第6話 島にいこう
高高度を水平飛行する輸送機の中、みんなが寝静まってる頃、リナとラトパがワゴンサービスの準備を始めた。
「そこの豚汁鍋とって」
「うん」
パステルとラトパがワンタンスープを作りながら、忙しく働いていた。
「寝なくていの?」
「はい、椅子が豪華過ぎて、逆に落ち着つかなくて」
パステルが笑った。
「そっか、普通の座席でいいってオーダーしていたのに、どっかでファーストクラスに変わったみたいだね」
私は笑った。
「それでは、起きている人相手に、スープを配ってきます」
パステルとラトパがワゴンを押して、通路代わりの隙間を歩いていった。
「もうすぐかな……」
私は腕時計をみて、呟いた。
『おい、クリントンニアローズはダメだ。悪天候でクローズ。他にねぇからよ、もうちょっと先のヘンブリッジにいくぜ』
機長から無線連絡を受けた。
「分かった、任せる。プラス二時間かな……」
私は腕時計を弄った。
「さて、だったら寝るかな。仮眠程度だけど」
私は扉の窓から離れ、自分の席に戻って目を閉じた。
明け方を通り越し、朝という時間になって、輸送機はヘンブリッジ空軍基地に着陸した。 後部ハッチが開く音が聞こえ、コンテナが引き出される音が聞こえた。
「ねえ、うるさいけど大丈夫なの?」
スコーンが問いかけてきた。
「うん、元々定期便だからね。輸送用のコンテナを下ろしてるんでしょ」
私は笑みを浮かべた。
「パステル、ここからは馬だよ。用意出来た?」
「はい、バッチリです。クリントンニアローズからですよね?」
パステルが地図を広げた。
「ああ、ちょっとした事で、その先のヘンブリッジにダイパードしたの。そこから先は比較的な安全な街道だから、困らないでしょ?」
私は笑みを浮かべた。
「はい、分かりました。地図で確認します」
パステルは地図を広げ、なにやらメモを取りながら確認を始めた。
「スコーン、ビスコッティ。この先は小さな村が点在しているはずだけど、黄色い旗に気をつけて。急病人か大怪我した人がいるはずだから。みんなも見逃さないでね」
私は笑みを送り、コンテナが下ろされた事を確認した。
「よし、出発準備しよう」
私たちはテントを片付け、荷物を馬に積んだ。
「それでは、行きますよ」
パステルが先頭にたち、私たちは馬をシートにぶつけないように気をつけて、輸送機の後部ランプから外に出た。
輸送機から出ると、馬にに乗った空軍の制服を着た女性が近寄ってきた。
「こんにちは、空軍のベースに海兵隊機が降りてくるんだもん。面白くなって、空軍辞めちゃった!!」
女性は空軍の制服を脱ぎ、平服になった。
「元はあちこち旅していたんだ。また、旅人に復帰しようかと思ったんだよ。仲間に入れて。自己紹介はまだだったね。元王立空軍大尉、アイリーンだよ」
「いいけど、足を怪我してるね。麻痺してない?」
私が問いかけると、アイリーンは苦笑して。
「麻痺かどうかしらないけど、違和感があるのは確かだね。でも、大丈夫だよ」
アイリーンが笑うと、スコーンとラパトが馬から下り、ラパトが薬箱を馬の背から下ろした。
「……これちょっとまずいかも。ラパト、あれある?」
「あるよ、麻痺取り」
ラパトが薬瓶を取り出し、『ライフガード バージョン3.05』と書かれた大きな薬瓶を取りだし、アイリーンの服の上から両足にそれを塗った。
「これ、服の上からも逡巡して皮膚に届くから。四十分くらいで治るよ」
ラパトが笑みを浮かべた。
「なら、待つかな。万全の体調で挑まなきゃ」
私は笑った。
「そうだね。あっ、そういえば国王から手紙がきてるよ。マリーに渡せって」
犬姉が私に白い封筒を渡してくれた。
「手紙か。怖いな……」
私は苦笑して、そっと封を開けた。
中に入っていた『ファン王国』の国印が透かし彫りされた、公文書専用の紙には招待のメッセージが書かれていた。
「あれま、意外な所から手紙がきたよ。お呼ばれしたからにはいかないとね。この輸送機でいいかな……」
私は無線を手に取り、管制塔と連絡を交わした。
「OKが出たよ。もう一度だけど、乗ろう」
私たちは馬をUターンさせ、そのまま輸送機に乗った。
乗ってすぐの所に馬を繋ぎ、やや薄暗い機内適当な椅子に座った。
「なにこれ、輸送機なのにファーストクラスじゃん」
アイリーンがポカンとした。
「うん、特別仕様だよ。乗り心地はいいよ」
私は笑い、後部の中央席に座った。
「早い者勝ちだよ。適当な席に座って!!」
私は背もたれをリクライニングさせ、ほぼベッド状態にしてゲームボーイを取り出して、スーパーマ○オを始めた。
全員輸送機に乗り込むと、輸送機がプッシュバックされ、エンジンが始動擦る音が聞こえた。
『えー、こちら機長。離陸準備よし。ファン国際空港の天候は雪。ランウエイオープンまで二時間半』
「了解。ファン国際空港に、これから出るって伝えて」
『ロジャー』
私はコックピットと無線で会話した。
輸送機はゆっくり誘導路を走り、滑走路に出ると一機に加速してあっという間に離陸した。
『コパイより、護衛の戦闘機二機発進準備よろし……いて、おっと、発進準備完了。五分で合流します』
「よろしって、海軍癖が抜けないね。まあ、分かった。五分ね」
