第9.5話 お説教の時間
夜もすっかりふけた深夜9時過ぎ、私は床の上に置かれたスマホの前で正座していた。
「彩花、何か申し開きはあるか?」
スマホの先から聞こえてくる声は、タケにぃのもの。
だけどその声は普段とは違って、少しだけ怒っているようだった。
「えっと……ありません」
何故私が今、こんな事になっているかと言うと……さっちゃんが、私の知り合いで、タケにぃのデート相手が最初から誰だかっていうのがバレたから。
……まぁ、マッチングアプリで出会うところから仕組んでた事までは、気付いていないみたいだけど、それもその内バレちゃうかもしれない。
――その時、タケにぃはどんな反応をするんだろう?
――私達がどうしてこんな事をしたのか、気づいてくれてれば良いんだけど。
「はぁ……まぁ、別に彩花だけが悪いわけじゃないし、何だかんだで俺のためにもなりそうだから今回は良いけどさ」
大きなため息をついた後、タケにぃはそんなことを言った。
「タケにぃのためになりそうって、何のこと?」
思わず気になってそう尋ねてみると、電話越しに鞄か何かを漁る音の後に、ボールペンをクリックする音が聞こえてきた。
「俺の今後の人生に関わる事だから、正直に応えて欲しいんだが」
いつになく真剣なタケにぃの声が聞こえてきて、心臓がドクンと脈打ったのが分かる。
「彩花、お前――」
さっきまでより、明らかに早くなる心臓を必死に押さえつけながら、タケにぃの話の続きを待つ。
「お前……YUKIの知り合いだったのか?」
「へ?」
言われた言葉の意味が、今一つ理解できなかった。
そりゃあまぁ、いきなりタケにぃから告は……とか、無いとは思っていたけど、想像とは280度くらい違う角度から飛んできた質問に、思わず変な声が出ちゃった。
「だーかーら、彩花はYUKIの知り合いなのかって聞いてんの!」
タケにぃがそんな事を言ってくるけど……そりゃ、私はYUKIの知り合いで間違い無いけど、そもそもそれを言ったらタケにぃだって知り合いだ。
だって、YUKIって――さっちゃんの事だもん。
小学校の時から信じられないくらい歌が上手かったさっちゃんを、結ねぇがそそのかして動画投稿サイトに載っけたのが、YUKIの始まり。
当然その時の映像とかはとっくになくなっているけど、元々は人に見せるためというよりは、身内で楽しむためのホームビデオ的な感覚だったのが事の発端。
まぁ、始まりはそんなだったけど、今ではすっかり人気の歌い手になって、CDも先日発売されたんだから、やっぱり私の親友は凄い。
「えーっと……一応知り合い、かなぁ」
正しくは、大親友だけど。
「なら、是非連絡先を教えてくれ!」
隣の部屋にいるパパやママにも聞こえるかもと思うほどの音量で、タケにぃがそんな事を言ってきた。
「……いきなり、若い女性の連絡先を聞くのはどうなのかなぁ?」
自分でも分かるくらいすねた声でタケにぃにそう言うと、いつも通りの少しうわずった声で弁明が始まった。
「いや、違うっての! ただ単に、仕事の依頼をしたいだけだって!」
必死に、至ってマジメにタケにぃがそう言うのを聞いて、逆に私の中で少し納得できない気持ちが生まれる。
別に連絡先を教えるのは、良い。
YUKI用の連絡先なんて知らないけど、そこら辺については結ねぇやさっちゃんと相談しながら決めれば良いだけの話だから。
ただ、私が納得できないのは……理不尽かもしれないけど、何食わぬ顔で私に他の女性の連絡先を聞いてきたタケにぃの心の内。
タケにぃが悪く無いのは知ってるけど、やっぱり納得いかない。
「……駅前のデラックスパフェ1回」
私がそう言うと、タケにぃが深いため息をついたのが聞こえた。
……もしかしてタケにぃ、ウザイと思ったかな?
そんな事を考えて不安になったけど、帰ってきたタケにぃの言葉は思ったよりずっと優しかった。
「ったく、本当なら幸ちゃんのこと黙ってた件と連絡先の交換でチャラにしようかと思ってたけど……それ位なら奢っちゃるよ」
少し呆れた様な声をしていたけど、何だかんだで受け入れてくれたタケにぃに、思わず口元が綻ぶ。
「ありがと、タケにぃ」
少し不安だったから、素直に心から感謝の言葉を言うと、電話口のタケにぃが一瞬固まったように無音になった。
「えっと、タケにぃどうかした?」
「あ、ああ。突然真剣に感謝されたから、ちょっとびっくりした」
「そんなびっくりする様な話!? いつも、ちゃんとありがとうって言ってるじゃん!」
「いや、それとは何か雰囲気違ったから……ってまぁいいや、そんなわけだから取り敢えず連絡先を教えてくれ」
「了ー解……だけど、私が知ってるのはYUKIの個人用の連絡先だから、本人から仕事用で教えていい連絡先確認して送るね」
そう言いながら、簡単にさっちゃんへ事の経緯を連絡しとく。
「分かった。一応期限があるから、今週中には教えてもらえる様に頼んどいてもらえるか?」
「うん。取り敢えず連絡先分かったら、タケにぃに教えるね」
本当なら本人たち同士でやれば良いんだろうけど、多分さっちゃんは正体を知られたく無いんだろうなぁ、なんて事をぼんやりと思いながら、その後もしばらくママから注意されるまで、タケにぃと話をした。
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