第8話 反発想/ディスコード

 それは空から落ちてきた。

 人間を脇に抱いたまま、4つの塔を連ねる翼から豪炎を吹き上げその勢いを殺す。


 機械仕掛けの鎧。

 一目で見ればその程度のようなものに見えるだろう。


 だがそれは機械によって異形化した手足を持ち、巨大な翼を広げている。

 特撮や映画のような整ったヒーロースーツと比べても、あまりにもゲテモノな作り。

 作った人間は間違いなく倫理観というものが存在しないであろうその造形。

 人と機械の区別なく、改造を施した代物。


「【反発想ディスコード】ォゥ……」


 私は、思わずうめき声を上げてしまった。

 というか、うめかないわけがない。

 私は彼女に出会わないために、未来を荷物にフラフラ拠点を移していたというのに。


 ……やっぱこの未来視能力者役に立たねえな。

 感情で動くやつが多すぎる。


 その機械まみれは手に持った人間をこちらに向かって投げ捨てる。

 投げられたその男は……神命教会ディバインオーダーのトップである上方だった。

 工事現場などに配置されるLEDで光るロープで縛られている。

 大方、拉致られて人を動かす理由にされたのだろう。

 なにか寝ているうちに巻き込まれたとかそういうことをうめいているが、まあ今はどうでもいい。


 むしろ、今はこっちの機械鎧である。


「会いたかったですわよォ! お兄様ァ!」


 機械鎧がまるで溶けるようにドロドロと形を変え、足元の硬いコンクリートにへと消えていく。

 人の部分にすら食い込んでいたはずの機械も空気にでも溶けるように消えていった。

 残された残骸をステージだと言わんばかりに、中から現れた人物はそこに堂々と立つ。

 白いワンピースドレスを身にまとった碧眼の少女。


 【反発想ディスコード うた

 あらゆる発想を無為に返し、それを自明のモノへと堕落させる超常の異能の持ち主。

 この魔王、皆崎綺譚の妹であり、異常偏愛者。

 なお、言動はクソお嬢様であるとする。


 私は彼女から逃げるために家を出たというのに、まさかの方法で私を追跡してきた。

 これまでも、実家の近くに隠れるように引っ越したらだけでその住所を突き止められたり。

 海外にふらりと旅行に出たら、ミサイルに乗って追いかけてきて(なおその国は戦争で消し飛んだ)。

 顔も名前も変えて別人にして漫画喫茶暮らししていたら、その漫画喫茶が買収されたり。


「うた、一体どうやって彼を」

「お兄様の周囲をうろちょろしていた後輩でしょう? ちょっと捕まえたら快く協力してくださいましたわァ」


 足元の上方は激しく首を横に振っているぞ。

 これは強引に拉致されて暴力的な手段で協力させられているに違いない。

 目立った外傷がないあたりは、能力まで使われているわけではなさそうだが


「うーん……まあ、そうか、おまえがそういうならそうなんだろうな。

 で、だ。

 ここまでの騒動を起こして、何をしに来た皆崎詩」

「そんなこと、決まっているでしょうお兄様ァ?」


 彼女は懐から一枚の紙を取り出す。

 お兄ちゃんその紙見覚えあるんだけど気のせいかな?

 主に市役所なんかで貰える。


「お兄様、わたくしと結婚くださいまし」


 私の妹が取り出した紙は、婚姻届だった。








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 能力者:皆崎 うた

 能力:あらゆる発想を無為に返し、自明のものにへと堕落させる【反発想ディスコード

 主な用途:ストーキング

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