第4.5話 XDayのその後の彼女達

 ウチが武さんとのデー……出かけるのを17時前に終えて家へと帰ってみると、満面の笑みをしたお姉ちゃんが、玄関で出迎えた。


「なんか用?」


「ふむふむ。上機嫌そうなその顔をみるに、何だかんだでさっちゃんも楽しめたのかな?」


「別に、普通だし……」


 そう言いながらも、玄関脇の壁にかけられた姿見を確認してみれば、確かにどことなく上機嫌そうな自分が立っているのを見て、思わず顰めっ面を作ってみる。


 ただ、それでもどこか口の端がニヤけているのが分かって姿見から目を逸らす。


「そっか。とりあえず夕ご飯の準備は大体できてるから、今のうちに彩花ちゃんに電話入れておいてあげてくれる? きっと心配してるだろうから」


 そんな風に言った後、姉貴がリビングに向かって歩いていくのを見た後、ウチは2階にある自分の部屋へと戻りながら彩花の連絡先をスマホに表示しながら……わずかにためらっていた。


 理由は単純。


 彩花が、あの人――武さんに恋愛感情の様なものを抱いているのを知っていたから。


 その事を知ったのは、多分彩花とウチが未だ小学生の時の話。


 正月や夏休みの時に遊びに来るお兄ちゃん――正確には叔父さんだけど、の事を好きになったとキラキラとした目で語る彩花を適当にあしらった覚えがある。


 どうせ、一瞬の気の迷いか何かだろう……なんて子供ながらに思っていたけど、彩花の気持ちは6年経った今でも衰えるどころか、膨らんでいる様に見える。


 それを知っていただけに、今回の事を頼まれた時には私も驚いたけど……詳しくは聞けていないけど、2人には何か考えがあるのだけは分かった。


 だから後ろめたい事なんて無いはずなんだけれど……それでも何処か躊躇するのは、私が武さんと出かけるのを楽しんでしまったからだろうか?


「あー、もうめんどい!」


 思わずそう叫びながら、彩花の番号をタップする。


 すると、2コールもしないうちに声が聞こえてきた。


「もしもし、さっちゃん?」


「よっす」


 とりあえず、第一声を聞いた限りでは特段不機嫌というわけでも無さそうだ。


 いや、まぁ、頼まれごとを聞いて不機嫌になられても正直困るんだけど。


「よっす、よっすさっちゃん。それで、今日のタケにぃとのお出かけはどうだった?」


「んー、まぁ普通だった」


 可能な限り平坦な声で、特段興味無さそうにすることを意識する。


 ――我ながら、何やってんだと思うけど。


 取り敢えず、借り物のワンピースをシワにならない様に早々に脱いで畳むと、適当なスウェットを手に取って着ていく。


「そっか。なら良かったのかな? 一応タケにぃも楽しかったって言ってたし」


 そう彩花が言ったのを聞いて、少しばかり安堵した。


 別れる前には普通に笑ってくれていたけれど……最初の方に見せた作り笑いがあまりに痛々しくて見ていられなかったから。


 そんな事を考えていると耳なれた着信音と共に、帰る間際に交換したLi◯Eに早速連絡が入っていた。


 その音が電話越しでも聞こえたのか、彩花が興味深げに尋ねて来た。


「あっ、今の着信はもしかしてタケにぃから?」


「あぁ。今日はありがとうだってさ」


 そう返事をしながら、「こちらこそ、ありがとうございました。いいリフレッシュになりました」と返信をするとすぐに既読がついた。


「むー、タケにぃさっちゃんには結構マメなんだ? 私には、こっちからメッセージ送らないと、用がある時以外連絡もくれないのに」


 そう言って甘えた様な、それでいて何処かすねた声を出す彩花に、思わず少し笑ってしまう。


 彩花は幼馴染の贔屓目を抜いてもアイドル顔負けの美少女だ。


 顔だちの作りはもちろんの事、身長は女子平均を大きく上回る私と違って152cmと小柄で、誰からも好かれるその性格は学園のアイドルになっており――彩花が今やっている仕事でも多くのファンがいると言う話を聞いた。


 当然彼女に言いよる男の数は学内外問わず後を経たない上、一時期はウチに男装させて男避けにしていた事さえもある程だ。


 そんな、日夜バッタバッタと寄って来る男達を全てフリ倒している彼女が、唯一好きな異性に対してだけは正直になれないのは、色恋に興味がない私でも難儀だなぁと思う。


「まー、あんま彩花の場合心配する必要ないと思うけどな。現にうざったい程男に言い寄られてるんだし」


 思わずそう言うと、ムーと可愛らしく唸る声を共に彩花が反論してくる。


「別にわたしは、不特定多数の人にモテたいとか思ってないもん」


「まっそうだよなー、彩花は愛しのお兄ちゃんさえ振り向いてくれればそれで良いんだもんなー」


「べ、別にそんな事ないよっ!」


 焦った様子の彩花の声を聞いて、思わず口の端が吊り上げながら、耳まで真っ赤になってワタワタ手を振っている親友を夢想する。


 そう、この友人に限って振り向かせられることが出来ない人間なんているわけがない。


 だから、私はせいぜい彼女の方へと振り向かせるため、親友と――新しく出来た年の離れた友人の手伝いでもしまいすか。


 そんな事を考えながらグッと天井へと手を伸ばした。

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