13話 田坂朋徳 ⑥


 「すみません!生大と生中おかわりください!」


運ばれてきた金目鯛の煮付けを、頭や骨を取り除いて食べ易くしてくれた。


「あっ、ついやっちゃった!

子供に食べさせんじゃないのにね!あはは」

ドキッとした。

「お母さんだな」

「まぁね」

美味しい!って言いながら、よく食べる、よく飲む。

結構飲める方なんだな。


「田坂はさ、中学の頃のこと昔のことで憶えてないって言ったけど、中1の夏休み前、田坂退院して学校に出て来た日、みんなの前で挨拶したじゃん。

そん時にさ、一瞬なんだけど目が合って、その時よくわかんないんだけど、すっごくドキッ!!として、それから なんか気になる存在だったんだよね」


えっ!!マジか!!それ、一緒じゃん!!


「夏休みの部活さ、田坂見学だったじゃん。

私、走り込みとかキツくてツラかったけど、田坂が見てるって思うと、なんか頑張っちゃっててさ。

私に言ってた訳じゃないけど、“ガンバ!”とか“ファイト!”って、田坂おっきい声で応援してくれてさ。

それで頑張れたんだよ~。田坂のお陰」


おまえに言ってたよ。

応援することしかできなかったけど。

大きな声で、おまえに言ってたよ。


「夏休みの最終日、女子は打ち上げってあったじゃん!あの時に好きな人を発表するっての知ってる?」

「あぁ」

あれか。

「その時ね、私、あはは。誰って言ったと思う?」

「多尾先輩」

あっ!やべ!普通に即答しちまった!

「えっ!!なんで知ってんの?」


すごくびっくりしたように、前のめりになった。


「あ~……噂になってたじゃん!  

先輩たちに冷やかされてたし。

で、告白してフラレたって聞いたけどな。

あっ、ごめん」


「フーーーーー」

中野は大きな溜め息をついて、座りなおした。


「そっか……やっぱね。

知ってたよね……

ほんとはね、わたし、あの時 田坂って言いたかったんだ。

でも、誰にも言ってなかったし、冷やかされて田坂と気まずくなるのもイヤだったし。

だから、田坂とは言えなかった。

言っちゃおうか、どうしようかって迷ったけど……

今思えば、あの時宣言しちゃって、みんな協力してください!って言っちゃえば良かったな」


あの時の  “た、た、た、た、……多尾先輩です……”の た、た、た、は田坂の【た】だったのかよ??


「多尾先輩はね、本当は全然関係なかったんだ。本当は、好きでも何でもなかったけど、先輩たちに手紙書かされて、渡して、フラレて……バカみたいだったな。

初めてのラブレターだったんだけど。

多尾先輩にも迷惑かけて、申し訳なかったな……」

「そっか……」

そうだったのか……


フラレたけど、多尾先輩が中野の初恋の人なのかと思ってた。


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