16話 矢沢弘人 ②

 それにしても、意外だな。

ゆきが部活の後輩と付き合うなんてな。

部活の男ってゆうなら、佐久間とか、村木とか、松井田とか。


普段、男子とめったに話をすることもないゆきが、部活の男子とはよく喋っていた。

なんか、部活中に道場へ行くこともあんまりなかったけど、見る度にいつも松井田とやっている。

なんか、そうゆうペアってゆうか、練習相手が決まってんのか?知らねーけど。


面つけてるし、胴もつけてるけど、密着しすぎだろ!!ってイラついた。

ふっ飛ばされて、派手に転んで、袴の裾がひざ上までめくれてる。

そんなことお構いなしに、倒れてるゆきに打っていく。

ゆきも、起き上がりざまに、竹刀で面を避けて立ち上がる。

なんてゆうのか、踏み入れられない二人の世界みたいな感じがしてムカついた。

人の彼女、押し倒してんじゃねーぞ!松井田!!


俺と付き合ってることを知らない人が見たら、この2人、付き合ってんじゃね?って思われそうな感じだった。

だから、なんか、松井田、佐久間、村木あたりはマークしてたけど、後輩なんかはノーマーク。

部活の後輩とは仲良くしてたのかな。

その辺は、もう俺の知らない ゆきって感じかな。

剣道部の後輩の倉田か……

なんか、意外だな。


 でも、良かった!ゆき、変わってなくて。

バイト先の、なんだかわかんねーヤンキーだか、チンピラみてーな長髪の男と付き合って、ゆきが変な風に変わっちゃってたら嫌だなって思ってた。

あいつ言ってたこと、全部ウソだったのかな。

あの時は、どれだけ落ち込んだことか……

 

 4年前

大学3年の夏休み、実家に帰ってきた。

ゆきは、短大を卒業していたから、就職しただろうとは思ったけど、バイトしていた花屋に行ってみた。

ゆきが、そこにいないだろうとは思っていた。

いないの、わかっていて行ったのは、ただ情報を仕入れたかっただけだ。

どこに就職したのか。

普通に教えてくれそうな気がしていた。


「すみません。アルバイトの中野柚希さんは、辞めたんですか?」

「あ~、ゆきちゃん!3月で辞めたよ。

短大を卒業して就職も決まったからね」

と花屋の店長らしき人が答えた。

「あの、就職先を教えてもらえないでしょうか?」


メガネを鼻の位置で押さえ、店長らしき人は俺の顔を見ながら、

「えっと~、キミはゆきちゃんのどうゆうお知り合いなの?」

と聞いた。

「あの、僕は、」

高校の同級生なんですが、って言おうとしたのを遮るように、俺の後ろから

「そいつ!元彼!教えんなよ!店長!」

って言われた。

「えっ??」

って振り向くと、知らない男が睨んでいた。

「なんで?俺のこと知ってんの?」

と、そいつに聞いた。

その男は質問には答えず

「今日は、ご自慢の彼女はべらせてね~のかよ?ハハハ」

と笑った。

「なんだ?おまえ!」

「俺?ゆきの男!」

と言った。

 

は??んな、わけねーだろ!!

茶髪のロン毛で、服装もチャラチャラしてる。

ネックレスだの、ブレスレットだの、ベルトにもチェーンを垂らしてる。


「ハハハ!嘘だろ!おまえみたいなタイプ、柚希が一番嫌いなタイプだよ!アハハ」

なんで、そんな嘘を言うのかも意味不明で笑っちまった。

「それがそれが、そうでもないんだなぁ。

かわいそうに、ゆきちゃん、おまえに捨てられてハートブレイクでよ~、俺が優しく癒してやったんだよね~。

手取り足取りいろいろとな!

今じゃ俺にメロメロだぜ~!

抱いてくれ抱いてくれってせがまれて、何回イカしてやってるか~」


は!?

ものすごいカチンときた!!

ゆきのことをバカにした態度にすげー頭に血が上った。


「なんだとー!!」

俺はそいつに殴りかかった。


が、思いっきり放ったそのパンチは、あっけなくそいつに掴まれた。

そして、

「おまえに俺を殴る資格があるのかよ!

自分で捨てた女のところに、のこのこ来んじゃねーよ!

あいつ!マジで傷ついたんだよ、おまえのせいでな!

もう、2度とかかわるんじゃねーよ!」

 

ものすごいデカい声で怒鳴られた。

殴り返してきそうな雰囲気だったが、俺のこぶしを離した。

俺は、ヤツを睨み付けて、黙って帰ってきた。


あいつが言ったように、俺にフラレたことが原因であいつと関係をもって、あいつに染められて、ゆきが、ゆきじゃなくなってしまっていたら……

そう思ったら、恐かった。

それを確かめることもできないくらいに恐かった。

変わってしまったかもしれないゆきに会うことはできそうもない。

ゆきのことは、もう忘れよう。

あの頃のゆきのイメージのまま、記憶にとどめておきたかった。


4年半ぶりに会ったゆきは、25歳ってゆう歳相応に、大人っぽくなっていた。

でも、あの頃のままってゆうか、すれた感じはなかった。

変わらないな、とも思った。

幸せになってほしい。

俺がしてあげられなかったから。


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