私は苦笑した。
しばらくして、みんなが輸送機後部の空き地で七輪で干物を焼き始めた。
その中で、マルシルが肉を焼き始め、香ばしい匂いが機内に漂った。
「はぁ、ファン王国か。あそこの猫国王面白いけど、今度は誰贔屓にするかねぇ」
私は一人笑った。
『機長より。ファン国際空港ランウェイ除雪中。ウェイト四機。飛行時間三時間の見込み』
「上手く気流に乗ったね。ウェイト四機なら、着く頃には空いてるかもね」
私は苦笑した。
輸送機は順調に飛行を続け、食事を食べ終わったみんなが座席に着いていた。
「こら、ビスコッティ。お酒飲んじゃダメ!!」
「……はい、そういえば禁酒中でした」
そんな声が聞こえたが、みんな大体静かに寝ているか、マルシルが杖の手入れをしていて、ラパトが薬瓶を数えていた」
輸送機は順調に飛行を続け、二時間ほど飛行したところで機長からファン王国領空に入ったという連絡が入った。
「さて、いよいよだね。到着まで予定では、あと一時間か二時間か……少し寝るか」
私は座席をフルリクライニングして、ベッド状になった上に寝転び、そのまま目を閉じた。
フィン王国からファン王国に入った輸送機は順調に飛行を続け、やがて降下を開始すると機内放送が入った。
私は座席を元に戻し、着陸に備えた。
雲の中に入ると輸送機が揺れ始め、稲光が走る荒れた天候だった。
「こりゃスレスレだったね。本当にファン国際空港はクローズじゃないかな」
輸送機は小刻みに進路を変えながら、大荒れの天候の中を降下していった。
『こちら機長。予定通りファンに着陸する。ちなみに、現地は街道なら走れるという情報が入っている。着陸後はファン王国海兵隊に引き継ぐ。グッドラック』
「了解。帰りは気をつけてね」
私は小さく息を吐いた。
機体が激しく上下左右に揺さぶられながら、輸送機は雲を抜けようやく落ち着いた飛行に戻った。
「四時間か。もうすぐのはずだね」
『ファン国際空港クローズ。ダイパード、カリーナ。ステイ二時間』
「了解。やっぱり、ダメだったか。まあ、ステイ二時間なら大丈夫でしょ」
輸送機が大きく右旋回し、やがてドンという軽い衝撃と共にカリーナ国際空港に着陸した。
「みんな、ここで最大二時間待ちだよ。おやつでも食べてて。一回だけなら、おかわり自由だから!!」
私が叫ぶと、マルシルとアメリアがプリンを配り始めた。
「ねぇ、ここって魔法学校があるみたいだよ。地図にそう書いてある。二時間もあるなら見学に行きたいな」
スコーンが私の席にきていった。
「最大で二時間だから無理だね。そもそも、ただの緊急待機だから、乗降は出来ないんだよ」
「そうなんだ。残念だなぁ」
スコーンがブツブツいいながら、ビスコッティの席を蹴飛ばして、自分の席に戻った。
誘導路を走り始めた輸送機が駐機場に止まると、隣に珍しい飛行機が駐まっていた。
「YS-11なんて、まだ飛んでいたんだ。しかも、派手な塗装って事は、まだ現役か。すごい気合いだね」
アイリーンの声が聞こえ、私は笑った。
「ここは、気合いと根性の学校だからね。さて、何時間待たされるやら……」
私は苦笑した。
『ロイヤルハートのエースより通報。プランBに変更。離陸する』
「了解」
私は立ち上がった。
「王都がまだダメだから、順番が変わっちゃったけど、ちょっとしたサプライズを先に頂きに行くよ。四時間は掛かるからゆっくりしてて」
私が叫ぶと、勘がいいパステルが近寄ってきた。
「出番ですか?」
「多分ね。すでにある程度は終わってるとは思うけど、きっと楽しいよ」
私は笑った。
「さて、席について。また長旅だね」
私はベルトを締め、暇つぶしにゲームボーイを取り出した。
しばらくして、輸送機がプッシュバックされ、誘導路を走っていった。
まるで、滑走路に入ると緊急離陸のような勢いで猛加速して、輸送機は飛び立った。
そのままバレルロールをして進路を変え、輸送機は一機に高度を上げていった。
「なんか、荒いなぁ……」
私は苦笑した。
風雪の中を離陸した輸送機はやがて成層圏に達し、安定飛行に入った。
『アバカムリエアポートまで、二時間のみ込み。現地気温二十八度。天候は晴れ』
「了解。開港時間は大丈夫……って愚問か」
『ああ、バッチリだ。六時ぴったりに降ろしてやる』
私は笑みを浮かべ、シートをベッド状にして、寝転がったままファミコンを取り出した。「えっと、寝てちゃダメだ」
私はRGBケーブルでモニターの外部端子とファミコンを繋ぎ、FF1をやり始めた。「えっと、なんだっけ……」
私は攻略本を開き、コントローラの三角ボタンを押した。
「ぎゃー、全滅した。なにくそ!!」
私が一人で騒いでいると、輸送機は降下に入った。
「どうしても、このボスが倒せない!!」
「ワゴンサービスですよ~。鱒の寿司一個だけ残っています。
パラトとリナが、鱒の寿司が一個だけ乗ったワゴンを押して、私の席の脇を通り過ぎていった。
「武器、武器ですよ~。今ならあの狙撃銃がありますよ」
続けて、アメリアとマルシルがワゴンを押してきて、私は『あの世界で百丁ちょっとしかない狙撃銃』を取り、何度も何度もラスボスに挑んでいた。
「あっ、着陸だ……」
