15話 倉田柚希 ⑨
心を通わせる人が誰もいないって現実が悲しかった。
こんなにも大勢の人がいるのに、私は独りぼっちだ。
誰も、私の本当の気持ちをわかってくれない……
私の心は病んでいた……
私の心が悲鳴をあげていた時、出会った 桂吾。
まっすぐで真面目だった私は、今や不機嫌なひねくれ者だった。
そんな私に、桂吾は優しかった。
私の誘いを桂吾は決して断らなかった。
他に用事があったとしても、断って私に付き合ってくれた。
それを私は、私がお金を払うからだろうと思っていた。
寂しさを埋める為に、桂吾に抱かれる。
強く抱かれて、愛されていると錯覚した。
その場だけでも錯覚したかった。
彼氏でもなく、恋愛関係でもない。
でも、その場しのぎの錯覚で良かった。
桂吾のお陰で私は、不安定ながらも壊れずにいられた。
もし、桂吾がいなかったら、寂しさを埋める為に出会い系にハマッていたかもしれない。
それか、ホストに貢いでいたか。
それで、もっともっと どん底までおちていたかもしれない。
そうならずに、不安定な自分を冷静にみることが出来たのは、桂吾のお陰だ。
桂吾には感謝していた。
でも、本気で好きになることはなかった。
桂吾の生き方は、私には理解できなかったから。
基本的に私は真面目な人が好きだ。
服装も、ラフでも清潔感がある人が好きだ。
背が高くて、髪が短くて、スポーツマンタイプの人が好きだ。
桂吾は、そんな私のタイプと正反対のような人だった。
髪はロン毛で茶髪。
革パンか穴だらけのジーンズ。
ごっついバックルのベルトにジャラジャラと鎖を垂らしている。
シャツもだらしないのかファッションなのか、穴があいてたり、切れていたり、シワシワのTシャツとかを着てる。
ネックレスにブレスレットにリング。
男のくせに、なんでこんなにチャラチャラしてんだろう!
見た目だけじゃなくて、フリーターでバンドしてるってことも、なんだかな〜って思っていた。
とにかく、接点は全くない人だった。
そんな桂吾が初体験の相手になるとは、自分自身が1番驚いた。
そのあとも、体の関係が続いていくなんて……
でも、私の好きなタイプと正反対と言ったけど、意外とそうでもなかった。
真面目な部分もあったし、太ってもいなかったし、背もそこそこ高かったし、いつも優しかった。
私のことを気にかけてくれて、
大丈夫か?って、いいヤツだった。
前髪が長くて隠れていたけど、前髪をかき上げると、キレイな目をしていた。
ハーフみたいな茶色の瞳をしていた。
かっこいいんだな。
女の子にモテるのもわかるな。
でも、私は桂吾を恋愛対象としてはみていなかった。
いや、みないようにしていた。
チャラチャラした笑顔の裏で、こんな風に私のことを思っていたなんて……
「ゆきちゃんと、須藤くんが仲いいのって、なんか不思議ってゆうか、意外だなって最初思ってたけど、最近これはこれで ありかも!って思うんだよね」
「えっ!店長やめてくださいよ!!あんなチャラ男 絶対無理ですよ!」
「うん、まぁ見た目はね!あんな感じだけど、あの子、1本筋はちゃんと通ってるってゆうか、意外と真面目じゃん。
礼儀正しいし、挨拶もちゃんとできるし」
「店長、それ当たり前のことですよ。
あの見た目とのギャップがあるから、意外とちゃんとしてる!って思っちゃうだけじゃないですか?」
「あはははは!そう言われると、そうかな。
でも、須藤くんと喋ってる時のゆきちゃんは、なんてゆうか、自然体で楽しそうだよ」
バイト先の店長と、そんな話をしたな。
私の記憶の中では、最低最悪だった短大の2年間。
孤独だった……と、思っていた。
でも、桂吾がいつも寄り添っていてくれたんだ。
なのに、私はあんな態度で……
最後のお別れの言葉もちゃんと伝えずに、桂吾の前からいなくなった。
本当にごめん……桂吾
桂吾に何かしてあげられることはあるだろうか……
“おまえには もう関係ないから、首突っ込むな!ってこと!”
さっきの田坂の言葉が頭に浮かんだ。
……そうだよね……
今更、桂吾に会って、なんになる?
私にはどうしてあげることもできないんだから。
優しい言葉なんかかけたって、それは全然優しさじゃないし。
もう、昔のような関係に戻ることもできないし。
私は、私の大切なものを守らなきゃならないし。
大好きな とおるとの家庭。
大切な我が子。
守るべきものができたから、もう他には かまっていられない。
えいちゃんだってそうだ。
離婚したえいちゃんと、今2人きりで会ったりしたら、私の方から抱きついて、もう1度やり直したい!なんて、言ってしまうかもしれない。
1人で寂しい思いをしている えいちゃんの気持ちにつけこんで、昔言えなかった思いをぶつけてしまうかもしれない。
感情だけで行動したら、衝動的にそうなってしまうかも……
だけど、
もう今は、別々の人生を生きている。
えいちゃんは、えいちゃんの道を。
桂吾は、桂吾の道を 進むしかないんだから。
私は、同じ道を進むことは出来ないし、引き返すこともできない。
もう、別の人生を生きているのだから……
第4章 終
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