14話 中野柚希 ⑧

 とおるとは あれから1度も会えず、3週間メールと電話だけだった。

それでも、日に日に会いたい気持ちはつのるし、とおるに対する気持ちも大きくなっていった。


とおるは、必ず私のことを大好きだって、愛してるって言ってくれる。

こんなにもストレートに気持ちを伝えられるって、すごいことだなって思う。


私は、本当に普通の人だ。

ものすごいブスってこともなければ、美人ってこともない。

背が高いわけでもないし、小さいわけでもない。

ずば抜けて秀でた才能や特技があるわけでもない。

だから、普通って言葉が一番ぴったりくるくらい、本当になんでもない人だ。

そんな私を、こんなにも好きだって言ってくれる人がいたなんて、キセキだな。



 同級会当日

えいちゃん来るのかな。

ちょっと緊張するな……

髪巻いてみたけど、変かな?

  

立花と待ち合わせして、会場のお店へ行った。

お座敷の部屋だった。

部屋の奥の方に、えいちゃんの姿を見つけた。

相変わらず、かっこいいな。

この人が私の彼氏だったなんて、今となれば信じられないな……

自分で創り上げた妄想なんじゃないかって思うくらいだな……


楽しい同級会だった。

田坂がビール瓶と自分のグラスを持ってきた。


「よっ!飲んでるか?久しぶりだな!」

久々に会った田坂は、前よりもガッシリしてTシャツの袖口から出る二の腕はすごい筋肉だった。

「うん、久しぶり!私、成人式の同級会、田坂と会ってないよね?」

「あぁ、前回のな!会ってねーな!

中野 同部会だっただろ。

そのあと、来たんだってな。

俺、用事あって抜けて、また2次会は行ったんだけどな。

中野とはちょうど入れ違いだったな」

そう言って私のグラスにお酌してくれた。

「立花は結婚したんだって?いつ?」

立花に飲め飲めという仕草をしながら聞いた。

「今年の3月」

「おっ!新婚さんじゃん!おめでとさん!」

「ありがとう!田坂は予定ないの?」

と、立花が田坂のグラスにお酌しながら聞いた。

「あ、今は彼女いるんだけどさ、秋から修行に行かなきゃなんねーんだ。

2年間。

その間、会えねーの。

電話もできない。手紙だけ。

そうゆうのどう思う?」

眉を寄せて、私達を見た。

「うーん、ちょっと厳しいかなー。

彼女とどのくらい付き合ってんの?」

立花が聞いた。

「もうじき1年かな」

「うーん、そっか。微妙だなぁ。ねっ?」

立花が私の顔を見て同意を求めた。

「うーん。1年って長からず、短からずってとこだけど、微妙なとこだよね〜。1年付き合って、2年会えないってのはかなり微妙なとこだな〜」

「おまえら、微妙、微妙って!ダメってことか?ムリってことか!?」

「ムリかな〜」

普通に答えてしまった。

「ひで〜な〜!おまえ!ウソでも大丈夫だよ!って言って欲しかったなぁ」

「そっか!ごめん!大丈夫!大丈夫!」

慌てて言った。

「あはははは!おっせーよ!あほか!あはは!で?中野は今どうなんだよ?」

また、お酌してくれた。

「あっ、私は彼氏ができたばっかし。

まだ、1ヶ月 経ってないよ」

「おっ!アツアツなところだな!!」

まぁ、飲め飲めと、ビールをついでくれた。

「アツアツかぁ。そんなことないよ。

付き合うってことになったあと、まだ会ってないんだ。

電話とメールだけで、遠距離してる」

ビールをゴクンと飲んだ。

「意味わかんねーな!!遠距離で付き合い始めたってことか?」

首をかしげて私を見た。

「あ〜、うん、そう。

あっ!田坂 憶えてるかなー!うちの高校の剣道部の1こ下の子で、倉田くんってゆうんだけど」


「ん?梅原の剣道部の?

あっ!ん?中堅のやつ?2年で団体戦レギュラーだったやつだっけ?」

「そう、そう!!その子と付き合うことになってね!」

「1ヶ月前にいきなりそうなったんか?」

「うん、突然私の会社に来てね、付き合って下さいなんて言われちゃってさー!

で、遠距離で付き合うことになったんだけど、

そうゆうのどう思う?」

なにを、聞いてんだ私?

「どうって、すげーな!!それなりの覚悟で告白しに来たってことだろが!!

先輩に告白なんて、軽々とはできねーもん!!

本気なんじゃねーの!!」

「そうかな」

「お前もそう思ったから付き合うことにしたんだろ?」

「そうなんだけどね」

「じゃ、いいじゃん!!ガンバレよ!」

にこっと笑った。

「うん!ありがと」


そうだよね。

田坂の言うとおりだ。

とおるは覚悟を決めて、私に告白してくれたんだ。


 立花の旦那さんがお迎えに来てくれると言う。

2次会に出ないなら家まで送ってくれると言うので、私も一緒に1次会だけで帰ることにした。


「ちょっと待ってて、電話してみる」

そう言って立花が席をたった。


えいちゃんは席を移動したりせずに、部屋の奥の方にずっといる。

男5人で結構な量を飲んでいた。

私は、えいちゃんに話しかけてみることにした。


「えいちゃん今 話せる?」


チラッと私を見上げて

「今、ムリ」

即答だった。

「そっか。ごめん」

そう言ってその場を離れた。


恥ずかしい……

バカみたい私……

『あっ!ゆき!久しぶり!』

なんて言葉でも言ってもらえるなんて、少しでも思っていたのか……

もう、えいちゃんに嫌われてるのに……

何してんだ私……

今なら話せるかも、なんて……、話すことなんて何もないじゃん!

もう、6年も前に終わってんのに……

『もう、終わってんだよ!!』

って、あの時言われたじゃん。

あんな冷たい声で。

しつこくて、未練がましい女だなって思われただけだろう……

迷惑以外の何者でもない。

恥ずかしい……

恥ずかしい……



「あっ、いたいた!ダンナもう来ちゃってて、帰るけどいい?」

「……うん!ありがと!よろしく!!」


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