第4章 1話 倉田亨 ①

 結婚して2年目。


待望の赤ちゃんが生まれた。

男の子だけど、どことなく ゆきに似ている。

男の子の誕生に、うちの親父もすごく喜んだ。

自分が長男だからなのか、第1子が男の子ってゆうのが、俺もすごく嬉しかった。

俺の名前が、1文字だから、1字の名前にしたいって、《 峻 》と名付けた。

生まれた時から大きい子だった。

3770グラム。

大きいですね!!と、みんな口を揃える。

こんな大きいのが、ゆきのお腹に入っていた。

それが、子宮から出てきたって、信じられない。

どうすればこんなの出てこられるんだよ!!

女の体は、男には想像もつかない神秘的なものだと思った。


峻はよく泣いた。

赤ちゃんにしては大きい。

だけど、この小さな体で、どうすればこんな大きい声が出るんだろうってくらいに泣いた。

ゆきが、抱っこすると泣きやむ。

下に寝かせようとすると、泣き出す。

背中に、センサーでも付いてるのか?ってくらい。

しかも、これ、俺じゃダメらしい。

俺が抱っこしても、一向に泣き止まない。

ママがいい!!ママじゃなきゃイヤ!!って言われてる感じ。

俺は昼間仕事に行ってしまうから、峻の泣き声も何時間かだけど、ゆきは、それこそ24時間つきっきりだ。


俺もできる限りのことをした。

買い物、洗濯、料理、洗い物、掃除。

赤ちゃんは、可愛い。

でも、ゆきが疲れているのを見るのは、つらい。

きついとか、弱音は絶対にはかない人だから、心配になる。


「大丈夫?」

と聞くと

「うん!大丈夫!ごめんね。

とおるにいろいろやってもらっちゃって。

ありがとね!」

と言う。

この人は、本当にいつも、自分以外の誰かのことを考えている。

気にかけている。

心が綺麗な人だなと改めて思った。

そんな、ゆきに似ている息子。

優しい心を持った子に育ってくれるだろうと思った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「倉田!久しぶり!ハガキありがとな!可愛い赤ちゃんだな〜!」


長野県警の松林から、携帯に電話がきた。


「サンキュ!マジで可愛いよ〜!すっかり親バカってやつだよ!ははは!

松林はまだかよ?」

「あ〜〜、仕事忙しいしさ〜、全然出会いねーよ!!

おまえの奥さんの、長野にいる友達とか誰か紹介してくんねーかな〜?」

「そうだな〜、聞いてみるわ」

「今日 電話したのはさ、ちょこっとだけ気になったことがあってな。

まぁ、おまえら幸せいっぱいだから、大丈夫だと思うんだけどな」


意味ありげな言い方だった。


「何だよ?気になったことって?」


松林の話は、こんな話だった。 

3年前にメジャーデビューした、長野出身のロックバンド[Real]

人気はうなぎのぼりで、映画の主題歌が決定したって、テレビに出ているのを観て、メンバー5人紹介されてて、その中の1人が何だか見覚えがあるなと思ったと。

ギターのkeigo

須藤桂吾、あいつだった。

それで、どんな曲だしてんのかと、最新曲から過去のアルバムまでレンタルして聴いてみたと。

その中でも、《Lovesickness》ってアルバムだけでも聴いてみろよ。と、言われた。


「そのアルバムの何が気になるんだよ?」

「聴けばわかるよ。

とりあえず、聴いてみろよ」


松林は有能な警察官。

その松林が気になるって言ってるんだから、それを聴くしかないな。









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