私は慌ててファミコンを片付け、反射的に取っていたあの銃をマジマジと見つめた。
「あっ、これサービス用にこっそり混ぜたヤツだった。誰かいるかな……。まあ、いいや。あとで誰かにあげよう」
私はシートを戻し、膝の上に置いた。
輸送機は着陸態勢に入り、真夏のような日差しが照りつける空に向かって降りっていった。
しばらくして、輸送機は静かに滑走路に着陸した。
滑走路端の転回場でUターンして、滑走路の端っこを走って駐機場に入った。
『第二便到着まであと十五分。コントロールタワーと交信中。OK』
輸送機は駐機場をそろそろ走り、駐機場に留まった。
「さて、みんないくよ!!」
私は笑った。
輸送機のリアハッチを降りると、ラパトが近寄ってきた。
「ここなら平気かな。私の忌名はラパトじゃなくてパトラなんだ。部族の掟で、本名が明かせなくて……」
「うん、知ってる。ラパト改めパトラ・エルフォートさん」
私が笑みを浮かべると、パトラはハッとした顔をした。
「か、家名まで。どこで……」
「それは、秘密だよ」
私は笑った。
「そっか、知られていたんだ。他の人には秘密だよ」
パトラが笑みを浮かべた。
「まあ、大体はね。さて、行こうか」
私たちは留めておいた馬を引き出し、駐機場に出た。
スコーンが第一歩を記したところで、私は書類が詰まったフォルダを三つ取り出し、それを渡した。
「えっ?」
「これがサプライズ。ファン王国の最南端の島だよ。ここの国王が開発している最中だよ。水族館を作るかで揉めてるみたいだけど、土台はだけは出来てるらしいんだけど、必要かどうかで考え中らしいね」
「じゃあ、必要。水族館でお魚見たいから。私の島なんでしょ?」
スコーンが笑みを浮かべた。
「はいよ。それじゃ……」
私は無線インカムでGOサインを出した。
「十五秒で出来るって。ここは魔法大国だからね。召喚術なんか使ったりして、あっという間だよ。しかも、国王がスコーンの島にするって決めてから、十人しかいない建設部の生え抜きを六人も配置しちゃって気合い入ってるから!!」
「十五秒!?」
スコーンが声を上げた時、無線で建物が完成したという連絡が入った。
「よし、水槽や建物だけは出来たけど、水はすぐにとはいかないけど四日で完了見込みだって。魚は?」
「マグロとメダカ!!」
スコーンが笑った。
「分かった、また繊細な魚だね。あとは適当に見繕っておくよ」
私は笑った。
「あとは、島の北東には元々ファン王国海兵隊の演習場があるし、その近くに射撃練習場もあるよ。ホテル誘致の話もあったみたいだけど、ビーチはいくつかあるんだけど、他に観光地らしい観光地ががないからっていう理由と、遠すぎて時間が掛かるって理由でキャンセルになったみたいだね」
私は笑みを浮かべた。
「ビーチあるの!!」
スコーンの目が輝いた。
「うん、パステルにも地図を渡してあるから、相談してみたら」
「うん、そうする!!」
スコーンは地図と睨めっこしている、パステルの元にいった。
「あの、お酒飲みたいのですが、いい場所ありますか?」
ビスコッティが近寄ってきて、笑みを浮かべた。
「あるよ。ちょうどいいや、みんなついてきて……あっ、待って」
『マリー、コントロールアビエーション。ナンバー二、ファイブミニッツ。アゴー』
「おっと、二番機があと五分で着くらしいから、ちょっと待ってね」
「はい、分かりました」
ビスコッティが笑みを浮かべた。
しばらくして、輸送機がもう一機着陸して止まり、転回場でUターンして駐機場に留まった。
中から10式戦車が十両降ろされ、隊員たちがぞろぞろと降りてきた。
「演習ですか?」
ビスコッティが聞いた。
「違うよ、私たちの護衛だよ。他国から呼び寄せたんだ」
私は笑った。
「そうですか。ところで、お酒は?」
ビスコッティが笑みを浮かべた。
「ああ、そうだったね。あっちに宿舎というか、大きな家があるからそこを使おう。やたら広くて、落ち着かないかもしれないけど」
私たちは馬を引いて、駐機場の近くにある大きな家に向かった
私は鍵がない扉を開き、窓を全開にして回った。
熱帯性気候特有の湿気を抜き、エアコンを全開にした。
魔力ジェネレータ二機がけが一気に目を覚まし、凄まじい音を立てはじめた。
「さて、窓を閉めないとうるさいね。閉めようか」
私が窓を閉めにいこうとすると、アメリアとマルシルが素早く窓を閉めにいった。
程よく部屋が冷えたところで、私は掃除機を引き出した。
「久々だからなぁ……」
家具を退ければ百人は入れそうな広大な空間は、勢い余って気合いで作ってもらった者だが、広すぎて落ち着かないという欠点があったが、こんなの慣れの問題だった。
「リナ、悪いけどベッドに布団敷いてもらえる。あそこの引き出しに入っているから」
「いいよ。それにしても、ベッド二十台って多くない? パラトも手伝って!!」
リナが笑って、ベッドメイクをはじめ、窓を閉めたマルシルとアメリアも手伝いはじめた。
「ごめん、もう一人客人がくる予定だから、私はちょっと抜けるね」
私は家を出て、再び駐機場に戻った。
「ハロー、コントロール。ディスイズマリー。ナンバー3オクターン。オーバー」
『イエス、マリー。ナンバー3、E.T.A3ミニッツ。オーバー』
