2話 倉田亨 ②

 なんだかわかんねーけど、帰り道レンタル屋に寄って借りてきた。

帰ってきたのは遅い時間だったから、ゆきは寝ていた。

峻が寝たら、その瞬間にゆきも寝るようにしている。

家のことは気にせず、眠れる時には寝てくれと言ってあった。

ゆきが寝ているのを確認して、俺は書斎へ行った。

書斎なんて呼べるほどのものじゃないが、パソコンをしたり、音楽を聴いたり、本を読んだり、何か書類をまとめたりするのに使う狭い部屋を、書斎と呼んでいた。


 ヘッドホンをつけて、CDを再生させた。

歌詞カードを見ながら聴いていたが、歌を聴くよりも先に、どんどん読んでしまった。

なんだよ!これ!


愛しい想い、恋心、未練、後悔の気持ちであふれていた。

最後のページに、

all words & music by Keigo Sudo

と書かれていた。

つまり、この歌詞はすべて須藤桂吾の書いたもの。


改めて、1曲目から読んでみた。

これって……

ゆきのことだと思った。

これも、これも!!

この『ラナンキュラス』なんて、もうまさに、まんま 歌詞の中の会話が、ゆきとのやり取りって感じ。

完全にゆきに対するラブソングのような気がした。

あいつ……遊びじゃなくて、本気だったのか?


ほんのちょっとしたことを、膨らませて、それこそ妄想みたいなことを詞にしているのだろうか。俺は、詞を書いたりとかできないから、わからない。

だけど、これは、妄想でも想像でもなく、本当のこと。

本当の気持ちなんだろうと思った。

切なく、苦しいほどの恋心が詰まっていた。

こんなにも、ゆきのことを想っていたのか。


ゆきの方は、割り切った付き合いだと思っていたんだろう。

恋人同士ではないと、割り切っていた。

自分のしていることを、汚らわしいことだとさえ思っていた。

だけど、実際は、心から愛されていたんじゃないのか?

その想いを、ゆきが受けとめていなかっただけで。


俺もずっと、ゆきに片想いしていたから、なんだか、共感できる感じ。

だからと言って、ゆきを手渡すことは絶対にできないけど。


遊びの女を抱くような、使い捨てのようなセックスじゃなくて、愛情を注ぐセックスだったんじゃないのか?

それを、ゆきは気付けなかっただけで。

初めての相手だったから、気付けなかったんだろう。


これを、今のゆきが聴いたら、どう思うだろう……

聴かせたくないな……

あんまり売れなきゃいいな……


だけど、これ、すごくいい!

客観的に見て、これは売れるだろう!

最近は忙しくて、あんまり曲を聴くことなかったけど、学生時代はよく通学の時とか洋楽を聴いていた。

俺は割とロック好きだ。

イギリスのロックバンドのoneなんて、どんだけ聴いたかってくらい ハマった。

oneと作風は違うけど、Realのロックな感じは、割と好きな感じだ。

バラード曲もいい。

とにかく、ボーカルの歌声がすごくいい。

どれがボーカル?歌詞カードに写っている写真を見てみる。

真ん中の人かな?

かっこいい!!

このルックスで、この歌声かよ!!最強じゃん!!

ってゆうか、須藤桂吾!かっこいい!

実物もかっこよかったけど、こうして写真で見ると、本当に芸能人って感じ。

アーティストってゆうのか。

デビューして3年って言ってたっけ?

これは売れるよ!!

いつか、ゆきの目にも、耳にも届くだろう。

それを阻むのは、難しそうだな。

こんな求愛ありかよ!!

ぜってー、渡さねーよ!!








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