩があればよかったし、持ってきたんだけど、溶けてなくなっちゃった!!」

「あのね……」

 私は苦笑した。

 しばらくキュウリを囓っていると、スラーダがやってきた。

「あら、キュウリですか。ところで、なぜそんな場所で?」

 スラーダが笑った。

「落っこちた!!」

 ラパトが笑った。

「嘘ですね、みていましたから。ところで、本当にあの話しを実行するのですか?」

 スラーダが真面目な顔で、ラパトの方を見つめて聞いた。

「うん、ここは平和でいいけど、暇なんだもん!!」

 ラパトが笑った。

「ん、あの話ってなに?」

 私が聞くと、ラパトが少し真面目な顔になった。

「マーちゃんって、ここによくくるでしょ。一度、世界をみたかったんだ。同行しちゃダメかな?」

 私はしばし黙考し、小さく頷いた。

「いいけど、それなりに過酷ではあるよ。蚊に刺された痒いし」

 私は笑みを浮かべた。

「それは覚悟の上だよ。ところで、足は治ったの?」

 ラパトが心配そうに聞いた。

「それが微妙でね。なんか薬ない?」

「うん、あるよ。『ヨードチンキ改DX』っていうんだけど、ヨードが入ってない奇跡の薬!!」

 ラパトが笑った。

「馬鹿たれ、ヨードいらないじゃん。まあいいけど、飲み薬?」

「うん、飲んでもいいけど、基本的には塗り薬かな。飲むとたまに患部が痒くなるから、塗った方がいいよ!!」

 ラパトが小さな小瓶を手渡してくれた。

「ふーん、赤くはないね。本当にヨードがないっぽい。なら、飲む!!」

 私は小瓶の蓋を外して、一気に飲み干した。

「あーあ、飲んじゃった。痒くて堪らなくなるまで、あと……三分くらいかな。いい加減上がろう」

 私たちは水路から勢いを付けて牧草地に出ると、草の上に寝転がった。

「びしょびしょだけど、乾くかな」

 ラパトが笑った。

「まあ、そのうち乾くんじゃない」

 私は笑った。

 しばらくラパトと話していると、右足の傷が異常に痒くなった」

「掻いちゃためだよ。ねっ、塗った方がよかったでしょ?」

 ラパトが笑った。

「馬鹿たれ、水浸しこんな状態で塗れるか!!」

 私は笑った。

「さて、乾いたら実行しよう!!」

私の着替え貸してあげるから、早く行こう!!」

 ラパトが笑った


 ラパトの家に入ると、顔なじみになっているお母さんが笑顔で迎えてくれた。

「いらっしゃい。あら、二人ともびしょ濡れですね」

 ラパトのお母さんが、笑顔で迎えてくれた。

「うん、落っこちた!!」

 ラパトが笑った。

「しかも、大事にしていたマキシムマムキュウリを持ち出して。あれ、高いんですよ」

「いいじゃん、いつも余って捨てちゃうんだし。それより、着替えどこだっけ?」

「干してあるでしょう。もう乾いているので、ついでに取り込んで下さい」

 ラパトのお母さんがニコッと笑みを浮かべた。

「分かった、マリー。ちょっと待ってて」

 ラパトが大きなカゴを持って、家の外に出ていった。

「話は聞いています。バカ娘の事は、よろしく頼みましたよ」

「はい、分かっています。困った時は、ちゃんとフォローしますので」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、洗濯物!!」

