18話 中野柚希 ⑨

 「ゆき、愛してる」


とおるに言われて、えいちゃんの顔が頭に浮かんだ。


“ゆき、愛してる” って何度も言ってくれて、私を “運命の人” だと思ってるって言ってくれてたのに……

愛してるも、運命も全然当てにはならないな……


とおるは、私が浮気するんじゃないかって思っていたんだな。

信用ないな……

って、ゆうか、実際、私はとおるにウソをついた。

“えいちゃんとは話さなかったよ“


話さなかったんじゃなくて、


“話してもらえなかった” が正しい。


「えいちゃん今 話せる?」

って聞いて、

「あぁ、いいよ。このあと、2人で抜けないか?」

って、もしも もしも そう言われていたら……

私はきっと頷いた。

抱きしめて欲しい。

キスして欲しい。

抱いて欲しい。

心の奥でそう思っていたのかもしれない。


だけど、えいちゃんに

「今、ムリ!」

って、ピシャっと拒絶された。

だから、結果的に浮気もせずに直帰してきただけだ。

こんな、もう6年も経っているのに、未練がましく、本当に恥ずかしい……



 この夜見た夢は、また同じ夢だった。

何度この夢 見てんだろう。

とおるでも、えいちゃんでもなく、田坂の夢。

それも、中学の頃の田坂。

剣道してたり、走っていたり、夢の中で私はいつも田坂を目で追っている。

言いたいことも言えなくて、話したくても話せなくて、ただじっと見つめているだけの夢。

この夢を見る度に、田坂 元気かなって思ってきた。

今日は、久しぶりに本物の田坂と会ったから、夢見たのかな……

どうせなら、夢の中でぐらい えいちゃんと話がしたかったな……

別れてから、1度もえいちゃんが夢に出てきたことはない。

夢でもいいから、えいちゃんに会いたい!って、何度も願ったのに、えいちゃんの夢を見ることはなかった。

それなのに、田坂の夢は、今まで何回見てるんだろ。


田坂か……


2年間の修行なんて、大変だな。

彼女 待っててくれるといいけどな。

無理かもなんて、酷いこと言っちゃったな……

なんで、大丈夫だよ!って、言ってあげられなかったんだろ……

大丈夫だよって言って欲しかっただろうに。

私って、イヤなやつだ……

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