「オーケイ、コントロール。イレギュラーアム、サンキュ」
管制塔との無線交信を済ませ、炎天下の駐機場で待つ事しばし。
一気のハリヤーが飛んできて、滑走路に着陸し、そのまま駐機場に入ってきた。
駐機場においてあったタラップを係員が数名がかりで動かし、キャノピーが開いたコックピットに付けると、一人の女性が四苦八苦して降りてきた。
「よう、マンドラ。遠路はるばるようこそ!!」
「ようこそじゃないよ。急に呼ぶから、あんなヤバい飛行機でくる羽目になったじゃん」
マンドラは笑った。
マンドラは、私の友人ともいえる存在で、某国の王女だったが暇だからと、勝手に家出してしまったお転婆野郎マクガイバーだった。
「練習にはなったでしょ。お転婆らしくて」
私は笑った。
「あのね……。まあ、いいや。この島を譲ったんだって。まあ、あんたはあんまりきてなかったからね。家の屋根と外壁手入れした?」
「それはこれから……このチャンネルだったかな」
私は無線の周波数を合わせ、トークボタンを押した。
「ウィアー『芋ジャージオジサン』。カムヒヤ、アゴー」
『分かった。やってみよう……』
第二陣の輸送機から降りてきたジャージ姿の一群が、真顔でこちらに行進してきた。
「それじゃ、手はず通りよろしく」
「うむ、分かった。半日もかからんだろう」
ジャージ軍団はそのまま家を取り囲み、作業をはじめた。
「相変わらず手際がいいね。さて、新オーナーに合わせてよ。可愛いんでしょ?」
「うん、ビーチに行ってるよ。でも、どこのビーチやら。ここは五個あるからね……」
私は無線機のチャンネルを合わせ、パステルを呼び出した。
「どう、ビーチの具合は。どこにいるの?」
『はい、空港から一番近い狭いビーチです。白くていい感じですよ』
「分かった。あそこだね。今から、遅れてきた友人を連れていくよ」
私はマンドラをみた。
「馬に乗れるよね?」
「今さらなに聞いてるの。あんたより上手いよ」
マンドラが笑った。
「おかしいな、そろそろ馬屋が……」
私が呟いた時、どこからともなく眼鏡姿の女の子と、お下げが可愛い女の子が馬を引いてやってきた。
「お待たせしました。お代は二万クローネです」
「分かった、ありがとう」
私は財布から二万クローネ分のお札を渡した。
「毎度ありがとうございます」
馬屋の女の子二人はどこかに去っていった。
「ほら、二十万クローネね。貸しは作らないよ」
マンドラが私にお札を差し出し、それを素直に受け取った。
「なんだ、バレてたか」
「当たり前でしょ。どこに二万クローネで馬を売るバカがいるの。適正価格くらい知ってるよ!!」
マンドラが笑った。
「それじゃ、行こうか。パステルが切り拓いた道が見えるけど、相当な急坂のはずなんだよね。崖マーク書いてなかったかな……」
私は小首を捻りながら、森の小道をマンドラと進んだ。
たっぷり一時間は掛け、白いビーチが見えてくると、パステルが馬の手入れをしていて、なぜかスコーンが砂に肩まで埋まっていた。
「……なにしてんの」
私は苦笑した。
「……穴ぼこの魔法にハマったよ。これだから、急造魔法は」
スコーンが苦笑した。
「出られる?」
マンドラが馬から下り、笑みを浮かべた。
「ああ、この人が無線でいっていたマリーの友人かな。こんな格好だけど、初めまして」
スコーンが笑みを浮かべた。
「初めまして。出てきなよ」
「うん、こうして……」
スコーンが呪文を唱えると、パステルが砂に埋まった。
「な、なんですか。私がなにかやって、怒っちゃいました!?」
パステルが慌てた様子で叫んだ。
「ち、違うよ。えっと、ビスコ……じゃなかった。ヘルプ!!」
スコーンが小さく息を吐いた。
「よし、穴掘りするぞ。ちょっと待ってて」
私は無線を広帯域チャンネルに合わせ、トークボタンを押した。
「こちらマリー、P7にてトラブル発生。穴掘り道具を持って集合されたし」
『はい、ビスコッティです。三十分で着きます!!』
「穴掘り道具ある?」
『……ない。ここは魔法で!!』
「あー、割り込む。P6にて作業中のコマンダーだ。ゴミ掃除していた元帥が面白そうだとうるさい、掘りに向かうとうるさい。五人連れて向かう。十分で着く」
『とにかく急いで、手で掘れる深さじゃないから』
しばらく待つと、軍服を着た六人の姿が現れ、スコーンの救出に取りかかった。
「スコップ持ってきました!!」
続けてやってきたビスコッティが、半分砂に埋もれているパステルをせっせと掘り起こしはじめた。
しばらくしてスコーンの救助が終わり、穴を埋めて元通りにすると、軍服姿はあっという間に撤収していった。
「はぁ、酷い目に遭ったよ。今度はパステルだね」
もの凄い勢いで砂を掘っているビスコッティの様子をみて、スコーンは思案顔をした。
「大丈夫そう……かな。スコップで砂じゃなくて、パステルを掘ってるよ」
スコーンは苦笑した。
「ビスコッティ、熱くなりすぎ。スコップはもういいから、手作業の方が早いよ。私たちも手伝うから」
私は苦笑して、スコップを投げ捨てて手で砂を掻き分けているビスコッティと一緒に、パステルを穴から掘り出した。
「はあ、なんですかもう。これも冒険です!!」
