7話 中野柚希 ④

 

 仕事が終わって、いつも2人でよく行く居酒屋へ行った。

桂吾は、もう先に1人で飲んでいた。

ちょうど、生中飲み終わったところだった。

 

「お疲れ!」

「おつかれさん!先に飲んじゃった。」

「あっ、いいよ、いいよ!私、昨日成人式の後の飲み会で、結構飲み過ぎちゃったから、今日は1杯だけにしとこ!」

そう言って、生中を2つ頼んだ。

「あぁ、俺も昨日成人式の後、飲み会だったわ!」

「えっ??何!同い年だったの?」

びっくりした。

「は?そうだよ!知らなかったのかよ?

俺をいくつだと思ってたんだ?アハハハハ!」


まじまじと桂吾を見つめた。


「そう言われると、老けてるような……でも、大人っぽくはないし……超年齢不詳!」

桂吾がいくつかなんて考えたことなかったな。


「だから、同い年だよ!」

ちょうど運ばれてきた生中を乾杯して飲んだ。

「で?元カレ、何しに来たの?」

「あぁ、偶然花を買いに来たみたいね!

向こうもすごいビックリした顔してたよ。

今さら話すこともお互いないし」

「ふーん。意外にあっさりしてんだな」

「あっさりってこともないけど、しょうがないよね男は。

美人でスタイルいい女の方がいいじゃない?

やっぱ」

「まぁ、そうだけどな」

「彼女、3階の靴屋の人だって?

あのキレイな人!」

「あっ?俺?気になるの?」

「別にいいんだけどさ」

「だろ?俺に何人女がいるかとか気にしてね~んじゃん!おまえ!!」

「そんなん気にしたってしょうがないじゃん!私、あんたの彼女じゃないし。

ただ、こんな男の彼女は大変だろうなぁって同情してるだけだよ!」

「だな!アハハハハ!」


桂吾が頼んであった焼き鳥を、全部 串から外して、パクパク食べた。

普段、飲みに来て、そんなに食べることはなかったけど、今日はあんまり飲まない分、食べたい気分だった。

枝豆を1人で食べ続けて、全部 殻にした。

〆に、雑炊を食べようかなって、桂吾と半分ずつ食べた。


「そろそろ出るか。俺、金ね~けど」

「いいよ!いつものことじゃん!」

「ごちそうさま」

にこっと笑って言った。

2人で飲んで食べて、5600円。

やっぱり、どう考えても、昨日の8000円って高すぎだろ!

あ!えいちゃんにお金返せば良かった!

忘れてた……


 店の外に出て、

「で、この後どうする?」

前髪をかきあげながら、桂吾が私を見た。

「帰る!」 

さらっと言って、駅の方向へ歩き始めた。


少し離れたところで後ろから、


「久々に元彼と再会して~、彼女とイチャついてるとこ見て、傷ついてんじゃね~~の~~!

俺が優しく癒やしてやるんだけどな~~!」

桂吾が大きな声で言った。

私は立ち止まり、振り返った。

「はぁ……マジでやな感じ……

ホテル行こうか……」

小さな声で言った。

桂吾は、大股で駆け寄ってきて、

「最初からそう言えよ!」

そう言って、私の肩に手をまわした。



 私は、もう昔の私じゃなかった。

汚れている……

この人は、彼氏じゃない。

友達でもない。

ただのセックスの相手。

セフレだ。

私は、桂吾の携帯も、住んでいるところも知らない。

誕生日も知らないし、同い年だってことも知らなかった。

バイト先で、だいたい毎日会うから、寂しい時とか抱かれたい時に、私の方から誘う。

飲み代もホテル代も全部私が払う。

お金を払って、付き合ってもらっている。

そんな感じの関係だ。

駅ビルのバイト仲間の噂では、3階の靴屋に年上の彼女がいるという。

バンドをやっていて、ファンの子が多いらしい。

お店にも、女の子が2、3人で来て、キャッキャ言いながら、桂吾と喋ったり、写真を撮ったりしているのを よく見かける。

ふ〜〜ん。

私は、そう思うだけだった。

別に、桂吾に対して気持ちはなかったから、チャラチャラした男を好きな、チャラチャラした女の子たちだなと思うくらいだった。

桂吾に対して、気持ちがないと言うか、誰に対しても、何に対しても無関心だった。






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