第7.5話 すれ違いの協力要請

 夜7時ごろ、ご飯を食べ終わったウチは彩花とアプリで通話をしていた。


「そういえば、彩花の方は最近仕事はどうなん?」


 最近そっちの話をしていなかったなと思い、彩花へそう尋ねてみると、いつも通り可愛らしい声で「んー」と唸っていた。


「割と忙しいかなぁ。今季もレギュラーが3本、ラジオやイベントもあるから」


「うわぁ、それで良くまぁ学生やってられるなぁ」


 幾ら学校や両親に理解があると言っても、時間的な拘束という意味でも彩花の負担は相当なものだと思う。


 ましてやイベントでは、人前にでて歌ったり踊ったりしてると言うのだから、側から見てる分にはアイドルを兼任している様にさえ感じられてくる。


「それを言うならさっちゃんもでしょ? 先週発売されたCD凄い売り上げだったみたいじゃん? オリコン売り上げ連続1位は凄いよねー」


「たまたまだっての……」


 武さんとCDを買いに行った後に発表されたオリコンランキングで、自分の名前がトップになっていたのを見た時には見間違いを疑った……まぁ、姉貴や彩花が押しかけて来たから感慨に浸る余韻もなかったけど。


「たまたまなわけないじゃん。この間やってたテレビでは、むしろもっとちゃんと宣伝すればもっと売れてる筈だって言ってたよ?」


「どーだかね」


 彩花が言っている番組については、多分ウチも見ていた。


 正体不明の歌姫だ何だと騒ぎ立てた上、他の動画配信者のCDとの比較で言えばもっと売り上げが伸びる筈だとか騒いでたっけ。


「もー、どーだかじゃないよ。私はもっと色んな人にさっちゃんの歌を聞いて欲しいのになぁ」


 そう言った彩花の声には邪気が無く、100%好意からくるものだって言うのは、幼稚園からの付き合いがある私にはわかっている。


 だけど、ウチにはどうしても自分から売り込む事が今ひとついいことだとは思えなかった。


 音楽なんて、聴きたいものを聴けばいいのだから、偶々ウチの曲を気に入ってくれた人は別にして、わざわざ好きでもない人に押し付けがましく聴かせるのは、何か違う気がする。


「まぁ、さっちゃんのやり方だから、否定はしないけどさぁ」


 少し拗ねた様な声でそう言う彩花に、思わずクスリと笑ってしまう。


 この幼馴染はなんだかんだ言いつつも、いつもこうやってウチの考えを尊重してくれる。


「そう言えば、さっちゃんの方には、今日タケにぃから連絡あった?」


 ふと、思いだした様に彩花がそう呟いたのを聞いて、そう言えば今日はまだ連絡が来ていないことを思い返す。


 正直ウチは頻繁にやりとりをする人なんて、これまで彩花と姉貴しかいなかったから、連絡が来ていないことをあまり気にしていなかった。


「いんや。何も」


 そう答えながら、どうせだからと武さんに「お仕事頑張り過ぎてませんか?」という旨のメッセージを送ってみる。


 するとすぐに既読がつき、「大丈夫です!」と簡素なメッセージが返ってきた。


 もしかしたら、お仕事中なのかも知れない。


「今メッセージ送ったら返事返って来たけど、まだ仕事中なんじゃん?」


 そう言いながら時計を見てみれば、時間はもう9時近くになっていた。


「……そっか、もうそんな会社辞めちゃえばいいのに」


 ポツリと、彩花が沈んだ声で呟いた。


 以前から何度か彩花から話だけは聞いていたけれど、武さんはどうやら会社でひどい働かされ方をしているらしい。


 実際、数日前にあった時には見てるこっちが辛くなるような、そんな作り笑いをしていて、思わずその事を指摘してしまったけれど、結局私にできる事なんて無いんだろう。


 ーー以前、姉貴が悩んでいた時に助ける事が出来なかったみたいに


 そんな虚しさとも、悲しさとも言えない感情を抱えていると、1件のメッセージが入っていた。


「ゴメン、テンション下がる様な話をしちゃって」


 彩花がそう言ってウチに謝って来たけれど、私の頭は来たメッセージの事で頭がいっぱいで、言葉は全く耳に入って来ていなかった。


 何せ武さんから来たメッセージに書かれていたのは、YUKIについてだったのたのだから。

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