傷だらけのパステルが笑った。
「あーあ……」
スコーンが回復魔法でパステルの傷を治し、私は砂に座り込んでしょぼくれているビスコッティにマンドラコラを手渡した。
「……こ、これは、鬼マンドラコラ!?」
ビスコッティが慌てて白衣のポケットにしまった。
「こっちも」
私は鬼マンドラコラをスコーンにも渡した。
「ん、なんだこれ……。ぎゃあ!?」
スコーンも慌てて白衣のポケットに鬼マンドラコラを隠した。
マンドラコラは滋養強壮でお馴染みなのだが、鬼は凄まじく効果が強く、収穫数が極めて少ないので、王城に詰めている薬師くらいしか見る事がないような代物だった。
「どう、エンジョイしてる?」
私は笑った。
「ビスコッティにも紹介しないとね。こっちはマンドラ、私の友人かもしれないどっかの王女だよ」
「あっ、これはどうも。私はビスコッティです。スコーンは私の師匠なんですよ」
ビスコッティが笑った。
「そうなんだよ。でも、出来が悪くてさ。いっつも、必要な時にいないんだよ」
スコーンが苦笑した。
「それは、師匠がどっか行っちゃうからです。せめて、書き置きくらい残して下さい」
ビスコッティが笑った。
「まあ、私もどっかいっちゃうやつだけど、マンドラもやばいよ。すぐどっか行って、穴にはまるから」
私は笑った。
「穴じゃなくて罠!!」
マンドラは笑った。
「……罠。なんだろう。棚……?」
パステルが考え込んだ。
「まあ、いいや」
私は広帯域無線で、救助作業終了の連絡をした。
「これでよし、私たちはいくよ」
「うん、分かった!!」
スコーンが無邪気な笑みを浮かべた。
ついでといってはなんだが、私とマンドラはそのまま森の小道を抜けて行くと、ラパトが椰子の実を取ろうと奮闘しているのが見えた。
「それ、一人じゃ危ないよ」
私がラパトに声を掛けたが、ラパトはどうしても欲しいようで、木に登ろうとして滑り落ちていた。
「怪我するから、やめた方がいいよ」
私は苦笑して、その場を通り過ぎた。
「あー、ムカつく!!」
ラパトが椰子の木を蹴飛ばした。
「まあ、一人で素手じゃ無理だよね。手伝う?」
「さすがに無理だね。最悪落ちて死ぬし、私には経験がないから」
しばらく進んでいくと、マルシルがドラゴンの卵を抱えて困っていた。
「どうしたの、それ?」
「はい、たまたま落ちていたのですが、どううしていいか?」
「ああ、ドラゴンの落とし卵だね。もうそれ孵化しないから、埋めるか食べるしかないよ。ただ、いつのか分からないから、埋めて弔った方がいいね」
「そうですか。アメリアさん、これ葬りましょう」
茂みから三つ卵を持ってきたアメリアが、きょとんとした顔をした。
「埋めちゃうんですか。綺麗なのに……」
「それね、『竜の呪縛』っていうのがかかっていて、盗もうとしたり落とした場合に発動するんだよ。三日くらい全身が痒くなるくらいだけど、イヤでしょ。寝られないし」
私が苦笑すると、アメリアとマルシルの顔色が真っ青になり、慌てて灌木を引っこ抜いて違う場所にぶっ刺し、その穴を利用して両手両足を使って大慌てで埋めた。
私はドラゴンの言葉で呪文を唱え、印を切って埋めた穴に張り付けた。
「これで平気だよ。なに、遊んでたの?」
「はい、話が合ったので、一緒に散策していたのです」
マルシルが笑みを浮かべた。
「はい、ここは温かで面白いです。マルシル、行こう!!」
アメリアがマルシルと森の中に入っていった。
「みんな楽しそうだね」
マンドラが笑った。
「今後は、ここにきたくなったら、B7のチャンネルで。もう、スコーンの島だから不法侵入になっちゃうよ」
「分かってるよ。ところで、温泉どこ?」
マンドラが笑った。
「この先の湖。建設部が頭にきて掘りまくったら、巨大露天風呂になっちゃったんだよね。泳げるし、船も走れるし、この前きたときは飛行艇も二機走り回ってたな。なぜか、飛ばないでひたすら加速してただけで、みてて面白かったよ。
私が笑った時、胸ポケットの衛星電話呼び出し音がなった。
「あっ、シカトしよ。どうせ、P-ちゃんでしょ」
私はアンテナの向きを変え、行く先を見た。
しばらくして。湯気が立つ大きな湖が見えてきた
「おっ、誰かいる!!」
温泉だか湖だか分からない巨大なお湯溜まり? でジェットスキーに乗った水着姿のスコーンとビスコッティが仲良く飛ばし。両国海兵隊の皆さんが、私たちの脇をダッシュで駆け抜け、男湯に突入していった。
小屋の男湯の入り口が壊れたが、凄まじい速度で補修され、なにやら騒ぐ声が響いた。
「ほら、温泉だよ。まさか、お酒持ってないよね?」
「持ってないよ。ジェットでぶっ飛ばしたいもん!!」
マンドラが笑った。
「好きだねぇ。しかも、二気筒しか興味がないって、渋い!!」
「だって、トルクがあってパワーバンドもバッチリ合うし、まるで体の一部のような一体感がいいんだよね」
マンドラが笑った。
「まあ、分かるけど……。さて、水着に着替えようか。中に入ろう。
私たちは、脱衣所がある小屋に向かった。
「それじゃ、いってくるよ!!」
水着に着替えたマンドラが、ジェットスキーを借りて、湖上に滑り出ていった。
「さて、私はゆっくりしますか」
