一時間目前

転校生君と廊下を駆け抜け、一時間目の理科の実験室についた。


「はぁ…はぁ…」

「ごめん、少し強引だったな。大丈夫か?」

「うん、僕は平気。だけど…」

あいつらがどう出るかわからない。ちょっぴり恐怖というかパニックというか…。


「あんな奴ら構うだけ無駄だ。ところで…」

「ん?」

「まだ、君の名前を聞いていないんだが」

「あっ…」

そうだ。いろいろとバタバタしていて名前を教えていなかった。


「僕は…リディア・ロックハート。君は…イノ君、でいいのかな?」

「イノって呼んでくれ。よろしくな、リディア」


クラスメイトに名前を呼ばれたのは何日ぶりだろうか。嬉しくて目から涙があふれる。


「ちょっ、おい、何で泣くんだ!?」

「だって…、名前、呼んでくれたから…」

「おいおい、名前なんて誰でも呼ぶだろ…」


イノは服をごそごそし始めた。おもむろに何か取り出すとそれを僕に差し出してきた。


「ほら。これで涙吹けよ」

彼が差し出したのは薄紫のハンカチだった。

何か刺繍が施されていたが、それを確認する前に涙を拭いてしまった。

「やっぱり、相当たまってたんだな…」

「うっ…ぐすっ…ひっぐ…」


拭いても拭いても涙は止まらず、僕が泣き止んだのは授業が始まって少ししてからだった。

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