 ラパトがカゴに、無理やり詰め込まれた大量の洗濯物を、綺麗にたたみ始めた。

「風邪引いちゃうから、シャワーでも浴びてくれば?」

「えっ、いいの?」

 私は苦笑した。

「うん、私は臭いから!!」

「ああ、エルフ特有の体臭ね。分かった、先にシャワーを借りるよ」

 私はラパトが渡してくれた着替え一式を持って、シャワー室に向かった。

 頭と体を洗ってタオルで体を拭き、一息ついてからドライヤーで髪の毛を乾かし始めた。

 しっかりブラッシングをかけながら、私はため息を吐いた。

「この髪の毛、ショートにしては長すぎるよね。ラパト家自慢の超高速低温ドライヤーでも、乾かすのに時間が掛かってもう……」

 私は苦笑した。

「あっ、もう終わった?」

 ラパトがシャワー室に入り、防水カーテンを引いて閉めて、水音を立て始めた。

「まあ、半乾きだけど、退かなきゃ悪いかな。でも、濡れたままだと痛むんだよね……」

 結局、なんとか髪の毛を乾かし終え、それでもラパトはシャワー室から出てこなかった。

「まあ、分かるからいいや。ちょっと、外に出るかな」

 私はラパトから借りた、エルフの民族衣装を着て、家の外に出た。


 里の広場に行くとなにやら騒ぎが起きており、私は気になって人混みの中に割って入った。

 すると、馬の傍らにどこにいくのか白衣を着た女の子が倒れていた。

「ん、いつもは見ないけど、往診のお医者さんかな?」

 私は遠巻きにしている人の輪を抜け、女の子の様子をみると苦痛の表情を浮かべていて、左足を抱えて唸っていた。

「ちょっと診ますね……」

 私は女の子の左足を診た。

「……うわ、骨折だ。私の回復魔法じゃ痛みを緩和するくらいしか。まあ、ないよりマシかな」

 私は呪文を唱え、回復魔法を使った。

 女の子の苦痛の顔が少し緩んだところで、ラパトが人混みを掻き分けてやってきた。

「なに、どうしたの?」

「うん、怪我ってか明らかに骨折なんだけど、私じゃ……」

 ラパトが頷き、私と代わって回復魔法を唱えた。

「ちょっと時間掛かるよ。魔力頂戴!!」

 ラパトの声に合わせ、私はその肩に右手を当て、魔力を延々と空打ちした。

 脂汗をかいていた女の子の表情が緩み始め、荒い呼吸が落ちついてきた。

「うん、複雑開放骨折だけど、魔法薬も飲ませたし傷自体はすぐに治ったよ。あとは、少し休めば大丈夫」

 ラパトが笑みを浮かべた。

「それならいいけど、せめてベッド……はなかったね。どっかの家のハンモックにでも寝かせてあげたいね」

「なら、診療所があるよ。今日は先生もきてるし、ちょうどいいんじゃない」

 ラパトが笑みを浮かべた。

「大丈夫ですか?」

 スラーダが担架を持った数名と一緒に、様子をみにやってきた。

「うん、あとは体力の回復を待つだけだから、みんな診療所に連れていって!!」

 集まっていた人たちの手で、女の子は診療所に運ばれていった。

「私たちも行こう。話し相手くらい欲しいでしょ」

 私はラパトに声をかけた。

「うん、当然ほったらかしにはしないよ。いこう」

 ラパトが笑みを浮かべた。

 私たちは、担架のあとを追って、小さな診療所に入った。


 女の子を狭い診療所の小さなベッドに寝かせると、みんなは撤収して残ったのは私たちと先生だけだった。

「どれ……うむ……」

 先生が女の子の足の様子を確認し、小さく一回頷いた。

「よし、上手く治したね。これなら、しばらく休むだけだな。とりあえず、様子をみよう」

 しばらく

 しばらく待つと、女の子も落ち着いたようで、苦笑のような笑みを浮かべた。

「ありがとう。うっかりぶつけちゃって……。失礼だから、名前を名乗っておくよ。私はシスコーンっていうの。よろしく」

「どっかでぶつけたって、馬まで怪我してたよ。とにかく、無事でよかったね。私はマリーで、こっちは友人のラパト。こちらこそよろしく」

 私は笑みを浮かべた。

「それじゃ、私たちは後片付けしてくるから、休んでて」

 私とラパトは拳銃を抜いて、診療所を出た。

「さて、ラパト。分かってるね?」

「うん、門に行こう」

 ラパトが笑みを浮かべ、拳銃のシリンダーに弾丸を装填しはじめた。

「それ徹甲弾だよ。まあ、コルクよりは効くとは思うけど」

「当たり前だよ。いつもの練習用のコルク弾じゃないんだから」

 ラパトは笑みを浮かべた。

「間違わなかっただけでも上出来だよ。今回は、傷をつけないって訳にはいかなさそうだからね」

 私は拳銃のシリンダーを引いて、弾倉の中の九ミリフルメタルジャケット弾を薬室に送り込んだ。

「さて、なにがくるか……」

