28話 倉田亨 ⑬
ゆきの社員旅行で、ゆきを抱いてから、俺は更にゆきとの結婚を意識した。
結婚に向けて、着々と準備を進めていった。
結婚を考えている彼女を紹介したいと、親に言った。
そんな相手がいたのかと親は驚き、年が明けたら会食の席をもうけると言った。
ゆきに、うちの親に紹介したいんだけどって言ったら、ちょっと、なんとなく乗り気ではないような感じだったけど、わかったと言う返事だったから、どんどん話を進めた。
俺のしていることは、たぶん だいぶ卑怯な手。
ゆきが断れないように、外堀を埋める作業をしている感じ。
結婚するってことを、既成事実にしようとしてる。
どんな卑怯な手だろうと、ゆきと結婚したい。
絶対に手に入れたいと強く思っていた。
年が明けて、両親にゆきを紹介する日。
うちの親は、日本料理のちょっといい店を予約していた。
俺は聞いていなかったが、県外で暮らす妹と弟まで呼ばれていた。
2人と久しぶりに会った。
会席料理というのか、そんなのを食べながら、和やかに談笑する感じだった。
ゆきは、なんてゆうのか、品がある。
箸の使い方とか作法とか、姿勢も良い。
育ちのいいお嬢さんという感じだった。
うちの親からしても、俺の相手にはもったいないくらいだと思ってくれただろう。
だいぶ、酒もすすんで、親父が剣道の話をし始めた。
親父は、剣道の師範をしているから、剣道の話になると長い。
あぁ、始まったかと言う感じだった。
そして、ゆきに高校の最後の大会での戦績を聞いた。
その話は!!
って思ったがもう遅く、ゆきは
「1回戦負けでした」
と答えた。
親父は、
「あはは!そうかい。
ただやってただけだったかな?」
と笑い、ゆきは
「はい」
と答えた。
「は!?ふざけんなよ!!」
と俺は立ち上がったが、ゆきが俺の手をつかんで、
「とおる、事実だから。座って」
と、小さな声で言った。
親父は、そんなことお構いなしに、“剣の道とは” 、“己に克つと言うこととは” 、と語って、ゆきは、はい。はい。と、頷きながら真剣に聞いていた。
今夜は実家に泊まるけど、母さんの車には乗らずに、ゆきに送ってもらうからと、親と別れた。
車に乗ってすぐに
「ゆき、ごめん」
と言った。
「あ、いいよ、別に。
方向一緒だし、通り道だから」
明るくそう言った。
「そうじゃなくて!!」
「ごめんね。とおる。
私、誇れるもの何もなくて……
失格かな……とおるのお嫁さんにはふさわしくな、」
ゆきが喋ってるのを遮って、俺はデカイ声で言った。
「なんでだよ!!言えば良かったじゃん!!
相手優勝したやつだったって!!
俺、言おうとしたのに、なんで止めんだよ!!」
「だって、相手がどうだったかは関係ないもん!ただ私が弱かった。
それだけのことだよ。
言い訳したって、1回戦負けの事実は変わらない」
「でも!!」
「ほんと、ごめんね!!俺の彼女は優勝しました!とか言いたかったよね!
情けなくてごめん。恥ずかしいね」
「ゆき!なんでそんなこと!
恥ずかしいわけないだろ!!
ゆきが、どれだけ真剣に剣道やってたか、俺は知ってるから!!」
「どれだけ真剣にやろうと、結果は結果だから。稽古が足りなかった?技術が足りなかった?戦略が足りなかった?勝ちたいってゆう気持ちが足りなかった?油断した?そのすべてかな?そもそも、わたしは剣道にむいてなかったのかな?
1回戦負けって、そう言うことだよね!!
剣道やってましたなんて、おこがましい!!
お父さん言われたように、ただやってただけだったんだよ!わたし!」
まくしたてるように一気にそう言った。
「ゆき……」
ゆきが、こんな風に、感情的になることめったにない。
調査報告書を渡した時に、自分を汚れてるって言って泣いた時以来だろ。
こんな風に言わせてしまっていることが、申し訳なかった。
俺は泣いていた。
「なんで、とおるが泣くの?ごめんね!
どのくらい減点かな?こっから、まだ巻き返せるかな?
とおるのお嫁さんとして認めてもらえるように頑張るね!」
と、笑った。
泣きたかったのは、ゆきの方だったのに、そういう時に限ってゆきは笑う。
俺はその後も、涙が止まらず、ゆきに気の利いた言葉をかけることもできず、家まで送ってもらって車をおりた。
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