11月

「好きな人がいるんだ」

 毎月のようにこの言葉を言っている気がする。

「結果は?」

 友人の問いに、黙って笑う。

 それだけで、俺の意図が伝わったようだった。





 い、く、じ、な、し。と口の動きがそう言っている。まだ何も言っていないのに、一か月経っても告白ができていないことがバレたようだ。以心伝心というのも考えものだな。

「言い訳をさせてくれ」

「いいだろう」

「タイミングがなかったんだ」

「…………」バシッ

 無言のままにチョップされた。いつも通り本から目を離さないくせに、とても正確だった。

「痛いな、叩くことはないだろ」

「言い訳にもなっていないようなことを言ってたからだ」

 まあ、確かに。




「タイミングなんて、最初からないんだよ。自分から作らなくちゃ……」

 説教が始まった。かなり長い。

「ちなみに、最近何の本を読んだ?」

 気になったから聞いてみた。

「いまいちな恋愛小説」

 鬱憤を俺で晴らそうとしてる?

「そんなことよりもな……」

 まだ続きそうだった。







「あ、もう夕焼けが見えるぞ」

 窓から見える、空の奥の方がオレンジになっていた。最近は日が暮れるのが早いから。

「ああ、もうそんな時間か」

 いつも変えるより少し早い時間だけど、帰り支度を始めた。こいつにしても、説教のやめ時を見失っていたんだろう。

「帰るか」

 二人とも、無駄に疲れていた。


 本当は、やろうと思えばすぐにできた。負け惜しみとかじゃなくて、本当に。

 でも、俺の気持ちを優先するより、変わりたくないという思いの方が強かった。まだ、もう少しだけ。

 先に教室から出て行った友人の背中に、黙って語り掛ける。心配しなくても、やり遂げてみせるさ。と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る