8話 中野柚希 ⑤
「なぁ、おまえって不思議だよな~」
ベッドに横になり、タバコに火をつけながら、桂吾が言った。
「何が?」
「俺たち付き合って、って、付き合ってねぇか!こうゆう関係になって、もう1年以上経つけど、俺のこと好きだとか言ったこと1度もね~じゃん!」
フ~~と煙をはいた。
「だって、けーごのこと別に好きじゃないし」
「おい!おい!はっきり言うよな~!
そうゆうの傷つくぜー!!
俺のファンの子とかさ、だいたい『好きです』ってコクってくんじゃん!
で、1回メシ行ったりして、気に入った子は喰っちゃうじゃん!
あなたに抱いてもらえるなんて!みたいな感じで悦ぶわけよ!
でも、その後が結構面倒でよ~!
もっと私のこと大事にして!とか、もっと私を好きになって!とか、他の女と別れて!!とか言い出したりするわけ。
最初からキミは遊びだよ!ってゆうと、泣いたりわめいたりしてさー!ホント女って面倒くせーなー!って思うんだよな!」
缶ビールをあけて、ひと口飲んで私に渡した。
「すっごい性格わるっ!」
「なのにさ~、おまえは全然そうゆう風になんないじゃん!
俺にあんまり興味もなさそうだし。
じゃ、なんで俺とこうやって続けてるんかな?
って。なんで、俺なんだ?」
「なんでって……」
ビールをひと口飲んで、桂吾に返した。
「ただ、たまたま、けーごがそこにいたって感じじゃない」
「たまたま、そこにいたって、野良猫みたいな言い方だな?アハハ」
「そんなこともないけど。
たまたま……落ち込んでて、寂しくて、あぁ海が見たいなぁって思って、ふっと顔をあげたら桂吾と目があった。で、」
「海を見に行きませんか?だもんな!」
「そう」
「海を見に行きませんか?って、新しい口説き方だな~って思ってさ、あぁ、いいよ!って俺の車で行くことになったじゃん!
着くまでの間、どうゆう話をしてくるのかなって思ってたら、おまえ全然話してこね~んだもん!何だ??って思ったよ」
そう言ってビールを飲み干した。
「私はさ、ただ海に行きたかっただけだからさ、桂吾に好意を持ってた訳じゃないし、だからタクシーに乗ったみたいなもんだったんだよね~!
今考えると失礼だね!ちょっと。アハハハハ!」
「ちょっとじゃねーよ!スゲー失礼なヤツだな!何がタクシーだよ!」
「ゴメン!ゴメン!」
私は新しい缶ビールをあけて、桂吾に渡した。
「私は、車の中でもずっと違うことを考えてた。で、海に着いて、真っ暗な冬の海。
寒くて、風が強くて、波が荒くて、ザブーンザブーンって、波の音しか聞こえなくて、怖い感じだった。
のみ込まれそうだな……のみ込まれてしまいたい……そんな風に考えてたら、バッシャーン!!ってさ!
アハハハハ!けーごが海に落ちてんだもん!
すごいビックリしてさ~!アハハハハ!
ちょっと崖のとこで!アハハハハ!
なんで落ちたの~?」
「笑いすぎだよ!アハハ」
軽く頭をゴツンと叩いた。
「俺、目がわり~からさ、暗くてどこまでが岩なのか、よくわかんなかったんだ。
しかも、革のブーツが滑ってなー!
ひで~目にあったよ!マジで!」
「私も、どうしよう!!って!
今は笑ってるけど、その時は笑えなかったよ!
けーごが自力でなんとか這い上がってきたじゃん!
手とか擦り傷だらけで。
ごめんなさい!って、本当にごめんなさい!って思ったよ。
私が海に行きたいなんて誘ったからだって」
「冬の海!すっげー冷たかったぜ!
冷たいってゆうか、すげー痛かった!
もう、2度と海行きたくね~って思ったよ。俺、ぜって~トラウマだわ!」
「ゴメン……」
「まっ!それで!びしょびしょだし、寒いしでホテル入ったんだよな。それがおまえとの初めてだったな」
「よく覚えてんじゃん!」
「他の女と初めてやった時のことなんて、ほっとんど覚えてね~けどよ~!
おまえは、衝撃的だろうが!!」
「だね!ごめん。生きててくれて、ありがとう」
「バーカ!そんな簡単に死んでたまるかよ!
とにかく、あれから1年こうやって何回もHしてるけど、俺にホレないわけ?
いつになったら、俺にマジになるかなーって思ってんだけど」
「何それ?アハハ。
マジになられるのは、面倒くさいんでしょ?
じゃ、いいじゃん別に、今のままの関係で。
けーごに彼女がいたって、遊びの女がいっぱいいたって、どうでもいいって思ってるから私」
「ふ~ん……それもなんか、ビミョーに寂しいんだけど……」
そう言って前髪をいじった。
「じゃ、」
起き上がり、桂吾の方に体を向けて、
「けーご、大好きよ!もう1度抱いて!!」
と、かわいい声で言ってみた。
「バーカ!!ウソくせーよ!」
そう言ってキスをして、私たちはまた抱きあった。
恋愛関係じゃなくてセックスをするなんて、高校の頃の自分だったら激怒するだろうな……
こらーー!!そんなことしちゃ ダメ!!って。
でも、私はこうなってしまった。
愛のないセックスをして、愛されているような錯覚をいだいて、ほんの一時でも心の寂しさを埋めようとしている。
埋まることがないことも、よく わかっていた。
でも、本気で誰かを愛することは、もう出来ないんじゃないかと思っている。
人を信じて心を許すのは、もう やめよう。
裏切られた時、つらすぎる……
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