「微かに馬の音が聞こえるよ。十頭かそこらだね」

 ラパトが大きく息を吐き、拳銃の動作確認をした。

 私も動作確認をして、来たるべき敵に向かって備えた。

 程なく、私の耳でも聞こえるほど馬の足音が聞こえ、門番がサッと逃げたのを確認してから、私たちは街道を塞ぐように立った。

 まもなく、馬の集団が現れ、私は呪文詠唱と共に拳銃を撃った。

「ラパト、あれ」

「はいよ!!」

 ラパトが手榴弾をぶん投げ、さらに火球をぶっ飛ばし、私は氷の嵐を巻き起こした。

 さすがに鍛えているようで、吹き飛んだのは五名ほどで残り五名が一気に突っ込んでくるのをみて、私は素早く拳銃をホルスターに収め、代わりに剣を抜いた。

 五頭の馬が止まると同時に、長剣に鎧姿の珍客が駆け寄ってきて、私とラパトは剣を構えて待ち構えた。

 そのまま五人と二名で斬り合いになり、剣と剣がかち合う派手な音が響いた。

 私の剣と相手の剣がぶつかって火花が散り、勢い良く蹴飛ばして倒れたところに、私は右腕の隙間の関節部分に剣を突き立て、そのまま力一杯ねじ込むと、背後に迫っていた敵に前を向いたまま剣を差し出して牽制し、振り返ると同時に首をはね、勢いに任せて蹴り倒した。

 こうして、私もラパトも多少の切り傷を負いながらも、無事に戦闘を終え、しばらくしてやってきた街道パトロールの二人組が、淡々と死体の片付けを始めた。

「よし、終わった。大した事なかったね」

「うん、拳銃から弾抜いておかないと……」

 ラパトが拳銃のシリンダーを開け、パラパラと弾丸を地面に落とした。

「さて、シスコーンの様子をみにいこうか」

「うん」

 私とラパトは再び診療所に戻った。


 私とラパトが診療所に戻ると、シスコーンがベッドに座って笑みを浮かべていた。

「なんか激しい音が聞こえたけど……来ちゃった?」

 シスコーンが申し訳なさそうに、私たちそっと問うてきた。

「来ちゃったって事は『お知り合い』って事だね。ぶっ飛ばしてやった上にきっちりシバキ倒してしてやったから!!」

 私は笑った。

「あれ、どっかの騎士団だと思うけど、イタズラしてきた?」

 ラパトが優しい笑みを浮かべた。

「ま、まあ、屋敷に侵入して魔法書をちょいパクしただけで、ぶっ殺したり暴れたりはしてないんだけど、こういうの全然慣れてないから、警備装置にモロに引っかかるは警備兵に追いかけられるわ……」

 シスコーンが頭を掻いた。

「あれま、意外とお転婆だね。そんなに欲しかったんだ」

 私は笑った。

「うん、だって『世界の秘密』だよ。気になってもう……オークションで落札しようと張り合ったんだけど、さすがに金持ち貴族相手じゃ勝てなくて……はぁ」

 シスコーンは大事に抱えていた、オレンジ色の分厚い本を取り出して見せた。

「もう大丈夫そうだね。歩ける?」

 ラパトが笑みを浮かべた。

「うん、大丈夫。ここじゃ変な薬品臭いから、私の家に行こう。ちょうど、昼ご飯の時間だし」

 ラパトが優しい笑みを浮かべ、私たちは診察所を出た。


 広場に出ると、大型の冷蔵コンテナを積んだ馬車が止まっていた。

「あれ、野菜売りの人だね。いつもより、時間が早いね……」

 ラパトが呟いた時、馬車が動いて広場の真ん中に移動した。

 そのあとを押しのけるように、鮮魚マークが描かれた冷蔵コンテナが滑り込んできた。「ん、魚?」

「うん、たまにくるんだよ。今日は豪華かもね」

 ラパトが笑った。

「おう、いいマグロが揚がったぜ。早いもん勝ちだぜ!!」

 馬車のおじさんが声を上げた。

「ほら、豪華になった。よかった」

 ラパトが笑った。

 その間に里のみんなが集まって、大きなテーブルを運んできて、次亜塩素酸溶液をスプレーを吹きかけ、白い布をバッと広げてかけた。

「おら、退け……じゃなかった、ちと手伝え。二百六十七キロのビッグな野郎だから、一人じゃ持てねぇ」

 集まっていたみんながコンテナから巨大マグロを下ろして、大きなテーブルに載せた。

「よし、解体するから待っててくれ!!」

 おじさんが包丁の束を腰に挿し、巨大マグロの解体に取りかかった。

「ほら、豪華になった。見にいこう」

 ラパトが笑った。

「そうだね、急がないと終わっちゃうよ。シスコーンも!!」

 私は遠慮がちな様子のシスコーンの肩を軽く押し、人だかりが出来ている中に割り込んでいった。

 ちょうど解体が始まるところで、おじさんがマグロの尾を切り落とす寸前で止め、中骨をサッと切り落とし、マグロの頭を切り落としてから、残っていた中ひれで止め、最後に中落ちと赤身を切り落とすと、中骨をサッと包丁で切り、みんなに頭を下げた。

