5話 田坂朋徳 ①

 あ〜〜!!おやじのやつ!!自分で行けよな!!

わざわざ、電話かけてきて、本屋行ってくれって!

9時までだから急げ!って、ひでーよ!

記念すべき成人式の同級会を、途中で抜けて本屋行けって、どんだけ自己中だよ!!

それを断れない俺も俺だな……

まだ、飲み会やってるかな?

正男に電話してみっか。


「田坂だけど、2次会とかやってるんか?」

「おー!今、こっちお開きになって、駅前の方へ移動中だわ!とりあえず、終電まで飲むかって話だ」

「そっか、じゃ俺いま駅前だから、合流するわ!」


駅前の居酒屋で正男たちと合流して、2次会に出ることが出来た。


「ほとんど男だな」

「だな!女子は朝早くから、着物の着付けだのなんだので、お疲れらしいわ!」

男10人と、女は、晶と風見さんの2人だった。


「じゃ、改めまして、かんぱーい!!」

「かんぱーい!」

「それにしてもさ!」

晶が口火を切った。

「今、いないから言うけど、えいちゃん何か雰囲気変わったよねー!

チャラい感じ?

中野ちゃん詳しいことは全然話してくれないから、よくわかんないけど、とにかく えいちゃんにフラれて別れたらしいじゃん!」

そう言って俺を見た。俺に続きを話せって感じで。

でも、正男がそれに続いた。

「あっ!それな!矢沢本人がそう言ってたぜ。

大学入ってすぐに別れたって。今、東京で女と同棲してるって」

「へぇ〜〜同棲!!」

正男の言葉に一同声を合わせた。

「同棲なんてしてみてーなー!!」

「その前に彼女みつけろよ!あはは」

「で、その女がさっき、同級会の時迎えにきてよー!チラッと見たけど、スゲー美人だった!

モデルっぽかったわ!!」

「羨ましい!羨ましすぎる!そんな美人と同棲って、ヤりまくってんだろーなー!!」

池田が大きな声で言った。

これが、多方の男の意見だろ。

「ちょっと!エロ話禁止!」

風見さんが眉間にシワをよせた。

「だって そうだろー!同棲ってさ!!

Hする為に、一緒に暮らしてんだろ!」

「中野ちゃん、かわいそうだね」

「それがさー、割と平気そうだったな。

そういや、俺中野と初めて喋ったかも!

酒入ってたからか、フレンドリーだったな!

あっ、そうだ!中野が彼氏募集中だから、いい人紹介してーって言ってたわ!もう、矢沢のことはフッ切れてんだろ」


そんな簡単に忘れるかよ!!

あんなに、仲良かったのに……

あんなに、幸せそうに笑ってたのに……

中野のことだ、どんだけの思いで忘れようとしたのか……

ひろのやつ、中野のこと 泣かせるようなこと絶対しないって言ったクセに!!

こんな終わり方しやがって!バカヤロー!!


 

 俺は、何も知らなかった。

大学は、県外だったし、そう言えばだけど、ひろと連絡とってなかった。

なにか、当たり前のように、2人は続いているんだろうと思っていた。

だから、成人式でひろから聞いても、信じられなかった。


待ちあわせもしてなかったけど、ホールに入って、ひろを探した。

すぐに見つかって、隣りに座った。


ひろのスーツ姿初めて見たけど、よく紳士服のコマーシャルでフレッシャーズのスーツを着ているアイドルみたいだなと思った。

相変わらずのイケメンだ。


「元気そうだな」

「朋徳もな!」

 