私は脱衣所から続く木の階段を下り、湖の中に入った。
湖といっても完全に天然というわけではなく、建設部のみなさんが丁寧に作業を行い、水深はせいぜい三メートルくらいの遠浅のものだった。
沿岸からあまり離れると入浴どころではないので、脱衣所からの階段の近くでボンヤリした。
しばらくして、脱衣所の階段を勢い良く誰かが下りて来る音が聞こえ、パラトが湖に飛び込んでいき、そのまま潜行していった。
「うん、元気だね」
私は笑った。
そのまましばらくすると、リナとナーガがボートでこぎ出していく姿が見えた。
「ワカメだよ、ワカメ。ここのワカメは美味いって聞いた!!」
「ワカメ、ワカメ!!」
海賊旗を立てた手こぎボートで、リナとナーガが騒ぎながらボートを進めていった。
そのうち、ドバンと音を立ててボートが爆発し真っ二つになったが、それでもリナとナーガーはくじけずに進み、遠目にワカメ漁をはじめたのが見えた。
『ハロー、マリー。ディスコントロールタワー。エージェントハリヤーファイナルアプローチチェック。オーバー?』
「あっ、きたな……。コントロール、ディスマリー。カムヒア、ゴートゥランド。プロメテ・プリンセス」
『ロジャー。エージェントカムナンバー002。トランスポンダー……』
私は苦笑して、ノンビリくつろぎながら、ここからは見えないジェットスキーエリアの方を見つめた。
「ここにきたって事は、あのお堅物様も柔らかくなったかねぇ」
私は笑った。
滑走路方向でなにか轟音が聞こえたと思うと、しばらくして馬が走る音が聞こえてきた。
脱衣小屋の階段を水着で降りてきたのは、フィン王国第一王女のマサンドラだった。
「おっ、元気してた?」
「うん、あれこれを妹に押しつけてから逃げ出して、気楽でいいよ。まあ、今回はここに浸かるためにきたから、会わないけどね。喧嘩になっちゃうから」
マサンドラは笑い、湖の向こうに泳いでいった。
「はぁ、平和だねぇ」
私は笑った。
同じ場所もなんだと泳ぎはじめた頃、両国海兵隊やら芋ジャージオジサンの一行が湖になだれ込み、私はインカムを外してワカメ漁を続けるリナとナーガに近寄っていった。
「ワカメ獲れた?」
「全然獲れないよ。パンフレットには、ここのワカメが美味いって書いてあったのに」
リナがブチブチ文句いいながら、壊れたボートの船体を掴んだ。
瞬間、ボートが猛スピードで動き出し、さらに沖合に向かっていった。
「あの辺りの水深なら獲れるはずなんだよね。パンフレットに書いてあったはずなんだけどね」
私は苦笑した。
『まもなく、入浴タイム終了となります。危険ですので、一般入浴者の方は岸に上がって下さい』
「おっと、ジェットスキーエリア開放時間だね」
私はゆっくり脱衣小屋に向かって泳ぎ、階段を上ってタオルで体を拭き、服を着て馬に跨がった。
そのまま家に走ると中に入り、綺麗にベッドメイクされたベッドを確認し、お風呂で仲良く笑い声を聞いて笑った。
家の隣でいきなり工事が始まり、建設部の総員が似たような形の家を建てはじめた。
「あれ、新規で建てたんだ。だったら、整理は不要か」
私は笑みを浮かべた。
「なんなら、家を連結するか。えっと……」
私は外していたインカムを耳に付け、ざっと指示を出した。
「ゴー」
最後にこれだけ告げると、工事音がここまで響いてきた。
「これでいいかな。あとは、お隣の完成待ちだね」
私は無線のチャンネルをスコーンに合わせ、トークボタンを押した。
「スコーン、どこにいる?」
『ん、パステルと一緒にまだビーチだよ』
「そっか、暇になったら家に帰ってきてね。急がないから、ゆっくりでいいよ」
『分かった、いま行く!!』
私は家から出て、隣に建ったスコーンの家を眺めた。
「ピンクとか好きかな。同じ色じゃ可哀想だし」
私はオレンジ色の服をきた監督に声を掛けた。
「これ、白い水玉模様に出来る?」
私は自分の家を指さした。
「うむ、簡単だ」
監督が指を鳴らすと、私の家の外壁が青地に白の水玉に変化した。
「そっちはピンク」
「うむ、もう上物は出来ているからな。いいだろう」
スコーンの家が薄ピンク色に染まった。
「これで、少しは明るくなったね。はい」
私は監督にペンキ代と心付けを手渡し、そのままスコーン帰ってくるのを待った。
「ところで、本当に浴室は一つでいいんだな」
監督が聞いてきたので、私は頷いた。
「浴室は一つでいいけど、前に話した通り、湯船は三つで違う源泉で。一個は濁り湯で」
「うむ、それ問題ない。内装はあえて最低限にしておいた。好みがあるからな」
監督は笑みを浮かべた。
「それは、そうだね」
私は煙草に火を付け、思い切り息を吐き出した。
しばらく監督と立ち話していると、空港の方でペガサスエンジン特有の甲高いエンジンが響き、ハリヤーが離陸した。
私の家からアイリーンが酒瓶を傾けながら、ご機嫌で鼻歌を歌いながら出てきた。
建設中のスコーンの家の前を通り過ぎると、離陸したハリヤーがアイリーンの背後から追いかけはじめた。
「ちょ、こら!!」
アイリーンが慌てて酒瓶を投げ捨て、フラフラと逃げはじめた。
地上五センチでピタリと追尾していくハリヤーは、時々機関砲をぶっ放しながらノロノロとアイリーンの後を飛んでいった。