 大きな拍手が起き、おじさんが各部位を切っていった。

「よし、配るぞ」

 おじさんがトレーに乗せたマグロの切り身をもらい、私たちはラパトの家に向かっていった。


「お母さん、マグロ!!」

 ラパトが笑った。

「あら、ずいぶん分けてもらったわね」

 ラパトのお母さんは、マグロのあら汁を作って笑みを浮かべた。

「……ああ、そういう事ね」

 ラパトが苦笑した。

「じゃあ、みんなテーブルについて。ご飯にしよう」

「え、えっと、私は……」

 一緒にきたシスコーンが、遠慮がちな様子で声を出した。

「もちろん一緒だよ。早くきなよ」

 ラパトが椅子を引いて、椅子を手で示した。

「は、はい、ありがとうございます」

 シスコーンはそっと椅子に近づき、静かに座った。

 私たちも椅子に座り、頂きますをしてご飯を食べはじめた。

「ま、マグロ!!」

 いきなりシスコーンが声を上げた。

「あれ、どうしたの?」

 ラパトが目を丸くした。

「こ、これが噂に聞くマグロ。美味い……いけね。美味しい!!」

「初めてなんだ。もっと砕けた口調でいいよ」

 ラパトが笑った。

「そうだね、肩こっちゃうよ」

 私は笑った。

「……い、いいの?」

 シスコーンが微かな笑みを浮かべた。

「いいに決まってるよ。ほら、大トロ」

 ラパトが取り皿に取った刺身を、シスコーンの手元に置いた。

「これが大トロ……」

 シスコーンはまじまじと切り身の大トロをみつめた。

「まあ、食べてみて」

 私が笑みを浮かべると、シスコーンは大トロを食べてニッコリした。

「うん、美味しい!!」

「それじゃ。次は赤身」

 私は大皿に盛られた刺身の中で、赤身を指さして勧めた。

「うん、さっきより美味しい!!」

 シスコーンが満足げに笑みを浮かべた。

「次は中落ちだね。マグロには美味しい食べ方があるんだよ」

 ラパトが笑った。


 食事が一通り終わり、食後のお茶を飲んでいると、シスコーンがやや俯いて口を開いた。

「あのさ、初対面でなんだけど、もし旅をしているなら、同行していいかな。ダメ?」

 シスコーンが小さく息を吐いた。

「なるほど、もう少し話を聞かせてくれるかな?」

 私は笑みを浮かべた。

「うん、見ての通りなんだけど、私は追われていた貴族のお抱え医師だったんだ。だけど、この本の魅力には勝てなくて……」

 シスコーンが自分の鞄の中にあるオレンジ色の表紙を触った。

「それはいけない事だって分かってるだろうからとやかくいわないけど、持ってきちゃったら持っていくしかないね。また追っ手が掛かるかもしれないけど、ちゃんと対処出来る?」

 私は俯いているシスコーンの空きカップに、お茶を注いだ。

「うん、できる限りの事はするよ。なるべく迷惑を掛けないようにするから」

 シスコーンは顔を上げ、真顔で頷いた。

「よし、分かった。ラパトはいいよね?」

「うん、異存はないよ。これからどこ行くの?」

 ラパトが笑った。

「フェブラートで魚でもって思ってるよ。あそこは良港だから、いい魚が揚がるって評判だし」

 私は小さく笑った。

「そっか、久々に魚を食べたら、また魚なんて豪華だね。この辺りはただでさえ内陸だし、あまり人間がこないエルフの里だから、滅多に手に入らないんだよ」

 ラパトが笑みを浮かべた。

「だろうね。私だって、最初にきたときは少しだけ敵意を向けられている気がしていたから」

 私は苦笑した。

「まぁね。さて、準備しようか」

 ラパトが笑い、シスコーンが顔上げて笑みを浮かべた。

 家を出ると、私たちは馬に跨がり、里を後にしたのだった。

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