8話 倉田亨 ③

 2時20分

 

駅ビルの駐車場に車を停めた。

少し早めに駅に着いた。

やっぱり、俺の運転だと早かったな。

少し時間もあるし、ゆきが昔バイトしていた花屋に寄って行きたいと言うので、一緒に行った。


「今日、店長お休みだって!残念。

駐車券もらいたかったんだけどなぁ」

と言う ゆきの後ろから、

「よっ!久しぶりじゃんか!」

と声をかけ、肩に手を廻した。

すごく自然な感じだった。


「わっ!桂吾!まだ居たんだ!」

ゆきは、慌ててその手を振り払った。


「相変わらずな挨拶だな!誰?」

前髪をかきあげながら、俺を見た。

前髪をかきあげる仕草が、様になってる。

綺麗な茶色い瞳だな。

なに、この人、めちゃめちゃかっこいいんだけど!


「彼氏!! とおる、桂吾!」

「どうも」

一応、挨拶した。

あぁ、学生時代に付き合ってた男か……


「あ!キミ!後輩くんじゃん!」

「えっ??」

ビックリした!!


「花屋に来たことあっただろ!

ふ~ん、後輩くんが彼氏に昇格か~!」

笑って言った。

「ちょっとー!感じ悪いこと言わないでよ!

駐車券ちょうだい!」

ゆきは、ムッとした顔で手を出した。

「ははは!」

ポケットから出してすぐに手渡した。

そのやり取りは、なんてゆうか意外なくらい自然で、お似合いな感じだった。


「はいよ!駐車券。

たまには、また顔出せよ!」

「ううん、もう来ない。

駐車券ありがと!じゃね!

行こ!とおる」

そう言って踵を返した。


歩きながら、

「ごめんね。桂吾まだいると思わなかった。

気分悪くした?」

と、俺の顔を見上げた。

「あ、いや、すげーなあの人。

俺を見て後輩だってわかるなんて!店に来たことあっただろ!って」

「うん、あいつね、そうゆう記憶力みたいのすごいんだよ!

1回来たお客さんの顔とか、何 買ったかとか覚えてんの!あと、直感力!ピンとくるんだってさ」

すごっ!!

「ヘェ~!すごいな。

そうゆうの警官向きなんだけどな」

「あはははは!桂吾が警察官ってガラじゃないよー!

相変わらずチャラチャラしてたな〜。

ねー……報告書には書かれてなかったけど、あの人が私の初めての人……」

ためらいがちに言った。

 

えっ!!!!


「えっ!はじめてって?

なに?矢沢先輩じゃなかったの?

俺、てっきり高校時代に矢沢先輩とって思ってた」


マジかよ……


「高校の頃は、そうゆうことまだ早いと思ってたし、えいちゃんとはそうなる前に終わっちゃったから。

で、あいつ!でも、あいつには初めてだって言わなかったから、わかってないかもしれないけどね。

初めてなんて、重いじゃん」


「……そっか……」

カーっと頭に血が登った。

「馬鹿なことして!!」

「えっ?」

「大好きな人にあげたなら、いいよ!

ずっとそうだと思ってたよ!

なのに、どうでもいい男に……

ただ捨てたかっただけだろ!

そうゆうのが、男っぽいってゆうんだよ!

そんな簡単に捨てんなよ!

自分を安売りしてんなよ!!」

  

はっ!やべ!言い過ぎだろ!


「すみません……言い過ぎました……」

  

ゆきは涙目になって下を向いた。


「ううん、ありがと。怒ってくれて……

私、ずっと誰かに怒ってもらいたかったのかもしれない……ごめんなさい」

「……寂しかったのは わかるけど、もっと自分を大事にしないとダメだよ」

「とおる、ありがとね」

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