朝のHR(ホームルーム)
「えー、今日は転校生が来ます。みなさん静かにしてください」
先生の指示でクラス中が静かになる。さっきまで僕のクラスは転校生の話題で持ちきりだった。
けれど、僕はそこまで転校生に興味はなかった。
「さぁ、扉を開けて。入ってきなさい」
ガラガラッと扉が開き、一人の男の子が入ってきた。
その顔は…息をのむほど整っていた。
紫色のコート、紫色の瞳。
髪の毛は右前髪ともみあげと後ろ髪が長く、後ろ髪は縛ってひとまとめにしてある。
もちろん、彼の髪色も鮮やかな紫だ。
その転校生は先生に言われるまま、黒板にチョークで名前を書き始めた。
[ウィング・フェザー・イノ]
イノ君って言うのかぁ…。なんて思っていたら自己紹介が終わったらしく、僕の近くの空いている席に座った。
彼への第一印象はすごく大人っぽい、落ち着いた雰囲気の男の子だな、と思った。
その後、HRが終わるとイノ君はクラスメイトから質問攻めにされていた。
その話題は「どこから来たの?」とか「何で転校してきたの?」などありきたりな質問ばかりだったが、彼は無難に答えていた。
彼に、僕がいじめを受けている、ということはなるべくばれたくない。
なぜなら、彼に迷惑をかけてしまうし…などと思いつつ、次の授業の準備をしていると…
「よっ!君、名前なんて言うんだ?」
えっ…?話、かけ…られた…?
必死に目をそらしてみる。
「おーい、無視すんなよー。そこの金髪のお前だよ」
このクラスに金髪は僕しかいない。
と、いうことは…。
自分?と指さしながら紫の相手をおずおずと見る。
「そうそう。君だよ」
「え…僕?」
声を出してしまった。
こんな僕が、彼と会話してもいいのだろうか。
「俺はさっきも紹介したけど、イノっていうんだ。君は?」
「僕…は…」
どもってしまう。
いじめられている僕がはたして彼と会話していいのだろうか?
「あ~転校生君?そいつ、ぼっちだからやめときな?」
「俺たちと遊ぼうぜ~」
やっぱり来た。あいつらがいる限り、僕は…。
「ぼっち?だからどうした?」
「は?」
「え?」
…?
「こいつが一人だろうが、俺は仲良くなろうとしてるんだ。邪魔しないでくれ」
「え、おいおい、やめとけって。無駄だよ。そいつと絡んでも面白くねーもん」
「そうだぜ、絶対俺たちとつるんだ方が―――――」
「つまんねぇ奴らだな、君もそう思わねーか?」
「えっ…?」
彼が放った一言は、僕の心に一筋の光を差し入れた。
もしかしたらこの子は、僕の学校生活を変えてくれるかもしれない。
そんな淡い期待とともに。
「はっ?つまんねぇだと?言ってくれるじゃねぇか。ちょっとそのスカしたツラかせ―――」
手が出る、やられる―――、そう思った。だが。
ヒュンッ!
「!?」
彼が手を素早くふると“何か”が壁に向かって一直線に飛んでった。
そして僕をいじめていたやつらの一人の頬からはつー…と赤い血が流れていた。
「おい、大丈夫か!?」
「いってえええ!何すんだてめぇこのっ!!!」
逆上したあいつらが向かってくる。もうダメか…。
「いったん逃げるぞ、金髪っ!」
「ふぇ!?」
「とりあえずそれ持て!行くぞっ!!!」
僕はあわてて次の授業の荷物を持ってイノ君とともに教室を後にした。
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