9話 矢沢弘人 ③

 「ね〜弘人〜!この花って、もう1週間経つけど、長持ちしてると思わない?

冬だからかな〜」

そう言いながら、彩華はソファの俺の横に座った。

「あぁ、そうなんじゃね」

「あの店員さん、なんか可愛かったね!

真っ赤な顔して、お幸せに!って、おっかしい!そんなこと言われたの初めて。

私たちがラブラブに見えたのかな〜」

甘えた声で言うと、俺の肩にもたれかかった。

「かもな」

「な〜に〜?弘人、ご機嫌ナナメ?

なんか、最近ちょっと おかしくない?」

俺の顔をのぞき込んだ。

「あぁ。なんか、体調悪いんだ……ダルくてな。風邪かな……」

「やっだー!!早く言ってよ!ちょっと熱 計ってみて!!」


ゆき、俺の目を、顔を全然見なかったな。

話も聞いてくれなかった……

当たり前か……

“久しぶり!会いたかった!” なんて言葉を期待する方がおかしいな。

目を潤ませて、笑顔をつくって、“お幸せに!” なんて……

いたたまれなかった……



 4月

 俺は、大学の3年。

彩華は、卒業して就職し、エステティシャンになった。

学生同士だった頃とは、少しずつ変わってきていた。

仕事が終わって帰ってくると、疲れているのか家のことは何もやらなくなった。

今までも、やれる時にやれる方がやればいいって感じだったから、俺が食事の用意をしたり、洗濯をしたりするようになった。

それは別に構わなかったが、やたらとダメ出しをする。

あれが食べたかったのに、これが食べたかったのに、とか。

洗濯した服まだ乾いてないの!とか、やたらと文句を言う。


自分が働いている間、他の女と遊んでるんじゃないか、などと言いがかりをつけてきたり。

疲れていると言いながら、必ず求めてくる。

それで、俺が彩華を満足させられなかったりしたら、すごくイライラする。

デカいケンカもするようになった。

皿やグラスを投げて割ったり。


限界だ。

俺は、彩華のマンションを出ることにした。


「もう、終わりにしよう」

そう告げた。

彩華が仕事に行ってる間に、自分の荷物を出し、安いアパートに引っ越した。 

彩華は、引っ越したアパートを突き止めて、何回か会いに来た。

電話も何回もかかってきた。


怒ったり、泣いたり、絶対別れないと言っていたが、俺は冷たくあしらった。

2ヶ月くらい経つと、電話ももうこなくなった。


付き合いを終わらせるってゆうのは、普通こうゆうもんなんだろうな。

めんどくさいな……


ゆき

ゆきは、俺に文句も言わず、別れの理由も聞かず、俺との別れを受け入れた。

どんな 気持ちだったんだろう……

一人でどんなに 泣いたんだろう……

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