3話 倉田柚希 ③
10月 吉日
澄みきった青空。晴天の朝だった。
田坂の結婚式。
えいちゃんに会うのも何年ぶりなんだろ?
わっ、14年ぶりかな。
お母さんに着物を着付けしてもらって、身が引き締まる思いだった。
「さっ!行くか!」
加寿に車で送ってもらって、会場のホテルへ行った。
受け付けで、記帳して、ご祝儀を渡して、ロビーでえいちゃんが来るのを待っていた。
えいちゃん、私が今日呼ばれてること知ってるのかな?
まさか、田坂 サプライズなんて知らせてないんじゃないよね?
「ゆきちゃん!!」
横から声をかけられて、見ると そこにいたのは、えいちゃんのお母さんだった。
「えっ!おばさま!どうしたんですか?」
きちんとしたフォーマルなスーツスタイルだったから、ただ息子を送ってきたとかではないということはわかった。
「弘人のお嫁さんね、朝方に産気づいて、今 病院。
弘人、今ごろ出産に立ち合ってるわ。
失礼だけど、事情をお話して、弘人の代わりに私が朋徳君のお祝いに来たの」
「そうだったんですか。
弘人くんの奥様 今ごろ大変ですね。
無事に生まれたって、早く連絡くるといいですね」
「そうなの。私も、あんまり落ち着かないんだけどね」
「そうですよね。お気持ち わかります」
えいちゃんが来ないとわかって、ガッカリした気持ちと、ホッとしたのと半々だった。
えいちゃんは、今でも若々しくかっこいいのだろう。
私は、アラ40のオバサンだ。
もともと、えいちゃんとは不釣り合いだったのに、14年ぶりの再会は、キツイなと思っていた。
こんな、老けた姿を見られたくないなと思っていた。
だけど、会いたい気持ちもあって、複雑な思いでここに立っていた。
「あっ、ゆきちゃん!挨拶が遅れちゃったわ!
ご無沙汰してて、弘人が本当にごめんなさいね。
あなたには、謝りたいって、ずっと思ってたわ」
「あっ、いえ、とんでもないです、おばさま!
弘人くんのせいじゃありませんから。
ただ、お互いに子供だったんだと思います。
仲良くしてたけど、離れた途端に冷めてしまった、そんな感じだったんだと思います。
こちらの方こそ、おばさまには よくしていただいたのに、あれ以来ご挨拶もせずに、申し訳ありませんでした」
「あの子、東京になんか行かせるんじゃなかったって、お父さんと後悔したわ。
大学卒業して、こっちに戻ってきたけど、なんだか変わってしまって。
結婚も1度失敗したの知ってるかしら?」
「はい」
「そのあと、1年も経たないうちに、今のお嫁さんと再婚してね。
これも うまくいかないかもって心配してたんだけど、子供が生まれてから、なんだか昔のあの子に戻った感じで、優しく穏やかに暮らしてるわ」
「そうですか。
弘人くんとは、10年以上会ってないので、今日は、久しぶりに会えるのを楽しみにして来たんですが。
でも、お幸せそうで良かったです」
「ゆきちゃんも幸せそうね。
朋徳くんから少しだけ話 聞かせてもらってて、お子さん男の子2人だって?
やっぱり大変かしら?」
「はい。毎日2人でバタバタと走り回っていて、ジッとしていないので、騒がしいですが、楽しく暮らしています。
主人も優しい人なので幸せです」
「良かったわ!安心した!
ゆきちゃんが今 幸せじゃなかったら、どうしようかって。
ごめんなさいね。要らぬ心配して」
「いえ、そんな」
「ゆきちゃんにお願いがあるの」
「なんでしょうか?」
「弘人、友人代表のスピーチを頼まれてて、原稿預かってきたんだけど、ゆきちゃん代わりに読んでもらえないかしら?」
「えっ、私がですか?」
「弘人が、ゆきちゃんに頼んでくれって言ってたの。駄目かしら?」
「弘人くんがそう言うなら、わかりました。
お引き受けします」
「ありがとう。これ、原稿。お願いします」
「はい」
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