まだ式は始まらなかったし、近況でも聞こうかって思ったら

「朋徳、 俺……別れたんだ、ゆきと……」 

小さな声で、ボソッと言った。 

「えっ?」

ひろの方を向いた。

ひろは、俺の方は見ずに下を向いたまま、

「もう1年半以上前だけどな。大学入ってすぐだから。

やっぱ、遠距離ってダメだわ。

近くの女に目移りしちまって。

今、その彼女と一緒に暮らしてる……」


“寝耳に水” とは、こうゆうことを言うのだろうか。

水どころか、寝耳にクラッカー、パーン!ってやられたくらいビックリして、返す言葉もなかった。

だが、下を向いたままのひろの横顔は、何だかすごく悲しげに見えた。


「そっか、 驚いた」

「だろうな……ごめん……」

「ごめんって、なんで俺に謝るんだよ」

「ゆきには、ちゃんと理由を言うことも、謝ることもできずに、自然消滅みたいにして逃げてたんだ……

たぶん、いっぱい 泣かした……」

そう言うと、更に下を向いた。

泣いているのは、ひろも同じなのかもしれない、そう思った。


上の方の席を見上げると、中野の姿を見つけた。

伊藤と宮田と智香子と喋っている。

見た感じは、元気そうだった。

中野、傷ついてるのか……


 そして、同級会。

中野の姿はなかった。

「あれっ?剣道部の女子いねーじゃん!」

土田の声に、あっほんとだと思った。

「そうなんだよ!剣道部女子、どっかで部活の集まりやってるらしくてさ、早くに家出ちまってて連絡とれなかったんだよ!

しかも、4人とも圏外!

どっか、地下の店かな?って、後で捜しに行ってくるわ! 

たぶん、谷中か、ポップコーンか、魚八か、その辺だろうって、島と話してたとこだ」

と、正男が言った。

「そっか、手分けするか?」

と、俺は聞いてみた。

「いい!いい!俺ら幹事だからさ、おまえらは盛り上がってて!」

そう言うと、正男は立ち上がって

「はい!じゃー!めんどくさい挨拶なしで!

成人の日を祝して、かんぱーい!」

と、グラスをあげた。

「かんぱーい!」


みんな一斉に、わいわいがやがや 喋り始めた。


「ひろ、さっきの話の続きだけど、中野とちゃんと話してけよ!

ちゃんと話してなくて、後悔してんだろ?」

「いや、俺には ゆきと話をする資格なんて、もうないよ。

会わせる顔もねーって思ってたのに、一目だけでも会いたくて、のこのこ成人式に帰ってきちまった」

そう言うと、一気にビールを飲み干した。

ひろのグラスにビールを注ぎながら、

「なぁ、ひろの話聞いてると、おまえの方がフラレたみたいに未練タラタラに聞こえるけどな」

俺がそう言うと、ひろは、ハッとしたように、俺の顔を見た。

「未練?そんなもんねーよ!

もう、1年半前に終わったことだ。

ただ元気なのか、確認したかっただけだよ」

終わったことだと、自分に言い聞かせているように聞こえた。


正男と島が、息を切らして、戻ってきた。

「やっぱ、予想通り!魚八にいたわ!剣道女子!あとで、4人こっち来るってよ!!」

そう言って、2人はビールを一気飲みした。


「だってよ!中野、来るってよ!」

俺が言うと、ひろはハァと小さくため息をもらし、

「まっ、向こうも 俺と話はしたくねーだろ。

俺を許しちゃくれねーと思う」

と言った。

そうかもな……と、思った。

中野は、真っすぐな性格だ。

しかも、頑固だ。

ひろのこと、憎むことで忘れようとしているかもしれない。

昔、無視されていた時の中野が思い出された。


そして、俺は本屋に行く為に、途中で抜けた。

まだ、中野が来る前に。

2次会に戻った時には、もう ひろも中野も帰った後だったから、同級会のあの場で、2人が話をしたのかは わからない。

でも、 たぶん 一言も話すこともなく、目を合わせることもなかったんじゃないかと思う。


「田坂は?今、彼女いんの?」

不意に晶に聞かれてドキっとした。

「あぁ、秋に別れた。半年付き合ったけどな。

うまくいかねーなー!俺も今、彼女募集中だ!

誰か紹介してくれよ!あはははは!」

笑っていたが、本心では笑えなかった。


恋愛ってやつは難しいな。

あんなに、相思相愛だったとしても別れてしまうなら、みんなどうやって、結婚相手を見つけてるんだろう。

うちのおふくろも、よくあんなオヤジと結婚したもんだ!それも、寺に嫁にくるなんて。


俺はいつか、誰かと結婚できるのだろうか……

その相手を、どうやって見つけるのだろうか……




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