9話 倉田柚希 ④

 さとみと一緒にカラオケルームに戻ると、なんか大盛りあがりで、みんなカラオケを歌っていた。

あんな詰めろ詰めろって言ってたけど、意外とこの辺 空いてんじゃん!って感じで空いてるソファに座った。

しばらくの間、ぼーっとしていた。

モニター画面をただ ぼーっと見ていた。


ん??

一瞬映った人が、桂吾に似ていた。

また映るかなって見ていたけど、そのあとは映らずに曲が終わった。


「ねー!さとみ!

今の曲って、あっ、さっきの曲って、なんてバンド?」

慌ててさとみに聞いた。

「さっきの?正男歌ってたやつ? Realの曲歌ってたんかな?あんま聴いてなかったけど」

「りある?」

「は?えっ?Real 知らない?」

「うん、知らない。リアルって初めて聞いた」

「え〜〜〜〜!長野出身の5人組のバンドだよ!長野じゃ超有名なんだけどな〜!

都会じゃまだ認知されてないのか〜!!」

「あっ、私 全然テレビも観てないし、曲聴かないから、うといんだと思う」 

「あ〜、ちょうど中野が結婚したころだったのかな〜デビューしたの!

デビュー前は、長野でライブハウスとかでやってたけどさ。

メンバー全員うちらと同い年なんだよ!

だから、余計に親近感なんだけど〜。

ボーカルのRYUSEIが、ちょ〜〜 かっこいいの!!

あっ、YO・I・NのPV見てみ!次入れちゃお!誰かに歌ってもらおっと!」

そう言うと、さとみはタッチパネルでさっと曲を予約した。

「ギターは?」

「ギターは、keigo!keigoもかっこいいよ!!Realの曲、ほとんどkeigoが書いてるの!

だいたい、keigo派かRYUSEI派か分かれる!

あっ!始まった!島くん!歌って!」

「あっ、いいよ!俺、これ好きだから!」

そう言って島くんがマイクを握った。


桂吾……


やっぱり桂吾だった。


相変わらずの長い髪を風になびかせて、ギターを弾いている。

ギター弾いているところ、初めて見たな。


“寒い冬の海 初めておまえを抱きしめた

冷たい体をあたためあって

俺はおまえの寂しさを知った”


なに?この曲?


画面に桂吾が1人で映った。

海の崖っぷちで、髪をかきあげて横目で視線をカメラに向けた。


ゆき 


えっ??


声は入っていない、くちびるの動きが、そう言っているようだった。


“俺から離れてくおまえを 引き留めることはできなかった

追いかけることもできなかかった

失って気づく

ただ今も 強く抱きしめた時の吐息が余韻になる

ただ今も 強く抱きしめた時の早い鼓動が

余韻になる

何度も 何度も 何度も

おまえを

何度も 何度も 何度も

抱きしめた

余韻が……

余韻が……”



この曲って……、わたし?のこと?


「ね!!かっこいいでしょ!島くんの歌はイマイチだったけど、CD聴いてみなよ!

超いいから!!」

「うん。聴いてみる」


なんだか、頭の中いっぱい いっぱい。

もう、グチャグチャだった。

さっきまで、えいちゃんのことを考えていたから、頭の中に桂吾のことを入れるスペースない。

ちょっと待って!整理するから。


桂吾がバンドやってたのは知ってたけど、まさかデビューしてたなんて!!

YO・I・Nだっけ?

私のことを今でも忘れられないって、そう言ってるの?桂吾……

私なんて、ただのセフレ、、、だったんでしょ?


ちょっと、頭が回らない。


立花の旦那さんが迎えに来てくれて、送ってもらって、家に帰ってきた。

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