第10.5話 金曜日の放課後

「今週の授業もやっと終わったー!」


 ホームルームが終わって、先生が出て行ったのを確認したところで、思わず机に突っ伏した。


「お疲れさん、彩花」


「ありがと。さっちゃんも、お疲れ様」


 体は突っ伏したまま、首だけ横に向けると、隣の席のセーラー服姿のさっちゃんが足を組んで座っていた。


 スカートでそう言うことをすると、さっちゃんのスカートの丈が短いのも相まって、かなり際どい。


「さっちゃん、その体勢だと見えちゃいそうだよ?」


 一応幼馴染のよしみとして忠告すると、さっちゃんが肩をすくめた。


「別に彩花に見られても、何とも思わないからいいよ。どうせ、男子連中もういねぇし」


「えー、でもやっぱりお行儀悪いからやめた方がいいと思うなぁ」


 思わずジト目で見るけど、特に気にした風もなくさっちゃんは帰り支度を初めていた。


「そういえば今日彩夏は収録とか入ってんの?」


「んーん、今日は放課後はフリーだよ。明日はイベント、明後日はラジオとドラマCDの収録が入ってるけどねー」


 体を起こしながらグッと伸びをすると、さっちゃんがため息をついた。


「いつも思うけど、よくそんなんで学校と両立できるな。ウチだったら、絶対無理だわ」


「んー、忙しいのは大変だけど、これも私が選んだ道だからねー」


 パパッと帰り支度を済ませつつ、今日帰ってからの予定に思いをはせる。


 ――今日は帰ったら、とりあえず撮り溜めしといたアニメでも見ようかな〜


 そんな事を考えながら、学生鞄を手に持って立ち上がろうとしたところで、さっちゃんに止められる。


「ちょい待ち、彩花。今日空いてるなら、ちょっと相談乗ってくんない?」


 普段とは少し違う、真剣な声色でさっちゃんに言われて私は……。


「うん、全然いいよ。どっか途中で寄っていく感じ?」


「いや、姉貴にも話聞いてもらいたいから、ウチでいい? 例のメールの件について何だけどさ、まだ返信返してないんだよね」


 少し困った顔をしたさっちゃんにそう言われて、思わず「あー……」と漏らしてしまう。


 タケにぃにYUKI――さっちゃんの連絡先を教えてすぐに、メールが来たと昨日言ってたけど、まだ返せてなかったんだ。


 まぁ、そんなに簡単な話じゃないからなんだろうけど。


「了解! 不詳、石動いするぎ 彩花がお手伝いします!」


 ビッと敬礼……もどきをすると、さっちゃんが苦笑いしていた。


「あー……それ、今季彩花がやってるキャラの真似?」


「わっ、さっちゃん見てくれてるんだ!」


「まぁな」


 ちょっとそっけない態度でさっちゃんはそう言うけど、実はさっちゃんが私の出てる番組を欠かさず見てくれてるのは、結ねぇから教えてもらってたりするけど、本来あんまりアニメとかに興味が無いのは知ってたからすごく嬉しい。


「おーい、彩花ー、幸ー、今日2人は空いてるー? カラオケ行こうと思ってんだけどー」


 私達がそんなやりとりをしていると、まだ教室に残ってたグループから、そんなお誘いの声がかかる。


「わり、ウチはパスで」


 さっちゃんがそう言いながら目線で、どうする? と聞いてくるけど、私の答えは決まってる。


「ごめん、今日はちょっと用事が入ってていけないや。今度行ける時あったら、誘うねー!」


「りょうかーい! じゃねー、お二人さん!」


「彩花ー、さちーまた来週ねー!」


「ああ、じゃあな」


 そんなやりとりを終え、クラスメイト達が教室を出るのを見送っていると、さっちゃんのスマホにメッセージの着信を知らせる音が鳴った。


「誰からの連絡?」


「……姉貴から。帰ってくるの、7時過ぎるってさ」


「そっか、じゃあママに今日は帰り遅くなるって連絡しとくね」


 スマホをカバンから取り出し、ササっとメッセージを送ると、すぐにママから返事があった。


 ――あんまり結姉に迷惑かけないように、か。


 とりあえず了解! と送っとこ。


「さて、んじゃウチらも帰りますか」


 さっちゃんも返信が終わったのか立ち上がったので、私も鞄を持って立ち上がり、2人揃って教室を出る。


 時間はすでに夕方5時。

 

 部活に入っていない生徒はすでに殆ど帰宅してて、残っているのは委員会や部活をしている生徒が殆ど。


 廊下を歩いていてもすれ違う生徒はまばらで、どちらかと言えば先生達の方が数が多いくらい。


 私達の教室がある3階から階段を降りて下駄箱までやって来てみれば、ガラス越しに部活を頑張っている子達がいるグラウンドの様子が見てとれた。


 正直、私は特に運動神経が良いわけじゃないから、ソフトボールや陸上をやってる人を見てもやりたいとかはならないけど、さっちゃんはどうなんだろう?


「さっちゃんは、部活とかやってみたいとか思ったことある?」


「ん? 突然、なに?」


 2人揃ってローファーに履き替え、外に出ながら聞いてみると、さっちゃんから怪訝な顔された。


「いや、さっちゃんは運動神経いいから、ああ言うのみてたらやりたくなる時あるのかなって思って」


 実際、入学したての時は、いろんな部活から勧誘を受けていたのを近くで見てたけど、特にどの部活にも関心はなさそうにしていたのを覚えてる。


「んー……まぁ、たまには体動かしたいってなる時はあるけど、別に部活やりたいって程じゃないかな。いや、別に部活やってる奴を馬鹿にしてるとかじゃなくてさ」


「そっかぁ……」


「逆に、彩花は部活入りたいとかあんの? 割と部活動やってるヒロイン役とかやってる事とかあっけど」


 校門をでて、なだらかに伸びる下り坂を降りていると、逆にそんなことを聞かれた。


「んー、部活かぁ……正直そんな時間がないから考えた事ないけど、正直入るならやっぱり文化系の部活かなぁ。運動部とか、私役に立たないだろうし」


「いや、彩花そこまで運動神経悪いわけじゃないだろ。……でも、部活入るなら、やっぱ漫研とか?」


「んー、私絵とかあんま上手くないからなぁ……」


「あー、そうだった。彩花は壊滅的に絵下手だったな」


「ちょっとさっちゃん! そこまで言わなくてもいいでしょ!」


「やべっ、逃げろっ」


 ニシシと笑いながら私を小馬鹿にしたさっちゃんが逃げて行ったので、その背中を追いかけていく。


 正直、タケにぃへの返信とか、色々考えなくちゃいけないことは色々あるけど、まぁ何とかなるかな……そんな風に思った放課後でした。

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