5話 倉田亨 ④

 明日までに会議の資料を仕上げなきゃいけない。

これ、もっと前にやっときゃ良かったな〜。

忙しくて、先延ばしにしてたけど、なんでもギリギリが悪いクセだな。

あっ、音楽聴きながらやろ!

CDラックから取り出したのは、学生時代にすり減るくらい聴いたCD。

oneの30周年記念ライブがノーカットで収録されてる3枚組のCD。

これ聴きながらやろ!約3時間半だから、聴き終わる時には、資料も完成させられんだろ!

これいいんだよな〜!

oneの地元ロンドンでやったライブ。

3Daysの初日。

ファンの声援とか雑音入りまくりで、歌も演奏もよく聴こえない箇所もあるけど、それがまた臨場感があっていい。

バンドとしてのバランス、ジョージが作る楽曲の良さ、エレン·レヴァントの圧倒的歌唱力!

本当に素晴らしい!!

って、これなかなか日本人には伝わらないのか?友達に薦めても、みんなあんまりハマッてくれなかったな。

そんなことを考えながら、俺の資料作りは順調だった。

ちょっと鼻歌まじりで、キーボードを叩いていた。

1枚目が終わり、自動で2枚目のCDが流れ始めた。

ライブも中盤に差し掛かり、メンバー紹介。

このライブは大きな物だったから、サポートメンバーが大勢入っていた。

そのサポートメンバーが1人ずつ紹介され、1言喋って即興演奏する。

みんな思い思いにおもしろいことを言ったりして場を盛り上げる。

何百回と聴いている。

聴き流しながら、キーボードを打っていた。

その時、手が止まった。

えっ!!!!

なんて言った????

慌ててCDを5分くらい戻した。


「On Guitar! keigo!!」

と、ジョージが紹介して、若い男の声

「I ’m keigo from Japan!!」


そのあとはっきり聞き取れないけど、

まだ21歳のひよっこだけど、10年後には超有名人になっちゃってるから、みんな楽しみにしてて!

みたいなことを、英語で流暢に言って、会場を笑わせた。

そして、ギターソロ。

そのかっこいい演奏に歓声がおこる。


これ、

これって!!

これ、もしかして須藤桂吾なのか?

CDのパッケージに同封されていた、パンフレット的な冊子を取り出し、慌ててめくった。

どこかに出演者の名前が書かれていたはずだ。

あ、あった!


Keigo Sudo 【Guitar】


立ち上がり、ぼう然とした。

そして、椅子ではなく、床に座り込んだ。

21って、つまりRealとしてのデビュー前?

時系列を整理しろ!!

ゆきと一緒にあの店で会ったのが、ゆきが25の誕生日の次の日だったんだから、須藤桂吾も同い年だから25歳。

その前!

ゆきが短大時代にバイトしてた時には、あの店にいて……

ゆきがバイトを辞めた後か?

なぜか須藤桂吾は、ロンドンにいた。

そして、oneのライブにサポートギターで出ている。

あの店で、バイトしてるただのフリーターじゃなかったのか?

趣味でバンドやってただけの。

すごい、凄すぎる!!

須藤桂吾!!

何者だよ!!

こんな凄い人だった!!って、ゆきに言うわけにもいかねーし……

わ〜〜!!でも、誰かに言いたい!!

あっ!松林に言お!!

ってゆうか、俺、このCD何百回も聴いてるのに、須藤桂吾の名前聞いても、ピンとこなかったなんて!!

警察官失格だろ!!


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