第10話 反神命/ディスオーダー

 【反神命ディスオーダー】と【反発想ディスコード】には根本的に戦力差がある。

 それは両者の持つ方向性……能力の在り方の差だ。


 【反神命ディスオーダー】はいわゆる次元上昇アセンションと呼ばれる、スピリチュアル、オカルティズム的な階梯をすっ飛ばして上昇させる能力である。

 生物に定義されている存在意義を破壊することで、より上位の存在にへと変革するのだ。

 崩し方によっては神話に語られるような生物の形質を獲得、現実に具現化させることすら可能だが、やはりそれは能力の余波に過ぎない。


 だが、【反発想ディスコード】は、文明の終わりを観測する能力であり……つまり。

 文明を終わらせるような超技術をその身に顕現させるのだ。

 人の歴史は闘争の歴史である。

 積み重ねられた、そして積み重ねられるであろう歴史によって【反発想ディスコード】はあらゆる存在よりも強力な兵器を生み出せるのだ。

 敵対者をより効率的に殺すための技術の究極系である。


 そのような相手と正面から殴り合ったところで、普通は勝てるはずもない。

 そう、普通は。


 だが、私は魔王だ。


 うたが放つ閃光を虹色の泡のようなものを生み出し反らす。

 うたが生み出すマイクロミサイルを、高速でうねる触腕で弾き返す。

 飛行形態にへと移行し、上空から熱線を放ってくるも、私はそれを鏡状の甲殻を使って反射する。


 逆に私が槍のように鋭く伸ばした骨は触れる前に風化した。

 両腕から竜の息吹を放つも、風を編み込んだ正体不明の技によって細かく裁断された。

 攻撃の間隙に差し込むように、手に生やした鱗から催眠光を放つも、詩は周囲をモノクロ化することで無害化。


 真面目に殴り合っていても千日手にしかならない。

 お互いに過剰に戦線を広げないために私は眷属生産を、詩はドローン兵器製造を縛っている状態でこれだ。

 私も詩も、戦線拡大するような能力を使うと収集がつかなくなる。

 そもそもどっちも能力の延長として制御できるものではないのだ。


 そこにこそ差し込める隙があるといえる。

 私は、ひたすら詩の足止めに徹すればいい。

 そうすれば……私は切り札を使える。


「詩! これ以上続けるというなら……私にも考えがあるぞ!」

「イヤですわ、イヤですわお兄様! 私の愛を受け止めてくださいまし!」

「お前のは愛じゃなくて執着だろうが!」


 私と詩はその能力を何度でもぶつけ合う。

 異能はより強大な困難に直面するたびにその熱を帯びていき、より強力で、より致命的な力を開示することがある。


 そして、私のソレは、これだ。

 【反神命ディスオーダー】、神に科せられた定めから解き放ち、その本質を顕にする能力。

 その極地。


「詩、残念ながらお仕置きの時間だ」

「なんですの!? 私はまだ続けたいですわ! お兄様が愛して見てくださるこの時間を!」

「だから駄目なんだよ。――〈終わるべき理想世界オーダーシフト〉」


 突如、世界は光だけを残して裏返った。

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