15話 田坂朋徳 ⑧

 「まぁ、それは置いといて、ひろに未練はないのかよ?」

「えっ?えいちゃんに未練?

あはは!ないない!

そもそもね、私じゃつり合わなかったな〜って思うし、えいちゃんの彼女って立場は、私には荷が重かったし。

嫌われたくなかったから、言いたいことも言えなかったし、お互いに割と我慢しちゃう感じで、えいちゃんも私に対して不満とかいっぱいあっただろうけど、遠慮してた感じもあってさ。

えいちゃんには、もっと相応しい人がいただろうなって、申し訳なかったなって思ったよ。

遅かれ早かれ、別れることにはなっただろうから。

もっと、言いたいことを言い合ったり出来れば、良かったって思ったけどね」

「そっか、あいつも、ひろも そんなようなこと言ってたな。

お互いに我慢しちゃう方だから、ケンカにもなんねーって」

「えいちゃんがそんなこと言ってたんだ……」

「あぁ、自分が幸せに出来なかったから、おまえには幸せになってもらいたいって言ってたな」

「そっか……」

下を向いた。


「中野、今 幸せなのか?」

「うん!!幸せだよ!!」

ニコッと笑って即答した。

「えいちゃんと付き合ってた時も、毎日毎日幸せだったよ。

別れてから話せてないけど、えいちゃんにはありがとうって言いたかったな」

「わかった!じゃ、ひろに会ったら伝えとくよ!」

「ほんと?じゃ、えいちゃんも幸せでいてね!

って。

あっ、やっぱり いいや!

なんか余計なお世話だよね」

「いや、いいんじゃね!

まっ、とりあえず会う予定もねーけど、会ったら言っとくよ」

「ありがとうね。田坂は結婚しないの?」

「するもしないも、相手がいねーから しょうがねーな。

だいたい、どうやって結婚相手って決めんだ?

今まで何人か付き合ってきたけど、この人と結婚!って具体的に考えられる人いなかったなぁ」

「そっか。

う~ん、私は、そうゆうのアドバイスできる感じじゃないな。

私もどうやったら結婚相手決められるんだろって思ってたし」

「じゃ、ダンナともう10年だっけ?

どうして結婚することになったんだ?」

「う〜ん。

なりゆきってゆうと言い方悪いけど、そんな感じかな」

「なりゆきで結婚ってするのかよ?」

「ダンナ、とおるってゆうんだけど、とおるがね、付き合って下さいって言いに来た時、結婚を前提にお付き合いして下さいって言ったんだよ。その時なんて、私25の誕生日前日だったし、

とおるなんてまだ24だし、後輩としか思えなかったし、結婚なんて考えられなかったよ。

だけどさ、遠距離だったから全然会えないし、

もっと一緒にいたいなって思うようになって、

付き合って1ヶ月くらいでとおるスーツ着て、

うちの親に挨拶にきたんだよ。

それでうちの親も気に入って、トントン拍子に

半年後くらいには両家で、結納は いつ、結婚式は いつ なんて話になってたよ。

早いでしょ。

あれよあれよって感じだった」

「マジで参考になんねーな」

「でしょ」

「いろんな人に結婚の馴染とか聞いてもさ、人それぞれで、それを自分に置き換えて考えても、

やっぱよくわかんねーんだよな」

「田坂!大丈夫だから!

絶対いい人見つかるからね!!

諦めないでよ!!

ほんとに田坂が幸せになってくれないと困るんだから!!」

黒目がちの大きな瞳を潤ませて、大きな声で言った。

「あはははは!!おまえ!必死すぎるわ!!」

「だって!!」

「まじで、サンキュ!!がんばるわ!!」



 疲れた……

3時間 喋りまくった……


酒入ってるからって、俺のこと好きだった 好きだったって、何回言ってんだよ。

俺も、おまえと同じくらい、おまえのこと好きだったよ。

俺だっておまえのこと大好きだったよって、すげー、 言いたくなった。

ひろは、俺の気持ちも知ってたけど、おまえに言わなかったし、おまえが俺を好きだってことも、その時 教えてくれなかったんだ。

だいぶあとで聞いたけどな。

って、そんなイヤミっぽいことまで言いたくなった。

伊藤だって、俺が中野を好きだってこと知ってたはずだ。

変なウワサたてられた時だって、いっくらでも否定できたじゃんか。

間を取り持ってくれりゃいいのに、逆に邪魔されちまったな。




 今でも、あの時のこと はっきり憶えてるよ。


退院してきて、クラスで挨拶した時、1番後ろの席の中野と目が合って、恋をした。

初めての恋を。


バレンタインデー、お互いに気持ちを伝えることができなくて、諦めた。


中2の秋、中野がひろと付き合うことになって、完全に諦めた。

そこで初恋は終わった。



一緒だったんだ!!

始まりも、終わりも。


おまえが、俺の運命の人だったんじゃないのか?


おまえが結婚する前に、この話を聞いてたら、

俺は ためらうことなく こう言ってたよ。


「俺と結婚してくれ!!」 って。




               第5章  終

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