26話 倉田亨 ⑫

 “とおる……とおる……”

ゆきの呼ぶ声が、遠くで聞こえたような、気がした。

「とおる!」

ん!!

目が覚めた!!

「ごめんね。寝てるところ起こしちゃって。

私、もうそろそろホテル戻るから」

「今、何時?」

「6時ちょっと前。とおるは、何時に出ればいいのか聞いてなかったけど、大丈夫?

お風呂お湯入ってるから、入るなら入って!

あっ、冷めちゃうかな」


そこに立っていたのは、いつも通りのゆきだった。

つい、さっきまでの、乱れた彼女とは別人だった。

夢?……またしても、俺は妄想の夢をみていただけだったのか??

周りを見渡してみた。

昨日、入ったラブホテルの部屋。


「ゆき、俺 ゆきとHしたっけ?」

ゆきは、パァーっと顔を赤くした。

「やだ!!とおる!酔っ払ってて覚えてないの?初Hだったのに!!」


やっぱ、したんだよな。

夢じゃなかった……


「違うよ!!俺はもちろん覚えてるよ!

ゆきは、ゆきの方こそ あんなに酔ってて何も覚えてないんじゃないかと思って!

ちゃんと覚えてるの?」


ゆきは、ベッドに腰を下ろすと

「私、酔っ払っても記憶なくしたりしないって言ったでしょ。

でも、寝落ちしたの初めて。

あれも、記憶なくしたことになるのかな。

先に寝ちゃってごめんね。

とおるとの初Hだもん、ちゃんと覚えてるよ。

とおる、いつもあんなに激しいの?びっくりしちゃった」

そう言われて、俺も赤くなった。


「ゆきとの初めてのセックスで、なんか舞い上がっちゃって、いつもは、こんなんじゃないんだけど、もうちょっと落ち着いたセックスできるんだけど。

ゆきがかなり酔ってたから、何をしても覚えてないかなって、調子にのって、ごめんな」

すげー恥ずかしかった。


「謝らなくていいけど、私 ちゃんと覚えてるよ!

あんなこととか、こんなこととか、恥ずかしくて言えないけど、あんなにも感じたの初めてだった」

えっ!?マジで?


「ほんとに?」

「うん」


俺は、ゆきを押し倒すとキスをした。

でも、すぐに唇を離されてしまった。

「ダメ!ほらっ、口紅ついちゃってるよ!」

そう言って、俺の唇を指で拭った。


「また、したい!!」

「私も。だけど、今は なし!!もう時間だから行くね!!」

「一人でホテル戻れるの?」

「うん、たぶん大丈夫。

結構歩いてきたから、ここ関内の駅に近いんじゃない?

外出たらスマホで確認するけど、電車で桜木町まで戻って帰るよ。

無理そうならタクシー乗るし。

じゃ、また連絡するね。

とおる、ありがと」

「うん、じゃ気をつけて!」


行っちゃった……


に、しても、すげーな、ゆき!!ここがどこだか場所ちゃんと把握してるなんて、マジかよ!!

昨日の千鳥足は演技か?

んなわけねーよな!実際あれだけ飲んでたし。

ほんとに酔っ払ってたんだよなー!

なのに……

しっかり者のフリをしてるなんて言ってたけど、マジでしっかりしてるんだな。

じゃ、酔っ払って、どっかの男にヤラレちゃうってことはないな。

って、何を心配してんだか俺……

はーーーー、もう眠れそうもないし、風呂入るか。

ってか、俺マッパじゃん!

しかも大きくなってるし。

ゆき、大きくさせたまま行かないでくれよ……

寝起きでまたやりたかったな……

先に起きれば良かった……

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