「なに、喧嘩?」
私は笑った。
なにが起きたか分からないが、ゆっくり遠ざかるハリアーを見送り、私はもう一度家に入り、椅子に腰掛けた。
しばらくすると、ハリヤーのエンジン音が聞こえ、遠ざかっていった。
「いったか。あれでも……おっと」
私は苦笑した。
風呂場の方で音が聞こえ、マルシルが出てきた。
「あっ、お帰りなさい。ベッドメイク終わりましたよ」
「うん、ただいま。お風呂上がりでこんなこと頼むのも悪いんだけど、みんな出てきたら、隣の建設現場でちょっと様子見てくれるかな。絶対、どっか不具合があるから、オレンジ色の服を着た監督に話してみて。
「はい、分かりました。皆さんを待ちます」
しばらくして、アメリアとナーガが脱衣所からやってきた。
「みなさん、隣の家をの様子を見にいきましょう」
マルシルが笑みを浮かべ、アメリアとナーガが家から出ていった。
「スコーンの家か。なにかあったたかな……」
私は冷蔵庫を開け、中から食材や漬物を取り出した。
「あとは、糠床」
私は床下収納の瓶の蓋を開け、キュウリのぬか漬けを三本取り出し、綺麗に水で洗った。「さてと、料理しますか。歓迎会だね」
私は小さく笑みを浮かべた。
夕方になって、三々五々みんなが戻ってくると、調理する品数が多くて困っていたので、リナとナーガ、アメリアとマルシルにも手伝ってもらい、他のみんなには野外パーティの準備をお願いした。
「そろそろ、頼んだものがくるはず……ごめん、ちょっとみてくる」
私キッチンを離れ、空港の駐機場に向かった。
フェンスの扉を開けて、駐機場の中に入ると、小型双発プロペラ機が着陸してきた。
駐機場に入ってくると、私は機内に積まれたソーセージやパンなどの不足していた買い置き出来ないものの箱を抱え、再び家に戻っていった。
「手が空いているみんなは外に出て、空港の駐機場にいって、ちょっとしたパーティーやるから。危ないから、アイリーンの指示に従ってね」
私の声にみんなは頷き、家の外に出ていった。
「さてと、いい加減ブチ切れるな……」
私は向きを変えていた衛星電話のアンテナを正しい位置に合わせ、文字情報であと三分と伝えた。
「これでよし、あとは……」
私は窓から隣の家で、家具の配置や壁紙などを貼っている姿を確認し、小さく笑みを浮かべ、ポケットから鍵を取り出した。
「そろそろ、開けておくか」
私はベッドの合間を抜け、目立たないようになっている扉の鍵を開けた。
「これでよし。あとは、業者に任せよう。ここはもう一回生まれ変わる」
私は笑った。
駐機場で盛大なパーティの準備が整う中、私はそっと隣の家にいって、扉をノックしてみた。
「ん、誰かな……」
呟きながらスコーンが扉を開けると、私は鍵を二つ渡した。
「これがこの家の鍵だよ。この書類にサインしてもらいたいんだけど、一ついっておくよ。サインしたら、ここの所有権は私からスコーンに移るからね。だからって放り出さないし、みんなで使う事に変わりはないんだけど、まあ気持ちね」
私が差し出した鍵をスコーンは受け取り、少し緊張が見られる表情で書類にサインした。
「はいどうも。で、島の名前どうしようか。私は面倒がってつけなかったんだけど、そこは任せるよ」
「島の名前……じゃあ、『トレニア』で」
「分かった、このサイン欄の上に書いて」
スコーンが島の名前を記すと、私は衛星電話で文字情報を送った。
瞬間花火が上がり、インカムに管制塔からの交信が聞こえ、空港全体の灯火が点った。
「な、なにごと!?」
スコーンがひっくり返りそうになった。
「まあ、色々事情があって、今までここは海図にも地図にもない事にされていた島なんだよ。それが、民間人ってあえていうけど、王家とは関係ないスコーンが島主になったことで、ある意味初めて『トレニア』という島が生まれた事になるんだ。その記念に、パーティでもと思ってね。今準備しているところだよ。一緒にいこうか。ちなみにその鍵は、私の家と繋がっている連絡通路の扉の鍵だよ。一つは家の鍵だけど、使わないならそのまま持ってて!!」
私は笑った。
「わ、分かった。大袈裟なくらい派手だね」
スコーンが目を丸くした。
「このくらいでちょうどいいんだよ。さて、パーティにいこう」
私は笑った。
広大な駐機場で行われたパーティは、ささやかというには派手だったが、特にトラブルなく、楽しい夜が続いていた。
「さて、王都で首がひん曲がるほど伸びている国王に会いにいかないとね」
私は衛星電話を取りだし『早く来い。バカ』と文字データを送った
『あと二分じゃ、ボケナス』
すぐさま返信が返ってきて、私は小さく笑みを浮かべた。
しばらくするとエンジン音とプロペラ音が聞こえ、ファン王国の国章が描かれたYS-11が着陸してきた。
駐機場に入ってきてしばらくすると、全部の扉が開いてタラップが下り、立って歩く猫とにこやかな笑みを浮かべる、ゴツいオジサン二人が下りてきた。
私はタラップのところに移動して、国王の鼻を押した。
「うむ。鼻は触るでない、痛い。久しいな」
国王は笑みを浮かべ、小さく笑みを浮かべた。
「お久しぶり。さて、みんな、ファン国王様が待ちきれなくてきちゃったよ!!」
