15話 矢沢弘人 ①
「はい!じゃ、1人5800円だけど、とりあえず6000円ずつ集めて、2次会の足しにするから、よろしく!みんな2次会も出て!」
正男がデカい声で言った。
財布を出したところで正男が俺の前に立った。
「矢沢!おまえの分、もうもらってるから」
と言った。
「えっ?」
「中野から、8000円預かったぞ。
成人式に借りた金、返すってさ。
律儀だよな、あいつ。
だから、ほい!おつり2000円な!」
「中野は?」
「立花のダンナ迎えにきて、さっき立花と一緒に帰ったわ〜」
ゆき……帰っちまったのか……
「えいちゃん今、話せる?」
なんて突然言われて、超ビビった。
心の準備が出来てなかったから、
「今、ムリ」
なんて言っちまったけど、あとで2次会で話せるかななんて思ってた。
「さっきは、ごめん。話ってなに?」
って言おうか……なんて……。
馬鹿だ。
せっかくのチャンスを逃してしまった……
ゆきの方から俺に話しかけてくれたなんて、別れてから初めてだったのに……
そして、きっと もう最後だ……
8000円か……
ゆきの、用件はたぶん それだったか……
8000円 返すって。
これで貸し借りなしってわけだ。
最後の繋がりまで絶たれた感じだな……
って、なに言ってんだ俺。
どっちにしろ、もう6年も前に終わってんのに。
しかも、終わらせたのは俺の方なのに……
なにを未練がましく……最低だな俺……
「ひろ、中野とは話したのか?さっき、中野がおまえのとこ行っただろ」
そう言いながら、朋徳が俺の横に座った。
「話さなかった……話せる?って聞かれて、今ムリなんて、断っちまって、あとでいいやって思ったら、もう帰っちまったって」
「馬鹿だな!おまえ!」
「ああ、もっと言ってくれよ……」
「まじで!!相変わらずの大バカ野郎だな!!」朋徳は本当に怒っていた。
「ゆきの方から俺に話しかけてくれたなんて、別れてから初めてなんだ。
なのに、びっくりしちまって……」
「かっこつけてるからだろ!!」
キツい口調で言った。
「かっこなんかつけてねーけどよー!!」
「かっこ悪くても、おまえが謝りゃよかったんじゃねーのかよ!!
他に女つくって悪かったって!!
でも、その女とも別れたから、もう一度やり直してくれって!!」
「そんなこと言えっかよ!!」
「だから、かっこつけてるって言ってんだよ!!まだ、好きなら そう言やーいいじゃねーか!!」
「…………」
痛いところをつかれて、返す言葉がなかった。
朋徳も下を向き、左手で顔を覆った。
なにか、考えている感じだった。
「あいつ……、中野、 新しい彼氏が1ヶ月前に出来たばっかりだって言ってたぜ」
「えっ?」
すごく言いづらそうに、はぁと ため息をつき、
「おまえ、知ってんじゃねーかな。
高校の後輩、剣道部の1個下の倉田だってよ!
付き合ってくれって、わざわざ東京だかどっかから言いに来たって!
で、今 遠距離で付き合い始めたばっかりだって言ってたわ。
ガンバレよ!って、あいつには言ったけどよ、ひろ!!
今だったら、取り戻せるんじゃねーのか!!
遠距離よりも近くの方が絶対いいだろ!!」
朋徳は、俺の目をまっすぐに見た。
くらた……
「部活の後輩、倉田くん、かわいいでしょ!」
あっ!!
卒業式の日、ゆきに花束渡してたヤツだ!!
やっぱりな……あの時、感じた。
俺に対する敵意のような感じ……
あの頃からずっと ゆきのこと思っていたのか……
「もう、6年も経ってるんだぜ。
ゆきは、ゆきの性格からして、俺とよりを戻すなんて選択肢はぜってーないな!
ゆきの新しい恋を応援することにするよ」
「いいのかよ?それで?」
「ああ、俺もそろそろ ふんぎりつけなきゃいけねーしな」
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