20話 倉田亨 ⑨
次の日
いい天気だった。
10時、ゆきがうちへ迎えに来てくれた。
「おはよう」
「おはようございます!俺、運転してくよ」
「うん、じゃ〜お願いしよっかな」
車から降りたゆきは、助手席へまわった。
花柄のワンピース。
ゆきに似合っていて、とても可愛い。
俺は運転席に座って車を発進させた。
「昨日、すみませんでした……」
「敬語で謝らないでよ!
とおるにキスされて、私も嬉しかったし。
とおると初めてのキスで緊張した。あはは」
「いや、俺の方こそ、緊張してちょっと普通じゃなかった」
それから、俺は喋りまくった。
この1ヶ月どんな仕事をしたとか、大学時代の話とか。
ゆきは、うんうんと聞いてくれた。
なんだか、すごく楽しくて、本当によくしゃべった。
軽井沢に着いて、まずお昼を食べることにした。
軽井沢らしい、ちょっとオシャレなお店で、俺はステーキランチを、ゆきはハンバーグランチを食べた。
とにかく、楽しい。
学生の頃に戻ったような気分。
中野先輩と軽井沢デートなんて、夢みたい!
高校の頃の俺に教えてやりたい!
仕事の疲れも吹っ飛ぶな!!
店を出て、散策した。
「向こうに教会あるみたい。行ってみない?」
ゆきが指をさした。
「うん」
近くに行ってみると、教会の前には何組かのカップルが写真を撮ったりしていた。
「ここ、中に入れるのかな?」
ちょうど、中から若い男女が出てきた。
「入れるみたいだね。入ってみようか」
と、ゆきはにこっと笑った。
教会の中は静かだった。
「誰もいないね」
ゆきが小声で言った。
不思議なくらいに静かだ。
外では、みんな大きな声で話していて、ガヤガヤした感じだったのに。
ドア1枚でこんな防音なのか?
俺はゆきの正面に立って、ゆきの肩を両手でつかんだ。
「ゆき、いつか、俺と結婚してくれる?
なんて、答えに困るよね。
でも、本当に俺はそう思ってるから。
いつか、返事を聞かせてほしいんだ」
真剣な顔で言った。
「うん。わかった」
ゆきは、そう言うと、つま先立ちで背伸びをして、俺にキスしてくれた。
愛しい よりも もっと、愛おしい。
そう思った。
教会を出て、ショッピングしたり、お茶したり、あっという間に時間が過ぎて夕方になった。
「そろそろ帰ろうか」
帰りも俺が運転した。
ゆきの運転は安全運転すぎるし、助手席だと手持ち無沙汰だから。
車の中で、俺はゆきに聞いてみた。
「俺と付き合ってること、ご両親は知ってるの?」
「ご両親って固いね!!あはは!
お母さんには話したよ。
ほら、あんな立派な花束2日続けて持ち帰ったから、これ何?って聞かれたからさ。
だから、とおるのこと話したよ。
たぶん、お母さんからお父さんにも話し、いってると思うけど。
お父さんは何も言わないけどさ。
ってゆうか、うちね、恋愛の話しってしない家庭なんだよね。
昔っから。
よくさ、友達のお母さんとか好きな人いるの?とか聞いてくるってゆうんだけど、うちのお母さん全くそうゆうこと聞いてこないんだ。
聞かれてもいないのに、自分から言うのもなんだから、誰が好きなんて、今まで1回も言ったことなかったよ」
「矢沢先輩と付き合ってたのも、親に内緒にしてたってこと?」
「内緒ってゆうわけじゃなかったな。
何回か一緒にいる時にバッタリ会ったりしたし。知ってたんだろうけど、何も聞かれなかった」
「ふーん。で、俺と付き合うって話、反対されなかった?」
「反対?されないよー!!
なにを反対すんの?もう25だよ!
お母さん、“そっ、いいじゃない!” って、それだけだよ」
「娘とそういう話するの照れくさいんじゃない?お父さんは特にだけど」
「うん、そんな感じ。
まっ、親に言ったからには、外泊とか出来ないなって感じだけど、どっちにしろ とおるこっちにいないし、真面目な遠距離恋愛って感じでいいかな〜って思ってるよ」
「そっか。俺、挨拶に行きたいと思ってるんだけど、明日とかダメかな?」
「挨拶って?うちの親に?」
「うん、ふざけて遊びで付き合うつもりじゃないから、きちんとご挨拶しときたいんだよね」
「なに?とおるっていつもそんななの?
毎回 彼女の親に挨拶に行ってるわけ?」
なんもわかってねーな、この人。
「そんなわけないじゃん!普通挨拶なんて行かないよ!行ったこともないよ!
ゆき、ちょっとしつこいかもしれないけど、俺ゆきのこと本気なんだ!」
「わかった。じゃ、うちに帰ったら、お母さんに話してみるよ。
明日、とおるが挨拶にくるけどいい?って」
「そんな堅苦しい感じじゃなくていいんだ。
ゆきんちへ遊びに行かせて欲しいってこと」
「それはいいけど……
まぁいいや。ちゃんと言っとくよ」
明日、15時の新幹線で帰るから、10時半にゆきの家へお邪魔させてもらうことにした。
〔急いては事を仕損じる〕……か……
俺、ちょっと焦り過ぎてるかな……
でも、付き合うことになったとはいえ、気軽に会えるわけじゃないし……
だから、できる事はしておきたい。
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