4話 倉田柚希 ①

 私は29歳の誕生日を迎えた。


とおると再会して、4年経ったのか。


再会して、付き合うことになって、結婚することになって、結婚して、神奈川に引っ越して、妊娠して、赤ちゃんを産んで、峻は4ヶ月になった。

なんだか、目まぐるしく過ぎたな。


優しい旦那さん。

可愛い赤ちゃん、幸せだな。


だけど、この4ヶ月は、本当にキツかった。

都会での初めての子育て。

とおる以外に頼れる人もいない。

疲労困憊とは、こうゆうことを言うのだろう。

剣道をやって、疲れたって言うのとは、全然レベルが違う話。

疲れているけど、眠れない、眠ることは許されないって状況がキツかった。

峻が昼間に泣くのは、まだいい。

このマンションの両隣りも上も下も、昼間は仕事か学校か、とにかく不在だから、多少は気が楽だ。

問題は夜。

昼間よりも、峻は夜に大泣きする。

うるさくて、ご近所に迷惑だし、こんなに泣かしてて、虐待しているのでは?と通報されるのではないかと不安にもなった。

通報されて、警察官の家に、警察官が来て話を聞かれるなんてことになったら、とおるの立場がないだろう。

夜中から朝方までの8時間くらい、まともにベッドで横になることは出来ない。

おっぱいをあげているか、抱っこしているか、座って膝の上で抱えながら、ウトウトするくらいだった。


これは、修業なのだなと理解した。

母親になる為の試練とでも言うのだろうか。

ちゃんとした母親なのか、試されているのだ、と思った。

子育てってキツイな……

体力勝負だ。

ガンガン栄養ドリンクでも飲みたいな!って思った。

だけど、母乳をあげているから、そんなの何か赤ちゃんに良く無い成分とか入ってるかもだしな。

やめとこう。

ママになって、私の小さかった胸は、すごく大きくなった。

パンパンに張っている。

今まで着ていたTシャツが着れないくらい。

いつでも、峻がおっぱいを欲しがったらあげられるように、スタンバイできている状態だった。

あんなに、小さい胸でも、こうしてちゃんと母乳が出るようになるなんて、人間の体ってほんと不思議だな。

なにがあろうと、この子は守る!って、自分の中に、こんなにも母性っていうものがあるなんて、赤ちゃんができるまでわからなかったな。


とおるは協力的だった。

なんでもしてくれる。

仕事から疲れて帰ってきて、食事の用意も何もされてない状態にウンザリだっただろう。

だけど、冷蔵庫にある物でサッと何か作ってくれる。

「ゆき!大丈夫?昼とか、ちゃんと食べてるの?」

と心配してくれる。

妻として、何も出来てない感じがして、申し訳なかった。

妻としても、母親としても、半人前だ。

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