「うむ。今はお忍び扱いじゃ、堅苦しくしなくてよいぞ」
国王は頷いた。
「……こ、国王様が猫?」
ビスコッティがポソッと漏らした。
「うむ。猫は猫だぞ。問題ない。なお、私の名は長いので、ぴーちゃんと呼んで欲しい。我が国では、皆そう呼んでおる」
国王は笑った。
「う、噂には聞いていましたが……。そ、そういえば、猫背が酷いですね」
「うむ。噂にはなるだろうな。そして、私は猫である。無論、この猫背は正常だ」
私は小さく笑い、国王の頭を引っぱたくとお付きのゴツい二人に目配せした。
一人が国王を担いで機内に戻り、一人が抱えていた大きな木箱を置いた。
「あっ、スコーン。さっきのサインしてもらった紙をちょうだい」
「うん、いいよ」
私はスコーンから受け取った紙を、タラップの最下段で待っていたお付きのゴツい人二に手渡すと、ポケットから印を取り出して私に手渡してきた。
私もポケットから国印を取りだして、その紙に押印するとそのまま返した。
クリップボードのようなものを持ったその二は、素早くタラップを駈け上っていき、ブザー音と共にタラップが閉じた。
飛行機はそのまま車輪の向きをぐいっと変え、Uターンして滑走路に向かい、すぐさま離陸していった。
「……な、なんだったの」
リナがポツッと粒やいた。
「うん、国王様がどうしても記念のメダルを渡したいって駄々こねて、考え出した結果がこれ。故あって、ファン王国籍の王族はここに降りられないから、こうなっちゃったんだよ。これで、あと数時間後には『不法入国』じゃなくなるよ。忘れてるかも知れないけど、ここはまだ『ファン王国』だからね!!」
私は笑った。
衛星電話の電源を切るついでに小さなディスプレイをみると『ガンヘッド大隊任務完了せり』と表示されていた。
「おつかれ!!」
私は笑みを浮かべた。
「はい、数が多いから記念のメダルを配る人募集。全く意味はないといえばないんだけど、国王様の気持ちだと思って、ありがたく受け取っておこうか」
私が声を掛けると、マンドラとアメリアが出てきた。
「じゃあ、配ろうか。軍関係者は勝手決めてやってね!!」
私たちは、金で出来た国王の名前入りのメダルを全員に配った。
「イベントといえばこれだけだから、あとは好きにやってね。ホットドッグ頂戴!!」
私は笑った。
珍客も去り、ささやかなパーティも終わりかなとなっていう頃になって、二機のC-17が着陸した。
「うん、なんとか間に合ったな。スコーン殿の家の家具だ。みんな、運ぶぞ」
オレンジ色の服を着た監督が叫び、建設部とフィン王国海兵隊のみなさんが、ベッドやテーブルなどを下ろしはじめた。
「……しゅごい。もう出来た」
スコーンが目を丸くした。
家に明かりが点り、ヘタレた隊員をビスコッティがビシバシしばいて渇を淹れている姿が見えた。
その間、残ったフィン海兵隊の皆様が、パーティの後片付けをはじめ、私はアメリアとマンドラとハイタッチした。
「これで、このファン王国を守れたよ。どことはいわないけど、某国がしつこかったみたいだからね」
マンドラが笑った。
「まあ、いいじゃん。これで、スコーンに私の身代わりみたいに思われたら嫌だけど、あとで謝っておくかなな」
私は苦笑した。
「まあ、これで落ち着いたね。外交的には」
アメリアが笑った。
「なに話してるの?」
慌てて開梱したらしく、包装材を全身に纏わせたスコーンが家から出てきて、笑みを浮かべた。
「うん、秘密のね」
私は笑った。
「分かった。大分片付いたよ、見にきて!!」
「分かった。アメリアとマンドラは、忘れ物を取りにいったアイリーンの様子を見てて」
私はスコーンに続いて、ピンクの水玉模様に塗られた家に向かった。
中に入ると、私と同じような家具の配置で、白やピンク、青の壁紙がセンスよく貼られていた。
「へぇ、いい感じだね」
私は笑みを浮かべた。
「家具はほとんど置いたし、勝手に秘密のトンネルを通ってマリーの家にも行ったよ。ちゃんと電気もお湯も出るし、問題ないよ!!」
スコーンが笑った。
「よかった、なにせバタバタだったからね。もう時間も時間だし、帰るか泊まるかだけど、どうする?」
「泊まっていくよ。このままじゃ帰れないし。トンネル通ろう!!」
スコーンが体中のテープや梱包をバサバサ落とし、鍵を取り出してベッドが並んだエリアの壁にあった扉の鍵を開け、青い色の壁紙が貼られたトンネル状の通路を歩いていった。
私も後を続いていって、開け放ったままの扉をくぐり抜けると、そこは私の家のベッドエリアだった。
「スコーン、あっちの家の準備が終わるまではまだ時間が掛かりそうだし、今日はこっちで寝た方がいいよ。頭からゴミだらけだから、お風呂入ってきなよ」
「うん、分かった」
私はタオルをスコーンに渡し、私は笑みを浮かべた。
「ありがとう、いってくる」
スコーンは笑みを浮かべ、そのまま風呂場に向かっていった。
「はぁ、疲れた。でも、もう一踏ん張り。色々無理したから、後片付けがねぇ……」
思わず苦笑しながら適当なベッドに座り、書類を揃え始めたのだった。
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